自動車整備工場における故障診断整備のススメ
自動車整備工場の集客方法に必要なもの
道具を使って集客する
故障診断整備のススメでは、スキャンツールの活用、普及を目的としている。スキャンツールは絶対的に必要な工具としての市民権を既に持ち得ている。しかし、その当たり前に必要な工具をまだ持っていない整備工場が存在するのは嘆かわしい話である。
インパクトやドライバーといった工具を買う時に使い方が分からないメカニックはいないと思うが、スキャンツールはその使い方が分からないから敬遠しているとも言われている。以前より入庫車両に対してスキャンツールを繋ぐことを推奨してきたが、この作業を忠実
に実行し、そこから新たにビジネスを生み出した整備工場を紹介しようと思う。
BMWの専門ショップステラモータース
ステラモータースは埼玉県川口市にある認証工場だ。従業員は5名と、決して多くはない。建屋の中には入庫しているBMWやベンツといった外車が並ぶ。対象としている客層は「高級車に憧れて買った中流層」といった印象だ。
「創業は平成4年で、当時は普通の整備工場でした。特に特徴も無く、普通に業務をこなしていました。しかし、時代の流れに沿っていかなくては生き残れないのは、生物も会社も一緒です。創業から10年経った頃にはBMWの専門店として方向性を変えていきました。お客さまは自社で中古車を購入していただいた方ではありません。ほとんどが一見さんから固定客になっていき、紹介によりお客さまが増えていきました。お陰様で現在の入庫は月間約200台あります。9割方がBMWとなっています」と山本祐保代表。時代の流れに沿った事業運営を行っている。
時代の流れその① スキャンツール
当然同社もスキャンツールを活用している。入庫車両に対して内包するトラブルを未然に防ぐためにも繋いでいる。
「マッサージに行って通常の状態に戻してもらうのではなく、より快適になって帰路に着く。これと一緒だと思うのです。元に戻すのではなく、より良い状態にしてお客さまにお渡しする。このようにしなければお客さまは付いてきてくれません。そのためのツールとしてスキャンツールは重要です。こういった背景もあり、3年前よりBCS(ボッシュカーサービス)になり、より高度な故障診断を出来るようになりました」と山本代表。
スキャンツールは必ず繋いでお客さまに現在の自動車の状態を知らせている。
時代の流れその② 提案型営業と設備投資
スキャンツールに繋ぐことで潜在的なトラブルを浮き彫りにする。これによりお客さまにトラブルを伝える。信頼されている自動車整備工場との会話は常にお客さまの立場に立った会話が重要である。
その提案が出来るためにもスキャンツールは必要であり、それに応じた設備も必要になってくる。「提案と押し売りを間違えてしまっては、お客さまに敬遠されてしまいます。整備が出来るようにしなくては提案も出来ません。生き残るためには時代にあった工具(設備)が無くては生き残れません。そして不満と不安を払拭させる説得力のある説明が重要です。よく足回りの不満を訴えるお客さまがいらっしゃいますが、半分はタイヤを交換することで、解消されます。どのタイヤを勧めるかを考えていかなくては意味がありませんし、その知識も必要です。お客さまそれぞれのニーズによって変えていかなくては意味がないのです。ハイグリップタイヤで乗り味が変われば、お客さまは満足します。それでも満足しなくなり、社外のショックを入れたりします。それも車種によってこれがいい、などと考えなくてはいけません。逆に提案しないと、お客さまの方からも聞いてきてくれます。ここまでの距離感を保つためには、対応できる設備と知識そして技術が必要になります」と山本代表。
提案をするにしても、自社で出来る幅を持たなくては何も出来ない良い事例といえる
時代の流れその③ エアコンサービス
ボッシュの全自動エアコンサービス機器である「ASC751」をステラモータースでも活用している。3年前より導入し、ワンシーズンで350台の施工を行っている。「口コミで広がり、今では1年を通して施工しています。何よりも施工を体験されたお客さまはリピーターになり、1年に1度必ず受けていただけます。夏場などは1日中フル稼働しています。何よりも喜ばれることが多く、車検入庫やオイル交換など一般整備と一緒に作業していただくケースが多いです。施工時間も約1時間と作業時間も早いです。しかもセットしてしまえば、後は全自動でサイクルの洗浄から充填までします。この手のアイテムはいかにお客さまに納得していただけるかが重要になってきます。いかに良い設備があっても、伝え方が悪くては意味がありません。依頼されてから初めて機能的な説明を行い、押し売りにならないようにしています。何と言って施工していただくか、その距離感を作っていかなくては良いものも利用していただけません。これも時代の流れが、自動車整備業からサービス業という業態に変化しているからこそだと思います」と山本代表。
自動車整備工場がサービス業である
という視点はとても重要になってくる。顧客のニーズが変化しており、ただ部品を取り付ける、直すといった作業だけでなく、中身の伴ったサービスを望む時代になって来ているからこそといえる。
ASC751の上手な使いかた
ステラモータースのASC751の使い方はとても理想的である。集客のために大きな看板を掲げることもなく、サービスメニューの中にひっそりとたたずむだけだ。それでいてリピーターや紹介による利用客増加を見れば、顧客に浸透している証拠といえる。たとえ乗り換えたとしてもサービスの質を知っている以上、再度通うことは容易に想像が出来る。実際に同社で車販は行っておらず、中古車を購入し、何処へ持って行っていいか分からないユーザーを囲い込み固定客化している。「元々、違う商品を見に行って即決しました。顧客囲い込みにも使えますし、デザインも良かったです。安売り競争になりつつある現在であっても一定の収入が得られるので、夏場はボーナスだと思っています。1台では稼動が間に合わなくなり、2台で運用しています。中古車はもちろんのこと、新車にも使うことがあります。新車であってもガスの量などが適切でない場合もあります。1度体験したお客さまは新車に乗り換えても直ぐに持ってきてくれます」と山本代表。
整備工場に足を運ぶ理由は少なくとも自動車に起因するところが大きい。
上手なマッサージ師を指名するように「あそこにクルマを入れると状態がより良くなって帰ってくる」と言われる整備工場が、淘汰されずに残る整備工場ではないだろうか。エアコンサービスに限った話ではないが、体感しやすく施工も時間がかからない。それでいてお
客さまとの接点作りにエアコンサービスはとても有効な手段といえる。
これをやっているから淘汰されないとはいわないが、何もしないでいる整備工場、危機感を感じないでいつも通りの仕事をしている工場は近い将来、間違いなく淘汰される。
お客さまに選ばれるサービスを充実していくことが、淘汰ではなく進化する工場の必須条件といえる。