1ヶ月でこのスキームを取りやめたA社の場合
「日産のスキーム」の中身を詳細に検証する前に、このスキームを1ヶ月だけ取り組み、結局はやめてしまった神奈川県下のある自動車解体業者A社を訪ねた。
釈迦に説法だが、自動車の解体業者は、一般的には国内向け自動車中古部品、海外向け部品、それに素材の販売の3つの側面を持つビジネス。だが、A社は海外への部品販売と素材の販売の2本立てだ。なぜ、付加価値が高い国内部品にアプローチしないかというと、大半を占める日産車はこのA社から数キロのところにあるB社が国内向けの部品を取り外した残りを譲り受けているからである。
『俗に言う日産スキーム(正式には「廃車の自動車資源化事業・日産自動車との協定について」の最初のページ。「資源枯渇への対応」として、「製造からリサイクルまでを一貫して取り組むことで、環境負荷の低減」を謳ってはいるが・・・』
B社は国内向け部品に特化しており、大まかに言えば、A社とB社はそれぞれの持ち味を活かしてビジネスを展開していたのでである。当初この業者は、「やめた業者であるこちらが後からあれこれ言うのはフェアではないし・・・それに、他の業者に迷惑がかかるからとして取材を受けない」ということだった。が、そこを何とか立ち話でもいいということで話を聞くことができたのだ。
この解体業者は、入庫台数の60~70%が日産車で占めていたため、とりあえずの気持ちで昨年夏のお盆明けぐらいからスタートし、1ヶ月間、日産のスキームを実行した。ところがいざやってみると、1台当たりの手間賃として8,000円程度の現金収入が入るだけ。しかも取り外した部品の場所を別に確保しなければならないし、引き取りに来る素材業者のトラックがなかなか都合よくやってこない、などの理由も、やめることにした理由だという。「昨年の9月まで続いたスクラップ・インセンティブの頃から見るとわが社の入庫台数は1/3に激減していますよ」と苦渋の色を浮かべていた。
たまたまA社の社長へのインタビューのときに居合わせたQ氏は、元スクラップなどを扱う某商社の社員。長年自動車のリサイクル事業に携わっている彼から面白い意見が出た。「使用済み車両の価格というか、分解手間賃を一律8,000円と決めている日産スキームには無理があるね。たとえばスクラップの価格はその日の相場がはっきりしているわけだから、そのつどその相場に見合った売買をすべきですよ。私が言うのも変ですが、もといた商社も今回の日産の動きをじっと見守っていますよ。まぁ、お手並み拝見というところですかね。ちなみに、ある自動車メーカーと関連商社は毎月2回こうしたテーマを議題にしてミーティングを持って、情報交換をしています」
『日産の「廃車資源化構想」。現行との違いを分かりやすく図解。解体屋さんは、「協力対価」を日産から得るシステム。廃車仕入れコストの不要と、市況に左右されないことをアドバンテージとして挙げている。』
勇気を奮い立たせてスキーム導入を断ったC社の社長