山口大学国際総合科学部 准教授 阿部 新
1.はじめに
前回、筆者は日本のアフリカ向け中古車輸出市場について貿易統計を整理した(阿部,2019)。そこでは同地域向けの輸出台数が増加傾向であり、アフリカ南東部に輸出が集中している実態を明確化した。南アフリカとケニアでアフリカ向けの中古車輸出台数のほぼ半数、タンザニアとウガンダを加えた4か国で4分の3を占めることなども分かった。
また、阿部(2019)では、アフリカはヨーロッパからも中古車を輸入していることに言及した。左ハンドル車が多いことから、アフリカ南東部以外の国・地域に輸出されていることは十分に予想できる。
拙稿においてもベナンやナイジェリア、ギニアといったアフリカ西部向けの数量が多いことが示されている(阿部,2010;2017)。しかし、ヨーロッパからアフリカ向けの中古車輸出市場の全体像を掴めているわけではない。
EUの中古車輸出台数は、日本と同じように貿易統計から該当する統計品目番号を拾えば集計できる。貿易統計は、EU統計局(EUROSTAT)により提供され、無料でダウンロードできる。そのため、EU諸国のアフリカ向けの中古車輸出市場を示し、日本との違いの程度を議論することはできる。
ただし、それを示す際に、EUROSTATの数値に集計ミスなどの外れ値がありうることが分かった。それを含めてしまうと全体の動向を見誤る恐れがあるため、慎重に集計する必要がある。
そこで、本稿では、外れ値をどのように回避するかを検討し、どの範囲で集計すべきかを示すことに重点を置く。そして、それに基づいてEUのアフリカ向け中古車輸出市場の動向の把握に繋げることとする。
2.対象範囲
まず、本稿において対象のアフリカ諸国・地域の範囲を表1のように設定しておきたい。これは、日本の財務省貿易統計の「外国貿易等に関する統計基本通達 別紙第1 統計国名符号表」を参考にしており、阿部(2019)と同じである。これを用いたのは、日本側の統計との比較を容易にするためである。
表 1 貿易統計におけるアフリカの国・地域
モロッコ、セウタ及びメリリア(西)、アルジェリア、チュニジア、リビア、エジプト、スーダン、西サハラ、モーリタニア、セネガル、ガンビア、ギニア・ビサウ、ギニア、シエラレオネ、リベリア、コートジボワール、ガーナ、トーゴ、ベナン、マリ、ブルキナファソ、カーボベルデ、カナリー諸島(西)、ナイジェリア、ニジェール、ルワンダ、カメルーン、チャド、中央アフリカ、赤道ギニア、ガボン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ブルンジ、アンゴラ、サントメ・プリンシペ、セントヘレナ及びその附属諸島(英)、エチオピア、ジブチ、ソマリア、ケニア、ウガンダ、タンザニア、セーシェル、モザンビーク、マダガスカル、モーリシャス、レユニオン(仏)、ジンバブエ、ナミビア、南アフリカ共和国、レソト、マラウイ、ザンビア、ボツワナ、エスワティニ、英領インド洋地域、コモロ、エリトリア、南スーダン |
出典:財務省貿易統計「外国貿易等に関する統計基本通達 別紙第1 統計国名符号表」
次に、EUROSTAT統計から集計できる中古車の種類を表2に示す。EUでは統計品目番号が8桁あり、自動車については多くの車種において、新車や中古車のコードが設定されている。それらを集計することで、どの国からアフリカのどの国・地域にどれだけ輸出されているかが見えてくる。
表 2 EUの貿易統計
車種 | 中古のコードの有無 | HSコード | |
バス | ディーゼル車 | ○ | 8702.10 |
ハイブリッド車(ディーゼル) | × | 8702.20 | |
ハイブリッド車(ガソリン) | × | 8702.30 | |
電気自動車 | × | 8702.40 | |
ガソリン車 | ○ | 8702.90 | |
乗用車 | 雪上車、ゴルフカーなど小型車 | × | 8703.10 |
ガソリン車、1000cc以下 | ○ | 8703.21 | |
ガソリン車、1000cc超1500cc以下 | ○ | 8703.22 | |
ガソリン車、1500cc超3000cc以下 | ○ | 8703.23 | |
ガソリン車、3000cc超 | ○ | 8703.24 | |
ディーゼル車、1500cc以下 | ○ | 8703.31 | |
ディーゼル車、1500cc超2500cc以下 | ○ | 8703.32 | |
ディーゼル車、2500cc超 | ○ | 8703.33 | |
ハイブリッド(ガソリン)車 | ○ | 8703.40 | |
ハイブリッド(ディーゼル)車 | × | 8703.50 | |
プラグインハイブリッド(ガソリン)車 | ○ | 8703.60 | |
プラグインハイブリッド(ディーゼル)車 | × | 8703.70 | |
電気自動車 | ○ | 8703.80 | |
その他 | × | 8703.90 | |
貨物車 | ダンプカー | × | 8704.10 |
ディーゼル車、5トン以下 | ○ | 8704.21 | |
ディーゼル車、5トン超20トン以下 | ○ | 8704.22 | |
ディーゼル車、20トン超 | ○ | 8704.23 | |
ガソリン車、5トン以下 | ○ | 8704.31 | |
ガソリン車、5トン超 | ○ | 8704.32 | |
その他 | × | 8704.90 |
出典:World Tariffより阿部新作成
3.数値の誤りの可能性
上記の定義に基づいて、EU28か国からアフリカ向けの中古車輸出台数を車種別(バス、乗用車、貨物車)に示したものが図1である。これを見ると、2011年の貨物車の数値が突出していることが目に入る。
急激に市場が開かれ、短期間で閉じられることもなくはないが、前年度からの急増や、この年の貨物車の乗用車と比べたシェアの大きさはやや不自然である。よって集計ミスなどの外れ値の可能性を想定する必要がある。
図 1 EU28か国のアフリカ向け中古車輸出台数の推移(単位:台)
出典:EUROSTATより阿部新集計
不自然な値について、2011年に焦点を絞って細かく見ていく。まず、品目別に見てみると、統計品目番号8704.22.99(5トン超20トン以下のディーゼル貨物車)の台数が前後の年と比べると突出して多いことが分かった。
そして、2011年のこの品目について、仕向地別に見ると、ジンバブエ、ケニア、ザンビア、ナミビア、ボツワナ、南アフリカ、モザンビーク向けの台数が前後の年よりも著しく多くなっていることが分かった。それを示したのが表3である。
貿易統計では、同じ輸出量について重量(単位:100kg、以下同様)でも示すことができる。表3にはこの重量も示しているが、これを見てみると、重量は台数と異なり、前後の年と大きな差がないことが分かる。
さらに、この重量を台数で割ってみると、2011年の上記の国の数値は正常とは言い難い値になっていることが見えてくる。例えば、2011年のジンバブエ向けの「重量/台数」は0.1とあるが、これは1台あたり10kgという意味である。2010年や2012年の状況、あるいはナイジェリアやトーゴなどの状況と比べても、上記の7か国の2011年の台数は不自然であり、外れ値の可能性があることは否めない。
表 3 EU28か国のアフリカ主要仕向地向け中古貨物車(5トン超20トン以下のディーゼル車)輸出台数
台数 | 重量(100kg) | 重量(100kg)/台数 | |||||||
2010 | 2011 | 2012 | 2010 | 2011 | 2012 | 2010 | 2011 | 2012 | |
ジンバブエ | 184 | 192,078 | 504 | 15,309 | 23,935 | 42,505 | 83.2 | 0.1 | 84.3 |
ケニア | 1,062 | 164,935 | 1,388 | 75,691 | 74,159 | 97,543 | 71.3 | 0.4 | 70.3 |
ザンビア | 565 | 129,964 | 1,481 | 52,743 | 86,287 | 142,185 | 93.4 | 0.7 | 96.0 |
ナミビア | 254 | 116,096 | 489 | 22,995 | 50,931 | 40,987 | 90.5 | 0.4 | 83.8 |
ボツワナ | 85 | 39,949 | 89 | 7,557 | 11,834 | 7,521 | 88.9 | 0.3 | 84.5 |
ナイジェリア | 6,985 | 9,183 | 10,301 | 565,586 | 712,284 | 819,269 | 81.0 | 77.6 | 79.5 |
南アフリカ | 318 | 9,044 | 160 | 25,243 | 25,437 | 9,570 | 79.4 | 2.8 | 59.8 |
モザンビーク | 176 | 7,870 | 382 | 14,138 | 28,157 | 34,362 | 80.3 | 3.6 | 90.0 |
トーゴ | 1,593 | 1,721 | 1,777 | 126,639 | 138,213 | 142,942 | 79.5 | 80.3 | 80.4 |
ガーナ | 725 | 1,413 | 1,544 | 59,501 | 113,850 | 134,117 | 82.1 | 80.6 | 86.9 |
出典:EUROSTATより阿部新集計
注: 統計品目番号8704.22.99を集計し、主要仕向地10か国分を示したもの。
4.イギリス問題の浮上
表3の数値は、EU28か国全体からアフリカ各国・地域に輸出されたデータを示したものである。そこで、この28か国を分割し、どの国からの輸出が問題であるかを特定する作業をしてみる。具体的には、統計品目番号8704.22.99のアフリカ向けの輸出台数について、EU各国別に2011年の数量を見る。
この結果、上記の問題となる台数の大多数はイギリスからのものであることが分かった。表4は、2011年の数量について「イギリス」と「その他EU」に分け、色付けしているが、ここにイギリスからのものが大多数であることが示されている。
また、表4では、イギリスから上記の仕向地、品目の2011年の輸出台数について、月別に示している。これを見ると、月によっても大きなばらつきがあることが分かる。計上をまとめて行うことで、月によって台数が偏ることはなくはない。よって、実態はイギリスの税関など関係機関に聞かないと分からないが、重量との対比を考慮すれば、イギリスからの輸出は不自然であり、注意した方がよさそうである。
表 4 EUのアフリカ7か国向け中古貨物車(5トン超20トン以下のディーゼル車)輸出台数(2011年,月別,輸出国別)
ボツワナ | ケニア | モザンビーク | ナミビア | 南アフリカ | ザンビア | ジンバブエ | ||
イギリス | 39,949 | 164,912 | 7,816 | 116,085 | 8,973 | 129,954 | 192,077 | |
1月 | 13 | 37 | 25 | 40,024 | 18 | 9,054 | 12 | |
2月 | 6 | 25 | 47 | 39 | 59 | 9,578 | 28,029 | |
3月 | 12,919 | 65 | 15 | 7,038 | 15 | 8,092 | 16,459 | |
4月 | 26,934 | 76 | 7,553 | 44 | 13 | 33,079 | 38,017 | |
5月 | 3 | 62 | 10 | 9,018 | 16 | 20,054 | 19 | |
6月 | 11 | 74 | 31 | 38,081 | 36 | 18,053 | 34 | |
7月 | 4 | 91 | 12 | 21,563 | 21 | 7,592 | 80,008 | |
8月 | 19 | 147 | 35 | 67 | 8,691 | 92 | 30 | |
9月 | 7 | 120 | 3 | 60 | 50 | 45 | 29,400 | |
10月 | 13 | 20 | 28 | 53 | 23 | 24,089 | 19 | |
11月 | 13 | 96 | 25 | 35 | 21 | 119 | 27 | |
12月 | 7 | 164,099 | 32 | 63 | 10 | 107 | 23 | |
その他EU | 0 | 23 | 54 | 11 | 71 | 10 | 1 | |
合計 | 39,949 | 164,935 | 7,870 | 116,096 | 9,044 | 129,964 | 192,078 |
出典:EUROSTATより阿部新集計
注: 統計品目番号8704.22.99を集計。「その他EU」はイギリスを除く27か国の合計
5.外れ値の検出
前節で見たように、EUの貿易統計には外れ値と思われる数量が含まれている可能性がある。図1では貨物車の数量が突出していたため判明したが、それは偶然の結果である。データに外れ値があっても、輸出国や仕向地を合計することで、気が付かない場合がある。そのため、全てのデータについて細かく確認する必要が出てくる。その際に、輸出国別、仕向地別、品目別、年別、月別にデータを細かく分割することが重要である。
外れ値の検出方法については様々あるだろうが、四分位範囲(IQR)というものがよく用いられる。これは、与えられた数値のうち、下から25%に位置する値を第1四分位数、下から75%(上から25%)に位置する値を第3四分位数とし、[第3四分位数-第1四分位数]を四分位範囲とするものである。そして、[第3四分位数+四分位範囲×1.5]以上、[第1四分位数-四分位範囲×1.5]以下を外れ値とする。
前節の表4のデータの範囲は、(A)イギリスから、(B)アフリカ7か国向けの、(C)品目8704.22.99について、(D)2011年の、(E)1月~12月分のデータであった。本節ではより範囲を広げ、 (a)EU各国から、(b)アフリカの全ての国・地域向けの、(c)中古乗用車の各品目について、(d)2014年から2018年の、(e)1月~12月分の数量データを確認する※。
※本来であれば、(c)はバスや貨物車、(d)は5年分ではなく、10年分または15年分のデータを用いて検証したいが、ダウンロード可能なデータの容量の制約により、上記の範囲で検証した。後述するようにバス、貨物車および2013年以前については別途検証している。
ここで得られる数量は市場の動向により変動があるが、1台あたりの重量であれば数量そのものよりも変動は小さいと考えられる。そのため、上記(a)~(e)の範囲の全ての「輸出国・仕向地・品目」の組み合わせにおいて、月別の「重量/台数」を求め、その四分位範囲から外れ値をピックアップするという方法が1つ考えられる。
試しにこれをやってみると、多くの「輸出国・仕向地・品目」の組み合わせの複数の月で外れ値が検出されていることが分かった。つまり、結構な数の外れ値がありうる。ただし、数値を眺めていると、これらが本当に外れ値であるかどうかは疑問である。
例えば、品目8703.23.90は、1500cc超3000cc以下のガソリン車であるが、同じ品目番号であっても1500ccに近い車と3000ccに近い車とでは1台あたりの重量が異なるだろう。輸出実績が少ないものはとりわけその影響を受けやすい。よって、正しく計上された数値であっても外れ値として検出される可能性があり、それらを取り除いてしまってよいのかという疑問が残る。
一方で、前節の表3および表4のような他の月よりも著しく多い数量が外れ値に含まれることもある。そのようものは全体の数量に影響するため、回避した方がよい。そこで、上記(a)~(e)の範囲の全ての「輸出国・仕向地・品目」の組み合わせにおいて、各月の「台数/重量」を求める。そして、その最大値と中央値を比較し、著しくかけ離れている数値がないかを見ていく。
ここで、台数と重量の比率について、上記の四分位範囲による検出では「重量/台数」としたが、ここでは分母、分子を逆にして「台数/重量」としている。表3で見たように、輸出台数で極端に大きい数値がある場合、「重量/台数」ではゼロに近い値になる。輸出実績がない月の「重量/台数」はゼロになり、それと混同する場合がある。これを避けるためにここでは「台数/重量」とする。
表5はこれに基づいて算出されたものである。これは「輸出国・仕向地・品目」の組み合わせにおいて、2014年1月から2018年12月までの5年間の合計台数の多い順の上位20組を並べたものである。
また、各組み合わせにおいて、月別に「台数/重量」を算出し、その中央値と最大値を示している。これを見ると、「台数/重量」の中央値から著しく離れているものはやはりイギリスからの輸出であることが分かる。
表 5 EU各国からアフリカ諸国への中古車輸出数量における台数と重量の割合
輸出国 | 仕向地 | 品目 | 合計 台数 | 台数/重量 | ||
中央値 | 最大値 | 最大値/中央値 | ||||
ベルギー | ベナン | 8703.23.90 | 322,492 | 0.097 | 0.100 | 1.023 |
ベルギー | ギニア | 8703.23.90 | 89,084 | 0.099 | 0.111 | 1.121 |
ドイツ | ベナン | 8703.23.90 | 88,333 | 0.080 | 0.086 | 1.086 |
ベルギー | リビア | 8703.23.90 | 84,370 | 0.094 | 0.100 | 1.063 |
ベルギー | ナイジェリア | 8703.23.90 | 78,383 | 0.088 | 0.140 | 1.599 |
イギリス | ナイジェリア | 8703.21.90 | 72,729 | 0.035 | 3.244 | 91.506 |
ベルギー | コートジボワール | 8703.23.90 | 72,163 | 0.090 | 0.096 | 1.057 |
ドイツ | ナイジェリア | 8703.23.90 | 69,127 | 0.071 | 0.073 | 1.030 |
ベルギー | トーゴ | 8703.23.90 | 60,998 | 0.097 | 0.099 | 1.016 |
ベルギー | カメルーン | 8703.23.90 | 55,432 | 0.091 | 0.097 | 1.067 |
ベルギー | セネガル | 8703.23.90 | 48,016 | 0.093 | 0.200 | 2.138 |
イギリス | タンザニア | 8703.32.90 | 38,384 | 0.050 | 73.933 | 1492.109 |
ドイツ | リビア | 8703.23.90 | 35,782 | 0.080 | 0.084 | 1.054 |
ベルギー | セネガル | 8703.32.90 | 29,734 | 0.074 | 0.106 | 1.444 |
イギリス | ナイジェリア | 8703.23.90 | 29,675 | 0.037 | 3.925 | 107.244 |
ドイツ | トーゴ | 8703.23.90 | 28,243 | 0.078 | 0.085 | 1.091 |
イギリス | ナイジェリア | 8703.22.90 | 27,500 | 0.047 | 4.575 | 98.356 |
ベルギー | ギニア | 8703.32.90 | 25,949 | 0.086 | 0.107 | 1.243 |
ドイツ | ニジェール | 8703.23.90 | 25,728 | 0.081 | 0.086 | 1.068 |
オランダ | リビア | 8703.23.90 | 24,298 | 0.076 | 0.076 | 1.003 |
出典:EUROSTATより阿部新集計
注:EU28か国からアフリカ諸国・地域への中古乗用車の輸出について「輸出国・仕向地・品目」の組み合わせを作り、2014年~2018年の合計台数の上位20組を並べた。「合計台数」は2014年~2018年の輸出実績の合計、「台数/重量」の中央値、最大値は、2014年~2018年の各月の「台数/重量」の中央値、最大値である。「重量」の単位は100kgである。「品目」は、その番号の左から6桁までが表2の「HSコード」に一致し、残り2桁はそれらの中古車であることを示す。
6.イギリス問題を再び考える
表5をよく見てみると、イギリスからのものは、いずれも「台数/重量」の最大値が1を超えている。つまり、輸出実績の中で1台あたりの重量が100kgを下回っている月があるということである。
そのような数量は現実的とは思えず、外れ値の可能性がある。「台数/重量」の最大値がどの程度であれば現実的と言えるかは別途検討する必要があるが、ひとまずここでは1を超えているかどうかを1つの指標としてみる。
表5では、「輸出国・仕向地・品目」の組み合わせにおいて、合計台数の上位20組を示している。それより数量が少ない組み合わせを順に見てみると、「台数/重量」が1を超えている主要なものは、イギリスからの輸出である。イギリス以外の国で「台数/重量」が1を超えているものもあるが、輸出台数は少ない。
最も多いものは、イタリアからガーナ向けの1000cc超1500cc以下のガソリン車(8703.22.90)であり、5年間の輸出台数の合計はわずか2,577台である(外れ値の可能性の月は2016年10月であり、56.1トン、790台である)。つまり、イギリス以外でも外れ値を含む可能性はあるが、全体の傾向を見るには大きな影響を与えるようには思えない。
イギリスからの輸出台数について、月別で見たものが図2である。ここでは2014年1月から2018年12月の合計台数が1万台以上の「仕向地・品目」の組み合わせの数量を示している。これを見ると、前節の表4と同じように特定の月が他の月と比べて著しく多い。
図2だけを見ると、急激な市場の変動で実際にその特定月に輸出されていたり、あるいは事務処理上の問題でこの月にそれまでの輸出実績を一括して処理していたりする可能性を否定できない。
だが、これらは「台数/重量」の最大値が1を超えており、1台当たりの重量が100kgを下回っている。それらを見ると、イギリスからのアフリカ諸国向けの中古車輸出には外れ値が含まれる可能性があり、注意を要すると言える。
図 2 イギリスのアフリカ向け中古乗用車輸出台数の推移(月別,主要仕向地・品目別)
出典:EUROSTATより阿部新集計
注:各棒は2014年~2018年の合計台数が1万台以上の「仕向地・品目」の組み合わせを示す。「品目」は、その番号の左から6桁までが表2の「HSコード」に一致し、残り2桁はそれらの中古車であることを示す。
7.全体の傾向を示すための方向性
上記の作業により、EUROSTATにおいて、イギリスからの輸出は注意を要することが分かる。前節では2014年~2018年の5年間で見たが、2009年~2013年の5年間で見ても、同じような結果となった。
つまり、「台数/重量」が1を超える主要な「輸出国・仕向地・品目」の組み合わせは、全てイギリスからの輸出である。さらに遡り、2008年以前を見ると、同じくイギリスからのものが中心であるが、イギリス以外でも「台数/重量」が1を超えるケースが上位に出てきている。
例えば、2005年6月のドイツからリビア向けの輸出(品目8703.23.90、32.2トン、1,878台)、2008年1月のフランスからセネガル向けの輸出(品目8703.33.90、13.3トン、9,242台)がこれに該当する。イギリスほどの数量的な影響はなく、無視しても問題なさそうだが、念のため、対象年として2008年以前は避けておくことが無難である。
乗用車以外はどうだろうか。貨物車について全ての「輸出国・仕向地・品目」で各月の「台数/重量」を算出してみると、その数値が1を超えるものは、やはりイギリスからのものが中心である。
ただし、合計台数が上位の組み合わせの中に、イギリス以外の国もある。例えば、イタリアからガーナ向けの5トン以下のガソリン車(8704.31.39)の輸出台数は、2018年6月は15,000台だが、重量ではわずか15トンである。同組み合わせの5年間の合計も15,006台と不自然な実績となっている。
また、フランスからタンザニア向けの5トン以下のディーゼル車(8704.21.99)は5年間のうち、輸出の実績があったのは2015年8月のみである。その数値は10トン、9,950台であり、やはり不自然である。よって、貨物車の場合、イタリアやフランスからの輸出も注意した方がよさそうである。
バスについてはイギリスからのものがやはり問題であるが、他の国からのものについて貨物車のようなことはない。そもそも数量が少ないため、中古車輸出市場全体を考察するにはバスの数量の影響はなさそうである。中古バス市場に特化して分析するなどしないのであれば、敢えてバスを集計する必要はないだろう。
以上をまとめると、EUのアフリカ向け中古車輸出市場の全体の傾向を見るためには、以下の3点を留意することが望ましい。
- バス、貨物車を含めず、乗用車のみで中古車輸出台数を集計すること
- 2009年以降のものを集計すること
- イギリスの数値は分離するなど注意すること
EU全体の数量を示す場合、イギリスを除いたものとすることが賢明である。またはEU全体ではなく、個別国の動向として示すべきである。外れ値と思われるものについては、重量から台数を推計するなどの方向もあるだろうが、それを含めずに議論を進めていくこともよいだろう。これらは今後の課題である。
8.EUのアフリカ向け中古車輸出市場の概観
以上を踏まえて、アフリカ向け中古車輸出市場を概観する。乗用車を対象とし、イギリスを除いた2009年以降のデータを用いる。図3はイギリスを除いたEU27か国からアフリカ向けの中古乗用車の輸出台数の推移である。これを見ると、20万台から70万台で推移しており、15万台から35万台で推移してきた日本よりも若干多いことが分かる。
数量の増減はそれなりにあり、日本の傾向とはやや異なる。具体的にEUの台数において2011年から2012年にかけて急増し、その後減少傾向となっている点は、同時期に増加傾向だった日本とは異なる。また、2016年に減少し、その後増加傾向になっている点は日本の事情と一致する。
なお、図1の乗用車のみを抽出し、図3と比較すると、同じような傾向であり、イギリスを含めたとしても同じような評価になる。そうなると、イギリスの外れ値の問題は大きな影響ではないように思える。
しかし、イギリスが問題であるということを知らずして集計することは危険である。仮に図1を車種別に示さず、合計値として示した場合、2011年に急増したと評価しただろう。この点で外れ値の可能性を考慮することの重要性が理解できる。
また、図3は、輸出国別に分けられている。これを見ても明らかなようにEU27か国からアフリカ諸国への中古乗用車の輸出の大多数がベルギーとドイツからである。図3の2009年~2018年の中古乗用車の輸出台数の合計は、407万台程度であるが、このうちベルギーからが57%(231万台)、ドイツからが29%(117万台)であり、この2か国で全体の85%程度を占める。
それに続くのがオランダ(5%)、フランス(3%)、スペイン(2%)、イタリア(2%)である。重量で見ても、EU27か国の2009年~2018年の合計のうちベルギー、ドイツで83%程度と多く、この2か国がEUのアフリカ向け中古車輸出市場において重要である。
なお、イギリスを含めたEU28か国について重量を見ると、国別のシェアはベルギーが46%、ドイツが29%であるのに対して、イギリスは11%程度である。ベルギー、ドイツほどではないが、イギリスも輸出国としては無視できない国であると言える。
図 3 EU27か国のアフリカ向け中古乗用車輸出台数の推移
出典:EUROSTATより阿部新集計
注:EU27か国はイギリスを除いたEU加盟国である。
9.まとめ
以上のように、EUROSTATの統計には外れ値が含まれる可能性があり、それを留意して貿易量を集計する必要がある。本稿では、偶然に中古貨物車の輸出台数で不自然な動きが観察されたため、外れ値の検出に至ったが、それに気が付かなければ、誤った評価で市場を見ていたかもしれない。
EUのアフリカ向け中古車輸出市場の全体の傾向をより正確に捉えるためには、イギリスや貨物車を除くことが賢明である。これらは推計をするか、あるいは別途単独で重量を用いて傾向を見た方がよい。次回ではこれを踏まえつつ、EU各国のアフリカ向け中古車輸出市場を日本の状況と対比しながら詳しく見ていきたい。
参考文献
- 阿部新(2010)「中古乗用車の貿易量に関する日欧比較:国際資源循環の観点から」『一橋大学経済研究所Discussion Paper Series』,A-No.531
- 阿部新(2017)「欧州の中古車輸出市場の現状」『月刊自動車リサイクル』(79),36-47
- 阿部新(2019)「アフリカ向け中古車輸出市場に関する統計整理」,(https://www.seibikai.co.jp/archives/recycle/8753)