自動車整備工場における故障診断整備のススメ
自動車の進化は部品の進化
国産車、外車を問わず自動車の進化は日々、進んでいる。プリウスなどに代表されるハイブリッドカーを各メーカーが開発し、順調に保有台数を増やしている。直近のデータで見ると2013年は280万台、2014年は380万台とハイブリッドカー全体の保有台数は増えつつある。今年は500万台を越す見込みも出ている。
燃料電池車やMIRAIのような水素自動車そして自動運転システムなど、内燃機関はもちろん、運転補助技術なども更なる進化を遂げている。ハイブリッドカー以外にも実装されている技術として代表的なものが、アイドリングストップシステムである。軽自動車にも装備されエンジン稼動時間を少なくし、燃費向上に貢献している。庶民のお財布事情とも相まってユーザーからの評価は高い。
アイドリングストップ機能のメリットとデメリット
さて、アイドリングストップ機能のメリットの話になるが、言わずもがな燃費向上の一言に尽きる。大きな枠組みで言えば環境対策なども挙げられる。ユーザーにとってよい部分である燃費向上に目が行くが、逆に考えればそれだけ酷使される部品があることが分かる。デメリットの方になるが、バッテリーである。こちらも進化の度合いに比例してセルモーターやエンジン機能部品などの始動時による磨耗、連続使用よりも条件は悪い。
消耗品は安さだけではなく、使用要件にあったものを選ぶ必要がある
バッテリーはオイル、タイヤに並び、自動車業界を支える消耗品である。ガソリンスタンドなどは油外収益向上に向けた動きの中でバッテリー交換を勧めるケースも多い。ユーザーからすれば転ばぬ先の杖としてバッテリーやオイルといった消耗品を交換することはやぶさかではない筈だ。しかし、安いだけのバッテリーやオイル、タイヤなどを使用するメリットやデメリットも伝えていくのはプロのメカニックの仕事である。車種に合わせるのは当然であるが、ユーザーの使用条件に合わせてバッテリーを選ぶ必要がある。
コンピューター診断の心臓部は電気
さて、本題はここからである。バッテリーの寿命や診断方法などは数回に亘って取り上げていると思う。コンピューター診断の要となるのは電気であり、電気=バッテリーということになる。古い車であればアナログな仕組みであったが、最新の車になればなるほどデジタルな処理がなされている。そしてそのデジタルな処理を支えているものがバッテリーである。バッテリーはハイブリッドカーを含めた最新車種の第二の心臓といえる。
ハイブリッドバッテリーと補機バッテリー
ハイブリッドカーには2種類のバッテリーが取り付けられている。動力モーター(Mg2)を動かすハイブリッドバッテリーと車の電気システムを管理する補機バッテリーだ。ハイブリッドバッテリーは車種により容量も形状も違う専用設計のものが使用されている(ものによってはリサイクルパーツやリビルト品(再生品)などがある)。
補機バッテリーはというと、通常の消耗品と同じように多くのメーカーがラインナップを揃えている。しかし注意が必要なのがこの補機バッテリーなのだ。一番の問題は通常のバッテリーと形状は似ても構造が違う点がある。電解液をグラスマットに染み込ませた極板を液漏れ防止のため採用している。そして搭載場所が車内(室内)のため水素ガスを逃がすガスフローパイプが付いている。この特殊なバッテリーを主に採用しているのがハイブリッドカーだ。
補機バッテリーを交換する際の注意点
補機バッテリーは通常の車と違ってエンジンルームではなく室内に取り付いているので一目瞭然だ。しかし残念なことに形状やサイズなど通常のバッテリー(JIS規格)と同じなのである。サイズだけを見て専用のバッテリー以外のものを取り付けてしまっては色々な不具合が起きる。そしてアイドリングストップ車のバッテリーも特殊なバッテリーなのである。こちらも専用のものを使わない場合に起きる代表的な不具合がある。それがアイドリングストップをしなくなることだ。バッテリーが弱くなって何度もクランキング出来ないとコンピューターの自動判断によってアイドリングストップをしなくなるのだ。普通のバッテリー車のエンジン始動回数は車に乗り込んでから降りるまでだ。しかしアイドリングストップ車の場合は信号待ちの度にエンジン始動をする。
ということは、車の中で一番電気を使うものはセルモーターなのだが、このアイドリングストップ機能を考えると通常クランキング時の放電電流は100~200Aで、これを1日に何十回も使うことになるのがアイドリングストップ車なのだが、普通のバッテリーで対応できるだろうか?言うまでも無く専用のバッテリーでなければ厳しいのである。
省燃費ではないハイブリッドカー
ハイブリッドカーのウリはなんといっても省燃費だ。しかし通常の補機バッテリーを積んでしまったがためにアイドリングストップをしないといった事態が起きてしまったら、燃費は決して良くならない。むしろ電気を無理やり引き出してしまいバッテリーの寿命は直ぐに尽きてしまう。それ以前に燃費以上に費用がかさんでしまう。こんなハイブリッドカーを知識が無い整備工場は生み出してしまう場合もあります。こうならないようにするにはボッシュのような専門知識のあるメーカーとの付き合いをオススメしたいと思う。
診断出来ない=直せない
昔のバッテリーは弱くなればライトやホーンが弱くなるなど電気部品に顕著に現れた。現代のバッテリーの突然死は皆さんもご存知であると思う。寿命の予測がしにくい手前定期的な診断をしなくては正確なコンディションが分からないからだ。正しい知識と正確な診断を行わなければ単純なバッテリー交換一つも出来なくなる時代が現代なのである。
知識をつけるためには知識のある会社と付き合ってかなくてはいけない。独学で学ぶことも重要になる。もちろん勉強会などへの参加も必要であり、今までの経験や知識が通用しなくなってからでは生き残ることは出来なくなってしまう。
修理ではなく、整備を行う
スキャンツールの機能でコードを消すだけにしか使っていない工場を見かけます。もちろん使い方としてはそれしか使わないのならば、安い機械でもいいと思います。しかし、それは整備ではなく修理です。逆に高い機械を使いこなせていないケースもあると思います。これは自らビジネスチャンスを潰してしまっているといえます。安く仕上げるのがユーザーの為であると勘違いしている方もいるかも知れません。もちろんユーザーの希望としては安いに越したことはありません。では、安いバッテリーを取り付けて、安いタイヤを履いて何かあったときに使用者責任の一言で済ましてしまって良いのでしょうか?プロのメカニックとは車の事ではなく、ユーザーの事を考えるものです。故障診断整備をする上で必要になってくる知識などはボッシュを代表とするメーカーが進んでおります。ユーザーに安心感、満足感を与えるためにも、知識と技術のあるメーカーと付き合うことをお勧めします。
監 修:ボッシュ株式会社 長土居大介