山口大学 国際総合科学部 教授 阿部新
1.はじめに
EU(欧州連合)では、2020年12月31日までに使用済み自動車に関する制度、いわゆるELV指令(Directive 2000/53/EC)の見直しの議論が進んでいる。コンサルタント会社TrinomicsがÖko-Institut、Ricardoとともに、ELV指令の見直しのための調査研究を進めており、2020年8月31日のその最終報告書が出されている(Williams et al., 2020)。
その最終報告書を見ると、第6章においてELV指令の目標の達成度やモニタリングの程度など様々な問題のほか、「『行方不明の使用済み自動車』(Missing ELVs)が」という項目がある。これについては、かねて指摘されていた問題であり、筆者も認識していたが(阿部,2008;2010)、近年、この議論が進んでおり、多くのレポートが出されていることが分かった。
日本では自動車リサイクル法の施行(2005年)により、使用済み自動車の発生量(移動報告件数)がデータとして分かるようになり、それにより「消えた100万台問題」が起きた。
前期末自動車保有台数+当期新規登録台数-当期末自動車保有台数により算出される抹消登録台数(「廃車台数」とも呼ばれる)の推計値は、使用済み自動車台数と中古車輸出台数の合計の近似値とされるが、法施行直後は実際の合計が一致せず、抹消登録台数の2割にあたる100万台程度の行方が分からなかった(阿部,2007)。
EUにおける「行方不明車」は、日本で起きた「消えた100万台問題」と同様のものと考えられる。本稿では、まず行方不明車の規模がどの程度かをデータとして捉える。次に、個別国の事例としてドイツの抹消登録台数の算出や中古車輸出台数の推計方法を見る。そして、ドイツが「行方不明車の行方」をどこまで把握しようとしているかを捉えることとする。
2.EUにおける行方不明車台数
EUの行方不明車問題については、これまでいくつかの調査研究で議論されていることが分かる。先に示したELV指令の見直しに関する最終報告書であるWilliams et al. (2020)を見ると、行方不明車問題に関わる先行研究としてSchneider et al. (2010)、Mehlhart et al. (2011)、Mehlhart et al. (2017)が挙げられており、様々な角度から議論されてきたことが分かる。
まず、Schneider et al. (2010)は、欧州議会から依頼された調査研究であり、制度的な側面からその将来的な方向性を論じたものとされている。また、Mehlhart et al. (2011)は、欧州委員会の気候変動対策総局から依頼された調査研究であり、欧州の中古車市場の分析という側面から論じたものとされている。
さらに、Mehlhart et al. (2017)は欧州委員会の環境総局から依頼された調査研究であり、「行方不明(unknown whereabouts)」の使用済み自動車に重点を置いてELV指令の運用を評価するためのものである。
このうち、Mehlhart et al. (2017)を見てみると、行方不明車は、抹消登録される自動車のうち、解体証明書(Certificate of Destruction, CoD)の未発行、未確認状態のもの、あるいは認定処理施設の処理や輸出を示す情報がないものを示すという。
つまり、行方不明車は、主として公式統計上にカウントされない使用済み自動車台数、中古車輸出台数である。そして、行方不明車がなぜ問題かについて、Mehlhart et al. (2017)は、それがもたらす環境問題のほか、使用済み自動車市場での公正な競争の歪みに言及している。
環境問題については非認定施設での処理を想定しているのだろう。非認定施設で必ずしも不適正処理をしているとは限らないが、不適正処理をする者は適正な手続きをするインセンティブが弱いと考えられる。その結果、公式な統計に載らない、すなわち行方不明になる可能性がある。
また、汚染を予防するための処理費用のみならず、解体証明書の発行などをしないことで、手続きにかかる諸費用を削減し、使用済み自動車市場において優位に立つことができる。それが公正な競争の歪みの意味である。日本で「悪貨が良貨を駆逐する」と呼ばれてきた構造である。
Mehlhart et al. (2017)では、2010年から2014年までの各年の自動車の登録から抹消までのフローを図で示し、抹消後の行方を示している。図1は、抹消登録台数(deregistration)の内訳を整理したものである。抹消登録台数の計算式は、日本で伝統的に行われてきたものと同様であり、前期末自動車保有台数+当期新規登録台数-当期末自動車保有台数である。
図 1 EU28か国における抹消登録台数とその内訳の推移
出典:Mehlhart et al. (2017)より作成
注:棒グラフの単位は「百万台」(左軸)、折れ線グラフの単位は「%」(右軸)。「行方不明の割合」は抹消登録台数における行方不明台数の割合を示す。使用済自動車、中古車輸出も同様である。
これを見ると、この期間のEU28か国の抹消登録台数は、最も少ないのが2013年の1,142万台であり、最も多いのが2011年の1,200万台である。つまり、EU28か国の規模は、1,100万台~1,200万台程度であることが分かる。
この抹消登録台数のうち、使用済み自動車は600万台~700万台程度であり、抹消登録台数の50%~60%程度を占める。最も多いのは2010年の738万台であり、それから減少し、2014年の615万台が最も少ない。抹消登録台数における使用済み自動車の割合も2010年の63%が最も高く、それから減少傾向にあり、2014年は51%にまでなっている。
2010年が多かったのは、各国でスクラップインセンティブ政策が行われたか、あるいはその余波があったからであると考えられる。阿部(2020)では、イギリスを除いたEU27か国の使用済み自動車台数を見たが、そこでは2009年から2011年の使用済み自動車台数が多くなっている。
そのため、図1においては、この期間以外の数値を平常の市場規模を示すものとしたほうがよさそうである。具体的には、EU28か国の使用済み自動車台数は600万台前半、抹消登録台数における使用済み自動車台数の割合は50%前半と見るのが妥当である。
一方、EUからの中古車輸出は100万台~160万台程度であり、抹消登録台数の10%前後である。最も少ないのは2010年の100万台であり、最も多いのは2012年の163万台である。全体における割合も2012年の14%が最も高く、それをピークとして減少傾向となっている。
日本の中古車輸出は近年では140万台~150万台程度であり、100万台~160万台程度のEUの中古車輸出市場は、日本と同程度の規模である。ただし、EUの抹消登録台数は、500万台程度の日本の2倍以上の規模であり、抹消登録台数における中古車輸出の割合はEUと日本は異なる。
上記の通り、EUの抹消登録台数における中古車輸出の割合は10%前後であるが、日本は近年では30%程度になっている。行方不明車の程度にもよるが、公式統計の限りでは、EUは島国の日本よりも域外に流出せず、域内で循環している。
行方不明車は抹消登録台数から使用済み自動車台数と中古車輸出台数を差し引いたものである。その数は2011年の380万台から2012年は351万台と減少したが、その後増加し、2014年は466万台にもなっている。これを見るとEU28か国で行方不明車が400万台前後であることが分かる。抹消登録台数のうちの行方不明車の割合は概ね30%台前半だが、2014年は39%にもなっている。
Mehlhart et al. (2017)では、これ以外に2008年、2009年の行方不明車台数を示しているが、それぞれ410万台、340万台であり、やはり400万台前後であることが分かる。また、Williams et al. (2020)ではその後の2015年、2016年、2017年の数値を加えており、それぞれ380万台、390万台、380万台としている。ここからはブルガリアを除いているようだが、いずれにしろ400万台前後が行方不明である状況は変わらないだろう。
「行方不明の行方」だが、Mehlhart et al. (2017)では、盗難、違法処理、違法輸出(域内、域外)、登録制度の不備などが指摘されている。この詳細についてはさらなるサーベイが必要だが、EU加盟各国の制度の運用に差があることが背景の1つに挙げられる。データについてもその収集の精度に差があり、結果的に中古車輸出台数や自動車保有台数の正確性に国家間で違いが生じる。
違法処理については、解体証明書の発行・提示のインセンティブがあるかどうかはその国の制度の運用次第である。この加盟各国の温度差以外にも、他国を経由した輸出など統計にカウントされない取引の問題、登録および抹消手続きに関する制度の問題なども指摘されている。それらをどのように克服しようとしているかは今後の調査課題である。
3.ドイツの抹消登録台数の内訳
上記のようにEUでは抹消登録台数が1,100万台~1,200万台であり、そのうちの中古車輸出は10%前後の100万台~160万台程度である。欧州は陸続きであり、日本よりも中古車輸出の割合が高い印象を持っていたが、EU全体で見るとその割合は日本よりも低く、域内で循環していることが分かる。
ただし、国単体で見るとまた別の結果が出てくる。ドイツは中古車輸出の割合が高いことは日本でも知られてきた。しかし、ドイツはEU域内に中古車を輸出していることが多く、その数量の把握に苦労している。以下ではこのドイツの事情について見ておきたい。
前回見たように(阿部,2020)、ドイツにおいては、連邦環境・自然保護・原子力安全省により、使用済み自動車のリサイクル等に関する年次報告書(以下「年次報告書」とする)が発行されている(Federal Ministry for the Environment Nature Conservation and Nuclear Safety, 2010-2019)。その中に図1と同様の抹消登録台数の内訳が示されている。
ただし、先のEUとはやや異なり、中古車輸出については、公式統計の数値以外に追加分として別途推計値が示されている。また、輸出先もEU域内、域外で分かれている。さらに後述するが、抹消登録台数も自動車保有台数と新規登録台数を用いて算出するのではなく、抹消登録関連統計の実績値から最終的な抹消登録台数を推計している。
図2は、年次報告書の2015年版~2017年版を用いて、2013年~2017年の抹消登録台数とその内訳を示したものである。これを見ると近年のドイツの抹消登録台数は270万台から300万台の間で推移しており、この5年間で増加傾向であることが分かる。
このうち、使用済み自動車は50万台前後であり、全体の20%も満たない水準である。これに対して、中古車輸出は200万台前後であり、2017年は242万台と最も多い。この結果、抹消登録台数のうち中古車輸出の割合は、低くて64%(2014年)、高くて81%(2017年)にもなっている。
そして、行方不明車(図2では「その他」)の割合は高くて17%(2014年)であり、EUの30%~40%と比べると低い。2017年の行方不明車の割合はわずか2%であり、行方不明の範囲をかなり狭めている。
先に見たようにEU28か国の抹消登録台数は1,100万台から1,200万台程度であるから、ドイツの抹消登録台数はEUの25%程度を占め、その市場規模は大きいことが分かる。これに対して使用済み自動車はEUが600万台前半であったことから、ドイツの使用済み自動車市場はEUの10%も満たないことが分かる。
前回見たEUの使用済み自動車の発生量はイギリスを除く27か国であったが、ドイツの数量はフランスやイタリア、スペインよりも小さく、使用済み自動車としての市場規模は大きくない。イギリスはフランスと同等であるため、ドイツの使用済み自動車市場は欧州では5番目の規模になると考えられる。
先述の通り、中古車輸出に関しては追加分を含めて200万台前後であり、抹消登録台数の大半を占めるが、そのほとんどがEU域内向けである。ドイツの中古車輸出におけるEU域内の割合は低くて70%(2013年)、高くて88%(2017年)である。
一方、EU域外向けは、追加分を含めて最も多い2013年で60万台であり、その後は減少し、直近の2016年、2017年は26万台、28万台である。
ドイツのEU域外向けの公式統計(貿易統計)上の中古車輸出台数は、2013年が39万台、2014年が27万台である。同じく2013年、2014年のEUの中古車輸出台数は図1では150万台、115万台である。これから、ドイツのEU域外向けの中古車輸出市場は、EUの25%前後の規模であり、抹消登録台数と同等の位置にあると言える。
図 2 ドイツにおける抹消登録台数とその内訳の推移
出典:Federal Ministry for the Environment, Nature Conservation and Nuclear Safety (2017-2019)より作成
注:棒グラフの単位は「百万台」(左軸)、折れ線グラフの単位は「%」(右軸)。「使用済自動車の割合」は抹消登録台数における使用済自動車台数の割合を示す。「中古車輸出の割合」
ドイツの使用済み自動車のリサイクル等に関する年次報告書は、2020年10月現在、2008年版から2017年版までのものが利用可能である。このうち、先述の通り、図2は2015年版から2017年版のデータを用いて2013年以降の数量を示したものである。2012年までも抹消登録台数の数量およびその内訳は示されているが、中古車輸出の追加分の推計はされておらず、事情が異なる。
また、2015年版では、抹消登録台数の算出方法に修正があり、2013年、2014年の抹消登録台数は下方修正されている。具体的には1年間に複数回抹消登録された車両台数をダブルカウントしており、それを割り引いている。よって、2012年までと2013年以降は抹消登録台数の算出方法が異なる。
次の図3は2008年版から2013年版を用いて2008年~2012年の抹消登録台数とその内訳を示したものである。阿部(2020)で見たように2009年はスクラップインセンティブ政策の影響により使用済み自動車の数量が178万台にもなっているが、他の年は40万台~50万台程度である。この結果、2009年は使用済み自動車の割合が抹消登録台数の55%にもなっているが、他の年は15%前後であり、図2の2013年以降とあまり変わらない。
一方で、中古車輸出については、120万台から130万台程度であり、全体における割合が40%前後となっている。当然ながら追加分が含まれている2013年以降と比べて低くなっている。2008年の中古車輸出は180万台であり、他の年より突出している。
そのうちEU域内向けが156万台にもなっており、他の年の100万台弱とは状況が異なる。また、2008年のEU域外向けは24万台であり、他の年と同水準である。ドイツの2008年の中古車輸出市場に何が起きたかについては今後の課題としておきたい。
上記で見たように2009年は全体における使用済み自動車の割合が高くなっているが、中古車輸出の割合が減少したわけではない。減少しているのは「その他」の数量である。スクラップインセンティブ政策では、正規に解体証明が出された車に対して補助金が出る。つまり、非正規に解体するよりも、正規に解体することの方に旨みがあるはずである。
「その他」の数値の減少は、非正規に解体していたものが正規に解体するようになったと見ることはできる。あるいは非正規に中古車として輸出されていたものも国内で解体されるようになったという説明もできるだろう。この点は興味深いところである。
図 3 ドイツにおける抹消登録台数とその内訳の推移
出典:Federal Ministry for the Environment, Nature Conservation and Nuclear Safety (2010-2015)より作成
注:棒グラフの単位は「百万台」(左軸)、折れ線グラフの単位は「%」(右軸)。「使用済自動車の割合」は抹消登録台数における使用済自動車台数の割合を示す。「中古車輸出の割合」は抹消登録台数に対する中古車輸出台数の合計(EU域内・外を含む)の割合である。
4.ドイツにおける抹消登録台数の算出方法
一般に抹消登録台数の推計値は、先のEUであったように前期末自動車保有台数+当期自動車新規登録台数-当期末自動車保有台数により算出される。しかし、ドイツではこの計算式を採用せず、別のやり方で抹消登録台数を算出している。
ドイツの年次報告書(2017年版)を見ると、同国において2007年以降、抹消登録が「オフロード届」(off-road notification)というものになり、「最終抹消登録」(final deregistration)が記録されなくなったと書かれている。最終抹消登録というものは、同年次報告書では明確に説明されていないが、文脈から解体や輸出によりその国で使われなくなった状態を指すと考えられる。
これに対して、2007年に設けられた「オフロード届」は、最終抹消登録のほか、再登録されるもの(日本で言う一時抹消のもの)を含むものと記述されている(同年次報告書,24ページ)。つまり、公道では使用できないオフロード状態の車として届け出されたものである。
オフロード届は最終抹消登録を含むものだが、最終抹消登録という手続きがなくなったため、同届は一時抹消登録と同等であると考えられる。一時抹消状態後、再登録されるものもあれば、解体や輸出されるものもあるが、後者の場合に最終的な手続きはないからである。日本で言うと、抹消登録制度に一時抹消の手続きのみが残り、永久抹消(解体届出)や輸出抹消(輸出予定届出)がなくなった状態である。
そのため、理解しやすいように、以下では「オフロード届」を「一時抹消登録」と表記することとする。ドイツの問題は、2007年以降、一時抹消登録の数量はあるが、最終抹消登録の数量はなく、推計しなければならないということである。
このような中、年次報告書では、2007年より前の数量に基づいて、一時抹消登録の数量のうち最終抹消登録の割合(40%程度)を算出し、それをパラメータとして2007年以降の一時抹消登録の数量に掛け合わせて、推計してきたと述べられている。
このパラメータは2013年版の年次報告書まで使用されたようだが、その後2014年版以降は新たな研究成果により、パラメータが改訂されている。具体的な数値は、M1(乗用車、9人以下)が33.3%、N1(小型貨物車、3.5 トン以下)が41.4%である。さらに2017年版は連邦自動車交通局により算出された新たな数値にアップデートされている(乗用車:34.1%、小型貨物車:40.2%)。
一方、前節で触れたが、1年間に複数回の抹消手続きをする場合もある。年次報告書では他の研究から、「一時抹消登録件数」のうちの複数回の抹消手続きの割合を乗用車が4%、小型貨物車が3.5%としている。そして、「一時抹消登録件数」からその複数回分を割り引き、その年に抹消状態になった数量を「使用していない自動車台数」(Motor vehicles taken out of service)としている。
つまり、「使用していない自動車台数」とは、「一時抹消登録台数」のことである。これを示したうえで、上記の最終抹消登録の割合を掛け合わせている。この2段階の算出の結果、2017年の最終抹消登録台数を2,979,920台としている。図4はこれらを示したものである。
ドイツが一般的な推計方法(前期末自動車保有台数+当期自動車新規登録台数-当期末自動車保有台数)ではなく、独自のやり方で(最終)抹消登録台数を算出している点は興味深いところである。一般的な推計方法での数値は抹消状態のストックの増加数も含まれ(阿部,2007)、使用済み自動車台数と中古車輸出台数の合計値に必ずしも一致しないことがある。
ドイツのようなパラメータを算出して掛け合わせる方法の方が、壁が高いようにも思えるが、抹消状態のストックの増加数が含まれることが一般的な推計方法を採用しない理由なのだろうか。
試しに同国の年次報告書で示されている自動車保有台数と新規登録台数を用いて、一般的な推計方法で2017年の(最終)抹消登録台数の推計値を出してみると、2,917,161台となり、上記の2,979,920台よりも6.3万台程度少ない。
パラメータの精度がどの程度かにもよるため、どちらの数値が実態に近いかは定かではないが、いずれにしろ2017年の限りでは差は大きくはないと言える。なお、推計式での数値が実際の数値よりも小さい場合は、抹消状態のストックが減少している場合である。
図 4 ドイツの抹消登録関連数量の比較(2017年)
出典:Federal Ministry for the Environment, Nature Conservation and Nuclear Safety (2019)より作成
5.ドイツの公式統計上の中古車輸出台数
さらに中古車輸出を見てみたい。図2で見たように、ドイツでは、中古車輸出台数を域内向けと域外向けに分けており、それぞれ公式統計に載らない「追加分」も示している。まず、EU域内の中古車輸出の公式統計については、連邦自動車交通局による再登録統計と連邦統計局による貿易統計の2つを用いている。そして、個々のEU加盟国向けの数値において高い方を採用し、それらを混ぜ合わせて合計値を出している。
再登録統計は、EUにおける自動車登録文書指令(Directive 1999/37/EC)に基づくものであり、以前に登録された国との間で情報を共有することで集計されるものである。それによると、2017年は1,938,355台の中古車がドイツから他のEU加盟国に輸出され、再登録されたとされる。
2017年版の年次報告書では、2017年の中古車輸出台数について仕向地(加盟国)別に示しているが、そのデータソース(再登録統計または貿易統計)のほとんどが再登録統計である。つまり、多くの国で再登録統計の数値が貿易統計の数値を上回っている。
反対に貿易統計の数値の方が多く、その数値が採用されている国は、イタリア、オーストリア、デンマーク、ギリシャ、キプロスの5か国である。この5か国の数量が加えられた結果、中古車輸出台数の合計値は1,988,620台と上方修正されている。それが同報告書において統計に表れる中古車輸出台数である。
図 5 ドイツのEU域内向けの中古車輸出台数(2017年、仕向地別、単位:台)
出典:Federal Ministry for the Environment, Nature Conservation and Nuclear Safety (2019)より作成
図5を見るとわかるようにドイツからの中古車輸出はポーランド向けが突出している。それは他の年も同様かどうかである。上記のような自動車再登録統計と貿易統計の2つのデータソースを用いてEU域内向けの公式統計上の中古車輸出台数を算出する方法は2011年から行われている。
図6はその方法により算出されたドイツのEU域内向けの中古車輸出台数の推移である。それを見ると、ポーランド向けがやはり突出している。2017年はEU域内向けの32%がポーランド向けだったが、他の年は40%程度である。
また、図6には掲載していないが、それ以前の2008年~2010年は自動車再登録統計のみであり、一部の国が掲載されていないが、そこでもポーランド向けの中古車輸出は突出しており、ドイツからEU域内向けの50%前後を占めている。
図 6 ドイツのEU域内向けの中古車輸出台数の推移(単位:百万台)
出典:Federal Ministry for the Environment, Nature Conservation and Nuclear Safety (2013)(2014)(2015)(2016)(2017)(2018)(2019)より作成
6.中古車輸出台数の追加分の推計
上記のようにドイツの公式統計における中古車輸出台数は、再登録統計と貿易統計をミックスさせて算出している。これに対して、先の図2で見たように近年では別途中古車輸出台数を推計し、それを追加分として計上している。
その背景には、統計の不備がある。2017年版の年次報告書によると、いくつかの国で中古車輸出の公式統計の質に問題があると記述されている。再登録統計は再登録した輸出先から情報をもらうが、その情報に誤りがある場合があるという。
2017年については、チェコ向けの中古車輸出台数は2017年の9か月分のデータでしかなく、過少である。また、ルーマニアについては2017年の数値に2016年の実績値が一部含まれており、過剰になっていたようである。
まず、チェコについては、9か月分のデータであるため、単純な比例計算で12か月分にして109,472台(+27,368台)としている。次にルーマニアについては過剰に示された396,443台の一部を差し引く作業をしている。
そこでは、2016年の再登録統計の数量は145,859台であることから、単純に2016年と2017年の数量の平均を出し、2016年、2017年ともに271,151台としている。そして、同国向けの中古車輸出の実績は2016年に125,292台が追加され、2017年に同数を差し引いている。
これら以外にも統計の不備がある。貿易統計を情報源としたイタリア、オーストリア、デンマーク、ギリシャ、キプロスの5か国向けは、再登録統計の数値より多いものの、それでも過少であるとする。イタリアについては貿易統計で30,843台だが、イタリア交通省から提供された数値(72,214台)に代えている。
オーストリアについては、先行研究Sander et al. (2017)で示された2013年の推計値(54,326台)を用いて、同年の貿易統計上の実績値(10,074台)との割合を算出し、それを2017年の貿易統計の実績値(30,812台)に掛け合わせ、166,160台としている。
デンマーク、ギリシャ、キプロスについては、2017年のドイツの再登録統計の合計値(1,938,355台)と貿易統計の合計値(282,793台)の割合6.85を算出し、それをそれぞれの貿易統計の実績値に掛け合わせている。それらの結果、EU域内向けの中古車輸出台数は公式統計のほかに推計値147,936台を追加分としている。
一方、EU域外向けの中古車輸出台数については、貿易統計の数値を用いている。ただし、他のEU加盟国を経由してEU域外に輸出されるものなど統計に計上されない数値もあるという。その詳細は今後の課題としたいが、いずれにしろ、同年次報告書では、統計に計上されない数値を実績値の54.4%とし、EU域外向けの中古車輸出の追加分を95,680台(実績値175,882台×0.544)と推計している。
この54.4%の根拠については2017年版では前年踏襲であるとしか書かれていない。そこで、報告書の年次を遡ると2015年版にこれについて書かれていることが分かった。これによると、2013年のEU域外向けの中古車輸出で統計に計上されない値を21万台としており、それを2013年の中古車輸出台数385,708台で割ると54.4%になる。
同報告書では、この21万台の根拠として、Sander et al. (2017)を挙げているが、その算出方法は複雑であるため、次回以降の課題としたい。
7.まとめ
本稿では、EUおよびドイツの(最終)抹消登録台数とその内訳についてどのように捉えられているかをサーベイした。その結果、EUの行方不明車は400万台程度にもなり、抹消登録台数の30%台前半となっていることが分かった。
これが違法解体によるものなのか、統計の不備その他によるものなのかは今回の限りでは断言できない。EUは、制度そのものは域内で足並みを揃えて整備していると考えられるが、その運営に温度差があり、データの質に差が生まれるというのは十分に想定できる。
このような中、ドイツにおいて、様々な手段を用いて抹消登録台数や中古車輸出台数の追加分を推計しており、その実態判明の努力の様子が窺えた。複雑でやや粗削りの印象を持ったが、それらの努力の結果、行方不明車(「その他」)の割合が10%台となっており、EUより、行方不明の行方が判明している。
また、EU域外への中古車輸出についても、貿易統計に載らない数量があることが分かった。その構造は難解であり、次回以降の課題としたいが、Sander et al. (2017)に書かれているように、トランジット問題のほか、日本でいう少額貨物の問題もありそうである。陸続きであるがゆえ、中古車輸出の抜け道も日本よりも多いと予想できる。
気になるのは違法解体である。当然ながら公式統計に載らないため、行方不明車の数量に含まれる。ドイツの場合は中古車輸出の追加分の推計により、違法解体が少ないことをある意味証明しているように見えるが、市場の実態はどうなのか。聞き取り調査で補う必要があるだろう。
また、ポーランドなどの中古車輸入国の行方不明車の割合も見てみたいところである。データの精度にもよるが、EUの30%台前半という数値とはまた異なるかどうかである。さらに、そのような国での違法解体はどの程度かである。課題は山積みであるが、1つ1つ明らかにしておきたい。
※本研究は高橋産業経済研究財団令和2年度研究助成の成果の一部である。
参考文献
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- Federal Ministry for the Environment Nature Conservation and Nuclear Safety (2011), “End-of-life vehicle reuse/recycling/recovery rates in Germany for 2009, https://www.bmu.de/fileadmin/Daten_BMU/Download_PDF/Abfallwirtschaft/jahresbericht_altfahrzeug_2009_en_bf.pdf
- Federal Ministry for the Environment Nature Conservation and Nuclear Safety (2012), “End-of-life vehicle reuse/recycling/recovery rates in Germany for 2010, https://www.bmu.de/fileadmin/Daten_BMU/Download_PDF/Abfallwirtschaft/jahresbericht_altfahrzeug_2010_en_bf.pdf
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