阿部 新
山口大学国際総合科学部准教授
1.はじめに
前回(阿部,2019)の連載において、筆者は阿部(2018)を踏まえて、首都圏8都県(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県)の抹消登録台数(廃車台数)を時系列的に算出した。
地域別の抹消登録台数は、前期末自動車保有台数+当期新車販売台数+当期中古車国内流入台数-当期末自動車保有台数によって算出される。阿部(2018)では1983年と2017年の2時点間の抹消登録台数の比較のみだったが、前回の阿部(2019)ではその間を埋め、1983年から2017年の8都県別の抹消登録台数を時系列で示した。
また、阿部(2019)では、これら都県の抹消登録台数のみならず、そのうちの中古車国内流出台数[1]の割合も示した。それは各都県内での循環を示す指標となりうる。中古車国内流出台数だけではどの程度が域内で使用済みとなっているかは見えてこないが、抹消登録台数を分母に据えることでそれが見えてくる。
[1] 「中古車流出台数」と呼ぶことが多いが、「中古車輸出台数」を含まないことを明示するために、本稿では「中古車国内流出台数」と表記することとする。
その傾向については別途議論が必要であるが、東京都で国内流出の割合が50%程度と高いことなどが示された。つまり、十分に想定されるが、東京都では域内で使用済みとはなりにくいということが言える。さらに1980年代はその割合が40%程度だったものが、近年では50%程度と上昇していることも示された。
問題はその行方である。東京都からは流出が多いとしても、それが近隣県で使用済みとなるのか、あるいは広域に移動するかは分かっていない。また、それが時代とともに変わるものなのかも確認しておく必要がある。
阿部(2018)や阿部(2019)で用いた中古車国内流出台数は、日本自動車販売協会連合会の『自動車統計データブック』に掲載されている。
都道府県が47×47のマトリックス上に一対一で対応している。本稿では、東京都、首都圏を中心にそのデータを1980年代から時系列的に整理したい。
2.中古車国内流出台数の推移
まず、全体的な中古車国内流出台数を見ておく。図1は中古車国内流出台数の全国合計の推移である。これを見ると、1980年代から2000年代半ば以降まで増加傾向にあり、ピークは2004年の206万台であることが分かる。
その後は減少し、最近では160万台前後となっている。ここ数年は若干ではあるが増加傾向にある。なお、阿部(2019)でも言及したが、2000年の数値は極端な変動であり、対象車種の範囲など集計上のミスを含めた要因を考えるべきである。
図 1 中古車国内流出台数の全国合計の推移
出典:『自動車統計データブック』各年版より阿部新作成
図2は、中古車国内流出台数の全国合計のうち、各地方運輸局のシェアを示したものである。地方運輸局の管轄区域は2002年に変更があったが[2]、その対象の東北、中部、新潟、北陸信越の各運輸局は、ここでは除外している。これを見ると、首都圏(関東)からの中古車国内流出が圧倒的に多く、近畿がそれに続いている。
[2] 国土交通省「地方運輸局の組織再編の実施について」(平成14年6月28日)によると、地方運輸局の管轄区域は2002年7月1日より変更されていることがわかる。具体的には、まず、新潟運輸局が新区域制度ではなくなり、北陸信越運輸局に変わっている。また、山形県、秋田県は旧管轄区域では新潟運輸局だったが、新管轄区域では東北運輸局になっている。同じく富山県、石川県は旧管轄区域では中部運輸局だったが、新管轄区域では北陸信越運輸局である。『自動車統計データブック』でも2003年以降は新たな管轄区域で地方運輸局ごとの合計を示されている。
首都圏の数量は、1990年前後は全体の46%程度であり、近年はやや減少し、42%程度である。近畿は16~17%で、ほとんど変わらない。図にはないが、近畿に続くのが中部である。
2003年より富山県、石川県が除かれたものの、実はその前後で中部のシェアは変わらず、15~16%である。全体的には大きな変動はなく、首都圏がやはり中古車流出の起点であることが言えそうである。
図 2 中古車国内流出台数の地方運輸局別(一部)のシェア(単位:%)
出典:『自動車統計データブック』各年版より阿部新作成
図3は、東京都と東京都以外の首都圏7県の中古車国内流出台数、およびそれらの全国におけるシェアを見たものである。これを見ると、東京都は数量、シェアともに減少していることが分かる。
数量のピークは1990年代半ばであり、それから10万台近く減少している。東京都からの中古車国内流出台数の全国におけるシェアについては1980年代の20%から減少し、近年では13%である。
東京都以外の首都圏7県の数量は、1980年代から90年代半ばまでは右肩上がりの増加傾向であった。全国合計(図1)と同じく2004年が最も多く、それから減少している。全国におけるシェアは1980年代から増加し、25%前後だったものが、近年では30%程度になっている。
つまり、図2の全国におけるシェアにおいて関東(運輸局)の数値がやや減少していたが、それは東京都の減少によるものが大きいと考えられる。それが示唆するのは、東京都以外の道府県からの流出が相対的に広がっているということである。
図 3 東京都、首都圏(東京都以外)の中古車国内流出台数と対全国シェアの推移
出典:『自動車統計データブック』各年版より阿部新作成