コンピューター制御の基本的な考え方

自動車整備故障診断整備のススメ

せいび界2014年1 月号

初心に戻る「コンピュータ制御の基本的な考え方」

2014 年の第一回目となる今回は、初心に返って「コンピュータ制御の基本的な考え方」について紹介する。
昨年のモーターショーでも、国内外問わず、多くのカーメーカーがハイブリッド車や電気自動車を展示していたが、その全てがコンピュータ制御されているクルマである。
爆発的に増加している電子制御されたクルマに対応するためにも、今一度初心に戻り、コンピュータ制御の仕組みについて学ぼう。

コンピュータ制御の基本は、ECU・センサー・アクチュエータ

まず、コンピュータがどのような仕組みで動いているのかというと、コンピュータ制御システムには、3 つの構成要素がある。
一つ目はセンサーで、熱や空気の量などを検知する。二つ目がECUで、センサーが検知した信号を元に、情報を分析し、適切な指示を出す。三つ目がアクチュエータで、ECU が与えた指示(例えば、温度が高いから冷やせ、燃料が濃いから薄めろ等)を実行する。

そして、実行した結果を、再びセンサーが検知してECU に信号を送り、その情報からECU がアクチュエータに指示を出す。これらを繰り返していくのが、コンピュータ制御の基本的な仕組みである。当然、他にもコンピュータに影響するものもあるが、スキャンツールをつないで故障診断をしていく上で、重要な要素となるのが、上記の相関関係である。コンピュータ制御の基本的な考え方は、クルマを修理していく上で論理的に考える原点となり、エンジンやABS、エアバッグ等、全てがこの考え方で動作している。

より一歩踏み込んだ故障診断へ

コンピュータ制御の考え方や相関関係を理解すれば想像力が働き、より一歩踏み込んだ故障診断が出来るようになる。
例えば、スキャンツールはECU にアクセスして、故障コードを呼び出すが、表示される故障コードはセンサーが検知して初めて、呼び出すことが出来るものである。
単純に言ってしまえば、センサーが検知するかしないかが、故障コードが出てくる条件となるので、実際の故障原因がアクチュエータにあるのか、それとも配線にあるのか、あるいは他にあるのかには関係ないことになる。

ということは、故障コードだけで判断してしまうと、その故障コードの裏側にあるコンピュータ制御の相関関係を見落としてしまい、故障原因の特定が困難になるのである。
要はなぜ、故障コードが入力されたのかを考える必要があるのだ。故障コードを見るだけでは、故障原因は特定出来ないので、スキャンツールの活用が必須になる。

そのために、スキャンツールには実測値を測るとか、アクティブテストで実際に動かすなど、故障原因を特定するための機能が備わっているのだ。
アクティブテストは、スキャンツールから部品に信号を送り、実際に動かす機能なのだが、ここで大事なことは、単に部品が動くかどうかだけではなく、「正確に」動いているかどうかも重要であるということである。
例えば、電動ファンをテストする場合、温度が何℃で動き出して、その時の回転数はどのくらいか、しっかり冷やせているか等もきちんと確かめなければならない。
あるいは、水温センサーをテストする場合、冷却水温を70℃と検知したら、本当に水温が70℃なのかを調べたり、センサー自体に故障はないかを調べたりする必要がある。
システム全体やコンピュータ制御の仕組みを頭に入れ、スキャンツールに搭載されている機能を全て使いこなしてこそ、本当の故障診断と言えるのである。

補正機能を見抜くことが新しい需要の創造につながる!

ECU・センサー・アクチュエータの相関関係やコンピュータ制御の考え方そのものは単純である。

しかし、故障診断が難しいと感じているメカニックは多い。なぜかといえば、故障診断がより複雑になってしまう要因が存在するからだ。その要因として、ECU が非常に賢く優秀なことが挙げられる。
最近のクルマでは、センサーがクルマの異常を検知し、ECU に「異常あり」と信号を送っても、非常に優秀なECU がクルマを問題なく走らせてしまうのである。これがいわゆる「補正機能」(フェイルセーフ)というものだ。

通常であれば、異常が出るとチェックランプが点灯して知らせるようになっていたりするところが、ECU が優秀であると、瞬時にその異常を補正して、あっという間に問題なくクルマが走れるようにフォローしてしまうのである。それこそ運転しているドライバーでも気付かないほどだ。

もちろん、ECU による補正機能にも限界はある。フォローしきれなくなった時に初めて異常が表に出てくる訳だが、その時には、既に限界まで走っているので、修理にも手間や金額がかかってしまうことも多い。
ここで問題になるのが、補正されたクルマにスキャンツールをつなげた場合である。
センサーの検知する数値が許容範囲内であれば、(優秀な)ECU の補正によって正常な数値になってしまうため、「問題なし」とECU に信号を送ってしまうのである。この場合、実際には何かしらの不具合が起きているのに、故障コードが出てこないといとになる。故障コードだけで判断していると、故障コードが出ていない=故障がないものと思い込んでしまい、こうした補正を見抜くことは難しい。

しかし、スキャンツールには、補正機能を確認する項目が搭載されており、実際に何%の補正がかかってるのかまで分かるのである。
クルマに問題が無ければ補正は必要ないはずなので、補正機能が働くということは、何か問題を抱えていると考えなければならない。
だからこそ、クルマが入庫してたき時には、しっかりとスキャンツールをつなげよう。目に見えない故障が顕在化する前に、「○○(部品名)がそろそろ壊れそうです」などのアドバイスをユーザーに提案していくことで、新たな需要を創造できるのだから、スキャンツールを使いこなそう。

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