第164回 2024年11月の産構審・中環審合同会議でのJAERAからの要望を考える

熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)・環境安全センター長

外川 健一

1.はじめに

2024年11月14日、第59回自動車リサイクル合同会議(正式名称:産業構造審議会イノベーション・環境分科会資源循環経済小委員会自動車リサイクルWG中央環境審議会循環型社会部会自動車リサイクル専門委員会第59回合同会議)が開催された。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/059.html

 

経産省、環境省のウェブサイトに掲載された本会議資料にはないが、日本自動車リサイクル機構から石井代表が要望を述べたのも今回の合同会議の重要なポイントと考える。詳しくは日本自動車リサイクル機構(通称:JAERA)のウェブサイトに掲載されているが、以下これについてコメントを付す。

https://www.elv.or.jp/media/Rakude/20241202102700-jname.pdf

 

2.不適正業者との不当な競争および中古車輸出について

①使用済自動車の減少と仕入価格の高騰が著しい。

②JAERA調べでは解体事業者のうち1/4が外国人事業者であり、加えて新規参入はほとんど外国人という状況である。外国人事業者の実態調査を要望したい。

③解体業の許可更新の際、JAERAの自動車リサイクル士制度を活用いただきたい。また、自動車リサイクル士制度の認定機関を自動車リサイクル促進センター(JARC)とすることも検討していただく。

④日本語と自動車リサイクル法並びにそれらの制度を理解するものが在籍していることは、我々(日本人の解体事業者)と同じ土俵に上がる第1歩であり、自動車リサイクル法20年目の評価検討に向けて前向きに検討いただきたい。

⑤廃車寸前の車が海外に輸出され、不適正な処理によって環境破壊や地球温暖化につながっているのではないかと懸念している。経済合理性により輸出を止めることは出来ないと理解しているが、経済安保、輸送安全上の観点からHVやEV中古車の輸出禁止を検討いただきたい。

 

以上①~⑤の要望について、とくに①・⑤は私なりに強く感じたことを言及したい。

 

①について

確かに使用済自動車の発生台数が減少している。そして解体業者の多くが中古車オークション会場で、中古車を購入して解体するという極めて奇怪な事態が平然と行われている。この10月に筆者が九州7県の自動車解体業者へ聞き取りを行ったところ、軽自動車が解体されるケースが主流となりつつあり、軽自動車でもその引き取り価格は3万円から高いところでは6万円にも上っている。

11月に、金属スクラップを中心としたネットメディアの編集長から、「外川さん。今年の使用済自動車台数は2024年度には250万台程度でしょうかね」という問い合わせがあった。そこで使用済自動車の発生に関するデータを集めて考察してみた。この点は、JAERAの提案の⑤HVおよびEVといった中古車輸出の輸出禁止と交えて議論したい。

表1は自動車リサイクル法制定以降から2024年11月までの国内でのELV引取り台数(A)と、最終所有者(たいていは輸出業者)が、リサイクル料金の還付金を運用利息とともに受け取り、中古車として輸出されて台数(B)の関係の推移を示したものである。ここで、B/A×100を「中古車輸出依存指数」=Cと定義する。「中古車輸出依存指数」は、解体業者が100台引取りをしたら、そのうち何台が中古車として輸出されているかを示したものである。つまり、この数が増えるほど国内で適正処理・再資源化される台数よりも、中古車として輸出されることで、海外での最終処理に委ねられている台数の方が多いことを意味する。

 

表1 使用済自動車引取り台数と、還付金を受けた中古車台数・「中古車輸出依存指数」の推移

資料)2023年は経産省・環境省の合同会議資料より、2024年度は自動車リサイクル促進センター公表資料 https://www.jarc.or.jp/renewal/wp-content/uploads/2024/05/1ab22c0f4e65b471be1908a09a6e8611.pdf より筆者作成。

 

表1から、法施行当初はELV引取り台数100台に対し、わずか0.78台しか還付金を受けての中古車輸出はなかった。しかし、翌年から中古車の輸出台数は確実に増加する。なお、2009年はリーマンショックの経済対策としてエコカー減税、エコカー補助金:スクラップインセンティブ制度が働いたことによって、国内での処理台数が増加し、中古車輸出台数が一時激減したが、その後再度上昇に転じ、2011年は東日本大震災の影響からか、国内での処理台数は減り、中古車輸出台数は微減したが「中古車輸出依存指数」は、毎年確実に増加している。そして2022年までその数が50を上回ることはなかった。ただし、2014年に初めて45.を超えたが、2020年は新型コロナのパンデミックの影響で緊急事態宣言が発動されたこともあり、「中古車輸出依存指数」が40を割った年もあったが、その後着実に増加していき、とうとう2023年には50を超えた。50を超えたということは、ELVが国内で2台処理されたら、中古車が1台輸出される=最終処理は海外での行程に委ねられ、その適正処理は担保されていないことを意味する。そして、2024年度は11月までの数ではあるが、「中古車輸出依存指数」が71.13と急増している。このペースで行けば、国内解体台数と、中古車輸出台数とが同じになる、あるいは中古車輸出台数の方が増えることになる。これでは、やはり日本の自動車リサイクル法が中古車輸出促進法であるという批判はますます現実味を帯びてくる。

日本自動車リサイクル機構が、主張⑤で行ったように、とくに電池のカスケード利用が期待できる電気自動車のリチウムイオン電池や、リビルトメーカーのアーネストと協力をしてHVバッテリーをリビルトして国内循環しようと提案するのは、それなりに理解できる。

なお、筆者がこれまでこだわっていた非認定全部利用・輸出も2023年度は過去最高の数に至った。この台数も国内で解体された自動車の最終処理を海外へ資源として供給するという形で、海外での処理に委ねられてはいるものの、そのトレーサビリティは担保されていない点が問題である。

そこで、中古車輸出台数と、非認定全部利用・輸出の台数の和をDとし、E=D/A(引取り台数)×100を「海外最終処理依存度」と定義すると、日本の自動車の最終廃棄物の処理がどの程度外国でされているのかの1つの推定指標となると考え、これを計算した。

 

表2 使用済自動車引取り台数と、還付金を受けた中古車台数・「中古車輸出依存指数」及び非認定全部利用・輸出と「海外最終処理依存度」の推移

資料)2023年は経産省・環境省の合同会議資料より、2024年度は自動車リサイクル促進センター公表資料 https://www.jarc.or.jp/renewal/wp-content/uploads/2024/05/1ab22c0f4e65b471be1908a09a6e8611.pdf より筆者作成。2024年度の11月までの非認定全部利用・輸出の台数は未公表。

 

この数も年々上昇しており、2019年度にはすでに50を超えていた。パンデミックがなければその後増加の一途をたどったと思われるが、2020年にいったん減少はしたものの、2022年度に再び50を超え、2023年度には64.14にまで上昇している。表1のD「中古車輸出依存指数」同様、表2のE「海外最終処理依存度係数」も70を超える勢いである。

すなわち、かつては雑品スクラップとして海外へ「見えないフロー」として処理されていた日本で使用された自動車由来の部材が、今度はそれなりに「見えるフロー」として海外へ流出していったのである。

経産省・環境省は資源安全保障や国際資源循環についてたまに言及しているが、自動車リサイクル制度に関しては、海外依存度を止めようとする動きはこれまでのところない。強いて言えば「資源回収インセンティブ制度」の活用が挙げられるが、ASRのリサイクル料金の一部だけしかもらえない予定のこの制度と、すべてのリサイクル料金に、運用利息まで払い戻される中古車輸出とどちらに経済性があるのかは、自明であろう。もちろん、「資源回収インセンティブ制度」に自動車高度化財団の資金の運用や、メーカー等がEUの使用済自動車規則(案)を先取りして、新車に再生材をある程度利用するため、その確保のための協力金として、解体業者や破砕業者に支払われるような工夫が行われるかもしれない。

 

②について

本連載第140回で、日本自動車リサイクル機構の作成したデータを都道府県別に分析しているので、そちらを参照されたい。とくに千葉県、茨城県、群馬県などは2業者に1業者は外国人経営の者であると推定される。2024年12月2日に開催された自動車補修部品研究会では、「群馬県で今年新たに解体業の許可を得た解体業者はすべて外国人企業家と推定される。」という発言を聞いた。群馬県の公表資料は令和6年5月23日現在であり(https://www.pref.gunma.jp/uploaded/attachment/628835.pdf 参照)詳細は不明であるが、この解体業者の一覧表から老舗の業者が1枚目にあり、新規参入業者が2枚目に掲載されていると考えると、確かに多くの外国人と思える経営者名が連なっており、営業所の電話番号も固定電話ではなく、090や080で始まるスマートフォンの電話番号であることが目立つ。

③について

自動車リサイクル士を国家資格とすることを、経産省も、環境省も拒んできた。しかし自動車が従来型のガソリン車やハイブリッド車に加えて、スマホのようなEVが加わることで、その適正な取り扱いをしないと作業中の安全は確保されない。国家資格に準ずる資格として、業界の自主取り組みである「自動車リサイクル士」を奨励することで、適正処理方法の教育推進及び実務能力を含む許可要件の強化により国内での不適正事業者の増大に歯止めを掛け、結果として自動車解体業者のレベルアップと社会的認知の向上により役立つであろう。

 

④について

地方自治体の許可を取得した外国人自動車解体業者には、日本でビジネスを行う以上は日本語の習得をある程度求め、多くの解体業者が言うように、経済原理というのなら「法施行当初からこの業に従事していた日本人解体業者と同じ土俵で勝負してもらわないと困る。日本語でのコミュニュケーションができないからということが主因で、外国人経営の解体ヤードに地方自治体等の監査が入らないことが多いことを問題視し、自動車リサイクル法の仕組みや安全な作業に関して、JAERAが外国人経営者及び彼が経営する外国人労働者にマスターしてもらうよう、自動車リサイクル士資格に取得を彼らに促そうとしているのだろう」。

ここで話は変わるが、最近金属資源相場、特に銅スクラップ価格の高騰で銅類のスクラップの盗難を狙った事件が多発している。このような事態に鑑み、警察庁が2024年9月30日に第1回の「金属盗対策に関する検討会」を開催した。

https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/scrap/scrap.html

この会合はすでに第2回目の資料も公開されており、金属盗対策の在り方として、基本的な考え方として、「今後も金属盗が続く可能性は高く、金属盗の防止を目的とした全国一律の法律による迅速な対応が必要か」を早急に検討することとし、買受け規制の在り方については、金属の買い取りの際は販売者の本人確認の必要性、金属くず買取り業者に対し、盗品である疑いがある場合の申告義務を課すことの是非、第1回検討会で出された意見としての「日本でリサイクル業を始める海外の事業者が非常に増えてきており、悪質業者も増えてきている。各種法令を遵守している適正業者は、各種法令を遵守していない不適正業者との価格競争で不利になってしまう。・コンプライアンス意識の低い業者が増えてくる中で、「悪貨が良貨を駆逐する」ような状態になっていく。コンプライアンス意識の低い業者は、盗難品の買取りに関しても全く抑制が利かない。・業者に対して新たな規制を設けることも考えられるが、その際には違法不当な業者だけでなく適正な業者も規制の対象になるため、規制の目的と業者全体に課される負担とが均衡している必要がある」ことを十分に踏まえたうえで、金属くずの買取り業について、法律による規制がなく、全国的な実態把握ができない現時点においては、少なくとも「届出制」を設け、実態の把握や各種義務履行の監督を可能とする必要があるとしている。

実は自動車でも、盗難車問題が顕在化している。例えば、盗難車と知りながらヤード内のコンテナで保管したとして、千葉県警が2024年11月6日に、オーストラリア国籍の輸出会社役員アシュリー・ザビウラ容疑者(28歳)(佐倉市王子台)ら男3人を盗品等保管の疑いで逮捕したと、11月8日の読売新聞千葉版が報じている。また、ヤード周辺も捜索した結果、トラックコンテナから盗難被害届が出ていたランドクルーザー2台(時価計1,490万円相当)が発見され、土地管理会社取締役でイラン国籍のアマニ・アリ容疑者(59歳)(千葉市若葉区東寺山町)を盗品等保管の疑いで現行犯逮捕した。このアマニ・アリ容疑者は、佐倉市周辺で自動車解体及び部品等の輸出を行っている、有限会社レオンコーポレーションの経営者である可能性が高い。いずれにしろリサイクルに係る多くの外国人(もちろん日本人も)窃盗などの犯罪に関わっているならば、自動車解体業者全員の評判を落とすことになりかねない。

金属リサイクル業者の場合もそうだが、法規制を無視して解体・再資源化行為を行うことも問題だが、車の盗難も絡んでいるようだ。このような現実は、一般の法令順守を重んじて、適正な商売を行う自動車解体業者に対して、金属スクラップ業者同様、悪貨が良貨を駆逐することになりかねない。そこで、JAERAでは既に2024年3月、7月、10月に千葉県において、外国人解体業者を対象とした自動車リサイクル法にのっとった解体方法や、注意点の講習が自主的に行われている(この講習会は2025年2月にも開催の予定である。)。このような取り組みで、法令を遵守する解体業者がJAERAの行事に参加する(会員になる)ことで、JAERA日本人会員が海外での中古部品マーケットの拡大に繋げることも期待できるだろう。

なお、不適正業者との不当な競争とは別にJAERAは「静脈のものづくり」として以下のような提案も行っている。

・外国人事業者の全てが悪い訳ということではないが、この業界が全て不適正な処理を行う事業者となってし まったら、国が進めて行こうしている動静脈連携によるサーキュラーなモノづくりの推進、並びに資源回収インセンティブ制度の安定運用、そして何より日本のものづくりが行き詰まることがないよう皆様とともに検討していきたい。

警察庁の金属盗対策に関する検討会でも、サーキュラーエコノミーへの配慮、とくにカーボンニュートラルへの対応も書かれており、ここではカーボンニュートラルの達成のため、鉄鋼業が鉄スクラップを使う動きも紹介され、銅のみならず鉄をはじめとするあらゆる金属の盗難リスクが紹介されている。

しかしいち早くグローバル市場で売買されている日本の中古車や中古部品の、適切な環境を配慮した再使用や、その適切なリサイクル・最終処分のため、業界のみならず政府レベルでも、海外のリサイクラーの適正処理の育成が重要である。このような取り組みは金沢の会宝産業がJICAと連携していち早く取り組んでいる。

https://www.jica.go.jp/volunteer/supporter/company/kaiho/index.html

  

3.バッテリーのリサイクル

JAERAの要望として次に挙げているのが、「駆動用バッテリーについて」である。その要望は以下の通り。

▶米国の1番大きなEVメーカーが自動車再資源化協力機構(JARP)の回収スキームに入っていない。火災 を起こした車両等の処理に問題がある。処理する段階で火災が発生し、消防車が何台も来るという事案も発生している。JARPの回収スキームに参加していないメーカーは、バッテリーを取外した後、安全が確保できていてサービスセンターに持ち込めば引き取るということになっている。バッテリーの安全をどう担保するかを解体業者が判断することは難しく、またサービスセンターまで重量物であるバッテリーを輸送するコストも解体業者が負担することになる、これによって安全の担保ができないこと、通常の解体よりコストが大幅に上がるため、引取り拒否理由になりえるとも考えられる。

さて、米国の1番大きなEVメーカーとはテスラである。そして、同社は自動車リサイクル法が定めるリサイクル料金を車種別に設定し、フロン類、エアバッグ類については自動車再資源化機構、ASRについてはその再資源化を自動車リサイクル促進センターを通じてARTを窓口に行っている。しかし、EVのリサイクルの要である電池に関しては、同社の日本法人のウェブサイトでは、以下のような説明がある。

 

テスラウェブサイト上のバッテリーのリサイクルに関する部分

Teslaの車両は長くお使いいただけるように設計されていますが、万が一の場合でもいち早く運転を再開できるようにTeslaサービスセンターが対応します。

製品寿命が終了したTeslaのバッテリーパックはどうなりますか?

再利用のために回収することさえできない有害な排出ガスを大気中に放出する化石燃料とは異なり、Teslaのリチウムイオンバッテリーの材料は回収してリサイクルすることが可能です。バッテリー材料は製造時にセルに入れられ、寿命が終わってもそのままセルに残るため、貴重な材料をリサイクルして繰り返し使用することができます。

バッテリーパックの寿命を延ばすことは、環境やビジネス上の理由からリサイクルよりも優れた方法です。そのため、Teslaでは、廃棄されたバッテリーパックをリサイクルに出す前に、それぞれのバッテリーパックの耐用年数を延ばすためにできる限りのことをしています。お客様のニーズに合わなくなったバッテリーは、Teslaの世界各地のサービスセンターで修理することができ、リチウムイオンバッテリーがゴミの埋め立て地で処分されることはなく、100% リサイクルされています。

リチウムイオンバッテリーパックは、特に指定の施設で資格のある専門技師のみが取り扱います。バッテリー管理にかかわる基準や規則は地域によって異なり準拠しなければなりません。

https://www.tesla.com/ja_jp/support/sustainability-recycling より引用。

 

このようにテスラは全国の自社のサービスセンターを通じてバッテリーの回収を行い、リユースも考慮しつつその適正なリサイクルを行おうとしている。日本自動車リサイクル機構の危惧は、トランプ政権で大きな政治力を持ったイーロン・マスク氏の経営するテスラが、電池に関しては日本メーカーと歩調を合わせることなく、独自のルートで独自のリユース・リサイクルの取り組みを行っているが、それがブラックボックスであるという懸念であろう。しかし、自動車メーカーサイドも、セーフティネットとしての電池リサイクル施設を全国に12拠点を挙げてはいるが(合同会議に自工会が提出した資料6・参考5の図参照。)、この12施設でどのような「リサイクル」がされているかを明示してはいない。明らかに期待できるのは発火事故防止のための無害化であり、これら12の施設からレアメタルであるコバルト、ニッケル、マンガン、リチウムの回収が行われてはいない模様である。なぜならば、合同会議に自工会が提出した資料6・6.素材リサイクルの検討状況の図(この図は経産省の別の研究会「第2回蓄電池のサステナビリティに関する研究会資料

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/chikudenchi_sustainability/pdf/002_03_00.pdf から引証されたものである。)において、素材としてのレアメタルの回収はまだ実証試験段階であり、「今後とも他の国内リサイクラー等から要請があれば、積極的に共同研究を推進し、国内資源循環促進に貢献」としか明記されていない(ゴシック表示は筆者加工)。すなわち、日本でのリチウムイオン電池からのレアメタル回収は依然として発展途上であると推測される。

合同委員会で自工会が提出した資料6.では自動車メーカーの取り組みとして、「LiBリサイクルへの取組み状況について」が、「樹脂リサイクル高度化への取組み状況について」と、「新冷媒への切替状況」と一緒に報告されている。そして自工会で自動車再資源化協力機構を通じて、解体業者から車載用リチウムイオンを適正に回収するシステムを構築しようとしてはいるものの、この組織に確かにテスラは加盟していない。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/pdf/058_06_00.pdf pp.19-21参照。

ここでは具体的な考え方として

  1. ①基本的な考え方 ・適正処理促進のセーフティネットの考え方から、販売台数の少ない輸入車代理店、EVベンチャー企業、 海外電池関連企業等 国内外の企業を問わず、広く本スキームに参画し、適正処理が可能となるよう、 自再協の会員制度を新たに創設(18年度~)
  2. 具体的な会員構成

A;正会員 → 既存の自再協出資者で、自リ法運用等の企画・検討を実施 (自工会メーカー(二輪専門メーカーを除く)/JAIA)

B;特別会員 → 自再協非出資者の自工会加盟会社とJAIA加盟会社で、 電池の回収事業のみに参画

C; 準会員 → 上記以外の企業(ベンチャー企業等)で、電池の回収事業のみに参画 (現状 具体的な要請企業なし)

としている。

そして、自工会の提出した資料6.の20ページ(参考4.)に、この制度に加盟しているメーカーとして、メーカーがその会社のロゴとともに紹介されているが、ここにテスラの名前はない。(ちなみにこの1,2年で急激に世界のEV市場に乗り出したBYDもここには顔を出していない。なお、テスラやBYDも輸入組合の会員ではある。)

テスラやBYDという2024年で世界1位、2位のEVメーカーにとっては、生産台数が一桁も二桁も違う日本メーカーが率先して作るこの制度に、何の魅力も感じないのはある程度想定できる。

表3は2023年の世界のEV販売のメーカー別シェアだが、日系メーカーの遅れが目立つ。このような実情の下でJARPの回収システムにテスラやBYDが参画する動機はどこにあるのだろうか?もっともEVで最も資源価値≒経済価値のあるリチウムイオンバッテリーを、解体業者がみすみすメーカーのカスタマーサポートセンターに渡すとも、現時点では考えにくい。この点は今後も注意深く観察したい。

 

表3

出所)日本経済新聞電子版 https://www.nikkei.com/prime/mobility/article/DGXZQOFD07DFI0X00C24A2000000

 

合同会議資料6.

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/pdf/058_06_00.pdf p. 20を転載。

 

合同会議資料6.

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/pdf/058_06_00.pdf p. 21を転載。

 

2024年12月、ホンダと日産自動車が経営統合し、三菱自動車もこれに参画しようとしているが、EVという側面だけから見ればこの合従連衡はそれほど効果が期待できるか疑問という声もある。むしろ彼らが連携すべきはテスラではないかという見方もある。

特にテスラはSDV(software defined vehicle)技術を持っているのが最大の武器といわれている。SDVとは、「ソフトウェアをダウンロードすればアップグレードできる自動車」のことで、スマホのようにOSやアプリがアップデートされると、そのEVの性能があがる。実際、テスラの乗用車では同じモデル3で、新車でも車検を待つ3年前に販売された車でも、ソフトウェアさえアップグレードすれば同じ自動運転性能の車になる(なお、テスラの自動運転の技術は日本メーカーが開発中のものとはかなり異なるという)。

一方日本メーカーのEVは、このSDVのOS開発でまったく遅れているという声も聞く。電気自動車に関しては、中国が一歩も二歩も先行している。トランプ政権の誕生で、イーロン・マスク氏は日本の自動車メーカーとの連携、経営統合を考えているのではという説もしばしば耳にする。

 

話は脱線したが、ほかにも、JAERAは下記についても懸念を表明している

登録抹消制度について

一時抹消中で放置されている車両について ▶一時抹消中で放置されている車両の追跡調査をお願いしたい。解体業者では永久抹消を行っているが、不 適正処理業者で不当に解体された車は、一時抹消のまま放置されている可能性があるということを懸念している。

 

リサイクル料金について ▶これまでも継続して主張してきたが、リサイクル料金の他車充当方式(年金方式)について、自動車ユーザー の費用負担低減の観点からも是非検討していただきたい。

 

との懸念を表明している。

 

追記)本稿の執筆にあたっては日本自動車リサイクル機構の石井代表、阿部専務理事、奥野事務局長に草稿に目を通していただき、ご意見をいただいた。また、総合リサイクルウェブマガジンを主催しているIRユニバースの棚町社長をはじめとする同社の諸氏からも情報提供等でお世話になった。記して感謝する。

なお、本稿の作成には、日本学術振興会科研費23K22035を使用した。

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