3.2輪車解体ビジネスの採算性
前述の通り、中古部品の販売および使用済み2輪車の解体には、盗難対策としての規制があり、それが参入障壁となっている。しかし、そのようなライセンスを持っていても、利潤を得られるかどうかは別である。
クアラルンプールの4輪車解体業者では、ライセンスを持っていないから2輪車は解体しない、警察が関与するようなものには関わりたくない、と言っていたが、そもそも2輪車の解体では利潤を得られないため、2輪車の解体ビジネスは生まれないのではないかとも言っていた。
2輪車の場合、中古部品の販売マージンが低く、部品取りのコストを考慮すると利益を生む構造にはなっていないようである。また、中古エンジンについては、そのものを国内では販売できず、さらに分解しないと販売は認められない。輸出することは可能だが、2輪車の中古エンジンには需要はないとのことだった。
周知の通り、マレーシアは、自動車(4輪車)の中古部品の貿易拠点であるため、中古部品の輸入・販売業者を多く見るが、それと比較すると自国で発生する使用済み自動車(4輪車)を回収し、解体する事業者は少ない。筆者が訪問したのはその数少ない4輪車解体業者の1つである。同社は20年ほどこのビジネスを行っており、ここ10年ぐらいに使用済自動車の発生が増えてきたという。
それに伴い、同じような解体業者はまだ少ないが、少しずつ増えてきているという。その背景としては、スクラップインセンティブにより4輪車の廃棄の車齢が早まったことが言及された。それまでは車齢は20~30年程度だったものが、10~10数年に短縮されているようである。
2輪車の解体で十分な利潤を得られない点は、中古2輪車販売業者でも言っていた。2輪車の解体ではマージンが低く、他の仕事で給与をもらう方がまだ多いとのことだった。部品の需要側の2輪車販売業者や修理業者からの意見でも、新品が安いため、修理において中古部品を使うことはないという意見ばかりであった。
図 3 4輪車の使用済み自動車は発生し、解体業者は存在する
一方、かつてはライセンスという障壁が低く、2輪車の解体業者が存在していたという証言もあった。ペナンの新車販売業者によると、ペナン州の隣のケダ州に2輪車の解体業者がいくつか立地していたという。それがライセンスが厳しくなって、次第に減ったようだ。現存しているかどうかは疑問とのことである。
つまり、社会の発展とともに一度2輪車の解体ビジネスは形成されたものの、さらなる発展により縮小したという構造変化である。今回はそこまで確認できなかったが、十分に可能性があると納得した。
以上から2輪車の解体業者についてどのようなことが言えるだろうか。まず、かなり少数と思われるが、2輪車の解体業者は中古部品販売業者として存在することが分かった。ただし、2輪車解体ビジネスは、マレーシアでも利潤が生まれにくい。そのような中で、中古部品販売業者が事業をやれているのは、付加価値の高い部品を販売しているからではないかと予想する。
周知の通り、中古品市場は需要と供給のミスマッチが存在する。筆者が訪問した中古部品販売業者は、付加価値の高いモデルの車両の部品を仕入れることができているものと予想される。
それは、先に示した通り、ライセンスにより参入障壁が高められていることが背景にありそうである。今回は、アポイント無しで訪問したため、細かいディスカッションはできなかったが、この点はさらに深める必要がある。
4.スクラップ回収業者
前述のような中古部品販売業者は、付加価値の高いものから部品取りをする少量処理型の解体業者と考えられる。また、中古部品を販売できるライセンスを持っていたとしても、新車販売の補助的な事業として部品取りを位置づける場合もある。これらを見ると、中古部品販売に重点を置いている会社はやはり少ないのではないかと感じる。
一方、付加価値の低い使用済み2輪車はどうなっているだろうか。それらの方が量的に多いと考えられるが、上記の中古部品販売業者がそれらの受け皿になっているとは言い難い。筆者の聞き取りをまとめると、それらについては、(1)ユーザーは長く使用し、スクラップ回収業者に引き渡されるか、(2)放置されるかの2つの方向が有力である。
しかし、その検証は、今回は不十分であった。まず、スクラップ回収業者には3社ほど訪問したが、2輪車を多く引き取っているという証言を得られなかった。引き取っていたのは、1社のみであったが、この事業者は半年で3~5台程度であるとのことだった。他の2社は引き取っていないという。
スクラップ回収業者の意見では、2輪車専門の解体業者はやはり存在しないとのことだった。その理由としては市場自体が成長していないこと、ユーザーが長く使用すること、カスタマイズをしながら最大限使用することを言及していた。また、4輪車についてだが、現地生産の車は安く、長く使用され、すぐにスクラップされることはないと言っていた。
別のスクラップ回収業者はライセンスがないからと言って、引き取っていないとのことであった。アポイントなしでの訪問にもかかわらず、丁寧な対応だった。廃棄物処理に関するライセンスを取得していることをアピールし、コンプライアンスを重視している印象を持った。
もう1つのスクラップ回収業者は訪問した際に社長がおらず、その場で電話で聞いたが、「やっていない」という答えだった。もしかすると、ライセンスの関係からやっていないと言う回答だったのかもしれないが、いずれにしろ、十分な証言を得ることができなかった。
帰国後、改めてインターネット検索をしたところ、クアラルンプールのスクラップ回収業者2社のホームページから、使用済み2輪車と思われるものが多く置かれている写真を確認した。その写真には家電と思われるものが混在しており、自動車を専門的に回収している事業者ではないことが分かる。
ただし、その住所を地図で見てみると、2社とも住宅地・商業地にあり、写真で見たような使用済み2輪車が置かれるヤードはなかった。よって、その写真が本当かどうか、その会社が実在するかどうかが不明である。
マレーシアの新聞The Starの2017年8月8日付記事では、2016年にクアラルンプール市役所が放置・没収車両の競売をスタートさせたことを報じている。そこでは97台の4輪車と630台の2輪車が落札されたという。
その参加者の多くは修理業者であり、車両を修理、再生し、販売する。ただし、全てが再生されるわけではなく、修理が不合理とされるものについては、DRB-Hicom Environmental Servicesという会社を指名し、引き取ってもらっているという。
この会社を調べてみると、スクラップ回収業者または廃棄物処理業者のようである。つまり、修理業者が買い取らないものはスクラップ回収業者が引き取っている。スクラップ回収業者に自治体が処理料金を払っているのかは確認できなかったが、そのような使用済み2輪車が有償で流通していない可能性がある。それが2輪車の静脈市場において一般的なのかもしれない。
図 4 スクラップ回収業者に4輪車にはあったが、2輪車はなかった