第167回 EUの中古車貿易はどうなっているか

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

1.はじめに

阿部(2025)で言及されたように、日本の2024年の中古車輸出台数は過去最多を更新している。抹消登録台数が低迷し、ロシア向けの輸出規制などの制約がある中で、アラブ首長国連邦やモンゴル向けなどで市場が拡大し、台数を伸ばしている。それは欧州など世界全体で広がっていることなのだろうか。かつて筆者は欧州においてウクライナ向けの中古車輸出台数が急増している状況を示したが(阿部,2023)、その後の欧州の中古車輸出台数がどうなっているかは確認できていない。そこで本稿ではEU(欧州連合)の貿易統計を用いてイギリスを除くEU27か国を対象としてその中古車貿易の現状を捉えることとする。

 

2.貿易統計で集計されたEUの中古車輸出台数

図1はEUの貿易統計上の数値を集計した中古車輸出台数の推移である。これを見ると直近のEUの中古車輸出台数は、日本の状況とは異なり、2022年をピークとして減少傾向であることが窺える。また、ピークである2022年の数量は129万台であり、日本の規模よりは若干小さいこともわかる。

図1に示される10年間の中古車輸出台数の合計は、貿易統計上の集計値では998万台である。このうち、輸出国としてはベルギー(24%、244万台)、ドイツ(21%、212万)、スロベニア(14%、136万台)、ポーランド(10%、102万台)、オランダ(6%、64万台)の順で多い(カッコ内の%はEU全体の数量のシェア)。この上位5か国で全体の76%である。それに続くのがフランス(44万台、4%)、リトアニア(41万台、4%)、イタリア(31万台、3%)、スペイン(24万台、2%)、ハンガリー(20万台、2%)である。

仕向地については、図1の10年間の合計では、ウクライナが最も多く、全体の13%(134万台)を占める。それにセルビア(11%、110万台)、ボスニア・ヘルツェゴビナ(6%、56万台)といったEUの周辺国のほか、ナイジェリア(5%、53万台)、リビア(5%、53万台)、ベナン(4%、40万台)、ギニア(4%、37万台)といったアフリカ諸国が続く。さらに続くのがジョージア(3%、32万台)、アルバニア(3%、28万台)、カメルーン(3%、26万台)である(カッコ内の%は仕向地全体における数量のシェア)。

図1では仕向地についてアフリカとその他で区分している。アフリカ向けは40万台前後で変動していたが、2021年以降は減少傾向であり、2023年、2024年は30万台を割り込んでいる。全体におけるアフリカの割合は、2015年は55%であったが、2022年、2023年、2024年はそれぞれ29%、27%、29%と縮小している。アフリカの割合が近年下がっている事情は日本でも同様である。

図 1 EUの中古車輸出台数(EU域外向け)

出典:EUROSTATより集計

注:バス、乗用車、貨物車において中古の区分のある品目の数量を集計。EUはイギリスを除く27か国を対象とする。図中の「アフリカ」「その他」は中古車輸出台数のうちアフリカとその他地域向けの数量を示す。

 

図2は2024年の中古車輸出台数の多かった輸出国の上位15か国の数量の推移を示している。これを見ると2024年はドイツ、ベルギー、ポーランド、スロベニアの順で多いが、これらはいずれも減少傾向である。また、2022年、2023年にポーランドが最も多かったことや2024年にイタリアが急増していること、フランスも増加傾向であることなどもわかる。2022年のデンマークや2023年のクロアチアなどの突発的な増加も観察される。これらの数量は、あくまでも貿易統計上の数値を集計したものであることを留意する必要がある。

 

図 2 EU主要国の中古車輸出台数の推移

出典:EUROSTATより集計

注:バス、乗用車、貨物車において中古の区分のある品目の数量を集計。主要国は2024年の中古車輸出台数の多い15か国を選定。

 

図3は2024年の中古車輸出台数の仕向地の、上位15か国の直近3年間の推移を示している。2024年もウクライナ向けが最も多いが、2022年と比べると同国向けは半数近くに減少している。ウクライナに続くのは、セルビア、アルバニア、ベラルーシ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、スイスといったEUの周辺国の仕向地である。これに対してアフリカ向けはあまり目立たない。2022年に3番目の位置していたリビアは減少傾向であり、2024年の数量は14番目に後退している。なお、図2と同じく、ここでの数量は貿易統計上の集計値であることを留意する必要がある。

 

図 3 主要仕向地におけるEUの中古車輸出台数の推移

出典:EUROSTATより集計

注:バス、乗用車、貨物車において中古の区分のある品目の数量を集計。主要仕向地は2024年の中古車輸出台数の多い15か国を選定。

 

3.外れ値の可能性と中古車輸出台数の修正

阿部(2020)、阿部(2022)などで示されるように、EUの貿易統計では無視できない数量が不自然な形で台数に含まれることがある。それは重量に対して台数が過剰に計上されている可能性があるというものである。表1は2024年において1台あたり100kg未満の輸出実績の主なものを並べたものである。例えば、イタリアからアルバニアの貨物車(5トン以下2500cc以下、ディーゼルエンジン、統計品目番号:8704.21.99)は387,030kgの重量の中古車が輸出されたことになっているが、台数では30,778台と表示されている(2025年3月30日現在)。これを1台あたりの重量にするとわずか12.57kgである。一般的に自動車の重量で12.57kgは考えにくい。ここで仮に1台あたり100kg未満の数量を外れ値として、1台あたりの重量を一律1,000kgに置き換えて台数を推計してみる。この結果、先のイタリアからアルバニアの貨物車(統計品目番号:8704.21.99)は30,778台だったものが387台に下方修正される。当然ながら自動車は車種によって重量は異なり、とりわけ大型車などでは1,000kgでも過少である。本来は車種ごとに中央値などを算出して置き換えることが望ましいが、ここでは作業の簡略化のために一律1,000kgに置き換えて議論を進める。

2024年について全ての「輸出国・仕向地・品目」の組み合わせのうち、1台あたりの重量が100kg未満になった数量を抽出し、同じように台数を修正して足し合わせる。その結果、2024年のEUの中古車輸出台数は100万台だったものが、89万台に下方修正される。貿易統計上の数値を単純に集計したものを「集計輸出台数」、1台あたり100kg未満の数量を修正して足し合わせたものを「修正輸出台数」と呼び、「1-修正輸出台数/集計輸出台数」を「修正率」と呼ぶと、2024年の修正率は11%である。同じように、2022年は129万台が120万台に、2023年は110万台が99万台に下方修正され、2022年、2023年の修正率はそれぞれ6%、10%になる。修正後の数量を見ても、EUの中古車輸出台数が2022年から減少傾向であることは変わらない。

 

表 1 1台あたりの重量が100kg未満の中古車輸出台数の例(2024年)

輸出国 仕向地 統計品目番号 重量(100kg) 集計輸出台数 1台あたり

重量(100kg)

修正輸出台数
イタリア アルバニア 8704.21.99 3870.3 30,778 0.1257 387
ブルガリア コソボ 8703.32.90 10953.88 20,355 0.5381 1,095
ポーランド カザフスタン 8704.22.99 16297.64 20,323 0.8019 1,630
イタリア アルバニア 8704.21.39 920.31 16,611 0.0554 92
スペイン モロッコ 8704,22.99 649.06 13,761 0.0472 65
アイルランド イギリス 8704.31.99 42.7 2,577 0.0166 4
フランス イギリス 8703.24.90 1335.43 2,274 0.5873 134
イタリア セネガル 8703.23.90 1632.76 2,200 0.7422 163
チェコ 中国 8703.23.90 147.2 1,947 0.0756 15
イタリア マリ 8704.21.39 17 1,700 0.0100 2

出典:EUROSTATより集計

注:バス、乗用車、貨物車において中古の区分のある品目の数量を集計し、1台あたり100kgの数量を抽出した。そのうちの「集計輸出台数」の多い10組を選定している。「集計輸出台数」は貿易統計上の数値を集計したもの、「修正輸出台数」は1台あたり100kg未満の数量を修正して足し合わせたもの。「修正輸出台数」は重量/1,000(kg)によって算出している。

 

図4は、図2の主要輸出国について、先に示した「1-修正輸出台数/集計輸出台数」により修正率を算出したものである。これを見ると、多くのケースで0%またはそれに近い値となっているが、一部の輸出国や年においてその割合が高いものが観察される。例えば、スペインは全ての年で修正率が高い。このほか2024年のイタリア、ブルガリア、2023年のクロアチア、2022年のデンマークの修正率も高く、輸出台数は大きく下方修正されていることがわかる。

 

図 4 EU主要国の中古車輸出台数の修正率

出典:EUROSTATをもとに算出

注:修正率=1-修正輸出台数/集計輸出台数

 

図5は2022年、2023年、2024年の修正輸出台数の推移を主要輸出国別に見たものである。ここでの主要輸出国は、2024年の修正輸出台数の上位15か国である。2024年の修正率の高いイタリア、ブルガリア、スペインは、図2の集計輸出台数のものと比べて順位を落としている。具体的にイタリアは図2の集計輸出台数では5番目に位置しているが、図5の修正輸出台数では8番目である。ブルガリアも9番目から10番目へ、スペインも11番目から14番目に変わっている。

上位4か国の順位は図2とは変わらない。このうち、ドイツ、ポーランド、スロベニアは変わらず過去3年で減少傾向であるが、ベルギーについては2024年に微増に変わっている。図5では1台あたり100kg未満を修正の対象としているが、500kg未満を対象としてもベルギーの微増の傾向は変わらない。この点はさらに細かく分析したうえで微増か否かを判断する必要はありそうである。なお、図2で突発的な動きのように見えた2024年のイタリアの台数や2022年のデンマークや2023年のクロアチアなどの台数は、修正された結果、違和感が緩和されている。

 

図 5  EU主要国の中古車輸出台数(修正輸出台数)の推移

出典:EUROSTATをもとに算出

注:主要国は2024年の中古車輸出台数の多い15か国を選定。

 

図6は主要仕向地について図4と同じ方法で修正率を算出し、並べたものである。ここでの主要仕向地は図3と同じく2024年の中古車輸出台数の上位15か国である。これを見ると、輸出国のものと同じく、多くのケースで0%またはそれに近い数値であるが、2024年のアルバニア、コソボ、カザフスタン、2023年のボスニア・ヘルツェゴビナ、アルジェリア向けは修正率が高く、大きく下方修正されていることがわかる。

 

図 6 主要仕向地におけるEUの中古車輸出台数の修正率

出典:EUROSTATをもとに算出

注:修正率=1-修正輸出台数/集計輸出台数

 

図7は修正輸出台数の2022年から2024年の推移について、主要仕向地別に並べたものである。ここでの主要仕向地は2024年の上位15か国である。図3の集計輸出台数で3位だったアルバニアが5位となっている。また、図3で6位だったコソボも15位となっている。カザフスタンは30位となり、図から外れている。なお、2024年のスイスの修正率は3%であり、さほど下方修正されていないが、修正した結果、アルジェリアがスイスを上回っている。

これを見るとウクライナ、セルビアの順で多いこと、ウクライナは大きく減少傾向であること、セルビアは2023年に減少した後、2024年に微増であることなどは図3と同じである。アルバニアは2024年に大きく下方修正されたが、それでも増加傾向であることは変わらない。アフリカについてはアルジェリア、ギニア、ナイジェリア、カメルーン、リビアの順で多く、アルジェリアが増加傾向であることやリビアが減少傾向であることなども図3と変わらない。全体におけるアフリカの割合は2022年、2023年、2024年がそれぞれ31%、27%、31%であり、わずかに高くなっている。

 

図 7 主要仕向地におけるEUの中古車輸出台数(修正輸出台数)の推移

出典:EUROSTATをもとに算出

注:主要仕向地は2024年の中古車輸出台数の多い15か国を選定。

 

4.ウクライナとベラルーシ向けの動き

図7に示されるようにウクライナ向けは、2022年の27.5万台に対して2024年は14.3万台と半数近くも減少している。図8ではこの動きについてさらに遡って2015年からのウクライナ向けの中古車輸出台数を示している。ここでも貿易統計から数量を抽出し、1台あたり100kg未満の数量を修正したうえで足し合わせている。図6で示された直近3年間もそうだが、2015年まで遡ってもウクライナ向けは1台あたり100kg未満の数量はほとんどなく(10年間の合計で修正率は0.1%)、単純に集計した輸出台数を示しても似たような結果になる。

阿部(2023)では、2021年までのEUのウクライナ向けの年別推移と2022年1月から6月までの月別推移を示したが、そこでは2022年6月においてスロバキアからウクライナに22万台ほどの中古乗用車(1500cc超3000cc以下、ディーゼルエンジン、統計品目番号:8703.32.90)の輸出が計上されていた。当時、その不自然さに言及し、本稿と同じような方法で下方修正するなどしたが、今回スロバキアからの同じ品目(8703.32.90)の2022年6月の中古車輸出台数を確認したところ、362台と表示されていた。年間でも1,230台であり、不自然さを感じない数量になっていた。

図8を見ると、もともとEUからウクライナ向けの数量は増加傾向にあったが、2022年になって一段と中古車輸出台数が増加したことがわかる。阿部(2023)でも示されたようにその多くはポーランドからの輸出であり、数量の増加とともにポーランドの割合も高くなっている。この割合は2022年に一段と高まり、2022年、2023年は80%、81%となっている。これに対して直近の2024年の数量は大幅に減少しており、ウクライナ侵攻前の2020年、2021年よりも少ない。同時に全体におけるポーランドの割合も72%と縮小している。

ポーランド以外ではドイツからの輸出台数は図ではあまり変わっていないように見えるが、侵攻前と比べると数量が減っている。2019年が2.5万台で(過去10年間で)最も多く、2021年も1.9万台だが、2022年以降は1.4万台から1.5万台程度である。また、リトアニアからの輸出台数も侵攻直前の2021年が2.5万台だったが、2022年が1.7万台、2023年、2024年は5千台前後と減少している。反対に侵攻後に数量を伸ばしたのは、図にはないところではフランスとハンガリーがある。フランスは年間で千台前後だったが、2023年、2024年は4千台弱である。ハンガリーも2021年までは千台を下回っていたが、2022年以降は3千台から4千台程度である。

 

図 8 EUのウクライナ向け中古車輸出台数(修正輸出台数)の推移

出典:EUROSTATをもとに算出

注:主要国は2015年~2024年の中古車輸出台数合計の多い4か国を選定。

 

一方、図9はベラルーシ向けの中古車輸出台数である。驚くべきことに2022年に同国向けの中古車輸出台数は急増している。それは隣国のリトアニアからが最も多く、ドイツ、ポーランドを含めた3か国で90%を超えている。そこで記事を見てみると、ベラルーシ向けの自動車の輸出は欧州で報道され、問題となっている。例えば、フィナンシャルタイムズの2024年5月23日付記事では中古車とは書かれていないが、高級車がベラルーシを迂回してロシアに輸出されているとする(Bounds et al., 2024)。その背景にはベラルーシに対する制裁がロシアのものよりも緩いことが言及されており、ベラルーシに対する制裁を強化することが検討されている。また、EUが必ずしもこの動きを放置しているわけではないことも言及されている。EUの玄関口となるリトアニアの税関は輸出禁止品目の対応の複雑さに苦慮しており、制裁回避の動きを予防することが「非常に重い作業負荷」となっているとある。その後については、同じくフィナンシャルタイムズの2024年12月30日付記事を見ると、同年7月にベラルーシ向けの輸出規制を強化し、同国経由の輸出は減少している様子が示されている(Dubois et al., 2024)。一方で、同記事ではトルコやジョージア、キルギス、韓国などを経由して、依然としてロシアに流通している実態も示されている。

 

図 9 EUのベラルーシ向け中古車輸出台数(修正輸出台数)の推移

出典:EUROSTATをもとに算出

注:主要国は2015年~2024年の中古車輸出台数合計の多い4か国を選定。

 

5.まとめ

本稿で見たように、日本の状況とは異なり、EUでは中古車輸出台数が減少傾向にある。ウクライナ向けの減少は日本にはない事情だが、アフリカ向けの縮小は日本と似ているところもある。また、ベラルーシ経由の輸出など、ロシアの制裁の影響から迂回輸出の可能性が指摘されるのは、日本でも同様の事情であろう。今回は紹介しなかったが、ハイブリッド車や電気自動車(EV)を含めた電動車の中古車輸出台数は、EUではまだ全体の6%(2024年)であり、日本の割合(23%、2024年)よりも大幅に低い。中古EVの仕向地もEUの周辺国(ウクライナ、ノルウェー、スイス、セルビアなど)が大多数を占め、広がっている様子は窺えないが、この動きがどうなるかは関心が高い。

周知のとおり、EUではこれまでの使用済自動車指令(ELV指令)を改め、使用済自動車規則が提案されている。サーキュラーエコノミーの視点を持つEUにおいて、中古車輸出を問題視し、走行できない中古車の輸出禁止を規定しようとする動きがある。その意味を捉える必要がある。一方で、規制に対して迂回輸出など、様々な形で網の目をくぐる行為が起こりうる市場において、どこまで輸出を制御できるのかという論点もある。これらの問題点は意識に置いておきたい。

 

参考文献

  • 阿部新(2020)「EUROSTAT統計の問題:アフリカ向け中古車輸出台数の集計を事例に」『速報自動車リサイクル』(98),52-62
  • 阿部新(2022)「中古車輸出台数の国際比較における課題」『廃棄物資源循環学会研究発表会講演集』(33),197-198
  • 阿部新(2023)「EUの中古車貿易構造の把握:ロシア・東欧方面を中心に」『速報自動車リサイクル』 (104),30-43
  • 阿部新(2025)「日本の行方不明車問題をどう考えるか」『速報自動車リサイクル』,https://www.seibikai.co.jp/archives/recycle/11606,参照2025-03-31
  • Bounds, D. Mosolova, C. Cook and R. Minder, “EU seeks to stop Russia’s imports of western luxury cars via Belarus”, The Financial Times, May 23 2024, https://www.ft.com/content/792bc0e4-5208-4839-aa63-f5f6c7bf78d8, accessed on March 31 2025
  • Dubois, A. Stognei and C. Cook, “Russian smugglers import luxury cars from Europe despite sanctions”, The Financial Times, Dec 30 2024, https://www.ft.com/content/d5ab4158-b9fd-4fbb-a301-090c83785ed5, accessed on March 31 2025
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