映画「ALWAYS 三丁目の夕日‘64」の第3作目が来年公開予定だという。人情味あふれた昭和の人々の生活を描いて大ヒットになったシリーズだ。青森から“金の卵”として集団就職で「鈴木オート」にやってきた堀北真希の演ずる少女は、2作目までは近所のおばちゃんの自転車しか修理できなかったが、3作目ではたぶん腕を磨き自動車の修理が出来る一人前のキャリアウーマンに成長しているはず。その働く女性はきっと、「鈴木オート」と付き合いのある近くの自動車解体業者に頻繁に出入りし、ときには廃車を持ち込んだり、修理で使う中古部品を手に入れているはず!?
自動車解体業者は、陰ながら日本のモータリゼーションを下支えてきた。静脈産業の要であり、安い修理を希望するユーザーになくてはならない存在でもあった。そうした硬い言葉で語らなくても、実は、クルマが大好きだが財布にゆとりのない青年は、かならず解体業者にお世話になっている。それはごく一部のユーザーかもしれないが、自動車解体業者は、ワンダーランドなのだ。LAなどには、メキシカンの家族が部品剥ぎ取りセンターに出かけ、わいわいがやがや部品探しをおこない、駐車場で破損したフロントガラスを交換する・・・そんな光景がある。
今回「日産スキーム」を取材する中で、痛いほど感じたのは、自動車解体業者があまりにも弱小で、自動車メーカーの前には「蟷螂(とうろう)の斧」でしかない。つまり小動物のカマキリの斧のほどのチカラしか持ち合わせていないという事実。自動車メーカーのほうも、これまできちんと自動車解体業者と向き合ってこなかったきらいがある。
そこに、ボタンのかけ違いが生じ、問題がこじれる要素があると思われる。「ALWAYS 三丁目の夕日」では、50年前のモータリゼーションを前にした人々が、共通の希望に向けてがんばった。それと同じ、きれいな眩いばかりの夕日を思わせる、そんなスキームの再構築をすべきだと思う。
台数は少ないが仕方なしにやっているF商店の場合
次に取材したのが、神奈川県のはずれにあるF商店である。
3代目だという40歳代の若い社長は、身長が180センチあり、学生のころテニスで鍛え大学で電子工学を学んだという人物。この人もD商店の社長同様にかつての自動車解体業の親父からは遠いジェントルマンだ。
「日産スキームですか、うちでは月に1台ぐらいしかやっていませんよ」といきなりの肩透かし。聞けば、「スクラップ・インセンティブの時期にピークで全体の入庫車両が300台を超えていた。その時で日産車は20%前後の約60台。元々、日産車比率が少なく、持ち込み、オークションでの買い入れ、修理工場からの引き取りなどがうちの社の仕入れルートなのですが・・・それと、日産スキームの場合は、保管場所の確保、引き渡しの手間、電子マニフェスト的な事務手続きで、しかも台あたり8,000円の手間賃。利益が出る仕組みではないけど、ある意味仕方なしにやっている」との答え。先のD商店の社長と、ほぼ同じ口調である。
「今のところメリットもないし、今後メリットが出てくるとも思えない・・・安定的に販社からタマ(廃車)を出すように今回のスキームの担当者は努力していると説明を受けるのだが、今のところさっき言った通り、月に1台というのが現状です」
正直言ってわずか1台のために別に部品の保管場所を設けたり、書類作成を別立てにしたり。しかも素材の引き渡し先も異なるという。決して広くないヤードで資材引き取りの大型車両がバッティングするのでは・・・と他人事ながら心配になる。「素材の保管場所は、今のところ、触媒と甲山(足回り部品などの鉄素材)だけですが、これで台数が増えればワイヤーハーネス、アルミ素材なども別保管にせざるを得ない」・・・にもかかわらずスキームに付き合っているのは、仕入先との軋轢(あつれき)を生みたくないという深謀遠慮(しんぼうえんりょ)からだ。
このF商店の社長から、さらに面白い話が聞けた。
「当初、日産は、この販社から届いたペーパーの4ページにある指定製造品目10品目について、すべて自由に販売して結構です。ただし、解体物品重量での契約のため、他社の物品で補填し、規定の重量に合わせてください、ということだった。ところが、2回、3回の話し合いの中で、いきなり指定製造物品はなかったことで進めますということになった。それはそれでこちらとしては面倒がひとつなくなってほっとしたのです。台あたり8,000円というのは、この指定製造物品を組み込んでいると思われる金額だと想像するのですが、というのは当初は台あたり6,000円だったので、そこでこの理由を彼らに突っ込んで聞いてみると答えが返ってこないんです・・・」
F商店の社長のスキーム全体についての意見はどうだろうか?
「現在日産側は小変更でなんとかこのスキームを全国展開していくつもりらしいが、私としてはフルモデルチェンジしてもらいたいです。マイナーチェンジでは納得できないし、とうてい無理です。日産が本当にリターンリサイクルをやる気があるのなら、今の仕組みでも充分できる。たとえば日産が全国の解体業者から適宜指定業者として白羽の矢を立て、そこから市場価格で素材を購入すればいいのです。こうしたスキームなら多くの賛成を得られますよ」
日産とのつながりが深いリサイクル工場の二律背反