5.消費者アンケートからのリユース市場規模の推計
環境省の報告書では、まず上記のような形で消費者のアンケートにおいて中古品の購入経験の有無を聞き、次に購入経験があった消費者に別途アンケートを実施している。そして、品目別に購入先、金額、数量を把握している。
それらのデータを得た後、品目や年齢、性別の違いを考慮しつつ、人口を掛け合わせることで、一般消費者の最終需要ベースのリユース市場の規模を推計している(pp.68-75)。
この推計の結果、リユース市場の規模は3兆2,492億円と推計されている(p.76)。これには自動車やバイク、原付バイクも含まれている。この数値は、国内における個人消費者のリユース市場規模であり、事業者が購入する建設機械、オフィス家具などの中古品は含まれないようである。また、輸出も含まれない。さらに、未使用品・新古品を含むが、骨とう品は含まれていない。
品目別に見ると、自動車が56.7%の1兆8,417億円であり、バイク、原付バイクが6.7%の2,168億円である(p.77)。これらを除くと最も多いのがブランド品(7.1%)であり、(ブランド品を除く)衣類・服飾品(3.1%)、パソコン・周辺機器(2.6%)が続いている。
環境省の報告書では、上記の市場規模に対して、2012年、2015年に同様の手法で推計した結果と比較している(p.80)。2012年は3兆1,047億円、2015年は3兆1,424億円であり、2012年から2015年にかけて377億円増加している。
先の通り、2018年は3兆2,492億円であるから、2015年から2018年にかけて1,067億円増加している。つまり、2期連続で市場規模は拡大している。
ただし、この数値は全ての品目の合計であり、品目別に見ると増加しているものもあれば、減少しているものもある(p.80)。例えば、自動車やバイク・原付バイク、ブランド品の金額は、全体と同様に2期連続で増加している。
これに対して、(ブランド品を除く)衣類・服飾品やパソコン・周辺機器、ソフト・メディア類の金額は2012年から2015年は減少しており、その後2018年は増加している。また、カメラ・周辺機器、携帯電話・スマートフォン、家具類などの金額は2012年から2015年は増加し、2018年は減少している。
書籍、日用品・生活雑貨、自転車、自転車部品・パーツの金額は2期連続で減少している。つまり、品目により様々である。
環境省の報告書では、品目によりリユース市場規模が拡大、縮小している要因を分析している。まず、自動車、バイク、その他の品目を除いた上で、リユースショップやインターネットオークションなど購入経路別の市場規模の推移を見ている(p.81)。
それによると、「リユースショップの店頭」の市場規模は、2012年から2015年、2018年と2期連続で縮小していることが分かる。これに対して2015年に対して2018年が拡大していたのは、「インターネットショッピングサイト」と「フリマアプリ」の市場規模である。
ただし、「インターネットショッピングサイト」は2012年から2015年は減少している。また、「インターネットオークション」の市場規模は(2012年から2015年は拡大しているものの)2015年から2018年は縮小している。
よって、インターネットという手段によりリユース市場が拡大しているとは必ずしも言えない。フリマアプリについても2012年のデータがないため、2015年までの期間が増大しているとは言い難い。
環境省の報告書では、これらの結果について、リユース事業者にヒアリングを行っている(p.82)。それによると、「リユース市場規模が全体で微増という点は違和感ない」という。事業者の意見でも店頭での購入は落ちているようだが、店頭以外でのインターネットを通じた販売や、企業・事業者への販売、輸出などを含めると、売上は増えているようである。
また、インターネットを通じた販売については、多くのリユース事業者が力を入れているとする。「インターネットオークション」と「インターネットショッピングサイト」で市場規模の拡大・縮小の傾向に違いがあるが、それはアンケートの聞き方によるものではないかなどの意見を記述している。インターネットを通じた購入全体で見ると、ほぼ横ばいで推移しているとのことである。
前節で言及したが、消費者アンケートにおいて、中古品を「過去1年では利用したことがない」と回答した者の割合が増加している。市場が拡大している中で、購入者数が減少しているということは、1人あたりの購入金額が増大しているという見方ができる。同じような指摘は、環境省の報告書でも言及されている(pp.82-83)。
購入者数の減少について、環境省の報告書では、関係事業者へのヒアリングの内容を提示している(p.83)。それによると、書籍、ソフト・メディア類の利用者数が大幅に減少していることから、「書籍やゲーム機器などのコンテンツ系の商品が、デジタルデータに代替され、古本や中古ゲーム 機器を買う人が減少、全体としてリユース品の購入した割合が減少しているという可能性が考えられる」としている。
つまり、新品も含めた消費構造の変化により、リユース市場が縮小することもあると言える。
環境省の報告書では、その後、個別に要因を考察している(pp.84-87)。市場規模が拡大した品目について、例えばベビー・子供用品は、女性の社会進出や共稼ぎ世帯の増加等が背景にあることが示唆されている。
家電製品については小売店により下取り、リユース市場への流通が促進されていること、ゲーム機器は新品市場の拡大に伴い、リユース品の市場も拡大している可能性が指摘されている。
一方で、市場規模が縮小した品目について、例えば家具類は低価格で良い商品を提供する事業者の躍進を言及している。また、自転車、自転車部品・パーツについては新品市場の縮小、書籍については電子化の影響が示唆されている。いずれにしろ、個々に市場の動向を議論する必要がある。
6.何を議論すべきか
本稿では、環境省の報告書からリユース市場の拡大について考察をした。この報告書が興味深いのは、供給者側のデータから市場規模を把握しつつ、消費者側のデータを作り、それから市場規模を推計していることである。確かに、フリーマーケットなど個人間取引では商業統計に表れないはずである。その意味で消費者側から見た統計は有用である。
冒頭で示したようにフリマアプリの利用拡大などによりリユース市場は拡大しているという印象はある。環境省の報告書によると、全体ではリユース市場は拡大していると言えそうである。ただし、品目により差異があり、全てが拡大というわけではない。よって、品目ごとの事情を把握する必要はある。
当然ながらリユース市場が拡大するためには価格や品質が影響するが、そこに取引費用がある。供給側は、いくらであれば不要となった製品を売りに出したいという価格があるはずである。
その際、売りに出すために費用がかかるのであれば、売りに出す意欲が阻害される。フリマアプリなどインターネットを介することで取引費用が下がることにより、供給側にとっての価格の下落は防がれ、売りに出すインセンティブが生まれる。
また、インターネットではなくても、買い取り店の参入や出張買い取りなど手軽に売りに出すことができるビジネスの普及も同様の効果がある。
需要側においては、新品と同様にその製品にいくら払いたいかという(限界)便益による。そのため、製品の機能やデザイン、品質が関係するが、中古品の場合は同じ製品であっても状態が異なり、それも需要側の便益に影響する。事実上多品種になり、自らが望む製品に出会うための探索費用(サーチコスト)がかかる。
リユース市場は需要と供給のマッチングが重要であるが、需要側が欲しい製品が供給されるとは限らない。可能な限りマッチングさせるために、過去には競売やオークションなどで一堂に集まる場を作り、出品者と入札者のマッチングを促していたと思われる。
また、同業者同士で在庫情報交換をすることもしていた。さらに同業者が地理的に集積することで需要側が望む製品に出会いやすくする場も作っていた。フリーマーケット(蚤の市)もその一種であろう。
電話やファックスなどはそのような取引における探索費用を低下させたと考えられる。インターネットはそれをさらに効率化させていると言える。よって、フリマアプリを含めてインターネットによりマッチングの機会が増え、リユース市場が拡大するという見方は妥当である。
一方、先に示したように中古品は同じ製品であっても状態に違いがある。その状態を確認するための取引費用が必要になる。供給側が正確に状態を伝えるとは限らないため、結局は需要側が状態を判断するための費用を負担することになる。例えば、自らが目利きの知識を習得したり、査定士など第三者の査定情報を入手したりする。
もっとも、供給側も自らの信頼性を高めるために、査定情報を提示したり、画像、映像により情報を細かく開示したりすることもある。品質保証の負担をすることも取引費用になる。
そのような事情から仲介者としての専門家の役割が重要になる。フリマアプリの市場において、消費者間の取引(いわゆるC to C)により出品や探索などの取引費用は下がり、市場は広がるが、中古品の状態を判断するための専門知識が必要であれば、専門家の役割が重要になる。フリマアプリにおいて出品者や購入者に信頼性のある企業が含まれることもあるだろう。これらの動向は聞き取りを含めて確認すべきである。
取引費用の低減以外にリユース市場を拡大させている要因もある。フリマアプリをきっかけとして中古品の優位性を知ることがあるが、それにより中古品の便益が上がっていることも考えられる。
その結果、リユースショップの店頭や大手事業者のウェブサイトでの購入が増える可能性もある。また、「もったいない」という意識の向上により、中古品を使うことの便益が上がる可能性もある。断捨離ブームの中、フリマアプリをきっかけとして断捨離に拍車がかかり、リユース市場の供給が増えることもある。
環境省の報告書では、経済産業省の統計をサーベイしていたが、そこでは中古品小売業の年間商品販売額は増大している。1970年代は200億円にも満たなかったが、2000年代以降は2,000億円を超えている。
この数値の増大は、調査対象の事業者が増えたこともあるだろうが、インターネットの普及のほか、人口の増大、単価の上昇、地価(家賃)の上昇、グローバル化、事業者の信頼性向上、表示・品質保証の整備など様々な要因があるだろう。
反面、地価の上昇はリユースショップの事業費用を増大させるし、グローバル化は安価な新品の輸入に貢献する。人件費の上昇も回収や分別の費用を増大させ、リユースの阻害要因になる。近年では、ウェブ配信やシェアリングエコノミーの普及などの影響もあるだろう。そのような負の影響を含めて中長期的な構造の変化の要因を議論する必要がある。
一方で、短期的な変動については、新品や再生資源の価格、廃棄物処理費用などのほか、景気変動により所得の低迷、格差の拡大などもある。品目にもよるが、近年、市場規模が拡大しているものもあれば、縮小しているものもあった。これについても短期的な社会の変化を捉える必要がある。
参考文献
- 環境省環境再生・資源循環局総務課リサイクル推進室(2019)『平成30年度 リユース市場規模調査報告書』(https://www.env.go.jp/recycle/H30_reuse_research_report_1.pdf),2020年5月10日閲覧
- 日本リユース業協会ホームページ(http://www.re-use.jp/),2020年5月10日閲覧
- 「メルカリに屈するな 「わらしべ少年」の反撃 リユースの旗手たち(1)」,日本経済新聞2019年3月17日