7.まとめ
本稿では、阿部(2018)で行った地域別の抹消登録台数の算出作業をより効率化するため、関連統計の整理を行った。それにより阿部(2018)では捉えられなかった地域別の抹消登録台数の変動が明らかになった。阿部(2018)では、1983年と2017年の比較により、東京都において抹消登録台数が減少している状況を示した。
それのみで考えると、東京都と他県で抹消登録台数の発生量の推移に時間差があることなどの思い込みが生じうる。例えば、東京都では1980年代から抹消登録台数が減少傾向になり、北関東3県では増加したというような状況などである。
しかし、今回の整理により、東京都の抹消登録台数は、1980年代は増加傾向であることが分かった。1983年よりも減少したのは2009年以降である。また、北関東3県も1980年代は確かに増加したが、東京都以上に増加しているかというとそうでもない。つまり、地域別の抹消登録台数の発生の時間差は顕著には見えなかった。これをどのように説明するかはさらなる課題である。
今後の方向性の一つは、1960年代、70年代の状況を見ることである。実は本稿でも1960年代、70年代の抹消登録台数について検討したが、データの制約により対応できなかった。そもそも地域別の抹消登録台数の算出に重要となる中古車国内流出入台数は1983年以降しかない。
そのため、それ以前の抹消登録台数は正確に算出できない。また、1960年代、70年代の都道府県別の保有台数は入手できたものの、新車販売台数については効果的な年別データは入手できなかった。そのような中でどのように1960年代、70年代の状況を明らかにするかである。
一方、本稿では各都県の抹消登録台数中の中古車国内流出台数の割合を示したが、それは全ての都県で増加していることが分かった。モータリゼーションの時間差により、大都市から地方へ中古車が流れるのであれば、大都市の抹消登録台数中の中古車国内流出台数の割合は高いはずである。
実際に東京都は高い割合を示した。経済が成熟化し、地方のモータリゼーションが浸透するのであればその割合が低くなる可能性もあるが、東京都の場合はそのようなことはなく、増加した。神奈川県や千葉県、埼玉県も流出県であり、抹消登録台数中の中古車国内流出台数の割合が増加している。
もちろん、大都市と地方の経済格差は現在でもあるだろうが、モータリゼーションの初期段階とは事情が異なるように思える。経済格差以外にオートオークション事業の拡大、インターネットの普及などで中古車取引が広域化したことも要因として挙げられる。この点もさらなる議論が必要である。
また、抹消登録台数中の中古車国内流出台数の割合が増大したと言っても、首都圏の他の都県への流出が増大した可能性もある。つまり、首都圏内で循環しているということである。本稿では各都県の流出について示し、首都圏内、首都圏外に分けて考えていない。首都圏(関東)全体の数値も捉える必要があるだろう。この点は次回以降の課題である。
参考文献
阿部新(2018)「地域別の抹消登録台数の比較考察:首都圏を事例に」 『月刊自動車リサイクル』(93) , 34-44