熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)・環境安全センター長
外川 健一
- 1 1.はじめに
- 2 2.第1報告 環境省 環境再生・資源循環局総務課長 波戸本 尚氏
- 3 3.第2報告 株式会社鈴木商会 代表取締役社長 駒谷 僚氏 「資源循環型製造業へ」
- 4 4.第3報告 AREホールディングス株式会社 代表取締役社長 東浦 知哉氏「サーキュラーエコノミーとARE」
- 5 5.第4報告 片山さつき参議院議員
- 6 6.第5報告 株式会社竹中工務店 常務執行役員 磯野 正智氏 「竹中工務店が描く、建築・まちづくりにおける資源循環社会にむけた取組み」
- 7 7.第6報告 東京製鐵株式会社 建材部建材課長 本松 久幸氏「カーボンニュートラル実現の鍵 電炉鉄高度循環への挑戦」
- 8 8.第7報告 サイクラーズ株式会社 代表取締役社長 福田 隆氏「サーキュラーエコノミーの潮流 工夫と取組み」
- 9 9.第8報告 TREホールディングス株式会社 執行役員 経営企画本部副本部長 兼 戦略部長 山下 勇一郎氏「資源循環業におけるCEへの期待と課題」
- 10 10.第9報告 大栄環境株式会社 執行役員 下田 守彦氏 「廃棄物処理・資源循環のあり方を変えるために」
- 11 11.第10報告 株式会社エンビプロ・ホールディングス 常務取締役 中作憲展氏 「エンビプロ・ホールディングスのサーキュラーエコノミー 〜再生原料メーカーへの挑戦〜」
- 12 12.第11報告 阪和興業株式会社 執行役員 天野 毅氏 「リサイクル資源を取り巻く環境と課題」
- 13 13.第12報告 経済産業省 産業技術環境局 資源循環経済課 課長補佐 吉川 泰弘氏 「GX時代における循環経済(サーキュラーエコノミー)について」
- 14 14.第13報告 株式会社UACJ サステナビリティ推進本部 気候変動対策推進部長 後藤 郁雄氏 「アルミでかなえる、軽やかな世界」
1.はじめに
IRUNIVERSE主催「第3回 Circular Economy Summit in TOKYO」。学士会館にて4月4日に開催されたこの会合には、本誌でもおなじみの山口大学の阿部先生も参加されたほか、経産省・環境省の担当官もゲストスピーカーに招かれ、自動車リサイクル業界はおろか、関連する他分野のサーキュラーエコノミー(以下、CEと略す。)に関する講演や質疑応答、パネルディスカッションでの議論が盛り上がった。本稿ではそれぞれの講演を中心にではなく、それを基に筆者に自動車リサイクル業界に関連する事項を抜粋するなどして、これまでの動向を回顧する。
2.第1報告 環境省 環境再生・資源循環局総務課長 波戸本 尚氏
CEに関する最近の政策についての概説を拝聴できた。
やはり注目を浴びたのは、この3月15日に閣議決定された「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律(案)」である(図表1)。
図表1 資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律(案)
資料)環境省ウェブサイト /https://www.env.go.jp/content/000208833.pdf
図表1にあるようにCE以外のキーワードとして、「経済安全保障」資源循環の「産業競争力強化」が挙げられる。欧州の様々な規制(ELV規則案、バッテリー規則等)の動きに対応しつつ、日本に賦存する都市鉱山資源をいかに効率的に市場に戻し、しかもより付加価値の高い資源とするための仕掛けが模索されている。このため、小型家電リサイクル法で本格的に導入された広域認定制度をさらにあらゆる静脈資源に広げる形で、動脈メーカーが必要とする質・量を、安定提供できるような動静脈の連携を図っている。
その具体的な内容が図表2.に示されている。こちらの方で見られるキーワードは「高度化の促進」であろう。自動車リサイクルでも「高度化財団」が立ち上がっているが、この用語の背後には、リサイクル業界にイノベーションを起こしたいという意図もあるのかもしれない(2010年代の大きな技術的なイノベーションは光学選別機の導入と利用であった。)が、何よりもこの業界に多くの(異業種)参入を促す仕掛けが組み込まれているとも感じられる。
ここで強調しておきたいのは、筆者の知る限り自動車リサイクルの「高度化」なる言葉は、2009年の自動車リサイクル法の最初の見直しの議論の中で初見された用語であるものの、この高度化法案でも「高度化」の定義はこれまで一度もなされていない。「高度化」とは、きわめて曖昧な概念なのである。漠然とした意味としては、よりインパクトの強い技術革新と後述する脱炭素技術を指しているのかもしれない。ただ、現段階ではあえてこの概念を曖昧にしておくことで、時流に即した様々な技術開発、システム開発が時の政策ブレーンによって都合よく採用される可能性がある。
図表2 資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律(案)続き
資料)環境省ウェブサイト /https://www.env.go.jp/content/000208833.pdf
また、もう1つのキーワードは「脱炭素」であろう。リサイクルにあたっても脱炭素に貢献されるシステムの開発がより一層求められている。
講演で改めて興味深かったのは、環境省が「循環型社会」を構築するためのドライビングフォースとして、CEを捉えているような発言があった点である。このことは、2023年10月17日付の、中央環境審議会による環境大臣への、「新たな循環型社会形成推進基本計画の策定のための具体的な指針について(意見具申)」を読むと、さらに実感できる。
「資源投入量・消費量を抑えつつ、製品等をリペア・メンテナンスなどにより長く利用し、循環資源をリサイクルする3Rの取組を進め、再生可能な資源の利用を促進し、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて資源・製品の価値を回復、維持又は付加することによる価値の最大化を目指す循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行は、循環型社会のドライビングフォースともいえるものであり、資源消費を最小化し、廃棄物の発生抑制や環境負荷の低減等につながるものである。」「循環経済への移行は、環境面に加え、国際的な資源確保の強化の動きや人権・環境デュー・ディリジェンスのルール形成の動き、欧州における規制強化の動きも含めた現下の国際情勢等も踏まえれば、資源確保や資源制約への対応や、国際的な産業競争力の強化に加え、経済安全保障の強化にも資する。以上を踏まえ、バリューチェーン全体における資源効率性及び循環性の向上等に効果的な循環経済アプローチを推進することによる循環型社会の方向性を示す。循環経済への移行に当たっては、環境・経済・社会全体としては持続可能性を確保する上で重要であっても、各主体にとっては短期的に経済合理的ではない取組も実施されるようにしていくことが必要となる場合もあるため、各主体の取組が円滑に進み、社会的に評価される政策の方向性を示す。」
https://www.env.go.jp/content/000215434.pdf とくに2ページ。
なお、この答申では、「現在も循環経済の定義については、国際的に確立しておらず、ISOの専門委員会といった国際的な場で引き続き議論されているところ。」と明記してある点も銘記しておきたい。「高度化」同様、CEも意外なことに曖昧な概念なのである。
3.第2報告 株式会社鈴木商会 代表取締役社長 駒谷 僚氏 「資源循環型製造業へ」
自動車リサイクルで言えば、北海道の渡島半島を除く地域では、同社と株式会社マテックが、大手シュレッダー業者として道内の自動車リサイクルを牽引している。(函館を中心とする渡島半島に限っては、エンビプロHDの子会社でもあるクロダリサイクルが、活発な活動を行っている。)
今回の講演で紹介された同社の事業のうち筆者が注目したのは、NEDOの委託事業である「使用済モータースクラップからのネオジウム磁石の回収精製技術の実証研究について(タイ チョンブリ県)」である。これまでモーターのリサイクルをする場合は、ベースメタルの銅が主たるターゲットであった。しかしここで、なぜレアアースであるNd磁石にこだわるのか?それは、現在の日本では当たり前のようにハイブリッド車が普及しているが、30年前はそのような見通しを、どの程度のリサイクラーが予見していたのかという「未来を想像する先手を打つ発想」が、同社は重要であると考えたからである。脱炭素やCEの流れの中で、日本でも今後、EVの急速な普及が見込まれている。脱炭素の流れで言えば、再生可能エネルギーとしての風力発電でも、モーターはたくさん使われている。よって、同社はこの実証事業の公募を決めたという。
モーターに含まれているNd等はいわゆるレアアースで、ごく微量にしか各モーターには含まれていない。また、Ndは日本の技術者が実用化させた素材でもあるそうだ。そこで、使用済モーターの著名な集積地であるタイのチョンブリ県にて、大量の使用済モーターを取り扱っている日系のスクラップ業者である日高洋行と共同で、環境に配慮した使用済モーターからの磁石の回収・精製技術のビジネススキームの構築を目指した。具体的には、レアアースの含有別にモーターを選別して、最適な解体プロセスを模索したらしい。またここに集まったモーター類は多種多様な種類のものが集まってくるため、AIを用いての画像解析を活かした個体・種別ごと原料データベースを作り、脱炭素を意識した合理的な製造プロセスを考案することで、使用するエネルギー量の削減を図るという。
https://news.yahoo.co.jp/articles/88e2fbaea06964a5064d1a0e91c5f2689accf4a0 参照。
このほか、環境省の実証事業であるアルミドロスの有効利用を通じた水素製造の報告では、いずれはナショナル・プロジェクトとして、千歳市内に建設された半導体工場Rapidus にも、再生された水素を供給したいという野心的な構想も紹介された。
4.第3報告 AREホールディングス株式会社 代表取締役社長 東浦 知哉氏「サーキュラーエコノミーとARE」
AREHDは合併や持株会社の設立等を経て、2009年に設立された会社で、貴金属のリサイクル事業に強い。グループ企業のアサヒプリティックの新門司工場(2023年から、アサヒプリティックの環境事業はジャパン・ウェイスト株式会社に分社化されたそうだ。)では、私の勤務する熊本大学で発生した実験廃液の処理を委託している(私も熊本大学環境安全センターに所属する職員として、幾度か焼却施設の見学を中心に訪れたことがある)。そういった意味では、個人的にはご縁を感じる会社である。なお、AREホールディングスの起源は1952年にまでさかのぼるという。
同社のメイン事業は、貴金属のリサイクル事業である。金相場の上昇は同社にとっては都合の良い環境であろうが、同社は未来の貴金属リサイクルを見据えている。とくに世界的な宝飾ブランドはESG(環境、社会、企業統治:いわゆるガバナンス)に対する配慮を強化しているため、労働者等の人権問題を無視した開発が多い、途上国での処女鉱山からつくられた宝飾品よりは、リサイクル材で加工された貴金属製品に価値を見出す傾向が出てきているという。その代表格はティファニーだそうだ。https://www.tiffany.co.jp/sustainability/product/ 参照。
資源安全保障の観点からは、いわゆるレアメタル・レアアースは一部の国や地域に偏在して賦存している。東浦氏の講演スライドでは中国の名前は出ていなかったが、ロシアと南アフリカ共和国と中国が偏在国の代表例であろう。
実際、ウクライナ戦争や米中経済摩擦、南アフリカ共和国政権での汚職や腐敗の顕在化などから、半導体生産の国内回帰が西側先進国では生じ始めており、日本もその動きに同調している。また、世界の成長センターであるASEANおよびインドでのビジネスを本格化していくのが、今後の事業拡大のポイントとなると力説されていた。
なお、同社の坂東工場(茨木県)は世界でも五本の指に入る貴金属の都市鉱山リサイクル拠点であるそうだ。ぜひ機会があれば見学したいと心から思った。
ELV関係でいえば、廃触媒由来の白金などがまさに同社のターゲットのリサイクル材である。自動車リサイクラーも、ゴーイング・コンサーン(倒産せずに永続的に営業を続ける。)を実現するために、現代のトレンドであるESGを正確に把握していく必要があるようだ。
なお、同社が関連する投資会社J-Starの存在にも注目したい。この投資会社はいわゆるニッチ産業で成長が期待できる企業への投資を得意としているそうだ。中でも同社が投資しているレナタスグループは、関東、中部、近畿、北陸の主要地域において、大規模かつ効率的な産業廃棄物処理施設・リサイクル施設を連携させ、売上高を伸ばしているという。つまり、このグループの参画企業間で有機的なネットワークを構築し、各社が持つ多様な技術基盤やノウハウを相互に共有することにより、適正かつ高度な廃棄物処理のワンストップサービスを提供していくことを目指しているらしい。注目すべきは、自動車解体事業からは撤退し、総合的な動静脈連関を仕掛けている北陸の雄、ハリタ金属がこのグループのメンバーであることだ。
https://www.j-star.co.jp/archives/news/4588 参照。
5.第4報告 片山さつき参議院議員
あえて一言述べれば、IRユニバースのシンポジウムでは、自民党の国会議員を中心に政治家をゲストとして呼ぶことが頻繁にある。行政マンは一般に政治家には弱いというが、政治家が同席した場合の行政マンの対応や、その場でどれだけリサイクラーの苦境が共通認識されるかは興味深い。しかし、例にもれず国会議員は多忙なためか、数十分の講演をした後はすぐに次のお仕事へと去っていった。
6.第5報告 株式会社竹中工務店 常務執行役員 磯野 正智氏 「竹中工務店が描く、建築・まちづくりにおける資源循環社会にむけた取組み」
SDGsの12番目の目標はリサイクラーにはお馴染みの「生産者も消費者も、地球の環境と人々の健康を守れるよう、責任ある行動をとろう:つくる責任、つかう責任」であるが、11番目の目標は、「だれもがずっと安全に暮らせて、災害にも強いまちをつくろう:住み続けられるまちづくりを」である。大手ゼネコンの竹中公務員のCE戦略について、上記を念頭にお話をうかがった。
この講演で、自動車リサイクルに直接関連するようなテーマはなかったようだが、一番印象に残ったのは、木造建設のニーズについてで、とくに環境配慮型の企業から木造建設の需要が大きくなっているそうだ。計画的な植林・森林経営の見直しがわが国では愁眉の課題であると改めて感じた。
建築学者の白井裕子氏は、本来建設用に使われるべき高級木材が、補助金政策のせいで、バイオマス発電事業用に回っていることを問題視している。そもそも建築用にも合板用にもなりえない下級チップをバイオマスに回すべきなのに、FITによる収入を目的に、高級な原木がバイオマス原料とするような事例もしばしば聞く。木材資源の地産地消は、CEを考えるうえで、重要であると痛感した。
7.第6報告 東京製鐵株式会社 建材部建材課長 本松 久幸氏「カーボンニュートラル実現の鍵 電炉鉄高度循環への挑戦」
脱炭素に関して、高炉による鉄鋼生産は多くの温室効果ガスを発生させるとして、まさに現在電炉による鋼材の生産に社会が注目している。筆者もこれまで、電炉では珍しく平日の昼間も操業する機会が多い共英製鋼(山口)を中心に何度か電炉工場の見学をさせていただいたが、コロナ禍中にオンラインで懇意になった東京製鐵の社員の方のコーディネートもあって、岡山、宇都宮、そして最新鋭の田原工場の見学をさせていただいた。その時は自動車メーカーを中心に、日本の製造業には強力なバージン原材料志向(信仰ともいえるかもしれない)があることを、工場の方々からうかがった。しかし、CEが本格化した現在、高品質の再生材由来の製品を供給することで、東京製鐵のような電炉界の雄は、ますますその社会的存在価値を高めるものと思う。
これまで一般に電炉業界で生産する鋼材は、建設用の汎用品が殆どであった。しかし、人口減少が進む日本では、より災害に強い高品質の棒鋼でないと需要はなかなか生まれないであろう。東京製鐵では、すでにH型鋼や自動車用鋼板になるような薄板まで製造することができるようになった。高炉メーカーが独占していた高付加価値鋼材の生産準備を、着々と整えているようだ。
自動車リサイクルの観点で言えば、31条認定全部利用に対する同社の、より積極的な利用への期待がある。筆者はシュレッダー処理を否定してはいないが、31条全部利用は電炉工場が周辺に立地している解体工場では、積極的に推進されるべきであると考えている。この手法に対して東京製鐵は自動車リサイクル法施行当初は殆ど興味を示さず、競合他社のJFE条鋼が存在感を発揮していた。
しかし近年では宇都宮工場を中心に、31条認定全部利用の拡大を徐々に進めてきている。残念なのは岡山工場での31条認定全部利用が思うように進んでいないことである(その理由の詳細は筆者にはわかっていない。)。
今回の講演で一番印象に残っているのは、トランプエレメントという従来の発想の転換である。鉄鋼の生産には銅や、クロム、ニッケル、スズ、モリブデンなどが混ざっていると、従来型の鋼材の生産にとっては、不純物が混ざるゆえ、市場での評価は低い。ゆえに、31条認定全部利用では、銅成分の除去を解体業者に条件づけていたのである。しかし、いわゆる高付加価値のハイテン材などは合金であり、少量の前述したベースメタルやマイナーメタルを配合している。ならば、最初からそれが含有されているスクラップを上手に活用して、高品質の鋼材を生産する方法を確立すれば、CEのモデルとして、素晴らしいものができそうだ。
東京製鐵ではすでに「アップサイクル」というネーミングで、かつてトランプエレメントと呼ばれた金属類を上手く利用することで、付加価値の高い電炉鋼製品を開発し提供している。顧客にはリコーやパナソニック、トヨタ自動車などがあるという。
なかでも筆者が興味を感じたのは、FOMM社へのアップリサイクル電炉鋼材の提供である。FOMM社はベンチャーのEVメーカーであるが、車体の72%に東京製鐵でアップサイクルによって生産された電炉鋼材を使用しているという。
https://frontier-eyes.online/iron-scrap-business_book6/ 参照。
このお話を耳にして、10年ほど前に東北地方のとある解体業者が、ハイテン材の素材として自動車スクラップを加工するというアイディアを思いつき、解体自動車を原材料に、ハイテン材原料専門に加工する機械を考案し、新工場を建設したことを思い出した。残念ながら、この事業は失敗に終わった。機械の問題や時期が早すぎたのかもしれないが、自動車リサイクラーと鉄鋼業界が協力することで、新しいCEのモデルができることを、今後は一層期待したいと痛感した。
8.第7報告 サイクラーズ株式会社 代表取締役社長 福田 隆氏「サーキュラーエコノミーの潮流 工夫と取組み」
CEをビジネスとして成立させるための仕掛けとして、筆者はかねてからDXがカギとなると考えていた。登壇者の福田氏も同様に、CEにおいては、再生資源の製造方法、マーケティング開発を行う大規模事業者、ツール提供や物流網提供を行う新興事業者が、新たな価値を提供すると想定して、ITの活用を進めているという。
福田氏は本シンポジウムの第1報告であった、政府の「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律(案)」に対して、「高度化」というキーワードを利用した大企業の資源リサイクルビジネスを誘導する制度だという意見を持っているようだった。
さて、自動車リサイクルに目を向ければ、ご存じのように許可を得た外国人経営者による自動車解体業者の数は首都圏では半分を超える県もあり、全国平均でも4分の1強が外国人業者である。また、鉄スクラップ業界のM&Aが静かに進んでいるが、買収に積極的なのは中国系を中心とした海外資本である。筆者は外国人経営業者の参入に対して否定的な見解は必ずしも取らないが、①彼らが果たして本当に日本の法令を遵守して日本のリサイクラーと同じ条件でビジネスを行っているのか、②今回のテーマである「経済安全保障」の問題から、このような静脈産業の現場の激変をきちんと把握し、どのように政策的に対応するのかを政府が示すことが重要だと感じている。
ITの活用から言えば、同社はReSACOというB to B中古品プラットフォームを2019年に立ち上げ、幾度かのトライアンドエラーを重ねながら、より使いやすいCEを目指したシステムを開発している。私は質疑応答で「なぜヤフオクやメルカリが日本ではこれほどまでに中古品のネットオークションのプラットフォームとして成長し、またその牙城は揺るがないようにも思われるのはなぜか」をうかがった。福田氏から明確な回答は得られなかったが、氏の回答から、中古品で探すならメルカリ、自動車中古部品を探すならヤフオク、といった「刷り込み」が一般消費者に根付いている点があると感じた。また、福田氏は「ヤフオクにはストア機能があるなど、決して使い勝手が良いわけではないので、ReSACOがより使いやすく、CEに貢献していることが認知されれば、まだまだこのシステムの需要は伸びる」ような回答をされていたのが印象に残っている。
9.第8報告 TREホールディングス株式会社 執行役員 経営企画本部副本部長 兼 戦略部長 山下 勇一郎氏「資源循環業におけるCEへの期待と課題」
TREホールディングスは、2021年に建設廃棄物の取扱量トップのタカエイと、大手金属リサイクラーのリバーHDが合併して誕生した、日本型「静脈メジャー」を目指して創設された会社である。
今年、2024年の元日に起こった能登地震に対しても、輪島市や珠洲市等に総額1,300憶円を寄付したうえで、輪島市や珠洲市の廃棄物の仮置場(6か所)の設置に協力し、その運営を行う人材も派遣しているそうだ。地震大国日本では、災害廃棄物をいかに安全かつ効率的に、再利用できるものと適切に処理するものとに選別していくか、そして可能な限り脱炭素を意識してこの作業を行うかは、日本のCEにおける大きな課題であろう。
また、講演者の山下氏が示した、静脈メジャーの日欧比較の表からも、改めてその規模が全く違うことを再認識できた。
日本の静脈メジャーとして山下氏はTREホールディングスのほかに、第3報告で登壇したAREホールディングス、第9報告で登壇する大栄環境ホールディングス、今回は登壇しなかったが、小坂銅山に起源をもつDOWAホールディングスを紹介したが、いずれ売上高は600億円程度から8,200憶円程度、従業員も1,500人程度から7,400人程度と1万人には満たない。
これに対して、アメリカのWaste Management社、フランスのVeoliaや Suez、ベルギーのUmicoreは、すべて売上高は1兆円を超える規模(2024年4月の円安傾向がさらに進めば、円換算ではますます格差は広がろう。)であり、従業員もこの4社のうち一番少ないUmicoreで1万1,000人程度、万単位から10万単位の従業員を雇用しているのだ。
また、山下氏はCEを実現させるためには製造業が持つ品質(quality)、コスト(cost)、納期(delivery)の3つを静脈産業も意識する必要性を指摘した。これは動脈側の論理からは理解できる。しかし、CEはこれまでの動脈の論理だけではなく、地球環境や労働者の労働環境の改革を意識したものでなければならないことも、肝に銘じておくべきであろう。そのため、DXやAIの活用がますます重要視されるものと期待される。となると、デジタル社会におけるさまざまな弊害(例えばSNSにおけるフェイクニュースや個人攻撃等、あるいはサイバー攻撃による安全保障等)に対して、私たちは極めて慎重に対応しなければならない時代に突入していると改めて感じた。
なお、同社のCEを目指した動静脈連携のケース紹介も、静脈メジャーを志向しているからこそ、できるものかもしれないと感じた。
10.第9報告 大栄環境株式会社 執行役員 下田 守彦氏 「廃棄物処理・資源循環のあり方を変えるために」
1990年代の初めに豊島事件が勃発して、シュレッダーダストの行き場がなくなる問題が顕在化して、使用済自動車の逆有償という現象を目撃したのは、私が自動車リサイクルを本格的に研究するきっかけでもあった。しかし、この時期に首都圏のとある著名な解体業者にヒアリングに行ったところ、「心配はない。処分場はある。」と、対応した方は言い切り、この問題をそんなに深刻に受け取っていなかった。筆者はそこがどこなのかと、その業者に幾度か問い直したが、「三重県にある。」とまでしか、回答を得ることができなかった。当時は、私もまだ若く、その解体業者の方にとっては、得体のしれないスキャンダルを得意とする事件記者にでも見えたのかもしれない。そして数か月後、その処分場が大栄環境グループにより経営されている最終処分場であることを何となく突き止めた。そこで、早速見学に行った。その時のことは今でも鮮明に覚えている。暑い夏の日。近鉄の最寄り駅からタクシーで30分程度。若い私の財布にはかなり大きな額であった。
大栄環境HDは、自動車リサイクル法下でのシステムになってからも、ASRの28条再資源化施設や、最終処分場の運営などで、一貫してこのシステムを支えてきた産廃処理業者兼リサイクラーの雄である。
登壇者の下田氏は、同HDの強みとして、相対的な廃棄物処理のキャパシティの大きさをあげた。そしてこれまでの実績から、2023年3月には全国の24%の自治体にあたる425の自治体とも取引を行っているという。30年以上前に、首都圏のとある著名な解体業者が「処分場はある」と言っていた根拠は、まさにこのキャパシティの大きさが一番の理由だったのかもしれない。
熊本大学のスタッフとしては、同HDが参画している熊本県益城町、嘉島町、甲佐町、御船町、大和町との公民連携の廃棄物処理事業に注目したい。リサイクル施設のほか、エネルギー発電施設、メタン発酵施設、堆肥化施設などを計画したもので、2021年に締結され、2029年の稼働を目標としている。
また、CEに関してはプラ新法への対応として、プラスチックを主たるターゲットとしたマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルへの取り組みが紹介された。
11.第10報告 株式会社エンビプロ・ホールディングス 常務取締役 中作憲展氏 「エンビプロ・ホールディングスのサーキュラーエコノミー 〜再生原料メーカーへの挑戦〜」
エンビプロHDも、日本の静脈メジャーを目指していると筆者は考えている。自動車リサイクルに関しては、中核企業のエコネクルや子会社のアビズがASRの28条認定を受けている。また、かつてアビズが中古車オークションの雄、USSと連携して「オークション流れの自動車を解体するというビジネスモデル」を構築した際には、本当に時代を読むのに長けた経営を行っていると感じた。中古車の方も、かつてはドバイ方面にも力を入れ、中古車輸出会社3WMを運営していた。同社はその後中古車輸出先を南米(チリ)にシフトさせたが、現在は拠点を名古屋から神奈川へ移し、株式会社サイテラスとして、車両輸出代行サービス事業の会社となり、2023年から操業を始めている。
またEVの電池リサイクル事業にいち早く取りかかり、株式会社VOLTAを設立し、高品質のブラックマスの生産を目指している。また、ゆくゆくは自らニッケルやコバルトの製錬までできるような技術開発も目指していると思う。
同HDの特徴としてまず、事業所内のエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うというRE100に参画していることが挙げられる。さらにCEを実現するためのコンサルティング会社であるブライトイノベーションを設立した。また、同HDの海外事業展開をサポートする、海外事情にも強い株式会社ニュースコン等も重要な位置づけを占めている。
また、意外に注目されていないのがゴムの処理・再資源化である。同HDの子会社の東洋ゴムチップは、廃ゴム(製品)を破砕・加工して、コンパウンドメーカーに、CEを意識した再生原材料の供給ができるまで技術力を伸ばしてきたという。
鉄・非鉄はもとより、地上にある再生資源を、CEを念頭におきながらRE100で再資源化を行おうと奮闘する同社の今後に期待したい。
余談)ESG投資の実践をしてみようかと、筆者は「直観」で同HDの株式を2021年の夏から保有しているが、株価は上下するものの、この2年間一貫して下降傾向にある。これは依然としてESG投資が社会的に認識されていないものとも考えられるし、他にも何か原因があるのかもしれない。一般に株価は企業価値を現わすと言われるが、投資家のマインドで大きく変化する。ウクライナ戦争以降、ESG投資はとくに米国では停滞し、逆に脱炭素に反する化石燃料メジャーの株価が上がったという話を聞く(山下真一『環境投資のジレンマ-反ESGの流れはどこへ向かうのか』日経BP社、2024年、とくに第2章、第3章を参照。)。
12.第11報告 阪和興業株式会社 執行役員 天野 毅氏 「リサイクル資源を取り巻く環境と課題」
阪和興業は、筆者がこの研究を始めて以来、再生資源・リサイクルビジネスの話題には必ず名前が出てくる商社である。この講演で登壇者の天野氏は、本シンポジウムのテーマである経済安全保障の観点からか、鉄や非鉄(とくに銅)スクラップを中心としたスクラップ資源が、現在どんどん海外に流出されている事実に対して、もっと注視しなければならないと警鐘を鳴らしていたと感じた。静脈資源の経済安全保障を意識した講演であった。
自動車リサイクル法で言えば、31条でない、非認定全部利用(輸出)による解体自動車数の増加が確かに観察されていることは、筆者が本誌等で幾度か述べてきた通りである。
13.第12報告 経済産業省 産業技術環境局 資源循環経済課 課長補佐 吉川 泰弘氏 「GX時代における循環経済(サーキュラーエコノミー)について」
午前中は環境省からの、そして午後は経産省から、CEへの取り組みが報告されたことになる。
ここで紹介されたのは、「成長志向型の資源自律経済」を確立することが政策的に重要だと経産省は認識し、CEはそれを支える考え方として重視していることである。図表3に「成長志向型の資源自律経済戦略」の概要を転載する。CEへ転換しないことへのリスクとして、やはり資源に関する経済安全保障が挙げられているが、欧州市場を意識した海外市場からの排除なども懸念されている。
この「成長志向型の資源自律経済」を確立のため、予算の確保が2024年度には計上されているという。また、CE推進のための「サーキュラーパートナーズ:CPs」の活動が紹介された(図表4)。2024年4月段階で402の組織が参画しており、うち大企業が146社、中小企業が162社、地方自治体が16自治体、大学・研究機関は20参画しているという。https://www.cps.go.jp/member-list 参照。
(私の所属している熊本大学は、このCPsには参画していなかった。)
図表3 経産省が中心に提唱している「成長志向型の資源自律経済戦略」の概要
https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230331010/20230331010-1.pdf より引用。
図表4 CE推進のための「サーキュラーパートナーズ:CPs」
https://www.meti.go.jp/press/2023/12/20231226005/20231226005-2.pdf より引用。
14.第13報告 株式会社UACJ サステナビリティ推進本部 気候変動対策推進部長 後藤 郁雄氏 「アルミでかなえる、軽やかな世界」
株式会社UACJは、古河スカイと住友軽金属が合併してできた会社で、アルミ板生産量は国内トップ、世界3位の実績を持つ。また、同社の特徴としては、アルミメーカーのスチュワードシップ(製品に対する責任に関するリーダーシップを持つ)を担うASPに2020年から加盟している。
周知のとおり、アルミニウムは電気の塊であり、電気代が相対的に高価な日本では国際競争力を失い、アルミニウムの電解製錬工場は皆無である。しかし、再生アルミを溶解してダイカスト等を生産する工場
は依然として健在である。またアルミニウムはベースメタルのなかでも、最も確認埋蔵量からして長期的な供給が期待される鉱物でもあり、CEへの戦略を打ち立てるまで比較的時間的に余裕のあるメタルでもあるという。
同社もまた、2050年にカーのンニュートラルを目指していることも紹介された。
同社のウェブサイトの最初には、同社のキャラクター「夢のアル美」という福井県坂井市(UACJの主力工場がある。)出身で吉祥寺在住(後藤氏の話によると、このキャラクターをデザインした会社が吉祥寺にあるそうだ)の少女が、アルミの特性やリサイクルの有効性に関して楽しく紹介する動画や音声が配信されている。 https://www.uacj.co.jp/yumemiru-arumi/index.htm 参照。
自動車リサイクルの観点から言えば、CE時代のエンジンアルミ溶解ビジネスに注目したい。このテーマを論じるには、筆者はまだ勉強不足であるようだ。
すべての講演が終わった後、パネルディスカッションが行われた。私はこの席で、ドイツ在住で、使用済自動車から再生銅の原材料として、ワイヤーハーネスを集めようと営業をしている参加者から、その方が現地見学した限りでのドイツの自動車解体の現場の実態を耳にした。その方が訪問した自動車解体業者は、ワイヤーハーネス等を含む素材の取り出しは、日本で紹介されたようなやり方で徹底的には行われていないこと、EV由来のLIBが焼却処分されているケースもあるという発言を耳にした。私たちは欧州の野心的な試みを学ぶと同時に、その現場では何が行われているのかも注視しなければならないと、心から思い知った気がする。と、同時に日本で営業している解体業者のどれだけが素材の回収を徹底して行っているのか?外国人経営の解体ヤードを含めて、系統的な調査がまだまだ必要だとも感じた。
追記)ウェブ情報はすべて、2024年4月29日に福岡市で確認したものである。本稿の執筆にあたってはIRユニバースの棚町裕次社長をはじめ、同社のスタッフ、このフォーラムの登壇者、参加者、並びに総合司会を筆者と分担して担当された原田幸明先生とオフィス西田の西田純氏に深謝する。なお、本稿に起因する誤りの責任はすべて筆者にある。
なお、IRユニバースは、5月29日には東京にて半導体産業に関するシンポジウムを計画している。また年内にもう1度CEに関するシンポジウムも開催する予定と聞く。詳しくは同社のウェブサイトを参照されたい。 https://www.iru-miru.com/