次に向かったのが、日産よりわずか1年遅れの昭和9年創業のW社である。日産の各工場で発生する鉄くずなどを集荷・加工して製鉄メーカーに納入してきた実績があり、90年代に放置車両問題が起きたころからELV(使用済み車両)のリサイクルに取り組み、エアバッグの処理法、より合理的なリサイクル技術などを開発してきた。現在、全国に7ヶ所のリサイクル工場を持ち、月4,000台の車両を処理していると言われる。
筆者がうかがったのは、リーフを組み立てている横須賀の追浜工場とは海を隔てて目と鼻の先にあるリサイクル工場。これまでさまざまなリサイクルへの取り組みがこの工場で展開されたことから、この企業のマザー工場という位置づけである。某商社のOBであるQさんに言わせると
「このスキームの叩き台になった資料や数字などはW社から出ているはず。日産スキームは終局的にはこの企業が持つ全国7つの工場で展開すると私は見てるね」という。Qさんが言うには、W社が、スキームの実際の推進力だというのだ。
ところが、W社のリサイクル工場の担当者Eさんに話を聞いてみると、Qさんの言うことの半分は正しいが半分はそうではないということが分かった。「たしかに日産のスキームのペーパーで登場するデータや数値はほぼウチから出たものです。実は3年ほど前から、このリサイクル工場で実証実験を重ねてきたものなのです。本格的にこの取り組みをスタートさせたのはこの3月で丸1年ですよ。
もともと、この日産スキームというプロジェクトは、カルロス・ゴーンが日産にやってきてからあちこちの課題の多い部署にプロジェクトチームを作り、何とか利益を上げようという動きのひとつなのですよ。私はそう見ています」
つまり利益の薄いもしくは赤字部署を見つけてはプロジェクトチームを構築し、利益を上げられるようにする、リストラのひとつだというのだ。
「表面的には廃車を新車の資源として活用することで環境負荷を低減する、と言っているが、中身は利益追求型プロジェクトでしかないですよ。このスキームを実施すると、これまで100あった利益が60も日産に持って行かれて、残るのは40だけですよ。リーマンショックの前まではトン7万円以上だったスクラップが、トン3,000円に暴落した。このスキームに組み込まれると、確かにこうした市況に左右されないという見かけ上の利点はあるかもしれない。それに部品については解体屋さん側の売り放題ですから、販売力のある企業なら何とかやっていけるかもしれない。でもたとえばサニーのワイヤーハーネスは14kgということなのだが、実際ニブラで取り外すとせいぜい10kgしか取り出せない。となると4kgは、こちらの持ち出しになるわけです。日産側にその分お金を戻す約束ですから」
このリサイクル工場では、D社のように作業員の手で分解するわけでなくニブラと呼ばれる重機を使うため、1台当たり約40分で解体が終了する。その面でもたしかに有利とは言えるが、Eさんの舌鋒は鋭い。「日産はこのスキームでかなりの利益を上げているはずですよ。でもこれが神奈川だけの問題ではない、九州でもこのスキームを展開すると彼らは計画しているらしいから、江戸時代の一揆ではないけどムシロ旗が立つんじゃないですか! もちろん、カルロス・ゴーンはそんなことは知りませんよ・・・」
ところで、この工場で≪生産≫されたガラは日産の栃木工場に運ばれ、新車のボディパネルの素材になるという。触媒の方は「どこに運び込んでいるのは不明なんです。再生するにはそれなりの設備が必要なので多分どこかに転売しているんでは・・・」と言葉を濁す。
それにしてもスキームとは一体何なのか? 日ごろ、言葉の世界にいるジャーナリストとしては、今一度辞書をひもといてみる・・・。Scheme:計画、案、(会社の)事業計画。Planよりも堅い言葉。複数で陰謀、たくらみ、とある。
渦中の「神奈川自動車リサイクル協同組合」に聞く