自動車整備故障診断整備のススメ
せいび界2013年10月号
スキャンツールを選ぶ基準
今回のテーマは、「スキャンツールを選ぶ基準」である。
読者の皆さんはもう既にスキャンツールを導入しているだろうか?
まだ導入しておらず、今まさに、どれを買おうか悩んでいる最中の方もいるかもしれない。
現在スキャンツールは多くのメーカーから発売され、その種類や価格、機能も多種多様である。そんな中から自分にぴったりなスキャンツールを選択するのは、なかなか困難なことだが、「周りが買っているから、自分も買わなくては」と焦って買うよりも、今回紹介する事柄を参考にして、冷静に判断してもらえれば幸いである。くれぐれも安物買いの何とかにならないように……。
スキャンツールの選択基準
今、多くの整備工場で導入されているスキャンツールだが、そのスキャンツールを導入するための判断基準には大きく分けて3 つの要素がある。それは「価格」、「カバー率」、「機能」である。
1つ目の「価格」とは、文字通り「どれくらい安く購入することが出来るのか」ということである。スキャンツールも決して安いものばかりではないので、購入する動機の中でも大きな割合を占めている要素だろう。
2つ目の「カバー率」とは、「どれだけ多くのクルマを見ることが出来るのか」ということである。ディーラーと違って、入庫するクルマが多岐に渡るため、整備工場にとっては重要な要素である。
3つ目の「機能」は、「導入するスキャンツールを使ってどういうことが出来るのか」ということである。ただ単につないで、故障コードを呼び出すだけならば、コードリーダーを買えば済む。せっかくスキャンツールを導入するからには、上手くビジネ
スに活用しなければならない。
上記の3つの要素で優先順位を見てみると、整備工場の大半が購入する際に、判断基準として最も重要視しているのは「価格」である。
次に重要視する判断基準が、入庫してきた車両につなげられないなら何も意味はないと、「カバー率」を気にかけている。
もう少し判断基準を付け足せば、「操作性」も判断材料になっているだろう。極端な話、スキャンツールをクルマにつなげるだけで、自動で診断をしてくれるような機種を大半の整備工場は求めている。
確かに「価格」や「カバー率」、「操作性」は重要な要素ではあるが、スキャンツールを購入する判断基準として一番大切なのは、「機能」の部分である。導入したスキャンツールを使って何をするのか、どのように修理するのかということを考えて判断しなければならない。
正否を判定するための機能を持つスキャンツールが必要
スキャンツールを購入する判断基準として、なぜ「機能」が大切になるのか。
それは、クルマが日々進化していることに理由がある。大衆車の代表格であるカローラがハイブリッド化するなど、今後、ハイブリッド車の普及はますます進む。つまり、故障診断が難しい自動車が増加するということで、整備工場の仕事の減少が進むことにもつながる。
例として、あるメーカーの車に故障を入力するために故意にエアマスセンサのエンジン側から二次空気を吸わせて空燃比をズラした。するとすぐに補正が入り、データモニタで見てもO2 センサは通常の波形を示した。これで故障コードが入力されていなければ、ユーザーはおろかメカニックですら故障に気づかない。
ここでは、空燃比の補正係数を確認し、何%補正しているのかを確認しなければならないのだが、検出された故障コードの該当部分だけしか修理していないのであれば、故障に気づかないことは十分に考えられる。
これから仕事の減少が予測される中で、仕事を増やしていくためには、上記のようにデータモニタで実際の動きを見て、その数値が正しいのか、正しくないのかの判断が出来るような「機能」を持っているスキャンツールが必要という訳だ。
進化するスキャンツール
スキャンツールの場合、性能は価格相応で安価なものには、それなりの機能しかない。警告灯を消去することなら安価なものでも出来るだろうが、ハンディタイプでは限界がある。価格や使いやすさも重要ではあるが、スキャンツールの命はデータである。国産車だけでも膨大なデータが必要な上に、そのデータも日々増え続けている。
それに対応すべく、既にスキャンツールの上級モデルは全てPC ベースに変わりつつあり、データの更新も楽に出来るようになっている。パソコンと聞いただけで尻込みするメカニックは多いが、PC がベースであれば、お客さまにデータ見せたり、診断結果をプリントしたり、インターネットから情報を得たりと上手く使うと非常に役立つ。
また、将来的には、メーカーからインターネット経由で修正データをダウンロードして、ECU の書き換えをしなければならないというケーも考えられる。その時にPC ベースでなければ、まず対応出来ない。実は既に、欧米では遠隔診断がテストケースとして行われている。メカニクがクルマにスキャンツールをつなぎ、情報をインターネット経由でスキャンツールメーカーのホットライに送る。そして、メーカーの指示判断を仰ぎながら修理を進めていくというものだ。
また、「スキャンツールが稼いでくれない」というのもよく聞く話だが、スキャンツールは使い方次第で効率化=余剰時間を生み、信用も生むとが出来る道具である。ただ単に故障コードの呼び出しや消し込みだけに使うのではなく、様々な使い方やアイディアを駆使して、ビジネスチンスを広げるために使うべきできある。
最後に、故障診断の精度を上げていく為には車のシステムを理解なければならない。さらにいえば、システムのトレーニングを行っているようなメーカーの製品を購入するべきである。
提供 明治産業㈱ 監修 ボッシュ㈱ 長土居大介