第118回:中東向け中古車・中古エンジン貿易量に関する日欧比較

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

1.はじめに

筆者はかつてアフリカ向けの中古乗用車の輸出について、日本、EU(イギリスを除く27か国)、アメリカの数量を算出した(阿部,2020a)。そこでは過去10年間ではベルギーからの輸出が最も多く、日本、アメリカ、ドイツがそれに続いていることが示された。

また、ベナン、ナイジェリアなどの左ハンドル車が主流の国ではEU各国、アメリカからの輸出がほとんどであり、日本はハンドルの関係もあり、EU各国やアメリカとは競合しないことが示された。

一方、筆者は、阿部(2020b)においてEUの中古エンジンの貿易量を示した。多くの国で中古エンジンの貿易量を集計することはできないが、EUでは中古ガソリンエンジンの貿易量を集計することができる。

阿部(2020b)が集計した数量に外れ値と思われるものがあったが、中古エンジンの仕向地はナイジェリア、カザフスタン、ベラルーシ、ロシア、イラクなどのEU周辺の多方面の地域に輸出されていることが分かった。ただし、中古車の仕向地とはやや異なっており、その貿易構造の違いが垣間見られた。

このうち、イラクを含む中東は、日本の中古車、中古部品市場にとって重要な地域の1つである。アラブ首長国連邦は、日本の中古車の最大の輸出先の1つであり、同国を経由して周辺国に再輸出される。

中古部品においても同国はマレーシアと並ぶ重要な拠点である。EUからの輸出と競合するのか、あるいはアフリカのようにすみ分けられているのかだが、それは明らかにされていない。

本稿では、中東に焦点を当て、EUの中古車と中古エンジンの輸出台数を算出し、日本との比較をするEUの数量には外れ値を含む可能性があり、それを考慮して数量を推計する。なお、EUはイギリスを含む28か国とする。

 

2.対象範囲の設定

まず、中東の範囲を示しておく。日本の財務省貿易統計では、以下の14か国・地域を中東としている。本稿ではこの範囲で中東の数量を算出することとする。

表 1 本稿における中東の範囲

イラン、イラク、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、カタール、オマーン、イスラエル、ヨルダン、シリア、レバノン、

アラブ首長国連邦、イエメン、ヨルダン川西岸及びガザ

出典:財務省貿易統計「外国貿易等に関する統計基本通達 別紙第1 統計国名符号表」

 

次に、対象品目を確認する。表2はEUと日本の貿易統計において中古の品目が設定されているか否かを示している。品目が設定されていれば、中古の数量を区分して集計することができるということである。

車両用のエンジンにおいて、EUでは中古の区分が可能だが、日本ではできない。また、EUも1,000cc超のガソリンエンジンのみであり、ディーゼルエンジンは中古を区分できない。

自動車においては、日本の方が中古の品目が多く設定されている。ただし、EUで中古の設定がされていない品目は、日本においても輸出台数は多くない。そのため、それらの品目で中古の設定がないことで全体の数量に影響することはないと考えられる。

 

表 2 EUの貿易統計における中古の品目区分の有無

品目 HSコード 中古区分
EU 日本
エンジン ガソリンエンジン(車両用、250cc超1,000cc以下) 8407.33 × ×
ガソリンエンジン(車両用、1,000cc超) 8407.34 ×
ディーゼルエンジン(車両用) 8408.20 × ×
バス ディーゼル車 8702.10
ハイブリッド車(ディーゼル) 8702.20 ×
ハイブリッド車(ガソリン) 8702.30 ×
電気自動車 8702.40 ×
ガソリン車 8702.90
乗用車 雪上車、ゴルフカーなど 8703.10 × ×
ガソリン車(1000cc以下) 8703.21
ガソリン車(1000cc超1500cc以下) 8703.22
ガソリン車(1500cc超3000cc以下) 8703.23
ガソリン車(3000cc超) 8703.24
ディーゼル車(1500cc以下) 8703.31
ディーゼル車(1500cc超2500cc以下) 8703.32
ディーゼル車(2500cc超) 8703.33
ハイブリッド車(ガソリン) 8703.40
ハイブリッド車(ディーゼル) 8703.50 ×
プラグインハイブリッド車(ガソリン) 8703.60
プラグインハイブリッド車(ディーゼル) 8703.70 ×
電気自動車 8703.80
その他 8703.90 ×
貨物車 ダンプカー 8704.10 ×
ディーゼル車(5トン以下) 8704.21
ディーゼル車(5トン超20トン以下) 8704.22
ディーゼル車(20トン超) 8704.23
ガソリン車(5トン以下) 8704.31
ガソリン車(5トン超) 8704.32
その他 8704.90 ×

出典:World Tariffより筆者作成

 

3.日本の中古車輸出台数

上記の対象国・地域および品目において、まず、日本からの輸出台数を見てみる。図1にあるように、中東向けの輸出は2011年が最も少なく、8.3万台である。その後増加し、2017年、2018年は減少傾向となったが、2019年は最も多い17.2万台になっている。

この結果、2010年~2019年の合計は122万台になっている。全世界の仕向地の合計のうち、中東は9%~13%(2010年~2019年の合計では11%)を占める。

車種別に見ると、2010年代前半は貨物車の割合が30%を超えていたが、2014年以降は20%台となり、2019年は16%にもなっている(2010年~2019年の合計では25%)。全世界の仕向地の合計では、過去10年では15%~19%(2010年~2019年の合計では17%)が貨物車であるから、中東向けの車両は比較的貨物車の割合が高い、または高かったと言える。

乗用車の割合が増加したこともあり、ガソリン車の割合も増加している。2011年は62%だったが、2019年は85%にもなっている。全世界の仕向地の合計では、ガソリン車の割合は80%台だが、2019年は77%である。中東向けは比較的ガソリン車の割合が高くなっていると言える。

図 1 日本から中東への中古車輸出台数の推移

出典:財務省貿易統計より筆者作成

仕向地についてはアラブ首長国連邦が多いことは十分に予想できる。図2は2010年から2019年の10年間分の中古車輸出台数を中東各国別に示したものである。これを見ると、筆者の想定以上にアラブ首長国連邦向けに集中していることが分かった。97.8%がアラブ首長国連邦であり、他は1.5%がイラン、0.6%がレバノンである。

図 2 日本から中東各国への中古車輸出台数(2010年~2019年の合計)

出典:財務省貿易統計より筆者作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計

4.EUの中古車輸出台数は正確か

次にEUを見てみる。先に示した通り、ここではイギリスを含む28か国とする。EUの貿易統計は外れ値を含む可能性があり、注意する必要がある(阿部,2019)。表3は貿易統計の「年・輸出国・仕向地・統計品目番号」の組み合わせで、1台あたりの重量が100kg以下のものについて、台数の多い順(1,000台以上のもの)に並べたものである。

最も多いのが2012年にイギリスからアラブ首長国連邦に輸出された1,000cc以下のガソリン車であり、1台あたりの重量は2kgである。他の組み合わせを見ても、自動車の重量とは思えない数値となっている。このようなケースは圧倒的にイギリスからのものが多いが、デンマークやイタリア、スウェーデンのようにイギリス以外からの輸出も含まれている。

 

1台あたりの重量が100kg以下の「年・輸出国・仕向地・統計品目番号」の組み合わせは、全部で49件ある。このうち、イギリスからのものが33件であり、それにスウェーデンの3件が続いている。あとの国は1~2件である。イギリスからの33件のうち、アラブ首長国連邦向けが11件、イスラエル向けが10件である。これらの組み合わせは注意を要すると言える。

表 3 1台あたり100kg以下の中古車輸出の主なケース

輸出国 仕向地 統計品目番号 重量

(100kg)

台数 重量/台

(100kg)

2012 イギリス アラブ首長国連邦 8703.21.90 1,252 71,614 0.02
2018 デンマーク ヨルダン 8704.22.99 5,441 40,262 0.14
2019 イギリス アラブ首長国連邦 8703.23.90 3,623 18,595 0.19
2016 イギリス アラブ首長国連邦 8703.23.90 2,454 14,489 0.17
2011 イギリス アラブ首長国連邦 8703.24.90 2,135 12,592 0.17
2018 イギリス カタール 8703.23.90 571 12,012 0.05
2017 イギリス イスラエル 8703.22.90 275 5,497 0.05
2015 イギリス カタール 8704.21.39 25 5,000 0.01
2013 イギリス ヨルダン 8703.24.90 1,786 3,861 0.46
2016 イギリス レバノン 8703.24.90 232 3,260 0.07
2016 イギリス アラブ首長国連邦 8703.21.90 175 3,007 0.06
2013 イギリス レバノン 8703.24.90 1,702 2,629 0.65
2018 イギリス アラブ首長国連邦 8703.24.90 889 2,535 0.35
2016 イタリア バーレーン 8703.21.90 360 1,615 0.22
2014 スウェーデン アラブ首長国連邦 8702.10.19 470 1,335 0.35

出典:EUROSTATより筆者作成

 

この1台あたり100kg以下の自動車について、同じ品目では通常どの程度の重量なのかを見てみる。表4は、「年・輸出国・仕向地・統計品目番号」の全ての組み合わせにおいて、1台あたりの重量を算出し、その中央値を出したものである。

これを見ると最も小さいのが、1,000cc以下のガソリンエンジン乗用車(統計品目番号:8703.21.90)で970kgであることが分かる。そうなると、やはり100kg以下というのは現実的ではないようにも思える。

なお、台数ではなく、重量に誤りがあることで100kg以下になっているのではないか、という見方もできる。そこで、表3にあるような「年・輸出国・仕向地・統計品目番号」の組み合わせの前後の年と比べて見ると、重量、金額は大きく変わらない一方で、台数がやはり大きく変わっていることが分かる。金額は単価にもよるため、慎重に議論すべきだが、以下では重量ではなく、台数に誤りの可能性があるとして進めていく。

表 4 各品目の1台あたりの重量の中央値(単位:100kg)

統計品目番号 重量/台

(100kg)

統計品目番号 重量/台

(100kg)

統計品目番号 重量/台

(100kg)

8702.10.19 134.8 8703.24.90 19.4 8704.21.39 30.4
8702.10.99 128.2 8703.31.90 12.9 8704.21.99 20.0
8702.90.19 99.3 8703.32.90 16.4 8704.22.99 85.0
8702.90.39 109.0 8703.33.90 21.0 8704.23.99 115.9
8703.21.90 9.7 8703.40.90 17.5 8704.31.39 22.4
8703.22.90 12.0 8703.60.90 19.0 8704.31.99 14.5
8703.23.90 15.0 8703.80.90 14.4 8704.32.99 87.0

出所:EUROSTATより作成

 

5.EUからの中古車輸出台数

先に示したような1台あたりの重量が100kg以下のものについて、表4の中央値に置き換えて、台数を推計してみる。そうすると、例えば2012年のイギリスからアラブ首長国連邦向けの1,000cc以下のガソリンエンジン乗用車(8703.21.90)は、輸出台数が71,614台から128台に大幅に減少する。

また、2018年のデンマークからヨルダン向けの5トン超20トン以下のディーゼルエンジン貨物車(8704.22.99)は、輸出台数が40,262台から64台に減少する。

図3は、貿易統計上の数値(左棒)と、上記のような作業により推計した台数(右棒)を示す。これを見ると、貿易統計上の数値は急激な変動がみられるが、推計値ではそのような動きが修正され、なだらかな変動になっている。その結果、4万台前後で推移しており、近年では減少傾向にある。

2010年~2019年の合計は、貿易統計上の数値が58万台であるのに対して、推計値は38万台である。推計値が実態に近いとすると、EUは日本の3分の1程度の規模であると言える。

図 3 EUから中東の中古車輸出台数の推移

出典:EUROSTATより作成

注:「推計値」は1台あたりの重量が100kg以下の台数を推計し、他と合計したもの

上記の「推計値」を用いて、日本と同じように車種別に見ていく。図4はそれを示しているが、これを見ると、貨物車が減少しており、乗用車の半分程度になっていることが観察される。図にはないが、貨物車の割合は50%程度であったものが、近年では30%前後になっている。

また、ガソリン車の割合は、日本では60%から80%にもなっていたが、EUはやはり日本より低く、40%から50%の間で推移していることが分かる。その分、ディーゼル車が多いということである。

図 4 EUから中東の中古車輸出推計台数(車種別)

出典:EUROSTATより作成

EUのどの国から輸出されているかについて、同じく「推計値」を用いて、2010年から2019年までの10年間の合計を示したものが、図5である。これを見ると、ドイツが16.9万台と最も多く、EU28か国の合計の44%を占める。

それにベルギー、スペイン、オランダが続いており、それぞれのシェアは13%、12%、10%となっている。ドイツは突出して多いが、122万台の日本の14%程度でしかない。如何に日本の規模が大きいかが分かる。

図 5 EUから中東への中古車輸出推計台数(2010年~2019年の合計、輸出国別)

出典:EUROSTATより作成

図6は、同じく「推計値」を用いて2010年~2019年の輸出台数の合計を仕向地別に見たものである。これを見ると、イスラエル、レバノン向けが多く、それぞれ全体の24%、23%となっている。この時点で日本と異なった事情であることが分かる。

それに続くのがヨルダン向けであり、全体の16%である。アラブ首長国連邦は日本からは120万台も輸出されていたが、EUからは5.3万台でしかなく、EU全体でも14%程度のシェアである。

また、図6では輸出国についてドイツとその他の国で分けている。これを見ると、仕向地によって輸出国が異なることが分かる。ドイツからはレバノンの輸出が多いが、イスラエルやアラブ首長国連邦へは多くないことが分かる。

図 6  EUから中東への中古車輸出推計台数(2010年~2019年の合計、仕向地別)

出典:EUROSTATより作成

6.中古ガソリンエンジンの輸出台数

エンジンに関しては第2節で示したように、EUにおいて1,000cc超のガソリンエンジンのみ集計できる。このHSコードは8407.34であり、車両用のエンジンである。航空機や船舶のエンジンは別途HSコードが設定されており、対象外である。

この中古ガソリンエンジンについてEUの貿易統計で集計していくと、1台あたりの重量にばらつきがある。最も重いのでは1台あたり470トンであり、360トン、230トン、200トンと続いている。

1台あたり10トン以上の「年・輸出国・仕向地」の組み合わせは98件あり、その輸出台数の合計は5千台になる。車両用のエンジンでそれほど重いものがあるのか定かではないが、数量的には全体に影響を与えるものとは言い難い。

一方、1台あたりの重量が30kg以下の「年・輸出国・仕向地」の組み合わせは13件ある。表5は、この組み合わせを輸出台数の多い順に示したものである。中古車の場合は、イギリスからの輸出が目立っていたが、中古ガソリンエンジンの場合は、イギリス以外の様々な国の名前が連なっている。

表5の台数の合計は37,238台になるが、2010年~2019年の合計は37.8万台であるため、その10分の1が30kg以下となる。また、10kg以下の数量もあまり変わらず、36,724台である。1,000cc超のガソリンエンジンの重量が10kgないし30kgを下回ることがあるかどうかである。慎重な議論が必要だが、金額を見てもやはり台数が過多な印象を受ける。

全ての中古ガソリンエンジンの「年・輸出国・仕向地」の組み合わせにおいて、1台あたりの重量の中央値を求めると、213kgである。表5では、1台あたりの重量を213kgに置き換え、輸出台数を算出している(第7列)。これを見ると、例えば2011年にスペインからシリアに輸出された数量は16,046台から425台に大幅に小さくなる。

表 5 1台あたり30kg以下の中古ガソリンエンジン輸出のケース

輸出国 仕向地 重量

(100kg)

台数 重量/台数

(100kg)

推計台数
2011 スペイン シリア 906 16,046 0.06 425
2011 イギリス カタール 86 10,815 0.01 40
2012 イギリス サウジアラビア 41 5,485 0.01 19
2016 チェコ ヨルダン 118 1,552 0.08 55
2017 イタリア ヨルダン 61 1,260 0.05 29
2018 イギリス ヨルダン 106 1,067 0.10 50
2016 スペイン アラブ首長国連邦 100 408 0.25 47
2014 デンマーク レバノン 30 397 0.08 14
2016 チェコ レバノン 1 100 0.01 0
2015 フランス サウジアラビア 20 73 0.27 9
2012 オランダ イラク 8 33 0.24 4
2011 チェコ サウジアラビア 0 1 0.00 0
2015 ベルギー ヨルダン 0 1 0.00 0

出典:EUROSTATより筆者作成

注:推計台数は重量/2.13により算出

 

図7は、EU28か国からの中古ガソリンエンジンの輸出台数の推移について、貿易統計上の数値と推計値を並べたものである。これを見ると、2011年の数量が貿易統計上の数値と推計値で大きく異なる。

これは表5にあるスペインからシリアへの輸出、イギリスからカタールへの輸出の影響がある。それ以外の年は大きな差はなく、3万台から4万台程度で推移している。その点では2011年の推計値はやや低いようにも思えるが、さらなる課題としたい。

2010年~2019年の合計では貿易統計上の数値は37.8万台、推計値では34.2万台である。前節で見たように、中古車の2010年~2019年の輸出台数の推計値は38.3万台である。このうち、ガソリン車は16.8万台であるから、中古ガソリンエンジンの輸出台数(推計値)は中古(ガソリン)車の輸出台数より多く、2倍程度と言うことができる。

図 7  EUから中東の中古ガソリンエンジン輸出台数の推移

出典:EUROSTATより作成

注:「推計値」は1台あたりの重量が30kg以下の台数を推計し、他と合計したもの

図8は上記の推計値について2010年~2019年の合計を算出し、輸出国別に示したものである。これを見ると、ドイツからの輸出が圧倒的に多く、全体の54.6%を占める。それにイギリス、ハンガリー、ポーランド、スウェーデンが続いており、それぞれ全体の9%、6%、6%、5%となっている。

ドイツが突出しているのは中古車と変わらないが、それに続く国が若干異なっている。中古車はドイツにベルギー、スペイン、オランダなどが続いていたが、中古ガソリンエンジンは中欧諸国の名前も上位に観察される。

図 8  EUから中東への中古ガソリンエンジン輸出推計台数(2010年~2019年の合計、輸出国別)

出典:EUROSTATより作成

同じく推計値を用いて、中古ガソリンエンジンの仕向地を示したものが図9である。これを見ると、イラク向けが多く、全体の28%を占める。これにアラブ首長国連邦、レバノン、ヨルダン向けが続いており、そのシェアは20%、20%、18%である。中古車の場合は、アラブ首長国連邦向けは少なかったが、中古ガソリンエンジンは相応に多いと言える。

ドイツからのものは、イラク、レバノン、ヨルダン向けが多く、それぞれのシェアは68%、74%、83%にもなる。ドイツからアラブ首長国連邦向けは少なく、同国向けの11%である。アラブ首長国連邦向けで多いのは、イギリス、ポーランドからの輸出であり、そのシェアは36%、21%である。その他としてはアイルランド、デンマーク、オランダが比較的多く、シェアは7%、5%、4%である。

中古車と中古ガソリンエンジンは、輸出国と同様に仕向地も若干異なる。中古車の主な仕向地はイスラエルやレバノンであり、イラクは主要な仕向地にはなっていない。この点は車とエンジンの需要の違いや規制の影響などもあるのだろう。

また、取引市場の立地が物品によって異なると言うこともできる。中東という地域内で物品が移動可能であれば、中古車の取引市場がある国と中古部品の取引市場がある国が異なることは十分に想定される。

図 9  EUから中東への中古ガソリンエンジン輸出推計台数(2010年~2019年の合計、仕向地別)

出典:EUROSTATより作成

7.まとめ

本稿では、EUから中東向けの中古車、中古ガソリンエンジンの輸出について、日本を比較対象としてその数量を示した。阿部(2019)で指摘された通り、EUの貿易統計には外れ値を含む可能性があり、本稿ではそれを考慮した値を示している。

それによると、EUの中古車輸出台数は、日本の3分の1程度であることが示された。仕向地については、日本からはアラブ首長国連邦向けがほぼ100%であるが、EUからはイスラエル、レバノンが多く、中古車輸出市場の構造が異なる。

中古エンジンについては、日本の貿易統計では示すことができないが、EUからはガソリンエンジンのみだが、示すことができる。それによると、EUから中東へは年間3万台~4万台程度(10年間の合計で34.2万台)の中古ガソリンエンジンの輸出がされており、中古(ガソリン)車の輸出の2倍程度の数量になっている。中古ディーゼルエンジンも中古(ディーゼル)車の2倍の数量であるとすると、年間3万台~5万台(10年間の合計で42.7万台)になる。

さらなる分析、議論が必要だが、単純に中古エンジンの輸出台数が中古車の2倍程度とすると、日本からの中古エンジンの数量はEUの比ではない。日本から中東の10年間の中古車輸出台数はガソリン車が94.1万台、ディーゼル車が27.6万台である。

そのため、単純計算で10年間で188万台、55万台の中古ガソリンエンジン、中古ディーゼルエンジンが中東に輸出されているということになる。もちろん、これは供給側(使用済自動車の発生台数)の要素もあるため、単純なものではない。

日本とEUの中古車輸出の仕向地の違いは、アフリカで見たようにハンドルの違いにより説明できる(阿部,2020a)。しかし、中東向けの中古車輸出は同じく日本とEUで仕向地の違いがあるものの、ハンドルの影響では説明できない。

中東における日本からの中古車輸出は、中継貿易拠点としてのアラブ首長国連邦に集中している。ハンドルは再輸出先の事情によるもので、アラブ首長国連邦に集中する説明にはならない。

もっとも、アラブ首長国連邦に集まる者(売り手と買い手)が、日本からの中古車あるいは右ハンドル車ばかりを求めた結果なのかもしれない。そうであれば、EUからの中古車あるいは左ハンドル車がアラブ首長国連邦に集まらないことが説明できる。

つまり、アラブ首長国連邦に右ハンドルに重点を置いた取引市場が成立し、結果としてEUと日本の仕向地の違いを生んでいるということである。取引市場は、自然発生する場合もあるが、政策的に作られる場合もある。

エンジンについては、同じく日本からはアラブ首長国連邦への輸出を多く耳にするが、中古車のようにアラブ首長国連邦に集中しているかどうかは定かではない。EUの状況から中古車と中古エンジンの仕向地は必ずしも一致しない。EUからはイラクが多いが、アラブ首長国連邦へも多く輸出されている。

アラブ首長国連邦の取引市場では、日本、EUからの中古エンジンが混在していることが予想される。EUと比べて日本の規模がどの程度か、日本からの中古エンジンがアラブ首長国連邦以外にどの程度輸出されているかによる。それらは聞き取りを交え、さらに議論すべきである。

 

※本研究はJSPS科学研究費補助金20K12299、高橋産業経済研究財団令和2年度研究助成の成果の一部である。

 

参考文献

  • 阿部新(2019)「EUROSTAT統計の問題:アフリカ向け中古車輸出台数の集計を事例に」『速報自動車リサイクル』(98),52-62
  • 阿部新(2020a)「アフリカ向け中古乗用車輸出市場の比較考察」『速報自動車リサイクル』(98),64-74
  • 阿部新(2020b)「EUの中古エンジン貿易:どこに行っているか」『速報自動車リサイクル』https://www.seibikai.co.jp/archives/recycle/9724
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