第122回 イギリスの中古車輸出市場を捉える

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

1.はじめに

脱炭素の動きが加速している。自動車においても同様で、内燃機関車の新車販売を規制する政策が各国で出てきている。それは内燃機関車の規制国から非規制国への中古車輸出の促進に繋がりうる。それらがどこで競合するかである。

阿部(2020b)では、アフリカ向けの中古車輸出市場について整理した。そこでは日本、アメリカ、EU(欧州連合)27か国を輸出国として、アフリカ向けの中古乗用車の輸出台数を集計している。また、阿部(2021c)においては、韓国の中古車輸出台数を算出し、阿部(2020b)で示された各国からアフリカ向けの中古乗用車輸出台数の構成を修正している。

これらに含まれていない主要輸出国としてイギリスがある。阿部(2020a)で指摘されているようにイギリスからの輸出台数に外れ値が含まれる可能性がある。そして、阿部(2020a)ではEUの貿易統計においてイギリスを含むことは注意を要するとしている。それを踏まえて、阿部(2020b)ではEUからアフリカ向けの数量についてイギリスを除いた27か国で算出している。

一方、阿部(2021b)では、欧州から中東向けの中古車、中古エンジンの貿易量を算出したが、そこではイギリスを含めた28か国としている。やはり主にイギリスからの輸出に外れ値と思われるものが観察され、1台あたりの重量が100kg以下の貿易量も算出された。そして、各品目の1台あたりの重量の中央値を用いて、100kg以下の中古車輸出台数を修正し、推計値を示した。

このようにイギリスの中古車輸出台数は注意を要するところがある。ただし、アフリカ向けなど中古車輸出市場の全体の構造を把握する上では、イギリスを抜きに議論することはできない。

このような背景の下、本稿では、イギリスの中古車輸出台数を算出する。上記のように統計上の数値に外れ値が含まれる可能性があるため、その数値の修正を試みる。そして、イギリスからどの国にどの程度輸出されているかを捉えることとする。

 

2.貿易統計上の数値

イギリスの貿易統計は、EU統計局(EUROSTAT)の貿易統計により算出可能である。ただし、2021年4月現在、ダウンロードできるのは2019年までのデータである。2020年のデータは他のEU加盟国のものは掲載されているが、イギリスは掲載されていない。周知の通り、イギリスはEUから離脱したので、その影響なのかもしれない。

そこで以下ではEUROSTATを用いて、2010年から2019年のデータから、イギリスの中古車輸出台数を算出する。対象品目はバス、乗用車、貨物車であり、それぞれの中から「中古」の品目(統計品目番号)の貿易量を拾っていく。

図1は、年別データからイギリスの中古車輸出台数の推移を集計したものである。これを見ると、まず2011年が他の年と比べると不自然な数量となっていることが分かる。特に貨物車が72.7万台となっており、他の年と大きく異なっている。また、このほかにも2014年の貨物車や2015年のバスなども他の年と比べると多い。いずれにしろ、図1を見る限りでは20万台前後がイギリスからの年間中古車輸出台数になる。

図 1 イギリスからの中古車輸出台数の推移(単位:台)

出典:EUROSTATより筆者作成

図1を集計した際に用いた2010年から2019年のデータベースから、中古車に関する「年・仕向地・統計品目番号」の組み合わせを数えてみると、全部で11,018組あることが分かった。「年・仕向地・統計品目番号」の組み合わせとは、例えば、2014年のアイルランド向けの5トン超20トン以下の貨物車(8704.22.99)のようなものである。

各組み合わせにおいて、重量と台数、金額が示されており、重量を台数で割ることで1台あたりの重量を算出することができる。その結果、上記の11,018組のうち、1台あたりの重量が100kg以下の組み合わせが401組あることが分かった。台数で示すと2010年から2019年までの10年間の中古車輸出台数は308.8台だが、このうちの半数以上の174.1万台が1台あたり100kg以下になることが分かった。

EUROSTATでは月別データも集計することができる。そこでこの月別のデータベースを用いて、中古車に関する「年・月・仕向地・統計品目番号」の組み合わせで見てみると、52,980組あることが分かった。

同じように1台あたりの重量を算出すると、1台あたり100kg以下のものは1,237組あった。数量で示すと、2010年から2019年までの10年間の中古車輸出台数は、年別データと同じく308.8万台となっているが、このうち1台あたり100kg以下のものが217.4万台と全体の70%を占めることが分かった。

表1は「年・月・仕向地・統計品目番号」の組み合わせで台数の多い上位10組を示したものである。いずれも1台あたりの重量が100kgを下回っていることが分かる。最も台数の多い2011年12月のケニア向けの5トン超20トン以下の貨物車(統計品目番号:8704.22.99)は1台あたりの重量がわずか6kgである。

表中の品目は10組中7組が同じ統計品目番号(8704.22.99)であるが、他の品目もある。貨物車のみならず、乗用車もあり、特定はできない。時期的には2011年が多く、図1で2011年が不自然に多かった状況と関係しうる。

仕向地ではジンバブエ、ナミビアのほか、ケニア、タンザニア、ザンビアといったアフリカ諸国が多い。ただし、アイルランドのような欧州、タイのようなアジアの名前もあり、地域で特定できるものではない。

表 1 イギリスからの中古車輸出台数の多かった「年・月・仕向地・統計品目番号」の組

年月 仕向地 統計品目番号 重量(100kg) 台数 重量(100kg)/台
(1) 2011年12月 ケニア 8704.22.99 10,079 164,099 0.06
(2) 2014年12月 アイルランド 8704.22.99 5,655 83,295 0.07
(3) 2011年7月 ジンバブエ 8704.22.99 1,455 80,008 0.02
(4) 2011年6月 タイ 8703.24.90 1,483 58,075 0.03
(5) 2019年11月 ジンバブエ 8703.23.90 3,332 43,127 0.08
(6) 2011年1月 ナミビア 8704.22.99 2,627 40,024 0.07
(7) 2011年6月 ナミビア 8704.22.99 6,958 38,081 0.18
(8) 2011年4月 ジンバブエ 8704.22.99 1,945 38,017 0.05
(9) 2018年5月 タンザニア 8703.32.90 495 36,597 0.01
(10) 2011年4月 ザンビア 8704.22.99 7,180 33,079 0.22

出典:EUROSTATより筆者作成

 

一方、重量の多い順に見ると、いくつかの組み合わせで不自然な数値がある。最も多いのが2013年8月のジンバブエ向けの貨物車(ディーゼル車、20トン超)であり、30台の輸出に対して重量が87,270.4トンである。1台あたりの重量が3千トン近くの貨物車は想像しがたい。

ただし、表1とは異なり、1台あたりの重量が適正とも思える組み合わせも上位にある。そこで、1台あたりの重量を算出し、その大きい順に並べてみる(表2)。これを見ると、先の2013年8月のジンバブエ向けの数量が突出していることが分かる。

それに続くのが2016年7月のアルジェリア向けのバス(ディーゼル車、2500cc超)であるが、1台当たりの重量は238トンと上記の10分の1以下である。車種では貨物車が多いが、乗用車、バスもある。時期については2016年が多いが、これも特定できない。仕向地もアフリカのほか、アジア、欧州、中東と様々である。

表 2 イギリスからの中古車1台あたりの重量が多かった「年・月・仕向地・統計品目番号」の組

年月 仕向地 統計品目番号 重量(100kg) 台数 重量(100kg)/台
(1) 2013年8月 ジンバブエ 8704.23.99 872,704 30 29,090
(2) 2016年7月 アルジェリア 8702.10.19 2,380 1 2,380
(3) 2016年9月 スリランカ 8703.32.90 2,000 1 2,000
(4) 2016年1月 マラウィ 8702.90.39 1,750 1 1,750
(5) 2016年8月 アルジェリア 8702.10.19 1,530 1 1,530
(6) 2019年11月 ドイツ 8704.23.99 1,500 1 1,500
(7) 2016年7月 アイルランド 8704.21.39 38,019 26 1,462
(8) 2015年7月 エジプト 8704.22.99 2,300 2 1,150
(9) 2017年2月 イラク 8704.22.99 1,132 1 1,132
(10) 2015年2月 エジプト 8704.21.39 900 1 900

出典:EUROSTATより筆者作成

注:2010年から2019年の月別データベースから中古車に関する「年・月・仕向地・統計品目番号」の組み合わせのうち、1台あたりの重量の多い順から10組を選出した。

 

3.重量か台数か

上記のように1台当たりの重量を算出すると、現実的とは思えない数値が出てくる。よって、それを修正しないと、全体の市場規模を見誤る恐れがある。ではどのように修正するか。全体の中古車輸出台数を算出する際、重量が正しければ台数を下方修正する必要があるが、台数が正しければそのままの数値を使うことになる。そのため、重量が正しいのか、台数が正しいのかを議論しなければならない。

表1に含まれる「年・月・仕向地・統計品目番号」の組み合わせのうち、台数の多かった上位5組について、1台あたりの重量の推移を見てみたものが図2である。これを見ると、表1に含まれる数量は外れ値の可能性があることが分かる。また、表1に示された年月以外でも1台あたりの重量が小さいものがあることが分かる。

図 2 イギリスの輸出中古車における1台あたりの重量の推移(単位:100kg)

出典:EUROSTATより筆者作成

注:表1の上位5組((1)~(5))の推移である。統計品目番号は8704.22.99:貨物車(ディーゼル、5トン超20トン以下)、8703.24.90:乗用車(ガソリン、3000cc超)、8703.23.90:乗用車(ガソリン、1500cc超3000cc以下)である。

 

1台あたりの重量が通常よりも小さいことから、ある年月において統計上の台数の数値、重量の数値のいずれかまたは両方が正確ではないことが想定される。図3は図2と同じ「仕向地・統計品目番号」の組み合わせについて、台数の推移を見たものである。これを見ると、外れ値と思われるものが浮かび出てくる。

図 3 イギリスの中古車輸出台数の推移(単位:台)

出典:EUROSTATより筆者作成

注:表1の上位5組((1)~(5))の推移である。統計品目番号は8704.22.99:貨物車(ディーゼル、5トン超20トン以下)、8703.24.90:乗用車(ガソリン、3000cc超)、8703.23.90:乗用車(ガソリン、1500cc超3000cc以下)である。

表1にもあるとおり、(1)の2011年12月のケニア向けの貨物車(ディーゼル車、5トン超20トン以下、8704.22.99)は164,099台だが、他の年月を含めた中央値は38台である。仮に2011年12月の数量が中央値並みとすると、統計上の数値は16.4万台程度分が過剰に計上されていることになる。

他の組み合わせについて同じように最大値と中央値の差を出してみると、(2)アイルランド向けの5トン超20トン以下の貨物車(8704.22.99)は8.3万台、(3)ジンバブエ向けの5トン超20トン以下の貨物車(8704.22.99)は8万台、(4)タイ向けの3,000cc超のガソリン車(8703.24.90)は5.8万台、(5)ジンバブエ向けの1,500cc超3,000cc以下のガソリン車(8703.23.90)は4.3万台となる。これらが過剰に計上されているとすると、実際の規模は図1よりも小さくなる。

表2は1台あたりの重量が大きいものが並べられているが、ここでの組み合わせについて同じように1台あたりの重量の推移を見ると、やはり外れ値と思われるものが見えてくる。例えば、ジンバブエ向けの貨物車(ディーゼル車、20トン超)の1台当たりの重量について、2010年から2019年までの実績値の中央値は8.3トンである。

表2にあるように2013年8月の1台あたりの重量は3千トン程度であり、大きく異なっている。この品目について重量、台数、金額の推移を比較してみると、2013年8月は台数と金額に比べて重量のみが大きく変動していることが分かる。

表2の他の組み合わせについて、1台あたりの重量の推移を確認すると、スリランカ向けの乗用車(ディーゼル、1500cc超2500cc以下、8703.32.90)はやはり2016年9月のみが突出している。金額の推移と照らし合わせると、同じく重量より台数の方が金額に連動している。

ドイツ向けの貨物車(ディーゼル車、20トン超、8704.23.99)、アイルランド向けの貨物車(ディーゼル車、5トン以下、2500cc超、8704.21.39)も同様であり、他の年月と比べると表2の時点の1台あたりの重量は突出しており、また台数の方が金額と連動している。よって、この限りでは、1台あたりの重量が大きいものについて台数の方が比較的正しいということになる。

なお、表2のアルジェリア向けのバス(ディーゼル車、2500cc超、8702.10.19)、マラウィ向けのバス(ガソリン車、2800cc以下、8702.90.39)は他の年月を見ると、ほとんど実績がなく、推移を見ることができなかった。

 

4.中古車輸出台数の修正

先に示した通り、イギリスの2010年から2019年までの10年間の月別データを用いると、中古車輸出台数に外れ値と思われるものが多く含まれる。そこでは1台あたりの重量が小さいものについては重量より台数の数値が問題であることが推測される。一方で、1台あたりの重量が大きいものを見ると、台数より重量の方に問題があることが窺える。

本来であればこれら全てを細かく検証することが重要であるが、本稿では上記を全体の傾向と仮定し、中古車輸出台数の修正を進める。つまり、1台あたりの重量が小さいものについては台数の数値が過多であるとして修正作業を行う。また、1台あたりの重量が大きいものについては台数の数値に誤りがないとし、修正作業を行わないことにする。

表3は、2010年から2019年までの10年間の月別データから「年・月・仕向地・統計品目番号」の各組み合わせについて1台あたりの重量を算出し、その中央値を示したものである。そして、阿部(2021b)に倣い、1台あたりの100kg以下のものについて統計上の数値を中央値に改める。

表 3 中古車関連の品目の1台あたりの重量の中央値

車種 統計品目番号 重量(100kg)/台
バス ディーゼル車、2500cc超 8702.10.19 60.0
ディーゼル車、2500cc以下 8702.10.99 32.0
ガソリン車、2800cc超 8702.90.19 50.0
ガソリン車、2800cc以下 8702.90.39 25.0
乗用車 ガソリン車、1000cc以下 8703.21.90 16.0
ガソリン車、1000cc超1500cc以下 8703.22.90 16.5
ガソリン車、1500cc超3000cc以下 8703.23.90 18.0
ガソリン車、3000cc超 8703.24.90 18.7
ディーゼル車、1500cc以下 8703.31.90 15.0
ディーゼル車、1500cc超2500cc以下 8703.32.90 18.0
ディーゼル車、2500cc超 8703.33.90 20.0
ハイブリッド車(ガソリン) 8703.40.90 15.0
プラグインハイブリッド車(ガソリン) 8703.60.90 15.6
電気自動車 8703.80.90 15.0
貨物車 ディーゼル車(5トン以下)、2500cc超 8704.21.39 31.8
ディーゼル車(5トン以下)、2500cc以下 8704.21.99 23.4
ディーゼル車(5トン超20トン以下) 8704.22.99 80.0
ディーゼル車(20トン超) 8704.23.99 103.3
ガソリン車(5トン以下)、2800cc超 8704.31.39 25.0
ガソリン車(5トン以下)、2800cc以下 8704.31.99 30.0
ガソリン車(5トン超) 8704.32.99 71.7

出典:EUROSTATより筆者作成

注:各品目について2010年から2019年の各仕向地の月別データから1台あたりの重量を出し、その中央値を算出した。

図4は上記に基づいて数値を修正したものである。統計上の数量である図1では20万台前後で推移しており、10年間の合計は308.8万台であった。これに対して、図4では10万台前後で推移していることが分かる。つまり、年間10万台程度の数量が下方修正されている。10年間の合計では92.5万台であり、このうちバス、乗用車、貨物車は0.9万台(1%)、72.8万台(79%)、18.9万台(20%)となっている。

乗用車のみを見ると、ガソリン車が50.7万台(70%)、ディーゼル車が21.8万台(30%)である。ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車は2017年から3年分のみであり、台数はほとんどない。

図 4 イギリスからの中古車輸出台数の推移(推計値、単位:台)

図 4 イギリスからの中古車輸出台数の推移(推計値、単位:台)

出典:EUROSTATより筆者推計

注:1台あたり100kg以下となる台数を下方修正したもの

 

図5は、下方修正された数値において2010年から2019年の中古車輸出台数の合計を仕向地別に見たものである。これを見ると、アイルランドが最も多く、ナイジェリアがこれに続いている。それら以外では、アフリカ諸国の名前が多いが、マレーシアやアメリカ、トルコ、ニュージーランドなど地域は様々である。

また、アイルランドのほか、キプロス、ポーランド、リトアニア、マルタといったEU加盟国にも輸出されている。阿部(2021a)で示されたようにEU域内の貿易についてはその移動が報告されないことがある。

そのため、イギリスはEUから離脱したとはいえ、少なくとも加盟時点でのデータにおいて反映されないものがあり、その分、修正された数値は過少であることが予想される。

日本からの中古車の主要輸出先として、ニュージーランドとアラブ首長国連邦が挙げられるが、同期間の日本からの輸出台数はそれぞれ100万台、120万台である。図4ではともに1万台強であり、競合にはなっていないと言える。

また、日本からアイルランドも相応に輸出されていそうだが、実はさほど輸出されておらず、同期間で1.9万台程度でしかない。それよりもキプロス(6.9万台)、イギリス(6.1万台)、マルタ(4万台)向けの方が多い。

数量的に少ないが、イギリスのハイブリッド車等の中古電動車の仕向地は、キプロス、アイルランド、オランダ、リトアニア、マルタ、ポーランドなどEU加盟国向けがほとんどである。これが今後どうなるかである。

図 5 イギリスからの主要仕向地別中古車輸出台数(推計値、2010年~2019年の合計、単位:台)

出典:EUROSTATより筆者推計

注:1台あたり100kg以下となる台数を下方修正したもの。

一方、アフリカについては、図5よりナイジェリア、ケニア、ナミビア、ジンバブエ、タンザニア、ザンビア、ガーナ、カメルーン、コンゴ民主共和国の名前が挙がっている。ナイジェリアは右側通行(左ハンドル車)国とされるが、同国向けが最も多いというのは意外である。

ケニアからザンビアまでは左側通行(右ハンドル)国であり、日本と同じ仕向地である。それらに続くガーナ、カメルーン、コンゴ民主共和国が右側通行(左ハンドル車)国である。

アフリカ向けの中古車輸出台数(推計値)は、同期間の合計で40.7万台であり、イギリスの中古車輸出台数の44%を占めている。日本からアフリカへは同期間で260万台輸出されており、イギリスはその6分の1程度の規模である。

阿部(2020b)では、乗用車に限定してアフリカ向けの中古車輸出台数を比較した。また、阿部(2021c)により韓国からアフリカ向けの中古乗用車輸出台数が示されている。それらを見ると、2009年から2018年の合計においてアフリカ向けの中古乗用車輸出台数は、ベルギー、日本、アメリカ、ドイツ、韓国の順で多い(ただし、アメリカは品目が少ない点で過少といえる)。韓国は82.5万台であり、それに続くのがオランダの19.6万台である。

これに対して、今回、2010年から2019年のイギリスからアフリカ向けの中古乗用車の輸出台数は推計値で30.9万台である。1年の期間のずれがあるものの、同程度と考えるとイギリスは韓国よりは少なく、オランダよりは多いという位置づけができる。

貿易統計の数値のままだと、2010年から2019年のアフリカ向けの中古乗用車輸出台数は合計で84.1万台であり、韓国と同程度である。推計値の精度の問題もあるが、統計上の数値のまま議論すると、市場規模を過大に見てしまう恐れはある。

 

5.まとめと課題

本稿では、かねてより問題点が指摘されていたイギリスからの中古車輸出台数について貿易統計により整理を行った。統計上は年間20万台前後であるが、推計値では10万台前後である。ただし、EU域内の貿易は過少報告されている可能性があり、EU域内向けの貿易についてはそれを考慮した議論が必要である。

阿部(2020a)や阿部(2021b)でも見たが、イギリスからの数量には1台あたりの重量を算出すると100kg以下になるものが多数含まれている。今回、月別データを用いて見た限りでは全体の70%が1台あたり100kg以下のものであった。

そして、本稿では粗削りではあるが、100kg以下のものについては外れ値とし、その品目の1台あたりの重量の中央値に代えて、台数を推計した。

本来であれば、外れ値はより厳密に検出し、修正することが望まれる。100kg以下の自動車は現実的ではないと考えられるが、200kg以下のものも似たような判断はできる。例えば、図4において2019年のバスの数量が比較的多いが、下方修正されたとはいえ、この数値も怪しい。

この中身をよく見ると、ドイツからの輸出において1台あたりの重量が100kg超200kg以下のものが多くある。今回は十分な根拠もなく、一律100kgを基準としたが、阿部(2020a)で検討した四分位範囲を用いるなどして外れ値を検出すれば、より正確に状況を捉えることができるだろう。

上記のような課題を残すものの、統計上の数値で全体の台数の70%を占めていた数値を修正した点は大きい。その結果、アフリカ向けの数量では、やはり韓国とオランダの中間に位置することは確認できた。

また、イギリスは日本と同様に左側通行の国向けの輸出が多いが、そのような中でナイジェリア向けが多いのは意外だった。ナイジェリア向けを細かく見ると、1台あたり100kg超で500kg以下のものが2.5万台、500kg超1トン以下が0.9万台あるが、それを仮に下方修正したとしてもアフリカ向けで最も多いと考えられる。

気になるのが、アイルランドである。同国も左側通行の国であり、イギリスとの距離関係もあり、イギリスから同国に多く輸出されるのは十分に想定される。ただし、そこで終わりとは限らない。

その後、アフリカ諸国などにどれだけ輸出されているかである。少なくともイギリスがEU加盟国であった際は、加盟国内の移動という扱いとなり、十分に貿易統計上に反映されていない恐れはある。この点は関心に置いておきたい。

 

 

※本研究は高橋産業経済研究財団令和3年度研究助成の成果の一部である。

 

参考文献

  • 阿部新(2020a)「EUROSTAT統計の問題:アフリカ向け中古車輸出台数の集計を事例に」『速報自動車リサイクル』(98),52-62
  • 阿部新(2020b)「アフリカ向け中古乗用車輸出市場の比較考察」『速報自動車リサイクル』(98),64-74
  • 阿部新(2021a)「統計に表れない数量をどのように示すか:ドイツの中古車輸出台数等の算出方法」『速報自動車リサイクル』(100),60-71
  • 阿部新(2021b)「中東向け中古車・中古エンジン貿易量に関する日欧比較」https://www.seibikai.co.jp/archives/recycle/9796

阿部新(2021c)「韓国の中古車輸出市場の位置づけ」,https://www.seibikai.co.jp/archives/recycle/9859

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