近畿地方K 社の事業継承についてお伝えする。今回は事業継承後から現在に至るまでの話である。
息子は攻めの姿勢、親は守りの姿勢で会社を拡大させていく
息子が、約束通り(半ば強引に)社長を引き継ぎ、親子間の溝は埋められぬまま、社長は業績を伸ばしていく。しかし、その事業はこれまでとは違い、伸びている軽自動車専門店を中心に、販売・整備・鈑金を併せた専門店の集合事業のため、借り入れを沢山することになっていた。実際には問題なく、社員も教育され、業績も伸ばしていっているのだが、先代(父親)は安心できなかった。万が一のこと(倒産)が起きてしまった場合の従業員の受け皿、自分と苦楽を共にした古参社員の定年後の受け皿として元々あった小型店舗を残し経営していくこととなる。お互いに社員を大事にしているからこそ攻めと守りの両面で補完し合う結果となった。
親から受け継いだ顧客第一の考え方で改革を進める
父の代から同じ考えでもある“お金よりもお客様を握る”「お客様目線での経営」は、社長が代わることで組織づくりにも変化が起きていった。例えば経理は親族ではなく、社長が信頼する優秀な社員を配置している。お客様の方を向いて、社員にもオープンな組織へと変革していく。さらには、経営計画を作り、夢を語り続け、社員を公平に評価するための仕組みや満足度を高める制度も作っていた(前号参照)。そういったこともあり、社長が社員との距離を近づけていくことで、社員の定着率や若手の成長はどんどん加速していくことになる。
事業継承後、ほどなくして地域一番の企業へと成長する。今では、「経営判断は社長の自分がするものだが、推進力は社員が中心にしてくれるし、施策のひとつひとつは部門長や社員の方が理解力・実行力がある」と社員を評価されているほどの組織になっている。
業績を伸ばし続けること、交流を持ち続けることが、良好な関係にする要素
社長と先代は事業継承後5 年間はわだかまりを持ったままであったそうだが、社長が先代の奥様(母親)や家族、自身の妻や息子を通じてコミュニケーションを持ち続けていた。そして5 年くらい経った頃には直接コミュニケーションを取る機会も増えてきたとのことである。理由は社長が業績を大きく伸ばし続けていることで、先代からの信頼が生まれてきていることが大きい(現在、継承後8 年間、増収増益を続けている)。
今でも経営に対する考え方などで本気で喧嘩となってしまう場面もあるが、親子で東京へ旅行へ出かけるなど関係は非常に良好になっている。
この会社から学んだポイントとしては、「息子が親を尊敬すること」、「先代を超えるために何を身につけ何を行わなければならないかを考えること」、「引き継いだ後もひいきなく社員を皆大事にすること」、「社長が夢を語り続け、それに向けた行動をとること」である。二代目が先代を超えるためにはより一層の覚悟が必要なのであると感じる。
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