熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)・環境安全センター長
外川 健一
1.はじめに
2024年10月21日(月)札幌市豊平区のホテルでNGP日本自動車リサイクル協同組合の第38回定期総会が開催され、その懇親会に筆者もご招待を受け、20年から30年来の友人(先人)と久しぶりにお会いし、意見交換ができた。NGPの定期総会は設立当初は、各地域ブロックの会員が、その地方の素晴らしさを、創意工夫をもって紹介しつつ、沖縄県を除く全国各地で開催されるのが常であった。その後、一時は毎年東京品川プリンスホテルでの開催が常となっていた。コロナ禍後初めてとなる昨年の開催時も同様だった。しかし、今年度からは従来の各地域ブロックでの開催と、東京開催を毎年交互に行いながら、会員間の交流を深めるようにという変化があり、筆者も久しぶりの札幌を満喫できた。来賓にはNGPのリサイクル部品の使用促進をフォローしているあいおいニッセイ同和損害保険株式会社のメンバーや、長年NGPが寄付を続けている公益財団法人交通遺児育英会の方々のみならず、A-JAPAN構想=オールリサクルパーツネットワークに加盟している他グループの代表者などが多数招かれており、全国の自動車リサイクル部品の生産者、ベンダーが集まる大集会でもあった。
この集会では2024年度の「NGP SUSTANNABILITY REPORT」が配布された。ここでは例年同様の目指すサーキュラーエコノミーと題して、リサイクル部品の活用などによる温室効果ガスの削減など、環境問題への取り組みが協調されていた。
2.自動車技術会シンポジウム『サーキュラーエコノミーによる自動車業界の変革』
NGPの定期総会の翌日、東京都文京区のトヨタ自動車本社にて、筆者の委員を拝命している自動車技術会リサイクル技術部門委員会が企画した公開シンポジウム『サーキュラーエコノミーによる自動車業界の変革』が開催された。第1部は主要乗用車カーメーカー3社による、サーキュラーエコノミー(以下、CEと略す)への取り組みが報告された。
第1条報告はトヨタ自動車の永井 隆之 氏 (自動車技術会リサイクル技術部門委員会幹事/トヨタ自動車CE推進室)による「トヨタのCEの取り組み」と題した講演であった。永井氏は、「大量生産、大量消費、大量廃棄を前提としたリニアエコノミーから、資源や製品の循環を前提としたサーキュラーエコノミー(CIRCULAR ECONOMY :CE)への転換が世界規模で始まっている。トヨタでは過去から自動車リサイクルに対する取り組みを脈々と続けてきているが、このような昨今の動きに対応すべく、クルマや部品を『より長く使う』、『より効率的に使う』、『廃棄物を出さない』を目指してさらなる取り組みを始めている。」として、トヨタ自動車での現在の取り組みの概要や今後の方向性を中心に紹介していた。興味深かったのは2014年の産構審・中環審合同部会において自工会が公表したトヨタセダンに使われている素材構成比に代わって、今回の公演ではプリウスの素材構成比を提示し、依然として鉄分が55%であること、プラスチック等の樹脂素材の割合が増加しているので、その再資源化がますます重要だと報告されたことである。
質疑応答に時間が設けられていたので、私はこの点、すなわち自工会が2001年まで普通車車両の平均素材構成比を公開していたが、トヨタとしてはこのような情報の公開は、CEの推進のため、今後は車種別でも行う予定はあるのかを聞いたが、永井氏からは「自工会が2001年までにそのような取り組みを行っていたことは知らなかった」とコメントを頂いたのみで、とくにそれ以上の回答は得られなかった。いずれにしろ、どの車種のどの部分にどの素材が含まれているのかという情報は、CEの推進と同様、解体作業の安全上、公開すべき情報である。
第2報告は日産自動車から「自動車のサーキュラーエコノミー実現に向けた材料開発」と題して、日産自動車の環境・サーキュラーエコノミー材料開発グループに所属する美藤 洋平氏が講演に立った。その要旨は「車両の電動化や軽量化が進む中、より高価なレアメタルやアルミ、樹脂部品の使用量が増えている。これらの材料は製造時CO2排出をはじめとする環境負荷が大きいものが多く、資源枯渇への対応のみならずCO2排出削減に向けて、資源循環をはじめとしたサーキュラーエコノミーの必要性が高まっている。日産では、環境経営計画であるニッサン・グリーンプログラムにてサーキュラーエコノミーコンセプトを掲げ、①資源の有効活用の推進、②資源循環、③クルマの資源として最大活用のアプローチを推進している。この講演では、材料に関係の深い①、②に関する包括的な取り組みについて触れられていた。
質疑応答の時間に誰も手を挙げないので、筆者が日産といえばやはりEVであるから、EVについてより深いコメントをお願いした。特に聞いたのは①EVバッテリーのリサイクルの話があったが、やはりリユースを優先すべきではないのか?リユースへの取り組はどうなっているのか、とくに福島県の浪江町につくったリユース用バッテリー工場である4Rエナジー社にEVバッテリーはどのくらい集まっているのか?という点。②筆者は今年2024年9月に開催されたスイスのICM AG が主催した国際バッテリリサイクルコンフェランス: ICBR 2024 へバーチャル参加したが、その時の議論では欧州ではEVバッテリーリサイクル工場の稼働は予定より遅れていて、製造されたブラックマス(三元系リチウムイオン電池をリサイクルする場合に通常製造される中間体で、ニッケルやコバルトを豊富に含む中間体)も東アジア(具体的には韓国。場合によっては中国)へと移動されていることが紹介されていた。欧州でもユミコアやニッケルフットといった既存の製錬産業以外、ニッケルやコバルトの製錬が本当にできる工場はまだないのかもしれない。それに比べて韓国はリチウムイオン電池の生産大国であり、その生産のため設備能力がたくさんあり、欧州のみならず日本からもブラックマスを購入している。(中国へは輸入規制もあり、ブラックマスの直接輸入は難しい。)果たして日本の製錬にブラックマスを再資源化する能力があるのか?といった事柄を質問した。
美藤氏からは、まず第1の質問に関してはリユースの件は今回の講演では話せなかったというエクスキューズがあったのち、もちろんリユースが重要であることは発言されたが4Rエナジーの現状に関しては詳しく語らなかった。また、日本の製錬工場にはニッケルやコバルトの製錬能力はあると断言されていた。しかし、筆者の知る限り日本で生産されるブラックマスはほとんどが韓国へ輸出されている。そして自動車技術会のこのリサイクル技術分科会でも、JXの子会社である敦賀リサイクルで開発中のこの類のプラント見学をお願いしたところ、なぜか佐賀関の方の見学を紹介されてしまった。住友金属鉱山新居浜に関しては、ニッケル製錬では全国的にもトップクラスにあり、最もその可能性があるプラントではあるが、2022年のコロナ禍のなか筆者が同工場を訪問した際には、電池リサイクルに関しては必ずしも積極的ではなかった。その際何よりも受け入れる電池のボリュームが足りないことは力説されていた。
第3報告は、本田技研工業リソースサーキュレーション企画部の谷畑 昭人氏による「Hondaの目指すリソースサーキュレーションの取り組み」であった。その講演要旨には「Hondaは、自由な移動の喜びを永続的に提供し続けるために、環境負荷ゼロへの挑戦として、資源の循環利用と経済性を両立するリソースサーキュレーションに取り組んでいます。本講演では、Hondaのリソースサーキュレーションの課題認識と具体的な取り組み、技術についてご紹介いたします。」と書かれてあった。講演では樹脂類の塗膜剥離の技術がまだ確立されていないことが強調されていた。興味深かったのは谷畑氏が、中古車輸出問題について言及した点である。すなわち「日本から毎年120万台以上輸出されているという中古車のCEについて、政策面でもメーカーとしての取り組みも不十分であることは個人的に認識しているが、この問題にどのように対応すべきか、現時点で私にはわからない。」とお話しされた点である。しかし、この問題は日本のCE政策をより実態性のあるものにするためには重要な視点であり、本格的に議論してほしい課題であった。そしてこの課題はかつて本誌の連載でこの問題を指摘していた北海学園大学の浅妻裕先生が、第3部のパネルディスカッションで話題提供をされていた。なお、トヨタ、日産、Hondaという主要メーカー3社の講演はとても聞き応えがあったが、ここではモビリティ全般として、トラックメーカーや自動二輪メーカー(Hondaからはその視点も聞きたかった。)、新たな移動手段として期待されながら、タクシー業界等からの反発があってか、さほど進んではいないカーシェアリングの経営者、そしてなんといっても中古車輸出業者などからのお話も聞きたかった。
休憩をはさんで、第2部は、「CE指標化に向けた取り組み」というテーマで3つの講演があった。なおこの第2部では時間の関係ということで、質疑応答委の時間が取られなかったのは残念であった。
まず、産業技術総合研究所の田原 聖隆氏による「CE 指標概論と指標化動向」という講演があった。その要旨は、「CE指標はサーキュラリティ指標とも呼ばれ、CEの効果を定量的に評価するものである。これまで、多種多様な指標が提案されてきた背景には、一つの指標ではCEを適切に表現できていないからである。また、指標を用いて評価するレベルも世界、地域、国レベル、産業、企業レベル、製品レベル等、多様なレベルでの評価が必要で、それぞれのレベルの整合性も大切である。加えて、これらの指標はCE社会形成に向かっていくことを表現できることが必要で、かつ、測定可能な数値によって算定できなければならない。本講演では、上記の考え方を交え、既往のCE 指標を紹介し、より適切な指標開発に向けて必要なことを概説する。」というものであった。
田原氏の報告は、1990年代の資源効率性(ドイツのファクター4やファクター20等)の議論を思い出させる古典的な議論も含まれておりわかりやすかった。しかし、ここで改めてCEがカーボンニュートラル(以下CNと略す)と密接にされており、CEの環境指標としては温室効果ガス、特にCO2が削減が中心であることは問題が残ると個人的に痛感した。
次に、自動車メーカーを代表してトヨタ自動車CE推進室の増田 仁郎 氏による「自動車のCE指標」を聞いた。この講演の要旨は、「自動車のサーキュラーエコノミー(CE)を実現するには、資源循環や経済性も含めて正しく評価していく必要がある。多種多様な材料が使用されている自動車は、単純なリサイクル率だけでは十分な評価ができない。また、CE を目指す上で持続的な活動とするため、経済的メリットも重要な視点になってくる。本講演では、環境負荷を織り込んだ関与物質総量(TMR)を用いることで使用量は少ないが環境負荷が高い材料にもフォーカスでき、経済性について経済的コストを考慮した CE 評価手法を考案したので、その内容を紹介する。」とあった。
ここで、紹介されたTMRは、環境省の平成23年版『環境・循環型社会・生物多様性白書』に以下のように紹介されている。「TMR(Total Material Requirement)とは、資源の採取や加工の際に目的の資源以外に採取・採掘されるか、廃棄物として排出される「隠れたフロー」を含む指標です。源利用の持続可能性や地球規模での環境負荷を定量的に表す目安として用いられます。」要はその資源の採取のために費やされた資源の「量」で表される指標である。
最後の公演は、日立製作所の生産・モノづくりイノベーションセンター所属、宮崎 克雅 氏による「既存CE指標の体系化と新たな提案に向けた取り組み」であった。自動車メーカー以外の製造業のCEへの取り組みに関する紹介である。本公演では、日立と産業技術総合研究所(産総研)が、2022 年 10 月に「日立-産総研サーキュラーエコノミー(CE)連携研究ラボ」を設立し、あるべき循環経済社会の、必要とされるソリューションやルール等について検討を進めていることが紹介された。CEの実現に向けて、その効果を測り、ステークホルダー間で共有するためにはCE指標が重要な役割を成す。そこで、当ラボでは各種文献調査に基づき、CEに関連する指標を収集、選別を図り、指標群の体系化を試みている。また、ISO に規定されている代表的な指標の分析を図り、その指標の問題点を明示するとともに、新たな指標の考え方を提案しているそうだ。
なお、日立製作所と産総研によるCE連携ラボについては以下のサイトを参照されたい。
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/pr20221011.html
https://unit.aist.go.jp/hitachi-cecrl/index.html
循環型の新事業創出支援を行っている環境コンサル会社であるアミタのウェブサイトによると、CEに関するISO規格としてISO 59000シリーズがある。これらの規格はフランスの提唱によって開発が始まり「持続可能な開発への貢献を最大化するため、関連するあらゆる組織の活動の実施に対する枠組み、指針、支援ツール及び要求事項を開発するための循環型経済の分野の標準化」を目指しているという。
ところで、ISO規格の策定の際には、関連する専門知識を持ったメンバーが集まり、専門委員会を構成して規格の開発を進めていくが、この委員会はTC(Technical committee)と呼ばれている。ISO 59000シリーズの開発ではTC323がその役割を担っているが、本委員会の下5つのGW(ワーキンググループ)に分かれ、現在は循環経済に関する下記の6つの規格が開発されている。なお、ISO/TC323(国際標準化機構/技術委員会 「サーキュラーエコノミー」)の日本国内審議団体として、一般社団法人産業管理協会がその任を担っている。
ISO 59004:循環経済-用語、原則、実施のためのガイダンス
ISO 59010:循環経済-ビジネスモデルと価値ネットワークの移行に関するガイダンス
ISO 59020:循環経済-循環性能の測定と評価
ISO/CD TR 59031:循環経済-パフォーマンスがベースとなるアプローチの事例
ISO/TR 59032:循環経済-サーキュラーエコノミー導入・実装に関する既存の
ビジネスモデルの事例
ISO 59040:循環経済-製品のCEの側面に関する情報を報告し情報交換するための方法論とフォーマット
思い起こせば、1990年代にISO14000シリーズのブームがあった。この規格は製品の品質に絶対的に自信を持っていた日本の製造業がISO9000シリーズを軽んじていたことから、環境関連の規格には多くのリサイクル関係の企業が、大企業とともに飛びついた。しかし、これらは品質の規格ではなく、システムの規格であったため、当時の日本の企業風土には必ずしも適さない側面が多かった。よってISO14000シリーズ規格を返上する企業や公的セクターも多く見られた。今回のISO 59000シリーズがCEと密接に結びついているのは明らかであるが、依然として策定中であり、日本もISO/TC323の策定委員会で一定の発言権を持っていることに注目したい。
この講演の後、第3部のパネルディスカッションが、産業技術総合研究所の松本 光崇氏と、トヨタ自動車の松本 光崇 氏がモデレータを担って行われた。パネリストは以下のメンバーである。所 千晴 氏(早稲田大学)・田原 聖隆 氏(産業技術総合研究所)・浅妻 裕 氏 (北海学園大学)・高尾 尚史 氏 (豊田中央研究所)・宮崎 克雅 氏 (日立製作所)・美藤 洋平 氏 (日産自動車)・谷畑 昭人 氏 (本田技研工業)・永井 隆之 氏 (トヨタ自動車)
このパネルディスカッションでは、①CE移行への課題、②CE指標の狙い、③自動車会社が取り組むべきことについて、パネリストによる意見交換が行われた。とくに、③自動車会社が取り組むべきことについては、自動車メーカーによる「易解体設計」の推進や、自動車解体業者とのコミュニケーションの重要性が話題に上った。しかし、私から見ればこの類の議論は自動車リサイクル法施行前後から、細々ではあるが二十数年にもわたって行われているものである。1997年に自工会の使用済自動車リサイクルイニシアティブがスタートしてから、自動車メーカーはいわゆる「解体マニュアル」を公表した。しかし、これはメーカーの技術者の机上の理論とされ、自動車解体業者には全く浸透しなかった。現在もトヨタ、日産、Hondaが各社の電気自動車のリチウムイオンバッテリーの回収・リサイクルマニュアルを作成してはいるが、電気自動車のほとんどが中古車として海外へと流出しているといわれている現在は、それが日本の解体現場でほとんど活かされてはいないだろう。
自動車リサイクル法施行を契機にトヨタ自動車は、関連会社のシュレッダー業者でもある豊田メタルの敷地内にトヨタのリサイクル研究所を創設し、新型車の解体に関するデータを蓄積していったが、これらが自動車解体業者全般に普及されることはなかった。今回のCEという流れの中で登場した「易解体設計」の情報を、いかにリサイクルの現場に届け、それを活用してもらうのか、その仕掛けが相変わらず見えない。
ところで前術したように、このパネルディスカッションの中で、パネラーの北海学園大学経済学部・浅妻裕教授(本連載でもたびたび内外の自動車リサイクルの現状と課題を整理されている)が、中古車輸出の現状を紹介し、日本から輸出される中古車は必ずしも低年式車ばかりではなく、規制が緩い国への輸出の場合は、新車として購入してから3年もたったらすぐに中古車として輸出されるケースも多いこと、ニュージーランドやロシア極東など現地で中古車が使用されるケースもあるが、アラブ首長国連邦等への輸出の場合は、あくまでもそこは中継点で、そこから東アフリカ諸国等、様々な国に再輸出される現状を紹介した。
実際、自動車リサイクル促進センターの公表データでは、2024年4月から9月の使用済自動車引取り台数は128.9万台、中古輸出台数は84.1万台である。そしてもはや、日本の解体業者は、災害車両を除けば多くの場合、オークション会場で中古車を仕入れ、それを解体しているのが主である。いつの間にか解体業者は使用済自動車ではなく、中古車を仕入れて解体するのが当たり前となり、彼らは多くの中古車輸出業者とオークション会場で仕入れ競争を強いられているのである。
しかも、本連載の第140回でも指摘したように、2年前には日本の正規解体業者の4分の1が外国人企業家による経営と推定されていたのである。千葉県や茨城県などでは半数がそうなのだ。
ところが、今回の自動車技術会の議論では「動静脈の連携が重要」等、法施行直後から何度も言われていることが提案されていたが、その具体的な方策は全く提案されなかった。自動車技術会のリサイクル技術専門委員会には自動車リサイクル機構や、鉄リサイクル工業会からも委員が就任しているのだが、彼らの声はこのシンポジウムで全く反映されていなかった。いわんや外国人のリサイクラーとの連携に関しては、まったく話題に上らなかった。しかしこの勢いではいずれ、還付金を受けた中古車の輸出台数が、国内の使用済自動車引取り台数を超える日も遠くない。自動車のCEを考察するには、中古車輸出後の当該車両の処理・リサイクルを考えなければ、本筋を見失うであろう。それは、国内のリサイクル業者の経営陣に海外勢が増えたことも加味すればなおさらである。自動車解体のみならず、廃プラスチック類や雑品スクラップを中心に中国人経営者をはじめとする海外勢のプレーヤーが急伸している。彼らの一部は老舗のシュレッダー業者を買収しつつ、破砕業にまで進出している。CE政策を行うにあたって、このような事実を自動車メーカーのみならず、日本政府も目を背けているとしたら、大問題であろう。
資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律の制定
図表1 「資源循環事業高度化法」の概要
本誌152号で紹介した資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法(案)が、今年、2024年の第213回国会で、資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律(以下、「資源循環事業高度化法」と略す)として成立した。その概要を図表1に示す。この法律の内容は本誌152号に掲載したものと重複するのでここでは避けるが、環境省としては本法施行後、このような「高度化」の取り組みをしている業者をとりあえず、100社認定したいということであった(10月9日 学士会館で開催されたIR ユニバース主催サーキュラーエコノミーサミットでの環境省担当官での発言)。これに対して、なぜ100なのか?もっと多くても良いのではないかという声も聞かれるが、環境省としては「100という数字は1つの目標であり、条件を満たせば、それ以上であっても良いと思うし、望ましいことと考える。少なくとも100程度の業者の高度化のお手伝いをしたい。」とのコメントをしていた。私はこの「100」という数字はある程度出来レースの可能性を感じている。
例えば、トヨタやHonda等の代表的な自動車メーカーをはじめとする、動脈産業のサプライチェーンマネジメントに、脱炭素の取り組みを加味するとか、自動車リサイクル業者のことを考えたと自称する「易解体設計」等の取り組みや、あるいは本誌152号で紹介した経済産業省主導のサーキュラーエコノミーに関する産学官パートナーシップ:CPsの参加企業の取り組みなどが「高度化」として承認されそうな案件である。
これも本誌152号で紹介したが、実は何が高度化なのか、定義がない。この用語は小型家電リサイクル法の広域事業認定条件を初めて行う際の条件に、「高度な技術」という用語として初めて出てきたというお話もうかったことがある(以上は、CPsのキーパーソンでもある、株式会社HARITAの張田誠社長の持論でもある。)。そして、今回の高度化法でも何が高度化なのか、その定義がない。市場性のある新しいCNに資する技術、それが広がっていく仕組み、いい意味で競争原理を引き出すシステムを、とりあえず筆者は高度化と解釈している。そして、動脈の進出を促す仕掛けもある。
また、自動車リサイクル関係でいえば、2026年度から制度運用開始が計画されている、使用済自動車由来の再生プラスチックリサイクルインセンティブシステムの構築と、そのための破砕機、選別機、コンパウンド工場への新設備投入と廃プラスチック集荷システムが、高度化の事例として考えられる。ただ、リサイクルの現場からの声は、機械による分別は助けにはなるが、人海戦術での分別が最も市場で評価される再生プラが生産できる。このような取り組みは高度化として求められないのかを不安がっていた。
私は環境省のこのような取り組みは、中小零細の静脈産業の統廃合を通じて、静脈メジャーの育成を図るものとも考えている。
そして、TREホールディングスやエンビプロホールディングス等の日本の静脈メジャーを目指す老舗の業者は、新たな設備投資等のため、この「資源循環事業高度化法」を上手に使いこなしていくのかもしれない。
筆者が懸念しているのは、ここでも外国人リサイクラーの姿が見えないことである。強いて言えば、フランスの多国籍総合環境サービス企業でもあるヴェオリア等の日本法人等が、この制度を活用して日本市場でのビジネスチャンスを担い始める可能性もあるかもしれないという予感である。
しかし筆者が通常見学している自動車リサイクルの現場に、彼らの姿は見えない。日本政府の進めるCE政策には、海外との連携という視座が欠けているのか、それとも海外静脈メジャーへの市場開放を促しているのか、判断でき兼ねる状態であるが、少なくとも自動車解体や雑品スクラップ事業を営むエスニック企業家の活躍に対してあえて目を背けている気がしてならない。
(ヴェオリアジャパンのウェブサイト:https://www.veolia.jp/ja ヴェオリアグループは3つの環境サービス事業グループと1つの交通事業グループで構成され、それぞれが法人として独立している。とくに水処理ビジネスでは世界でも屈指の存在である。静脈産業では廃棄物処理事業でも欧州を中心に大きな存在であるが、その他エネルギー事業も営んでいる。このように欧州の静脈メジャーは、必ずしも静脈産業に専念しているのではなく、ひろく資源エネルギービジネスを展開しているのが多いのが特徴である。)
3.環境省のヤード環境対策研究会
とはいうものの、政府による違法業者まがいの中古車ヤード、雑品スクラップ業者に対する「規制」や「取り締まり」の動きも徐々に出てきている。その例が千葉県によるヤード条例である。そして、2024年10月16日、オンライン形式で環境省のヤード環境対策研究会(座長:国立研究開発法人国立環境研究所資源循環領域/上級主席研究員寺園敦氏)が開催された。
この研究会の設置目的は、「一部地域で、(2017年の廃棄物処理法改正で創設された、有害使用済機器保管等届出制度の対象外である)金属スクラップ等の不適正な保管や処理に起因する騒音や悪臭、公共水域や土壌の汚染、火災の発生等(リチウムイオン電池の不適切な取扱いに起因するケースが多分にあると予想される。)が報告されている。このような環境問題に対して、一部の自治体(千葉県を中心に東京都以外の首都圏での条例が多い。)において、 廃棄物や有害使用済機器に該当しない、いわゆる再生資源物の保管に関する規制条例が制定されている。2025(令和7年)年度は前回改正法の施行状況を勘案するタイミングでもあるため、特に有害性が懸念される廃鉛蓄電池の取扱いを含めた不適正なヤードの実態などについても調査、分析を行っていく必要がある。今般、こうした本格的な実態調査に先駆けて、廃棄物等の技術的な管理及び処分技術並びに環境関連法令の知見を持つ有識者による検討会を設置し、環境保 全対策について検討を行う。」(カッコ内は筆者によるコメント。)
https://www.env.go.jp/content/000258517.pdf 資料1.参照。
また、金属スクラップの盗難などの案件も本研究会で取り上げる事案の候補になっているようだ。
https://www.env.go.jp/content/000258518.pdf 21ページ参照。
実際、この資料は2024年9月30日に発足した、警察庁の金属盗対策に関する検討会の資料によるもので、警察もいよいよ本格的に相次ぐ金属の窃盗犯の犯罪防止に対して実態把握を務め、防止に努めようとしているように感じている。この検討会は、日本経済新聞の記事によると、「関東を中心に太陽光ケーブルなどの金属を狙った盗難被害が多発していることを受け、警察庁は30日、対策を議論する検討会の初会合を開いた。盗まれた鉄くずの売買時の身分確認強化や犯行に用いられる特殊器具の使用について、今後関係法令の改正や新法の制定も視野に議論する。同庁の檜垣重臣生活安全局長は同日、「盗品の流通防止や犯行に使用される道具に関する法規制の在り方も含めた対策を検討頂きたい」と述べた。検討会は学識者のほか金属のリサイクルに関わる業界関係者などで構成。同庁によると、金属盗の認知件数は2020年から急増し、23年は20年比で約3倍の1万6276件、24年1〜6月も1万758件(暫定値)で前年を上回るペースだ。目立つのが銅線など太陽光発電施設からの金属ケーブル窃盗。24年1〜6月は4161件で、約9割が栃木、群馬、茨城、千葉など関東に集中する。警察幹部は「発電施設は全国にあり、同様の手口が広がらないよう早期に手を打つ必要がある」と強調する。金属を狙う窃盗事件では不法滞在している外国人グループの関与が目立ち、実行役にSNS経由で物品や盗品の横流しを伝える指示役が存在しているとみられる。警察庁は事件ごとに離合集散を繰り返す匿名・流動型犯罪グループに位置づけられるとみて実態解明を進める。対策の焦点の一つが盗品の流通経路の解明に向けた法整備だ。盗まれた銅線は産業廃棄物の「金属くず」に当たり、中古品を売買する際に身分確認を義務付ける古物営業法の対象から外れる。確認を義務付ける条例を独自に制定する自治体もあるがばらつきがあり、全国的な法規制の必要性が高まっている。」
日本経済新聞ウェブサイト https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE273DN0X20C24A9000000/
4.まとめに代えて
現在、政府や自動車メーカーはCEの推進をCNと絡めて行っており、そのための設備の更新、回収システムの構築を進めようとしている。しかし、自動車リサイクルや雑品スクラップ、鉄スクラップなどの事業のかなりの部分を外国人経営によるリサイクラーが担っている。動静脈連携を提唱するならば、彼らの実態を把握して、彼等とのコミュニケーションを図ることが最も肝要である。そのためには、警察とのタッグは重要で、違法業者の取り締まりが日本のCE推進の一番の処方箋である。
アダム・スミスは市場の「見えざる手」を動かすには、市場のプレーヤーである人間が道徳的であること、国家は夜警国家であることを理想とした。やはり警察が市場のプレーヤーの「不道徳」な違法行為を取り締まることが、市場経済を円滑に動かすには重要なのは言うまでもない。
インターネットウェブサイトはすべて2024年10月29日に熊本市にて最終確認した。