社会保険労務士 内海正人の労務相談室

質問

試用期間での解雇の判断について
試用期間が経過しても、本採用は厳しそうな新人がいる。果たして、解雇(本採用拒否)ができるだろうか?

回答

試用期間で本採用を拒否する場合、法的には契約の解約(解雇)と考えらえます。解雇の要件は以下の2つがあります。
① 行使するに当たり、客観的で合理的な理由が存在する
② 社会通念上相当として認められること
この要件を満たすのは厳しいと考えられ、本採用拒否や解雇を躊躇される会社が多いのも事実です。しかし、社員として厳しい者を雇用し続けることは会社にも他の社員にもそして、本人にも厳しい選択となる可能性が高いです。
では、どんな場合に解雇ができるのでしょうか? これに関する判例を紹介します。

<空調服事件>

東京高裁 平成28年8月3日
会社は総務、経理の担当者としてAをパート社員として採用。社会保険労務士の有資格者であり、複数の企業で総務及び経理の業務の経験があった。会社は労務管理、経理業務を担当させるにあたり、人事、財務、労務管理の秘密情報等の管理や配慮ができる人材を求めていた。
採用にあたり、採用後1カ月は試用期間とし、能力、勤務態度、健康状態について不適切と認めた場合は採用を取り消すとしていた。
入社後、Aは突然会議の場で「決算書は誤り」と発言した(この意見は自己アピールと考えられる)。重要な問題を単に自分の経験値で発言し、組織の秩序を混乱に招いたとして、Aに重要な情報が集まる総務、経理の仕事は任せられないと判断し、会社は試用期間中に解雇。しかしこれを不満に思ったAは「解雇は不当」とし、裁判を起こした。

裁判所の判断

東京地裁ではAの主張が認められましたが、その後裁判は高裁へと移ります。総務、経理の業務は人事や財務の秘密情報等を取り扱うことは必須で、慎重に取り扱うことができる人材でなければなりません。また、慎重な検証や正しい手順を踏むことが担当者には期待されていました。しかし、今回Aは自らの経験のみに基づき、異なる会計処理の許容性についての検討をすることなく、組織的配慮を欠いた自己アピールを行ってしまいました。さらにAは、自らの発言が不相当なことについての自覚が乏しかったのです。
Aの行動は期待していた労務管理や経理業務を含む総務関連の業務を行う社員として資質を欠くとの会社側の判断を高裁は支持。同時に会社が実施した解雇も有効であると認め、高裁では会社側が勝訴となりました。

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