事業継承の事例として近畿地方K 社の事業継承について紹介
前ページは事業継承前の話をお伝えしたが、今回は事業継承の直前直後の話である。
親子間のライバル意識が衝突を激化させる
社内で毎月会議を行うたびに親子の対立を繰り返していた。対立して怒鳴り合えば、「俺の会社だ。出て行け!」という父親(会長)と「出て行くよ」と堂々と退席する息子(社長)の構図が続いていた。しかし、会長が60 歳で引退し、息子に事業継承すると社員に発表していたことで、息子の会社を事業継承する動きが活発になる。会議で話が進まないことで、会社に対して考えていることや事業として
考えていることを、自社の店舗全店にFAX を送り、社員へメッセージを伝えていた。
約束どおりのはずが、事業継承は突然やってくる
そして、会長が60 歳になる誕生日の前日、社長が会長へ「印鑑証明を挙げておいてください」と言い、会長がその通りにしていると、「代表取締役を代わろう」ということだった。突然のことで会長は戸惑いながらも流れに従った形となる。しかし、社長は7 年前の会長の宣言からの約束が果たされたということ、またその確認は数年前からしていたことで、スムーズな事業継承という認識であった。対立を繰り返していたことで、そういった認識も少しずつずれていたという。そして、事業継承のタイミングで退職金も出たのだが、社長が家を建てることで資金を提供することになった。
さらに、給料は社長を交代したら必要ないと言ったことで会長は一気に年金暮らしへと変化してしまった。
事業継承で社長の会社へ~会社の成長を加速~
会長が一線を退いた後も、対立は少なからず起きていた。これまでは会長が「俺の会社だ」と伝えていたものが、今度は社長が「俺の会社だ」というような構図に逆転した。
しかし、だからといって社長が会長の頃からのベテランメンバーを迫害しようとしていた訳ではない。
社員満足度を高める施策をひとつずつ会社に採り入れ、10 年以上のベテランスタッフには1 週間・10 万円を与えるリフレッシュ休暇などに取り組んだ。組織図や人事評価の仕組みも採り入れた。そして軽自動車販売の事業を徹底的に伸ばす動きを加速させ会社を成長させていった。
一方で、会長の奥さんが親子対立を見かねてしまったのか体調不良で働けなくなってしまった。そして会長はその看病をすることで、自分たちがしてきたことを少しずつ見直し、親子間の関係性も少しずつ落ち着いていった。
このように、親子間の対立が表面化し、奥さんや社員も巻き込むような事業継承はなかなか無いのではないだろうか。親子間でライバル関係という位置づけがそうさせているのだと思う。
ただし、社長が親の腹心たちを排除するのではなく、守る動きをしていることは非常にすばらしいことである。事業継承の問題を社員へ波及させてはならない。
次ページはK 社の事業継承後から現在にいたるまでの話をしたいと思う。