自動車整備故障診断整備のススメ
せいび界2013年07月号
故障コード検出後の故障原因特定方法
前回、「P0102」の故障コード(エアマスメーターの故障)を検出した場合に、貴方ならどのように対処するかという問題を出した。今回は、その解答編。どのようにして故障原因の特定していくのかについて紹介していく。
■ 故障コード「P0102」を検出したらどうするのか?
エンジンの調子が悪いというクルマにスキャンツールを接続し、診断。
そして、「P0102」という故障コードを検出。このコードは「エアマスメーター」の異常である。その時に、まず考えて欲しいのは「エアマスメーターとは、どのような部品か」ということだ。
ご存知の通り、エアマスメーターは、エンジンに入る空気の量を計測している部品であるが、その役割や機能を考える上で、メカニックはエンジンの構造を頭に描けなければならない。
エンジンは、空気とガソリンを混ぜて圧縮、そして点火し、爆発させる。するとエンジンが回転し、バルブを通して、排気ガスがエキゾーストマニホールドに流れていく。その時に、O2 センサーが排気ガスの中の残留酸素の量を測り、燃料の濃さをコンピュータにフィードバックする。そして、フィードバックされた情報を元にコンピュータは改めて燃料の噴射時間を決める。
ここで、エアマスメーターは吸い込んだ空気の量を測っており、計測した空気量をエンジンの回転数で割って、1kg 当たりの空気吸入量を算出する。その吸入量から燃料の噴射時間を計算していくシステムの一部を担うのがエアマスメーターである。
こういったエンジンに関連する一連の流れやシステムが頭の中に入っていて初めて、どこがおかしいのかが見えてくるのである。
■ 本当に壊れているのかチェック!
さて、エアマスメーターとはどのようなものかを頭に思い浮かべたら、次に「本当にその部品が壊れているのか、動いているのか」を調べる。
エアマスメーターが本当に壊れているのかを、多機能型スキャンツール等を使用し、実測値を計測する。
この時に計測ができなければ、エアマスメーターが壊れているということになり、エンジンの調子がおかしくなった故障の原因であると断定できる。
反対に、実測値をチェックした際、計測ができれば、エアマスメーターが正常に動いていることが仮定できる。しかし、まだ全面的には信用できないので、次にエアマスメーターが本当に正確に動いているのかを確かめる。
なぜか? もし計測できても、その動きが不正確なものならば、その影響は他の部品にも及び、エンジンに悪影響を与えることになり、エアマスメーターが故障原因ということになるからだ。いわゆる特性ズレというものだ。
ここで重要になるのが「基準値」である。計測した値がメーカーの基準に合っているかどうかが分からなければ、壊れているかどうかの判断が出来ないからである。
計測した数値が基準値であるなら、エアマスメーターは壊れていないということになり、そこで初めて、エアマスメーター以外に故障原因があることが分かる。
エアマスメーターに限らず、全ての部品でも同じ事が言えるが、こうして数値を見て、しっかりと怪しいところを潰していけば、無駄なく効率的に故障原因を特定することが可能になるのである。
■全てを数値で見ていくことが必要!
つまり、これからのメカニックに重要なのは「全てを数値で見て、判断していかないとクルマを直せない時代」になってきているということである。最近のクルマは複雑になっていることを分かっているエンドユーザーも増えてきている。そのため、仮に部
品が壊れていたとしても、「壊れていたので直しました。○○円です」では通用しない。信頼関係を築いている常連客でも、一見客であっても、「本当に壊れているのか」と問われた時に、数字を出さずに納得してもらうことが果たして出来るのかということである。
よくある事だが、安い部品から順に交換して確かめていく方法は、効率も悪く無駄が多い。これでは故障の根本的な原因解決にはらない。
効率のいいトラブルシューティングが出来れば、まずメカニックの負担が減り、時間にも余裕が出来る。何より、お客さまを待たせることが無くなるのだ。
今回はスキャンツールで故障コードが発見出来た例だが、エアマスメーターの故障は多くの場合、故障コードが入らない。そんな時こそ多機能型スキャンツールで基準値と実測値を比較して判断すべし!
フェイルセールを利用した裏技的故障原因特定方法
皆さんはフェイルセーフという言葉を聞いた事があるだろうか?
いわゆる安全装置のようなもので、ブレーキで例えると、片側の油圧経路が故障しても反対側の経路で効くように作られているのと同様だ。今回のエアマスメーターも全ての車がそうではないが、フェイルセーフモードを備えている車もある。エアマスメーターに致命的な故障が起きると、予めECU にプログラムされたモードに切り替わり、安全に走行出来るようになる。
この機能を逆手に取り、エンジンが不調のクルマが入ってきた際に、エアマスメーターのケーブルを抜いてエンジンの調子がよくなれば、原因がエアマスメーターだと特定できる。
ケーブルを抜いたことで、クルマのコンピュータがエアマスメーターの故障と認識し、フェイルセーフモードに入り、エアマスメーターの役割をコンピュータのプログラムが肩代わりして安全に走らせることが出来ることから分かる。エアマスメーターが関わらなければ、調子が良いということは、エアマスメーターの影響で調子が悪くなっていたという訳だ。