熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)・環境安全センター長
外川 健一
1.はじめに
2024年1月26日、例年ならば遅くとも11月に開催されている産構審・中環審の自動車リサイクル合同会議(正式名称は、産業構造審議会産業技術環境分科会資源循環経済小委員会 自動車リサイクルWG 中央環境審議会循環型社会部会自動車リサイクル専門委員会合同会議)が開催された。しかしここでは直近の2023年の報告ではなく、2022年度の自動車リサイクルに関する政府による公的な報告が、ようやく公となったのである。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/058.html
あまりにも遅い、異常ともいえるタイミングである。そこで、過去の産構審・中環審の自動車リサイクル合同会議で、前年度のレビューが行われたのはどのタイミングなのか、法施行当初にさかのぼって調べてみた。
2005年度のサーベィ 2006年7月14日
2006年度のサーベィ 2007年7月13日
2007年度のサーベィ 2008年7月11日
2008年度のサーベィ 2009年7月7日
2009年度のサーベィ 2010年8月6日
2010年度のサーベィ 2011年8月23日
2011年度のサーベィ 2012年8月10日
2012年度のサーベィ 2013年8月7日
2013年度のサーベィ 2014年8月21日
2014年度のサーベィ 2015年9月14日
2015年度のサーベィ 2016年9月30日
2016年度のサーベィ 2017年9月19日
2017年度のサーベィ 2018年9月4日
2018年度のサーベィ 2019年9月10日
2019年度のサーベィ 2020年8月19日
2020年度のサーベィ 2021年10月29日
2021年度のサーベィ 2022年11月7日
2022年度のサーベィ 2024年1月26日
以上を見ると、法施行初期は前年度の3か月少々を経た7月上旬には前年度の状況がサーベィされ、制度のどこに問題があるのかの共通認識を持とうと、データの公表がスピーディに進んだが、JARCのデータ公表が迅速かつ一部の関係者にはわかりやすくなったためか、2009年度のデータからは8月に、2014年度のデータからは9月に、そして2019年度のデータは自動車リサイクル法の5年ごとの見直しの年であったこともあり、8月に前年度のデータは公表された。その後公表時期はずれ込み、2020年度のデータは10月末に、2021年度のデータは2022年11月にようやく前年度のデータとその見解が公表された。しかし、今回の2022年のデータの公表とその解釈は、年をまたいでの1月に行われた。自動車業界ではビッグモーター不正事件、ダイハツ不正事件など、最近では日産の下請法違反容疑など大変なのかもしれないが、自動車リサイクラーにとっては2024年の3月に現在に起こっていることを時代の流れを追いながら、より正確に把握し、今後のビジネスの方向性考察するため、また政策立案者も、今まさに起こっているリサイクルの課題を議論しなければ意味がない。2024年の1月に、約2年前の2022年度のデータを観ながら審議するという、スピード感の無さに呆れてしまうのは私だけなのだろうか?たまたま、この3月4日東京で開催された自動車補修部品研究会に筆者はオブザーバで参加させていただき、出席し講演されていた経産省の担当官が、「なぜ最近はELVが解体業者の手に入らないのか」を、2023年の入手可能なデータを使って説明されていた。そこで、1月の産構審・中環審の自動車リサイクル合同会議では、2022年のデータを報告していたのは、なぜなのか質問させていただいたところ、低姿勢に「あくまでも事務的な問題で、今後はこのように遅れることがないようにしたい。」との回答を頂いた。しかし、2024年は5年ごとも見直しの年であり、電子マニュフェストのシステムの大改革が予定されている。2023年度のデータ公開とその政府見解は可能な限り迅速に行っていただきたい。
さて、今回の産構審・中環審の自動車リサイクル合同会議であるが、まずメンバーでの大きな変化としては経産省側の産構審の自動車リサイクルWGの座長が、東京大学の村上進亮准教授(資源工学・採鉱学)から、東海大学の山本雅資教授(環境経済学)へと代わった点である。山本教授は自動車リサイクル促進センターの現理事長である細田衛士東海大学教授の慶應義塾時代の愛弟子であり、本審議会において初めていわゆる文科系の座長が誕生した。ちなみに中環審のほうの座長は相変わらず酒井伸一京都大学名誉教授(現 公益財団法人京都高度技術研究所副所長)が務めており、大塚直早稲田大学教授(民法・環境法)とともに、合同会議開始時からの委員はこの2名だけになった。
さて、ここでは2022年度の自動車リサイクルに関する実情を報告した資料3.「自動車リサイクル法の施行状況」について紹介しつつ、筆者の感じるところを書きたい。
/https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/pdf/058_03_00.pdf
2.使用済自動車台数の急速な減少
まず指摘したいのは、2022年度の使用済自動車の引取台数の大きな減少である。図1から見られるように274万台と、法施行以来最少の引取台数である。
なお、より細かい下1桁までの引取台数はJARCのウェブサイトにて、都道府県別で把握することもできる。表1にそのデータを示したが、これによると2022年度の使用済自動車の引取台数は2,738,807台となり、実は千の位を四捨五入して274万台だったということで、実際にはこの数字にも満たない数字であったことがわかる。
そこで、2022年9月3日に自動車リサイクル機構がJARCの協力を得て調査したデータで、外国人経営による解体業者が県内の解体業者の半数以上を占める群馬県、千葉県、茨城県の引取台数は、それぞれ60,884 、228,378 、107,952であり、合計で397,214台と日本全体の14.5%がこの3県で引取られていたことが分かった。(ちなみに関東では埼玉県が107,952台の引取台数であった。)
図表1 使用済自動車の引取台数の変遷
資料)第58回合同会議資料3.p. 3より引用。
表1 2022年度の都道府県別引取台数
資料)JARCホームページ
https://www.jarc.or.jp/renewal/wp-content/uploads/2022/05/todoufuken202303.pdf
ちなみに上記調査で外国人経営による解体業者が30%以上であった都道府県は、富山県(38.6%)、岐阜県(31.7%)、愛知県(35.5%)、三重県(37.6%)、福岡県(30.0%)であり、これらの圏での2022年度の引取台数は、それぞれ35,419、57,103、146,849、48,854、105,364で、合計393,589台となり、これらの県で全国の引取台数の全体の14.4%が引き取られているということになる。なお、関西地区で100,000台以上の引取があったのは京都府(118,118)と兵庫県(128,801)であった。
2022年度の急速な使用済自動車の引取台数の減少に関して、経産省の担当官は2024年3月4日に開催された自動車補修部品研究会にて、乗用車はだいたい14年後に廃車になる特徴がある。つまり中古車としての日本での価値がなくなるのはだいたい14年から16年前だという。
すると、2009年の自動車の国内生産台数は、2008年より31.5%少ない793万4516台だったことが分かった。減少率は前年比増減が分かる1967年以降で最大で、台数も1976年(784万1447台)以来33年ぶりに800万台を割り込んだ。販売不振に加え、円高対策で海外生産を優先したのが響き、2006年から保ってきた自動車生産台数世界一の座を中国に明け渡したのが2009年だった。つまり使用済自動車となる14,5年前に新車として販売された2008年前後の新車台数は減少傾向にあった時期であることが、想定される。これが、2022年、2023年の解体業者での使用済自動車獲得難の原因の1つであるという考え方が紹介された。
図1 日本の新車登録台数の推移
資料) https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01217/ に一部加筆。
図表2 自動車の使用年数(商用車等も含区)
資料)第58回合同会議資料3.p. 3より引用。
なお、JARCが公表している2022年と2023年の使用済自動車の引取台数を月別に表したものを図2にまとめた。
図2 日本2021年から2023年、過去3年の使用済自動車台数(縦軸は千台)
このグラフから、2021年から2022年は、確かに引取業者の引取台数は減少したが、解体業者の方々は実感していると思われるが、2023年も2022年同様に解体業者への入庫難が続いていたことがわかる。
3.全部利用の動向
次に筆者が注目してきた全部利用の傾向についてみてみよう。表2は合同会議の資料をそのまま引用したものであるが、認定全部利用(正規のルートで、解体業者がASR相当のリサイクル料金の一部を受け取る方法)台数は全体の引取台数が減ったことも起因して、2022年度は2021年度に比し減少傾向にあった。しかし正確には、タイムラグを考慮しなければならないが(つまり、当該年度の引取台数が、必ずしも当該年度に再資源化されてはいない)、2022年度の引取台数のうち5.55%がこの方式で再資源化されており、割合から言えば2021年度の5.32%から微増した。しかし、認定全部利用は2020年度では6.05%、法施行時の2005年度の時は10.1%であったことから、この再資源化のやり方は、依然として、マイナーな方法に留まっている。
表2 2022年度の全部利用の状況
資料)第58回合同会議資料3.p. 9より引用。
表2に法施行後からの全部利用の状況をまとめた。正確にはタイムラグの問題があるが、法施行当初は認定全部利用も、非認定全部利用もそれなりの再資源化手段であったのは、当時は一部の地方でシュレッダー処理が十分普及していたわけではなかったのと、メーカー等(とくにART)が戦略的に認定全部利用を進めていたのがこの高い認定全部利用の数字の原因である。しかし、2010年には認定全部利用は全体の6%を切り、その水準はほとんど変化がない。一方非認定全部利用(輸出)は、法政高当初こそ全体の5%以上を占めていたが、その後しばらくは全体の2%程度で収まってきた。しかし、静脈産業の「中国ショック」と言われる中国の雑品スクラップ輸出の禁止開始時から徐々にその割合が増えはじめ、2020年には全体の4.58%、そして2022年度は5.70%にまで伸び過去最高を更新している。Aプレスを中心とした鉄源という名目で使用済自動車は最終的に、海外での処理に委ねられる傾向が増えているのである。
表3 全部利用の状況
資料)各年度の合同会議の資料より筆者作成。
今後は経産省・環境省がJARCと税関と協力しながら、非認定全部利用(輸出)の行き先のデータを把握し、自動車リサイクル高度化財団の資金などを使用して、現地でどのような再資源化あるいは不適切な不法処理が行われているかどうかを調査してほしいものである。
なお、日本製鉄もJFEも脱炭素を目指す意味で、電炉での鋼材生産を進める予定であるとしばしばささやかれている。しかし、これらの高炉でシュレッダー屑が原材料として取り扱われたケースは筆者の知る限り皆無に等しい。脱炭素が追い風となって、全部利用の拡大が進むのかも関心事項である。
4.中古車オークションの動向
使用済自動車を獲得するために、多くの自動車解体業者が中古車オークションへ出向いた。2022年度の流通台数は約722万台で、コロナ禍が収束し、本格的に外国向けの中古車輸出が再開した時期と考えられる。
図表3 日本における自動車オークションの流通台数
資料)第58回合同会議資料3.p. 4より引用。
なお、中古車として取引されている車両には事故車や、新古車等もあり、鵜次世代自動車も含まれているが、使用済自動車の平均使用年数が14年から16年と考えると、この時期に製造された自動車のほとんどはガソリン車であることがJARCのデータからもわかっているそうだ。そこで、しばらくはその補修パーツとして自動車リサイクル部品の需要はそれなりにあるだろう。しかし、2023年度も2022年度と使用済自動車台数に変わりはないことが、2024年1月分まで公開されているJARCのデータからも明らかである。
5.終わりに
このほか、次世代自動車については、これまで車載用リチウムイオン電池を自工会は無害化処理を原則としていたが、リビルトや、リサイクルに本格的にメーカーとして乗り出したことも、時の話題として挙げられよう。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/pdf/058_06_00.pdf
次年度はいよいよ5年ごとの見直しの年である。解体インセンティブをはじめ、情報公開がどこまで進むか注目したい。