山口大学国際総合科学部 教授 阿部新
1.はじめに
中古車が国境を越えて移動している。新興国・途上国の経済発展やサーキュラーエコノミーなどの影響でその構造が変わるかどうかが注目されるが、それ以前に現在の世界の中古車貿易の全体像は十分に掴めていない。
筆者はかつてアフリカ向けの中古車輸出台数を見た(阿部,2020)。そこでは、日本、アメリカ、EU27か国からアフリカ向けの中古車(乗用車)貿易量を整理し、比較した。具体的には、2009年から2018年の合計でベルギーからの輸出台数が最も多く、それに日本、アメリカ、ドイツ、オランダが続いていることが示された。
阿部(2020)では韓国は対象外であったが、阿部(2017)のデータなどを用いて同期間の韓国のアフリカ向け中古乗用車輸出台数は83万台程度であると言及している。そして、ドイツよりも少なく、オランダよりも多い規模であるとしている。
韓国の中古車貿易については、阿部(2017)によりまとめられている。そこでは、韓国の2007年から2016年の貿易統計データを用いて中古車(乗用車)の輸出台数を示している。そして、ヨルダンとリビア向けが飛び抜けて多いこと、年間では15万台から20万台程度であることなどが示されている。
また、阿部(2021)では中東向けの中古車輸出台数について日本とEU28か国の数量を算出、比較した。そこではEUの貿易統計において外れ値が含まれる可能性を指摘し、2010年~2019年の中東向け中古車輸出台数の推計値を38万台とし、EUは中東において日本の3分の1程度の規模であるとした。上記の通り、韓国からヨルダンに多くの中古車が輸出されているが、阿部(2021)ではこれについて言及していない。
周知の通り、韓国は右側通行で左ハンドル車が使用される。そのため、中古車の輸出先も日本とは異なることが予想されるが、阿部(2017)ではその仕向地を丁寧に見ていない。また、阿部(2017)での対象は乗用車のみであり、バスや貨物車の数量や仕向地は不明である。
このような背景の下、本稿では、韓国の貿易統計から中古車輸出台数を算出し、適宜日本と比較することで同国の中古車輸出市場の規模を捉える。また、リビア、ヨルダンを軸としたアフリカ、中東の構造を確認する。さらに、東・東南アジアについても日本との棲み分けがあるかを確認しておく。
2.対象範囲
まず、対象範囲を提示しておく。これまでも示した通り、貿易統計では6桁のHSコードとして世界共通の品目を大まかに設定し、さらに細かい品目区分について、各国が事情に合わせて統計細分を追加設定している。自動車は、HSコードでは排気量やエンジンの種類などで大まかに区分され、中古車の区分は各国が統計細分を追加することで設定されている。
表1は世界共通の品目(HSコード)ついて、中古の区分の有無を示している。日本と比較すると、韓国もほとんどの品目で中古の区分があることが分かる。統計を見ると、2007年以降に中古車のデータが示されることから、2007年に中古の区分が設定されたことが予想できる。また、ハイブリッド車や電気自動車は、2017年にHSコードが設定されたことから、データは2017年以降になる。
表 1 韓国貿易統計における自動車の中古区分の有無
車種 | 中古区分の有無 | HSコード | ||||
日本 | 韓国 | |||||
バス | ディーゼルエンジンのみ | ○ | ○ | 8702.10 | ||
ハイブリッド車(ディーゼル) | ○ | ○ | 8702.20 | |||
ハイブリッド車(ガソリン) | ○ | ○ | 8702.30 | |||
電気自動車 | ○ | ○ | 8702.40 | |||
その他 | ○ | ○ | 8702.90 | |||
乗用車 | 雪上車、ゴルフカー | × | × | 8703.10 | ||
ガソリンエンジン | 1000cc以下 | ○ | ○ | 8703.21 | ||
1000cc超1500cc以下 | ○ | ○ | 8703.22 | |||
1500cc超3000cc以下 | ○ | ○ | 8703.23 | |||
3000cc超 | ○ | ○ | 8703.24 | |||
ディーゼルエンジン | 1500cc以下 | ○ | ○ | 8703.31 | ||
1500cc超2500cc以下 | ○ | ○ | 8703.32 | |||
2500cc超 | ○ | ○ | 8703.33 | |||
ハイブリッド車(ガソリン) | ○ | ○ | 8703.40 | |||
ハイブリッド車(ディーゼル) | ○ | ○ | 8703.50 | |||
プラグインハイブリッド車(ガソリン) | ○ | ○ | 8703.60 | |||
プラグインハイブリッド車(ディーゼル) | ○ | ○ | 8703.70 | |||
電気自動車 | ○ | ○ | 8703.80 | |||
その他 | 〇 | × | 8703.90 | |||
トラック | ダンプカー | 〇 | × | 8704.10 | ||
ディーゼルエンジン | 5トン以下 | ○ | ○ | 8704.21 | ||
5トン超20トン以下 | ○ | ○ | 8704.22 | |||
20トン超 | ○ | ○ | 8704.23 | |||
ガソリンエンジン | 5トン以下 | ○ | ○ | 8704.31 | ||
5トン超 | ○ | ○ | 8704.32 | |||
その他 | ○ | ○ | 8704.90 |
出典:World Tariffより作成(2021年3月時点)
注:「ハイブリッド車(ガソリン)」はガソリンエンジンと電気のハイブリッドであることを示す。「ハイブリッド車(ディーゼル)」も同様である。
これらを踏まえ、韓国の中古車輸出台数を集計する。本稿において集計する貿易統計上の統計品目番号は表2にまとめられる。
表 2 韓国の中古車の統計品目番号一覧
バス | ディーゼルエンジンのみ | 8702101020, 8702102020, 8702103020 | |
ハイブリッド車(ディーゼル) | 8702202000 | ||
ハイブリッド車(ガソリン) | 8702302000 | ||
電気自動車 | 8702402000 | ||
その他 | 8702901020, 8702902020, 8702903020 | ||
乗用車 | ガソリンエンジン | 1000cc以下 | 8703218000 |
1000cc超1500cc以下 | 8703228000 | ||
1500cc超3000cc以下 | 8703231020, 8703239020 | ||
3000cc超 | 8703241020, 8703249020 | ||
ディーゼルエンジン | 1500cc以下 | 8703318000 | |
1500cc超2500cc以下 | 8703321020, 8703329020 | ||
2500cc超 | 8703338000 | ||
ハイブリッド車(ガソリン) | 8703402000 | ||
ハイブリッド車(ディーゼル) | 8703502000 | ||
プラグインハイブリッド車(ガソリン) | 8703602000 | ||
プラグインハイブリッド車(ディーゼル) | 8703702000 | ||
電気自動車 | 8703802000 | ||
貨物車 | ディーゼルエンジン | 5トン以下 | 8704211020 |
5トン超20トン以下 | 8704221012, 8704221092 | ||
20トン超 | 8704231020 | ||
ガソリンエンジン | 5トン以下 | 8704311020 | |
5トン超 | 8704321020 | ||
その他 | 8704901020 |
出典:World Tariff(2021年3月時点)
注:「ハイブリッド車(ガソリン)」はガソリンエンジンと電気のハイブリッドであることを示す。「ハイブリッド車(ディーゼル)」も同様である。
3.韓国の中古車輸出市場の全体像
表2に基づいて数量を集計する。まず、中古車輸出台数の全体の推移を示したものが図1である。グラフの左側を韓国、右側を日本としている。これを見ると、韓国は年間20万台から50万台の間で推移しており、100万台を超えている日本と比べると(少なくとも統計上は)韓国の市場規模は小さい。2011年から2020年の10年間で日本からは1,173万台の中古車が輸出されたが、韓国は315万台であり、日本の3分の1以下の規模である。
図 1 韓国と日本の中古車輸出台数の推移(単位:台)
出典:Korea Customs and Trade Development Institution (Global Trade Atlas)、日本財務省貿易統計より集計
また、数量の変動について、韓国では2012年と2019年が変動の山となっており、2015年が谷となっている。これに対して、日本の場合、2009年に極端に減少し、それ以降は徐々に回復し、近年では120万台~130万台となっている。
韓国で減少した2015年は確かに日本でも減少したが、日本は2016年の方が少ない。中古車輸出は、為替レートや仕向地の状況に左右されることがあり、変動パターンの違いはそのような要因が考えられる。
車種別に見ると、韓国は全体におけるバスの割合が高いことが特徴としてある。直近の2018年から2020年までは、3%~5%だが、他の年は7%~8%である。これに対して日本は1%でしかない。数量的にも2011年から2020年の10年間で韓国は19万台の中古バスが輸出されたが、日本は11万台程度である。また、貨物車については、数量的には日本の方が多いが、全体の割合における貨物車の割合は韓国の方が高い。
前節で示した通り、2017年よりハイブリッド車等の電動車の統計品目番号が設定されたため、この年からそれらの輸出台数を示すことができる。図2は2017年から2020年の4年間の中古乗用車輸出台数の合計について、排気量別、エンジン種別等で区分し、その割合を見たものである。
図 2 韓国と日本の中古車輸出台数の車種別割合(単位:%)
出典:Korea Customs and Trade Development Institution (Global Trade Atlas)、日本財務省貿易統計より算出
これを見ると、韓国では、1500cc超2000cc以下のガソリンエンジン車の割合が44%と最も高いが、日本は1000cc超1500cc以下のガソリンエンジン車の割合が最も高く(37%)、構成が異なっている。また、韓国は1500cc超2000cc以下のディーゼルエンジン車も14%を占めているが、日本でのその割合は0.1%である。さらに、電動車については、日本が15%を占めているのに対して、韓国は0.1%である。
韓国からの電動車の中古車輸出については、年々増加しており、2020年は対前年比が263%である。ただし、それでも2020年の数量は千台も満たない。日本の2020年の実績は15万台弱であるため、韓国は日本の1%にもならない。
このうち、電気自動車が3分の2程度であり、ハイブリッド車が圧倒的に多い日本とは事情が異なる。実績が少ないため、傾向は現時点では定まらないが、今後順当に輸出が増加するか、電気自動車が主流なのかは関心を持っておきたい。
4.韓国からの仕向地
図3は韓国の直近10年間(2011年~2020年)の中古車輸出台数の合計を主要仕向地(上位20か国)別に見たものである。また、各仕向地について、比較対象として日本の同期間の数量も示している。
図 3 韓国と日本の主要仕向地別中古車輸出台数(2011年~2020年の合計数)
出典:Korea Customs and Trade Development Institution (Global Trade Atlas)、日本財務省貿易統計より集計
注:バス、乗用車、貨物車の合計。主要仕向地は韓国の中古車輸出台数の2011年~2020年の合計数で上位20か国とした。
これを見ると、直近の韓国の主要仕向地は、リビアが突出しており、ヨルダンがそれに続いていることが分かる。この2か国が突出していることは冒頭でも示した通りだが、かつてはヨルダンの方がリビアを上回っており、大小関係が変わっている。阿部(2017)は2007年から2016年の10年間の乗用車の中古車輸出台数の合計である。図3において、乗用車のみで見ても、やはりリビアがヨルダンを大きく上回っている。
これに対して、日本からこの2か国への中古車輸出は、図3では見えないほど少ない。直近10年間(2011年~2020年)の中古車輸出台数(バス、乗用車、貨物車)の合計は、リビア向けが138台、ヨルダン向けが149台とわずかである。
韓国の主要仕向地において、日本の数量が上回っているのは、モンゴル、チリ、ロシア、キルギス、フィリピン、ミャンマーの6か国である。それら以外の14か国は韓国の方が多い。ガーナ、ドミニカ共和国向けは日本からも若干輸出されていることが図でも分かるが、他はほとんど実績がないと言っても良い。
東アジア、東南アジアにおいては、カンボジア、モンゴル、フィリピン、ベトナム、ミャンマーの名前がある。カンボジア、ベトナムは10年間の合計でそれぞれ15万台、4万台程度であるが、日本からはそれぞれ4千台、千台程度である。図3にはないが、ラオス向けも同様の傾向である。これらから、韓国と日本の中古車輸出市場は競合せず、棲み分けられていることが窺える。
図4は主要仕向地のうち、リビア、ヨルダン、イエメン、ロシア、キルギス向けの中古車輸出台数の推移を示している。これを見ると、2012年まではヨルダンがリビアを上回っていたことが分かる。
図 4 韓国の中古車輸出台数の推移(主な仕向地、単位:台)
出典:Korea Customs and Trade Development Institution (Global Trade Atlas)、日本財務省貿易統計より集計
リビアは2012年に急増し、しばらくはヨルダンとともに減少傾向にあったが、2017年から2019年まで3年連続で急激に増加し、ヨルダンとの差を拡大させた。2020年に大きく減少しているが、新型コロナウィルス感染症の影響も考えられるため、今後の観察が必要である。
ヨルダン向けは2012年まで増加傾向にあったが、2013年に急減し、その後も低迷している。直近は同じ中東のイエメンと変わらない水準であり、2020年はイエメンの方がヨルダンを上回っている。イエメンは2011年までは2千台前後であったが、その後1万台強となり、2020年は4万台近くにまでなり、リビアに次ぐ台数となっている。ロシア向けは近年は少ないが、過去は多かった。2007年から2011年の5年間の合計では、ヨルダン、リビアに次ぐ輸出台数である。2012年には4万台にもなっていたが、その後は低迷し、近年は千台程度である。
キルギス向けは2007年、2008年は2万台前後であり、リビアをも上回っていたが、2009年に急激に減少し、2015年から2017年は3千台レベルにまで減少した。2019年に1.5万台程度になったが、2020年は大きく減少している。いずれにしろ、国によって変動が激しく、そのパターンも様々であることが分かる。これは日本の中古車輸出市場でも同様である。
5.アフリカ
地域別に見ると、韓国の中古車輸出市場においてはアフリカが最大の仕向地となっている。直近10年間(2011年~2020年)の韓国のアフリカ向けの合計は127万台であり、全世界向けの合計(315万台)の40%を占める。
冒頭で言及したように、阿部(2020)においては、アフリカ向けの中古乗用車輸出台数の合計(2009年~2018年)で、輸出国としてベルギー、日本、アメリカ、ドイツの順に多く、韓国はドイツの次に位置することが言及された。
改めて、この10年間のアフリカ向け中古乗用車輸出台数を算出すると、阿部(2020)で言及された通り、この期間の合計は83万台であり、ドイツの次に位置することが確認された。
また、阿部(2020)では、図3においてアフリカ各国向けの輸出台数を示している。そこでは、ベナン、ナイジェリア、リビア、ケニアの順で多いこと、アメリカ、ドイツ、ベルギーが競合し、日本は他とは競合しないことなどが示された。
以下の図5は阿部(2020)の図3に韓国の数量を追加したものである。これを見ると、韓国の数量が目立っているのは、リビア、ガーナ、エジプトぐらいである。
図 5 アフリカ主要仕向地別の中古乗用車輸出台数(2009年~2018年の合計)
出典:日本財務省貿易統計、US Census Bureau、EUROSTAT 、Korea Customs and Trade Development Institution (Global Trade Atlas)より阿部新作成
注:各仕向地は主要輸出国の区分がされている。輸出国は日本、韓国、アメリカ、EU諸国(イギリスを除く27か国)の30か国である。
2009年から2018年の10年間の韓国からアフリカ向けの輸出台数83万台のうち、リビア向けが60万台であり、韓国のアフリカ向け中古乗用車輸出台数の73%を占めている。それにエジプト(8万台)、ガーナ(7万台)、スーダン(3万台)、マダガスカル(1万台)が続いている。
阿部(2020)ではリビアとケニアは同等であったが、図5にあるように韓国が加わることでリビアの数量が大幅に伸び、リビアとケニアの差が拡大している。この結果、リビアはナイジェリアと同等の規模となっている。また、リビアでは、韓国は最大の輸出元である。この国から周辺国に再輸出されているのか、リビア国内で使用されているのかは定かではないが、着目しておきたい。
周知の通り、韓国は右側通行で左ハンドル車が主流の国である。そのため、アメリカやベルギー、ドイツからの輸出と競合することが予想されたが、実際はそうなっていない。リビアのように特定の国に集中して輸出している。これを見ると、必ずしもハンドルにより自然に市場が生まれるわけではないことが分かる。
直近10年間(2011年~2020年)を見ると、韓国のアフリカ向けの中古乗用車輸出台数の合計は112万台になっており、図5の期間の83万台よりも増加している。日本やEU、アメリカがどのようになっているかは別途確認したい。
6.中東、東・東南アジア
アフリカ以外の地域として中東と東・東南アジアを確認しておく。まず、中東はヨルダンが含まれ、韓国からの仕向地として重要である。また、図3で見たように、最近はヨルダンは減少傾向であるが、代わりにイエメンが増加している。中東向けの直近10年間(2011年~2020年)の輸出台数の合計は70万台であり、全世界向けの22%を占める。
中東向けの70万台のうち、ヨルダンが45万台(64%)、イエメンが13万台(19%)となっており、この2か国で84%を占めている。それにオマーン(3万台)、シリア(2万台)、アラブ首長国連邦が続いている。
阿部(2021)では、イギリスを含むEU28か国から中東向けの中古車輸出台数を推計した。そこでは2010年から2019年の10年間の合計(バス、乗用車、貨物車)を38万台としている。同期間の韓国からの輸出の合計は68万台であるため、韓国はEU28か国を大きく上回っている。また、阿部(2021)で示したように日本からは同期間で122万台であり、日本と韓国が中東向けでは主流であることが分かる。
同じ期間で仕向地別に輸出台数で見ると、韓国のヨルダン、イエメン向けの輸出はそれぞれ50万台程度、10万台程度であり、EU28か国からの輸出(ヨルダン:6万台程度、イエメン:千台程度)を圧倒している。
一方で、イスラエル、レバノン向けは、EUからはともに9万台程度であるのに対し、韓国からは8千台、2千台程度である。アラブ首長国連邦向けは、EUからは5万台程度、韓国からは3万台程度であるのに対して、日本からは120万台である。
これを見ると、各輸入地で日本、韓国、EUの棲み分けがなされている。とりわけ日本からの中古車の輸入拠点としてのアラブ首長国連邦、韓国からの輸入拠点としてのヨルダンの規模の大きさが見えてくる。これにアメリカからの輸入がどこまでの数量になるかである。
最後に、韓国から東・東南アジア諸国についてだが、先に言及したようにカンボジア、ベトナム、ラオスの輸出があることが日本と比べた韓国の特徴としてある。図6は韓国からこの3か国向けの中古車輸出台数を示している。
図 6 韓国の中古車輸出台数の推移(カンボジア、ベトナム、ラオス、単位:台)
出典:Korea Customs and Trade Development Institution (Global Trade Atlas)より集計
これを見ると分かるように、カンボジアは増加傾向にあると言えるが、2020年に大幅に減少している。新型コロナウィルス感染症の影響と考えられるが、今後その市場がどうなるかである。
カンボジアとは異なり、ベトナムやラオス向けは感染症が広まる以前に市場が縮小してきている。特にラオスは2013年から年間で数百台レベルであり、日本と同水準である。市場を縮小する何らかの規制があったかどうかである。
また、図6を見ても分かるが、貨物車が多いのも日本と比べた韓国の特徴であると言える。カンボジアはほとんどの年で貨物車の割合が50%を超えている。2011年から2020年の合計では57%が貨物車である。このうち多いのは5トン以下の貨物車である。
ベトナムも同様に貨物車の割合が比較的高いが、全体の数量の減少とともに貨物車の割合も10%未満と低くなっている。なお、カンボジアはバスの割合も高く、直近10年間の合計でバスの割合は22%であり、乗用車(21%)よりも高い。
図2において東・東南アジア諸国では、上記3か国以外にモンゴル、フィリピン、ミャンマーの名前が挙げられていた。これらの国も貨物車の割合が比較的高い。同じく2011年から2020年の合計では、それぞれ貨物車の割合は59%、61%、45%である。
日本ではモンゴル向けは同じ期間で93%が乗用車であり、貨物車は7%である。ミャンマー向けは乗用車が63%で貨物車が36%である。これに対してフィリピンはよく知られているように貨物車がほとんどであり、その割合は94%である。いずれにしろ、日本と韓国とでは事情が異なり、ここでも競合せず、市場の棲み分けがなされていることが窺える。
7.まとめと課題
グローバルに中古車が流通する中で、その全体像を把握する必要がある。韓国も重要な輸出国の1つだが、今回の限りでは韓国の中古車輸出台数は年間で20万台から50万台であり、日本の3分の1以下の規模であることが示された。
また、アフリカ向けの中古車輸出台数について、今回、阿部(2020)の成果に韓国からの輸出台数を加えたが、韓国からアフリカの輸出はリビアに集中しており、EUやアメリカと同様の国に満遍なく輸出されているわけではないことが分かった。その結果、リビアがナイジェリアに近い水準の中古車の輸入国であることも分かった。
アフリカについては、阿部(2020)で示されたようにベナン向けが減少しており、その後どうなったかは気になるところである。阿部(2020)では外れ値が懸念されるため、イギリスを含めなかったが、阿部(2021)の推計方法を用いるなどでいずれはイギリスを含めた全体像を示す必要がある。
同様に本稿では中東向けの輸出についても検討した。中東では日本、韓国が主な輸出国となっており、EUは(少なくとも統計上は)輸出国としての重要度は低いことも分かった。また、アフリカの事情と同じく、同じ左ハンドル車であってもEUとは市場が棲み分けられていることも窺えた。アメリカから中東向けの数量を確認できていないが、それを踏まえて改めて中東を整理する必要がある。
さらに、韓国はバス、貨物車の割合が日本よりも高いことが分かったことも本稿の成果である。特に東・東南アジア諸国は、日本と韓国では全く構成が異なる。仕向地のみならず、車種においても日本と韓国では事情が異なり、棲み分けられていると言える。今回はその実態を確認することができたが、それをより丁寧に整理する必要もある。
脱ガソリン車の動きが加速する中、今後も中古車が先進国から新興国・途上国に移動することは十分に予想される。輸入国の規制がない限り、中古車貿易の構造は現在と変わらない可能性はある。今後も脱ガソリン車の動きとともに、グローバルな中古車流通について全体像を捉える必要がある。
参考文献
- 阿部新(2017)『諸外国における中古車貿易統計』http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~a_abe/report03.pdf
- 阿部新(2020)「アフリカ向け中古乗用車輸出市場の比較考察」『速報自動車リサイクル』(98),64-74
阿部新(2021)「中東向け中古車・中古エンジン貿易量に関する日欧比較」https://www.seibikai.co.jp/archiv