第161回 廃棄物の広域移動の構造を捉える

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

1.はじめに

廃棄物が広域に移動する実態がある。日本において特に問題視されたのは廃棄物の不法投棄である。香川県土庄町の豊島や岩手県・青森県の県境で起きた廃棄物の不法投棄は、大都市から排出されたものが広域に移動したものとされている。また、その移動が国境を越えることもあり、開発途上国へ搬入する事件なども起きた。1990年代には『東北ゴミ戦争』(河北新報報道部,1990)や『ゴミは田舎へ?』(関口,1996)などの書籍も刊行されたが、都市部で使い古したものが農村部などの人里離れた地方で処分されるという印象がある。

このような中、日本の環境省は、廃棄物の広域移動に関する報告書を毎年公表している。そこでは、一般廃棄物と産業廃棄物に分けて都道府県をまたぐ広域移動のデータを示している。2024年9月現在、環境省のウェブサイトにアップロードされているものでは、2022年度実績の環境省(2024)が最新であり、2000年度実績の環境省(2003)が最も古い(*1)。

自動車の静脈市場においても広域に移動することはある。その対象は中古車、使用済自動車、中古部品、スクラップ、シュレッダーダストなど様々であるが、関連産業の立地などから見てもせいぜい都市部から郊外であり、多くが都市部から農村部へ流れる構造とは考えにくい。一方で、廃棄物においてもどの程度広域に流れているか、確かめる必要はある。本稿では、環境省の報告書から廃棄物の広域移動のデータを概観することを目的とする。

 

2.産業廃棄物の移動

まず、産業廃棄物の移動を捉えたい。直近の報告書である環境省(2024)によると、産業廃棄物の移動データは47 都道府県及び 82 市に対して実施したアンケート調査に基づいているとされる。つまり、都道府県外から産業廃棄物の処理施設に搬入された処理実績量を集計している。

報告書においては、搬出側と搬入側で47都道府県がマトリックスになっており、どこからどこへどの程度搬出入されたかが千トン単位で示されている。そのマトリックスは中間処理目的で移動したもの、最終処分目的で移動したもの、それらの合計(総量)の3種類が示されている。搬入側の都道府県の実績値から算出したデータであるため、どこから搬入してきたかがわからず、搬出側が「不明」の場合もあり、マトリックスにもその旨の記述がされている。ここでの産業廃棄物には、特別管理産業廃棄物を含んでおり、自ら処理する場合に都道府県外に移動したものは含まれないとする。なお、環境省(2024)によると、大阪湾広域臨海環境整備センターの実績は含まれないとある。

マトリックスでは、他の都道府県へ搬出した量の合計は「区域外小計」と表現されている。それ以外に「区域内」と表現されたデータも示されているが、この「区域内」のデータの説明が今回は見つからなかった。本稿では、排出した都道府県内で委託により移動した量であることを前提に議論を進める。

十分に予想されるように、産業廃棄物の移動の総量のうち、最終処分目的よりも中間処理目的の移動量が多い。直近の2022年度の実績では、都道府県外へ移動した産業廃棄物の総量の全国計は4268.7万トンである。そのうち中間処理目的の移動が3967.2万トンであり、移動総量の93%を占める。

 

3.中間処理目的の産業廃棄物の移動

中間処理目的の産業廃棄物の移動について、区域外と区域内の産業廃棄物の移動量を比較すると、区域内のほうが多い。2022年度の実績では、区域内の移動量の全国計は1億4153.3万トンであり、区域内・外の移動量の合計(1億8120.5万トン)の78%を占める。

この区域内・外の移動量の合計に対する区域内の割合は地域による。45道府県で区域内の割合は50%を超えており、区域内の移動量が区域外を上回っている。これに対して、東京都と徳島県は区域外のほうが多く、区域内の割合はそれぞれ42%、46%である。最も区域内の割合が高いのが北海道であり、移動量の99%が区域内である

図1は、2022年実績から区域外の移動について、主な都道府県別に [搬入量-搬出量]の多い順に並べたものである (*2)。図を見えやすくするために、搬出量は負の値で示されているが、実際は正の値である。

これを見ると、まず目に留まるのが東京都の搬出量が圧倒的に多いことである。搬出量の全国合計(3967.2万トン)のうち、東京都の実績(893.6万トン)は23%を占める。他に搬出量の多いところでは、愛知県、大阪府、神奈川県など人口の多い大都市になる。関東地方は搬出量の44%を占める。搬入量の多いところでは埼玉県、千葉県があり、それぞれ全体の14%、9%を占める。また、福岡県や山口県などの西日本の県も搬入の上位に位置している。

東京都だけを見ると、他の道府県への搬出量(893.6万トン)のうち、埼玉県向けが42%のシェアであり、これに千葉県(28%)、神奈川県(17%)が続いている。この3県で東京都の搬出量の87%であり、それに栃木県(4%)、群馬県(2%)、茨城県(1%)を含めた関東地方で93%になる。これに対して、東北地方向けはわずか1%である。これらから東京都の中間処理目的の搬出先は近隣県となっていることが窺える。また、神奈川県や埼玉県も相応に搬出が多いが、同じく近隣県向けが多く、東北地方向けの割合はそれぞれ2%、4%である。関東地方(1都6県)の合計の搬出量で見ると、86%が関東地方内に移動しており、東北地方向けはわずか3%である。各都道府県の区域内の数量を含めると、関東地方で搬出された量の95%が関東地方内に移動していることがわかる。

なお、福岡県の搬入量が多いが、これについて近隣の九州地方、中国地方からの搬入はそれぞれ30%、20%であり、福島県(8%)、兵庫県(7%)、京都府(6%)など広域に受け入れている。同じ中間処理目的であっても関東地方とは異なった構造となっている。この点はさらなる課題である。

 

図 1 産業廃棄物(中間処理目的)の搬入・搬出量(2022年度、主要都道府県別、単位:千トン)

出典:環境省(2024)より作成

注:搬出量は負の値で示されているが、実際は正の値である。主要都道府県は搬入量、搬出量のいずれかが30万トン以上の都道府県を抽出した。

 

4.移動の構造は変わったか

次に、上記のような構造が時代とともにどのように変わっているかを確認するため、同じ産業廃棄物の中間処理目的の移動について2000年度実績のものを示す。同年度実績では、区域内、区域外の移動はそれぞれ1億1151万トン、2174.1万トンであり、ともに2022年度実績よりも少ない。つまり、中間処理目的の産業廃棄物の移動量は増えていることが窺える。また、区域内・外の移動量の合計に対する区域内の割合は84%であり、2022年度実績よりも高い。これより、2000年度のほうが域内で処理する割合が高かったということになる。

図2は図1と同じように2000年実績の搬入量、搬出量を主要都道府県別に見たものである (*3)。これをみると、やはり東京都からの搬出量が圧倒的に多く、搬入量についても埼玉県、千葉県が多い。東京都からの搬出量は全都道府県の搬出量の25%を占めている。関東地方の搬出量は44%になる。

同じように東京都からの搬出先を見ると、埼玉県(41%)、千葉県(32%)、神奈川県(19%)が多く、これら3県で92%を占めている。搬出先を関東地方に範囲を広げると98%になる。つまり、東京都の中間処理目的の産業廃棄物はほぼ関東地方内に移動するという構造はこの時期にも観察される。関東地方からの排出については92%が関東地方内であり、東北地方は3%になる。

 

図 2 産業廃棄物(中間処理目的)の搬入・搬出量(2000年度、主要都道府県別、単位:千トン)

出典:環境省(2003)より作成

注:搬出量は負の値で示されているが、実際は正の値である。主要都道府県は搬入量、搬出量のいずれかが20万トン以上の都道府県を抽出した。

 

上記では2022年度実績と2000年度実績の2つを比較したが、時系列的な変化を捉えるため、さらに2005年度、2010年度、2015年度、2020年度のデータを加え、その推移を見てみる。まず、図3は搬出量の主要搬出元別の推移になるが、全体的に都道府県外への搬出量は増加傾向と言える。2022年度は若干落ちているが、短期的な変動の可能性も否めない。

全体における東京都の割合は25%前後であるが、2020年度のみ若干低く、19%となっている。量的には2010年度以降、900万トン前後で横ばいである。2020年度の東京都は搬出量も減少している一方で、周辺県の排出量は軒並み増加している。関東地方の割合は全体の45%前後で推移していり、愛知県、大阪府は全体の8%程度、6%程度である。

図では示されていないが、区域内・外の移動量の合計に対する区域内の割合については、2000年度、2005年度、2010年度は84%、82%、78%であり、減少傾向にあった。つまり、この期間はより区域外への依存度が増えたと言えたが、その後の2015年度、2020年度、2022年度はそれぞれ79%、77%、78%と変動しており、区域外へ広がっているとは言い難い状況にある。

 

図 3 産業廃棄物(中間処理目的)の搬出量の推移(搬出都道府県別、単位:千トン)

出典:環境省(2003)(2007)(2012)(2017)(2022)(2024)より作成

 

図4は関東地方に注目し、その搬出量を搬出先別に見たものである。関東地方から搬出される中間処理目的の産業廃棄物は、関東地方内に移動する割合が高いということは先に確認した通りだが、これを見ると他の年度も同様であることがわかる。同時に東北地方向けの割合が低いことも確認できる。これらから中間処理目的の産業廃棄物は、近隣に運ばれるということが確認できる。

 

図 4 関東地方からの産業廃棄物(中間処理目的)の搬出量の推移(搬入地域別、単位:千トン)

出典:環境省(2003)(2007)(2012)(2017)(2022)(2024)より作成

 

5.最終処分目的の移動との違い

上記の通り、中間処理目的の産業廃棄物の移動は主として近隣であることが確認されたが、最終処分目的の産業廃棄物の移動はどうなのだろうか。全体の移動量では2022年度実績において区域外が301.6万トン、区域内が641.5万トンである。先にも言及したように、中間処理目的の移動量と比べると圧倒的に少ない。また、区域内・外の移動量の合計(943万トン)に対する区域内の割合は68%であり、中間処理目的と比べると若干低いが、相応に区域内で移動している様子は窺える。

中間処理目的と同様に区域外と区域内の関係については地域性がある。区域内・外の合計に対する区域内の割合が高いところは香川県、宮崎県、北海道、富山県、青森県であり、その割合はほぼ100%となっている。つまり、これらの道県は区域外に依存していないということである。これに対して区域内の割合が低いところは、山梨県(0%)、埼玉県(5%)、大阪府(8%)、神奈川県(9%)、東京都(13%)であり、大きく区域外に依存している。中間処理目的のもので区域内の割合が50%を下回っていたのは2都県で、ともに40%台だったが、最終処分目的のものは14都府県が50%を下回っており、その割合が一桁のものもある。中間処理目的よりも区域外へ依存している構造が窺える。

図5は2022年度の最終処分目的の産業廃棄物の移動量を主要都道府県別に見たものである (*4)。まず、搬入においては福岡県、広島県、大分県、岡山県といった西日本の県が出てきている。これ以外にも宮城県、富山県、静岡県などが主要搬入県となっており、多方面にわたっている。関東地方が搬入の上位にあった中間処理目的の場合とは異なった構造になっている。搬出においては、愛知県、東京都のような大都市が上位にいる点は、中間処理目的の移動と似ているところはある。関東地方は搬出の38%を占め、中間処理目的の移動より若干割合は低い。

東京都からの主な搬出先は、量的に多い順で広島県(28%)、千葉県(17%)、宮城県(11%)、静岡県(9%)、福岡県(8%)であり(カッコ内は全搬出先に対するシェア)、この5県で74%を占める。関東地方からの搬出を見ると、主な搬出先も似ており、宮城県(19%)、広島県(12%)、富山県(10%)、千葉県(10%)、静岡県(8%)の5県で61%を占める。

関東地方内での移動は全体の28%であり、中間処理目的の移動(図4)と比べると大きく異なっている。これは中間処理目的と比べた最終処分目的の移動の特徴と言えそうである。その他、愛知県も搬出先は異なるものの、同様に広範囲にわたっている(静岡県:19%、福岡県:19%、大分県:13%、岐阜県:12%、広島県:8%)。これらを見る限りでは、最終処分目的のものは中間処理目的よりも広域に移動していることが窺える。

 

図 5 産業廃棄物の最終処分目的の搬入・搬出量(2022年度、主要都道府県別、単位:千トン)

出典:環境省(2024)より作成

注:搬出量は負の値で示されているが、実際は正の値である。主要都道府県は搬入量、搬出量のいずれかが2万トン以上の都道府県を抽出した。

 

上記のような構造が変わってきているかだが、2000年度実績を見てみると、上位の都道府県が異なっている。搬入においては、佐賀県、三重県、山口県、兵庫県、千葉県の順で多く、2022年度実績で多かった福岡県、広島県、宮城県、富山県、大分県の名前は含まれない。西日本の都道府県が上位に含まれており、多方面にわたっているという点では似ているところはある。搬出においては、愛知県や東京都は5位、7位となっているが、埼玉県、神奈川県といった関東地方のほか、兵庫県、大阪府といった近畿地方が上位にいる点は2022年度実績と似ている。関東地方は搬出の39%であり、2022年度実績とあまり変わらない。

2000年度実績の関東地方からの搬出先については、愛知県(21%)、福岡県(15%)、栃木県(14%)、千葉県(12%)、群馬県(8%)の順で多く、やはり多方面にわたっている(カッコ内は関東地方からの搬出先のシェア)。関東地方内での移動は43%であり、2022年度実績よりは高いが、中間処理目的の移動(図4)とは異なる状況が窺える。

図6は、関東地方からの搬出について搬出先別に見たものである。これを見ると、関東地方内の移動は40%前後であり、中間処理目的のように関東地方内の移動が圧倒的に多いわけではないことがわかる。また、東北地方向けは、2000年度は8%程度であったが、その後は概ね20%から30%程度である。その他の割合が高いのも中間処理目的とは異なっている。しかも広島県、福岡県、大分県など遠方の県も主要の搬出先となっており、かなり広範囲に移動している点は最終処分目的の特徴になりうる。

 

図 6 関東地方からの産業廃棄物(最終処分目的)の搬出量の推移(搬入地域別、単位:千トン)

出典:環境省(2003)(2007)(2012)(2017)(2022)(2024)より作成

 

 

6.一般廃棄物はどうか

上記の通り、産業廃棄物においては、中間処理目的と比べて最終処分目的はより広域に移動していることが垣間見れた。この事情は、一般廃棄物でも同様と言えるだろうか。直近の2022年度実績の報告書(環境省,2024)によると、一般廃棄物においては最終処分目的の移動データが示されている。具体的には一般廃棄物処理事業実態調査結果を基にしており、最終処分量のうち、排出都道府県外の民間業者等に最終処分を委託した量を算定したとしている。その委託先のうち、大阪湾広域臨海環境整備センターの実績を含んでいないとある。

2022年度実績では、全都道府県の搬出量の合計は23.5万トンである。同じ年度で産業廃棄物の最終処分目的の搬出量の合計は301.6万トンであり、それと比べると一般廃棄物の搬出量は10分の1を下回っている。図7は、一般廃棄物の搬出量と搬入量の2022年度実績について主な都道府県別に示したものである(*5)。これを見るとわかるように、搬入では東日本とりわけ東北地方の都県が目立っている。具体的には、山形県、秋田県、青森県、群馬県、三重県の順で多い。山形県の搬入量は全都道府県の合計の3分の1(34%)を占め、秋田県、青森県を含めた3県の全国における割合は68%になる。一方で、同じ東北地方でも福島県は3千トンと少なく、岩手県、宮城県の搬入実績はない。

山形県の搬入元を見ると、埼玉県、千葉県、茨城県の順で多く、この3県で74%を占める。栃木県、群馬県、神奈川県を加えるとさらに高くなり、関東地方(1都6県)だけで山形県の搬入の87%を占めている(東京都からの搬入はない)。秋田県、青森県についても同様であり、関東地方からの搬入は79%、91%と非常に高い。

図7で搬出側の数量を見ると、やはり関東地方が多く、埼玉県、千葉県、茨城県、神奈川県、栃木県、新潟県の順で多い。東京都の搬出実績はゼロであるが、関東地方で16.6万トンと全体の搬出の71%を占めている。このうち、埼玉県からの搬出は、先に示した山形県向けが多く、それに青森県、秋田県向けが続き、東北地方向けで97%を占めている(岩手県、宮城県、福島県向けはゼロ)。千葉県も東北地方向けの割合が76%である。関東地方から東北地方への搬出入量は13.8万トンであり、関東地方搬出量の83%(全国搬出量の59%)を占める。なお、主要の搬出県として新潟県があるが、同県からも山形県向けが多い。これらを見ると、一般廃棄物の最終処分目的の移動では、関東地方から東北地方への流れがあることが窺える。

 

図 7 一般廃棄物の最終処分目的の搬入・搬出量(2022年度、主要都道府県別、単位:千トン)

出典:環境省(2024)より作成

注:主要都道府県は搬入量、搬出量のいずれかが2千トン以上の都道府県を抽出した。

 

上記を受けて関東地方から東北地方への流れを時系列的に捉えてみる。図8は、2000年度から5年おきの関東地方の搬出量の推移を見たものである。これを見ると、2000年度の時点から東北地方への搬出は相応に多かったことがわかる。ただし、東北地方の依存度が80%を超えているのは2022年度のみであり、他の年度は40%~60%程度である。そのため、2022年度が異例だったことがわかる。

また、同じ東北地方であっても同じ県に搬入されているわけではない。2000年の時点では福島県への搬出が最も多かった。同県は2000年代末までの10年間で大きく減少し、2011年にゼロとなっている。また、2000年代後半は秋田県向けが最大の搬出先であったが、2010年代以降は減少し、その後は山形県が上回っている。青森県は直近の2022年実績では上位であるが、時系列的にみると過去はほとんど搬入の実績がなかったこともわかった。

図にある通り、東北地方のほかに関東地方も多い。これは主に群馬県や茨城県である。東北地方にこの2県を加えると、2015年度以降は全体の93%~96%を占める。2022年度は群馬県、茨城県が縮小し、青森県、秋田県、山形県が増加したという構図である。この時期は感染症を始めとして混乱があった時期であり、今後の動きを注視する必要はある。

2000年度、2005年度に多かったその他の地方については、2000年度が主に長野県、三重県、広島県、2005年度が長野県、奈良県である。この時期は産業廃棄物のように多岐にわたっていたことが窺え、それが徐々に東北地方、北関東地方に依存した構造となったと言える。

 

図 8 関東地方からの一般廃棄物(最終処分目的)の搬出量の推移(搬入地域別、単位:千トン)

出典:環境省(2003)(2007)(2012)(2017)(2022)(2024)より作成

 

 

7.まとめ

本稿では、環境省の報告書に基づいて廃棄物の広域移動のデータについて概観した。具体的には、産業廃棄物の中間処理目的、最終処分目的の移動のほか、一般廃棄物の最終処分目的の移動量を確認した。それらを時系列的に見ることで、それぞれが異なった特徴を持っていることがわかった。

関東地方からの移動について、産業廃棄物の中間処理目的では関東地方内で移動する割合が高かったが、最終処分目的のものはより広域に移動していることが確認できた。運送費と土地代の関係から中間処理目的と最終処分目的で移動の構造が異なることは想定できる。また、一般廃棄物の最終処分目的の移動も広域であるが、北関東と東北地方に依存しており、同じ広域でも構造は異なることがわかった。

廃棄物の広域移動というと、かつての不法投棄で見たように、東京都のような大都市から千葉県や埼玉県などの郊外、さらに北関東、東北地方といった地方へと徐々に廃棄物の移動範囲が広がる、というような単純な想像をする。しかし、今回見たデータの限りでは、産業廃棄物の最終処分目的の移動のように、必ずしもそのような広がり方ではない場合もある。一般廃棄物については、北関東、東北地方へ移動している様子は確認できたが、それが時系列的に広がっているかというと、今回のデータでは判断できなかった。もっと長いスパンのデータを見てみたいが、果たしてそのようなデータはあるのだろうか。

また、そもそも産業廃棄物のデータであったように、区域外よりも区域内での移動のほうが多い点も留意する必要がある。今回は粗削りのサーベイになるが、これらをさらに丁寧に見る必要はありそうである。それを受けて廃棄物の移動問題をどう捉えるかは今後の課題になる。

 

本研究はJSPS科研費 JP20K12299の助成を受けたものです。

*1 環境省(2003)は平成14年度版だが、紙媒体のものでは平成12年度版からあるようである。

*2 ここでは搬入量、搬出量ともに30万トン未満の都道府県は図から除いている。30万トン未満の県は、青森県、秋田県、山形県、石川県、山梨県、鳥取県、香川県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県である。

*3 ここでは搬入量、搬出量ともに20万トン未満の都道府県は図から除いている。20万トン未満の道県は、北海道、青森県、秋田県、山形県、福井県、山梨県、和歌山県、香川県、佐賀県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県である。

*4 ここでは搬入量、搬出量ともに2万トン未満の都道府県は図から除いている。2万トン未満の道県は、北海道、青森県、岩手県、秋田県、山形県、福井県、山梨県、和歌山県、香川県、高知県、沖縄県である。

*5 ここでは搬入量、搬出量ともに2千トン未満の都道府県は図から除いている。2千トン未満の都道府県は、北海道、宮城県、東京都、福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、鳥取県、島根県、山口県、香川県、愛媛県、福岡県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県である。

 

参考文献

  • 河北新報社報道部(1990)『東北ゴミ戦争』岩波書店
  • 環境省(2003)『平成14年度 廃棄物の広域移動対策検討調査及び廃棄物等循環利用量 実態調査報告書 (広域移動状況編)』
  • 環境省(2007)『平成18年度 廃棄物の広域移動対策検討調査及び廃棄物等循環利用量 実態調査報告書 (広域移動状況編 平成17年度実績)』
  • 環境省(2012)『平成23年度 廃棄物の広域移動対策検討調査及び廃棄物等循環利用量 実態調査報告書 (広域移動状況編 平成22年度実績)』
  • 環境省(2017)『平成28年度 廃棄物の広域移動対策検討調査及び廃棄物等循環利用量 実態調査報告書 (広域移動状況編 平成27年度実績)』
  • 環境省(2022)『令和3年度 廃棄物の広域移動対策検討調査及び廃棄物等循環利用量 実態調査報告書 (広域移動状況編 令和2年度実績)』
  • 環境省(2024)『令和5年度 廃棄物の広域移動対策検討調査及び廃棄物等循環利用量 実態調査報告書 (広域移動状況編 令和4年度実績)』
  • 関口鉄夫(1996)『ゴミは田舎へ?』川辺書林
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