故障診断料を取らなくては生き残れない

自動車整備工場における故障診断整備のススメ

せいび界2015年4月号

故障診断料を取らなくては生き残れない

日夜スキャンツールを駆使し、故障診断を行っている工場は多い。しかし、診断料をいただいている工場は少ない。この問題はいつしか肥大化し、自社の首を絞めることになると、今回は啓蒙していきたい。

入庫時スキャンツール繋いでいますか?

多くの工場で診断料をいただけないのは何故だろうか? サービスするのが当たり前になっていることも一因だが、最初からいただけないと思い込んでいないだろうか。例えば一部のディーラーであれば既に診断料をいただき、なおかつ診断結果を専用のシートとしてお渡している。さながら病院のカルテのようだ。仮にそのディーラーでは入庫車両全てにスキャンツールを繋いでいたとしよう。その場合、潜在的な故障も割り出すことが出来る。来月に車検を控えたユーザーに結果を見せたとして、「なるほ
ど、ここの修理をしないと、いずれこんな問題が出るのか、じゃあ車検と一緒に修理しておいてもらおうかな」という言葉が出てくる。

一連の流れから分かるように、診断結果が紙で出ることで、事実と信憑性がマッチするのだ。もちろんユーザーには車検時ではなく、予約時に提案することで信頼感も高くなる。

診断結果を紙で見せる利点

目先の利益として、診断料をいただくのではなく、先の利益を見越して診断料をいただく、と考えていただきたい。

入庫時の診断状態を逐一、ユーザーに報告することで、ユーザーから、信頼感を得られることは先述の通りだが、「この会社は凄い!」と思わせる行為としても重要になってくる。この診断書にユーザーの名前や車種なども入っているとより効果的である。さらに言えばデータベース化しておくことで、今後の営業材料にもなる。

技術に対する対価

前のディーラーの話ではないが、病気の場合は心電図やレントゲンを見ながら医者と話した経験を、大体の人が持っていると思う。レントゲンを見てカゲなどから精密検査に移行し、重大な腫瘍を取り除くことが出来、一命を取りとめる。こういった経験を持っている人は少ないと思うが、ケースとしてはありうる話である。その際にレントゲン代をケチる人がいるだろうか。だからこそ、工賃というレパレートに換算できるものならば、いただくべき対価なのである。

実際に作業工賃をいただいていない工場など見たことがない。ならば、診断料をいただくことに何のためらいもないはずだ。モノを売るのではなく、コトを売る時代に突入しているのは、自動車業界も同じことと言える。トヨタやホンダの売り方とベンツやBMWの売り方の違いを見れば明白である。

見せる(魅せる)整備分かり易い説明を行うことが求められる

だからといって、一昔前にカリスマ美容師などという言葉が流行ったが、別にそこまでする必要はない。スキャンツールを使って実際に診断を行っている風景を見せるだけでも違ってくる。もちろんコードリーダーのような安っぽい機械ではなく、パソコンを使うような無線タイプだと効果的といえる。それなりの機械を使ってエラーコードを直接見せることで危機感を与えると共に、「わが社で直せます」と一言添えるだけで魅せることが出来る。

もちろんその時に必要になってくるのが、分かり易い説明だ。専門用語を使って難しく解説したところで、ユーザーはクルマの知識は無いに等しい。「O2センサーが壊れているのはインジェクターに原因があり、それにより触媒が…」などと言っても、およそ伝わらない。専門用語は御法度である。

ならば、専門家として噛み砕いて説明すべきではないだろうか。部品の名前ではなく、診断結果と一緒に実車を見せながら症状を確認させる。「しゃべりたくないからメカニックをやっている」という時代は最早終焉を迎えている。実際にクルマを整備しているメカニックだからこそ、説得力があると言えるのだ。

しかしながら、このような対応をするにはそれなりの機種と知識が必要になることを考えると、自分自身で勉強することはもちろん、研修会などへの参加、メーカーを呼んで勉強会を開くなど、積極的に動かなくてはいけない。もちろんそれなりの機種を持っていない会社はまずは揃えるべきである。1台持っているから大丈夫などとは思わない方がいい。

診断料の取り方

ここまで、読んでいただければご理解いただけると思うが、ユーザーを納得させる材料さえあれば、診断料をいただける。診断料をいただける努力や工夫が足りないから診断料を取れないでいる。

例えば紙一枚でも渡してしまえば、その結果が、良いにしろ、悪いにしろ、効果を持つことになる。太鼓判を押されて問題なかった、問題を指摘されて解決方法を提示してくれた。この2つの結果こそが真の需要と言える。整備工場はクルマのお医者さんなのであって、車を直すだけではない。医者は問題を指摘し、改善に努めようと患者と歩調を合わせてくれる。もちろんクルマはモノを言うことはなく、壊れるものは壊れるし、壊れないものは壊れない。しかし、ユーザーの心境としては、出来るだけ壊れないであって欲しいところだろう。仮に修理とならなくても、代替となる場合もある。

診断料をいただき、今後のユーザーのカーライフを支えていくパートナーとして整備工場にあり続けていただきたいと切に願う。

お客さまが喜ぶものは何か

結果として、喜ばれることをした整備工場が生き残れる。今後マーケットはさらに狭くなる。免許人口も減り、保有台数も減ってくる。もちろん整備工場が淘汰されることは目に見えている。どれだけ車検を取っても、どれだけ車販に力を入れても、選ばれる努力をした整備工場こそが生き残れる。診断料をいただくということは、ユーザーに対価を支払ってもらうことになる。100万円のモノには100万円の価値があり、100円のモノには100円の価値がある。診断料をいただくことの価値を与える、これが重
要なのだ。

監 修:ボッシュ株式会社 長土居大介

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