この度 、ご縁を頂きまして、法律関連の記事を連載させて頂くことになりました。私は、約40名の弁護士が在籍する東京都内の法律事務所に所属しており、私自身は主に中小企業の経営者等からの法律相談や訴訟対応等に携わっております。本誌では当面、次のテーマについての記事を掲載していこうかと考えております。
① 中小企業の経営者が知っておいた方がよい法律情報の紹介(金銭回収、契約、事業承継など)
② 自動車に関連する法律情報の紹介(交通事故、自動運転に関連する法律問題など)
③ 最近の法律関連のトピックの紹介(民法の改正など)
質問
自動車の修理を依頼され、修理を終えて引渡したが、代金を支払ってもらえない。契約書を取り交わしておらず、相手方の情報は名前と携帯電話番号だけだが、代金を請求することは可能だろうか。
回答
1 契約書なしでも契約は有効。
口頭での合意であっても契約は有効です。修理を行ったことの証明が必要になるため、修理前後の写真を撮影し、保存しておいた方がよいと思います。契約書がないため、修理代金について合意していたことを証明できない可能性がありますが、その場合でも「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当の報酬を請求することができる」(商法512条)とされているため「相当の報酬」の請求は可能です。
2 勝訴判決を得れば、回収できるのか。
勝訴判決を得ても、裁判所等が取り立ててくれる訳ではありません。相手方が任意に支払ってこない場合、相手方の財産を特定した上で、別途、強制執行手続を申し立てることになります。相応の価値(買取価格が概ね20万円以上)がある自動車は、強制執行の対象とすることができます。もっとも、相手方名義でなければ強制執行できませんので、相手方が自動車の売買代金を完済しておらず売主名義のままになっている(所有権留保)ときには強制執行できません。預金口座や勤め先の給料などは、換価(取立)手続が比較的簡便なため、強制執行の対象とすることが多いのですが、例えば、預金の場合、銀行名だけでなくその支店名まで特定しなければ強制執行できません。
3 住所や財産の調査方法は。
自動車のナンバー(自動車登録番号)と車台番号が分かれば陸運局で登録事項証明書を取得し、住所を調べることができます。相手方の居場所が判明すれば自動車の所在を特定することができますし、勤務先などを調査する端緒ともなり得ます。また、弁護士に依頼し、弁護士会照会という制度を利用することにより、携帯電話番号から通話料金の請求書の送付先住所や引落口座が判明することもありますし、(勝訴判決を得た状態あれば)一部の金融機関(メガバンク)から、相手方名義の預金口座の有無、及び、支店名や残高について回答を得ることも可能です。
財産の特定は必ずしも容易ではありませんので、平時から、顧客の住所や勤務先、可能であれば銀行口座、その他の資産についての情報を収集しておくことが、債権回収を行う上で有益です。