第106回:モータリゼーションの発展形の違いをどのように捉えるか

山口大学国際総合科学部准教授

阿部 新

1.はじめに

 新興国・途上国においてモータリゼーションが進展するとともに、自動車の廃棄の問題が懸念されるようになってきている。日本でも1960年代に使用済み自動車が急増し、受け皿としての産業の育成が急がれた。新興国・途上国はまさにその段階に位置していると考えられる。その点で過去の日本の事例と比較する意義はある。

 ただし、モータリゼーションの発展形は国・地域によって異なりうる。周知の通り、インドネシアやベトナムなど東南アジア諸国の路上は、現在の日本とは風景が異なり、(自動)2輪車が多く走っている。それを見る限り、2輪車に対する4輪車の保有割合は日本と比べると低いことが予想される。

 仮にそうだとすると、モータリゼーションの発展に対して使用済みの4輪車も発生量が少なくなり、静脈産業の構造も変わりうる。そのため、「現在の新興国・途上国の静脈市場は日本のいつに相当するか」という議論において、モータリゼーションの発展形を踏まえる必要もある。

 もちろん、2輪車に対する4輪車の保有割合は、経済の発展、所得水準の構造とともに高まることは予想される。そのため、新興国・途上国の静脈産業の将来像は、結果的に現在の日本のようになるかもしれない。

 一方で、モータリゼーションが進展した台湾では、周知の通り、現在においても2輪車は多く走っている。よって日本とは異なる静脈産業の将来像もあるのかもしれない。

 今回は日本、台湾のほか、東南アジアの代表国の1つであるマレーシアを加え、それぞれの関連データから4輪車と2輪車の保有割合の時系列変化を確認しておく。そして、日本とは異なった静脈市場の経路はありうるのかを考察しておきたい。

 

2.保有台数

 まず、日本から見てみる。図1は、日本の自動車の保有台数の推移である。2輪車について125cc以下の原付第1種、原付第2種は3月末、または4月1日時点の数値のみ公表されているため、4輪車(3輪車を含む、以下同様)においても時期を揃えて、3月末時点の数値を用いている。

 2輪車を含めた全体を見ると2000年代以降は8,700万台から8,800万台程度でほぼ横ばいで推移している。2輪車については、1986年の1,867万台がピークであり、直近の2018年は1,073万台である。

 自動車全体における4輪車の割合を見ると、1960年代は40~60パーセントだったが、1972年に70パーセントを超え、1977年には76パーセントにまでなっている。1980年代に2輪車の保有台数の増大もあり、4輪車の割合はやや下落したものの、その後再び上昇し、1995年に80パーセントを超え、2018年は88パーセントにもなっている。

 2018年4月1日の日本の人口は、総務省統計局データより、1億2,653万人であり、この時点では1,000人に701台の割合で自動車(4輪車、2輪車)を保有している。この数値は、1960年代は200台前後だったが、1974年に300台、1980年に400台、1984年に500台を超え、急増している。それ以降も1991年に600台、2018年に700台を超え、増加している。

 2輪車のみで見ると、1960年代~70年代は1,000人に対して78~94台であったが、1980年代に急激に増加し、1986年に153台になっている。その後は減少し、2018年は85台と1970年と同等の水準である。

 これに対して、4輪車は1968年に100台を超えた後、1973年に200台、1980年に300台、1988年に400台、1994年に500台と急速に増加している。2輪車とは対照的で、2000年代も増加し続け、2018年は1,000人に対して616台の保有割合となっている。

図 1 日本の自動車保有台数(4輪車、2輪車)の推移

出典:自動車検査登録情報協会「自動車保有台数の推移」、日本自動車工業会『自動車統計年表』各年版、『自動車統計月報』各月版、本田技研工業『世界二輪車概況』各年版

注:各年3月末時点(ただし、原付第1種および原付第2種は、2006年より4月1日現在の課税対象台数)。「4輪車の割合」は、4輪車保有台数/2輪車・4輪車保有台数

 

 新車の販売について、図2に各年の暦年(1月~12月)の新車販売台数の推移を示す。全体では、1990年の940万台が最も多く、それ以降減少している。図では示されていないが、4輪車においては、貨物車は1988年の298万台をピークに減少しており、2018年は88万台である。2輪車については1982年の329万台がピークであり、2018年は34万台と10分の1程度にまで減少している。

 全体における4輪車の割合は、1973年までは上昇傾向で81パーセントまでになったが、その後の2輪車の販売台数の増加もあり、下降傾向となり、1982年には62パーセントになっている。それ以降は2輪車の販売台数が減少したことで、4輪車の販売の割合が上昇し、2018年は94パーセントにもなっている。

図 2 日本の新車販売台数(4輪車、2輪車)の推移

出典:日本自動車工業会『自動車統計年表』各年版、日本自動車工業会『自動車統計月報』各月版、本田技研工業『世界二輪車概況』各年版

注:各年の数値は1月~12月の合計。「4輪車の割合」は、4輪車販売台数/2輪車・4輪車販売台数

 

3.台湾

 上記と同じように台湾について見ておきたい。図3は台湾の自動車保有台数である。これを見ると、日本とは異なり、2輪車の方が多いことが分かる。ただし、2輪車の保有台数は若干であるが、減少している。

 2011年の1,517万台が最も多く、直近の2017年は1,376万台である。これに対して4輪車は増加傾向にあるが、1960年代~80年代の日本ほどの勢いではない。全体における4輪車の割合は、直近は若干上昇しているが、30パーセント台でほぼ横ばいとなっている。

 台湾の人口は、台湾内政部データより、2017年末で2,357万人であり、日本の5分の1程度である。自動車保有台数との割合を見ると、2017年は1,000人あたり918台である。この値は1991年に500台、1995年に600台、1998年に700台、2003年に800台、2007年に900台と短期間で急激に上昇している。

 2輪車については1996年に400台、2000年に500台、2007年に600台を超えたが、2017年は584台で若干減少している。4輪車については1995年に200台、2008年に300台を超えており、緩やかに上昇している。2017年は334台である。

図 3 台湾の自動車保有台数(4輪車、2輪車)の推移

出典:日本自動車工業会『世界自動車統計年報』各年版、本田技研工業『世界二輪車概況』各年版

注:各年末時点。「4輪車の割合」は、4輪車保有台数/2輪車・4輪車保有台数

 新車販売については、図4に示す通りである。1990年代は4輪車と2輪車の合計で100万台を超えていたが、2000年代以降は100万台を下回っている年も多く観察される。つまり、1990年代と比べると、2000年代の台湾の新車販売は減少している。

 ただし、直近は増加傾向にあり、2017年は117万台である。保有台数と同様で4輪車の方が少なく、全体における4輪車の割合は30パーセント前後で推移している。2輪車に対して4輪車の販売が増えているようには見えない。

図 4 台湾の新車販売台数(4輪車、2輪車)の推移

出典:日本自動車工業会『世界自動車統計年報』各年版、本田技研工業『世界二輪車概況』各年版

注:「4輪車の割合」は、4輪車販売台数/2輪車・4輪車販売台数

4.マレーシア

 さらにマレーシアを見ておきたい。図5は図1、図3と同じく自動車保有台数の推移である。この限りでは2輪車、4輪車ともに増加傾向にある。日本や台湾のように保有台数の伸びが鈍化しているようには見えず、右肩上がりに増加している。

 4輪車の割合は1990年代前半こそ40パーセント台前半だったが、それ以降は50パーセント前後となっており、緩やかに上昇傾向にある。2輪車の市場は台湾ほどに高くはないが、日本ほどに小さくもない。

 マレーシアの人口は3,205万人(2017年)であり、日本の4分の1程度である。1,000人あたりの自動車保有台数は、1990年代が302~433台だったが、2003年に500台、2008年に600台、2011年に700台を超え、2014年は786台である。

 2輪車は1990年に代は168~222台だったが、2014年は382台である。4輪車は1990年代には132~212台だったが、2014年は403台に増えている。

図 5 マレーシアの自動車保有台数(4輪車、2輪車)の推移

出典:日本自動車工業会『世界自動車統計年報』各年版、本田技研工業『世界二輪車概況』各年版

注:各年末時点。「2輪車の割合」は、2輪車保有台数/2輪車・4輪車保有台数

 同国の新車の販売については、図6の通りである。2013年の120万台をピークに短期的にはやや減少傾向になっているが、全体的に100万台前後であり、1990年代よりは増加している。4輪車の割合は保有台数よりは高く、60パーセント前後である。日本ほどではないが、台湾よりは4輪車の割合が高いと言える。

図 6 マレーシアの新車販売台数(4輪車、2輪車)の推移

出典:日本自動車工業会『世界自動車統計年報』各年版、本田技研工業『世界二輪車概況』各年版

注:「2輪車の割合」は、2輪車販売台数/2輪車・4輪車販売台数

5.比較考察

 以上から日本、台湾、マレーシアの自動車保有台数等を比較しておきたい。台湾、マレーシアのデータは日本自動車工業会『世界自動車統計年報』のものであり、いわゆる2次データである。1次データを見るなどしてその正確性を追求する必要があるが、今回の限りで何が言えるかを示しておく。

 表1は上記の内容を整理したものである。まず、保有台数では、日本は4輪車が圧倒的に多く、全体の90パーセント近くにもなっていることが改めて分かる。これに対して台湾は対照的に2輪車の方が多く、4輪車は全体の3分の1程度である。

 マレーシアは日本と台湾の中間にあり、4輪車と2輪車の保有台数は半々である。このような構成が異なる中で、2輪車の保有台数はいずれも1,000万台超と近い値となっている。

 時系列的に見ても日本は1960年代より4輪車の保有台数が全体の半数を超えており、1972年に70パーセントを上回っている(図1より)。2輪車の販売台数の増加の影響もあり、1970年代後半から80年代にかけて4輪車の保有割合は低くなったが、それでも4輪車の保有割合は70パーセント以上である。その後は、2輪車の保有台数の減少とともに4輪車が2輪車をさらに圧倒する構造となっている。

 問題は台湾やマレーシアが日本のような構造になるかどうかである。4輪車に限定すると、台湾やマレーシアの1,000人あたりの保有台数は、日本と比べると少ない(表1より)。そのため、4輪車が増加する余地はあるように見える。

 しかし、2輪車と4輪車の合計では、1,000人あたりの保有台数は、台湾、マレーシアともに、既に日本の数値を上回っている。この点が気になるところである。

 今後、台湾やマレーシアで2輪車が4輪車に代えられるのであれば、日本と同じように1,000人あたりの4輪車の台数が増えるとともに、自動車全体における4輪車の割合も高くなるものと思われる。一方、4輪車の台数が増えたとしても、2輪車は減らず、全体における4輪車の割合が日本ほどに高くならない可能性もある。

 2輪車(バイク)の代替として自転車がある。台湾やマレーシアでは日本での自転車の感覚で2輪車(バイク)を保有していることはないだろうか。仮にそうであれば2輪車と4輪車がさほど代替関係にはならず、2輪車の保有台数が変わらないまま、4輪車が増加することもある。

 新車販売台数を見ても、日本の2輪車は4輪車と比較して大きく減少したが(図2)、台湾、マレーシアは日本のようにはなっていない。2輪車に対して4輪車が増大しているとは言えず、ともに景気の変動により増減を繰り返している(図4、図6)。

表 1 日本、台湾、マレーシアの比較

 

日本(2018年)

台湾(2017年)

マレーシア(2014年)

保有台数(2輪車)

1,073万台

1,376万台

1,173万台

保有台数(4輪車)

7,794万台

788万台

1,239万台

保有台数における4輪車の割合

88%

36%

51%

人口

1億2,653万人

2,357万人

3,071万人

1,000人あたり保有台数(2輪車)

85台

584台

382台

1,000人あたり保有台数(4輪車)

616台

334台

403台

1,000人あたり保有台数(合計)

701台

918台

786台

新車販売台数(2輪車)

34万台

91万台 

44万台

新車販売台数(4輪車)

527万台

26万台

67万台

販売台数における4輪車の割合

94%

22%

60%

出典:日本自動車工業会『自動車統計月報』『世界自動車統計年報』、日本総務省統計局、台湾内政部戸政司、マレーシア統計庁データより作成

 図7は1,000人あたりの保有台数の推移を比較したものである。これを見ると明らかであるが、台湾、マレーシアの2輪車の1,000人あたりの保有台数は既に日本の過去の最大値(153台、1986年)を大きく上回っている。よって、構造的には日本とは異なっている。

 台湾、マレーシアの1,000人あたりの保有台数は、4輪車、2輪車ともに時代とともに増加している。ただし、台湾は1989年の段階から既に2輪車の保有台数が4輪車を大きく引き離した形で増加している。

 これに対して、マレーシアは、4輪車と2輪車が同時に同程度に増加している。よって、台湾、マレーシアの4輪車、2輪車の構造も異なるものと思われる。

 もちろん、今後、台湾、マレーシアで、2輪車が減少し、その代替として4輪車が増加する可能性はある。そうなれば、それらが日本の構造に近くなると言える。実際に台湾では直近は2輪車が減少し、4輪車が増加している状況が観察できる。

 とはいえ、日本ほどになるかというとやや疑問である。台湾では直近では2輪車と4輪車では対照的な動きだが、それまでは同時に増加していた。4輪車が2輪車の代替になっているかどうかである。

 2輪車の代替として、自転車のほか、鉄道やバスなどのいわゆる公共交通がある。都市の集中などにより自動車の保有よりも公共交通の利便性が高まれば、4輪車の増加とは関係なく、2輪車が減少することもあるだろう。また、タクシーも国によっては料金水準が異なり、それにより利用方法も変わってくる。よって、それらを踏まえる必要がある。

図 7 1,000人あたりの2輪車、4輪車台数の推移(日本、台湾、マレーシア:単位台)

出典:日本自動車工業会『自動車統計月報』『自動車統計年表』『世界自動車統計年報』各年版、本田技研工業『世界二輪車概況』各年版、日本総務省統計局、台湾内政部戸政司、マレーシア統計庁データより作成

6.静脈市場をどう考えるか

 一方、静脈市場についてはどのように見ればよいだろうか。4輪車の保有割合が高い日本では、4輪車に重点を置いた静脈市場が形成され、2輪車の市場は小さいものと思われる。実際に日本では4輪車に特化した自動車解体業者は多く見られるが、2輪車に特化した者はほとんど見られない。

 その視点であれば、2輪車が相対的に多い台湾やマレーシア、その他東南アジア諸国では、日本よりも2輪車専門の静脈市場が形成されやすいということになる。しかし、そのような視点で静脈市場を見てよいかどうかである。

 静脈市場では、使用済み製品を回収、分別するための費用とその後の物品の売却による収入とのバランスにより成り立つものと思われる。そのため、ある程度の量の使用済み製品が発生し、またその売却先があることが重要である。

 その点で考えると、相対的なものというよりは絶対的なものである。4輪車の市場が圧倒的に大きくても、2輪車において相応の量が使用済みとなっているのであれば、市場は形成されうる。

 2輪車の保有台数で見ると、今回見た日本、台湾、マレーシアは近い数値となっている。2輪車が多い台湾では、2輪車に特化した解体業者は観察されている。それは「4輪車に比べて2輪車が多いから」という理由でよいだろうか。日本では中古車として輸出されていることから国内で使用済みとなる量が少ない。

 日本で2輪車に特化した解体業者が少ないのは、日本が4輪車の保有割合が高いということではなく、使用済みとなる量が少ないからという理由なのではないだろうか。この点は現地関係者などとディスカッションすべき事項である。

 一方でマレーシア型をどのように捉えるかである。同じような量が発生していれば、2輪車専門の解体業者が存在してもおかしくはない。この点はタイやインドネシア、ベトナムなどのデータを照らし合わせつつ、議論を進めたい。

 

参考文献

  • 自動車検査登録情報協会「自動車保有台数の推移」,https://www.airia.or.jp/publish/statistics/number.html,2020年1月26日アクセス
  • 総務省統計局「人口推計の結果の概要」,https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html,2020年1月26日アクセス
  • 日本自動車工業会『自動車統計月報』各月版
  • 日本自動車工業会『自動車統計年表』各年版
  • 日本自動車工業会『世界自動車統計年報』各年版
  • 本田技研工業『世界二輪車概況』各年版
  • Department of Household Registration, Ministry of the Interior. Republic of China (Taiwan), Total Population, Annual Increase, and Numbers and Rates of Natural Increase, Births and Deaths, https://www.ris.gov.tw/app/en/3911, access date: January 26, 2020
  • Department of Statistics Malaysia, Malaysia Economics Statistics – Time Series, https://www.dosm.gov.my/v1/, access date: January 26, 2020
広告