第151回 アラブ首長国連邦の中古車貿易の現在

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

1.はじめに

アラブ首長国連邦は日本の中古車の主要仕向地の1つである。同国に輸入された中古車は、同国内で使用されず、周辺国へ再輸出される。この実態は先行研究において多く示されている(浅妻・阿部,2009;福田・浅妻,2011;浅妻・岡本・福田,2012ほか)。これらの先行研究では、日本からの輸入に重点が置かれているが、欧米からの輸入についても一部言及はある。

中東全般については、阿部(2021a)により日本と欧州の中古車・中古部品貿易の比較がされている。それを見ると、日本から中東向けの中古車輸出はアラブ首長国連邦に集中している一方、欧州からのものはいくつかの国に分散しており、アラブ首長国連邦はイスラエル、レバノン、ヨルダンに続く4番目に位置づけられている。また、欧州は量的にも日本ほどのものではないことなども示されている。

アメリカについては、阿部(2022)において中古車輸出台数の全体像が示されているが、そこではアラブ首長国連邦が最大の仕向地となっていることが示されている。また、アメリカからは、ヨルダンやオマーンなどの他の中東諸国へも輸出されているが、規模的には小さく、アラブ首長国連邦の3分の1を下回る程度であることもわかる。

筆者は2023年11月にアラブ首長国連邦を訪問した。同国へは2008年に2回ほど訪問したことがあるが、それ以来であり、実に15年ぶりになる。当時は日本からの輸入の状況を確認し、欧米からのものについてはあまり重きを置かなかった。2008年の記憶は薄れているものの、その光景は以前とあまり変わった印象はなかった。

中古車販売店はDUCAMZと呼ばれるフリーゾーンに立地していたが、それがドバイオートゾーン(Dubai Auto Zone)と名称が変わっていた。そこには日本から来た右ハンドルの中古車を販売する店が集積しており、多くの中古車が置かれている。乗用車が中心であるが、トラックや小型バスも一部に置かれていた。今回はこのドバイオートゾーンの右ハンドルの中古車のみならず、左ハンドルの輸入中古車の販売店にも訪れた。本稿では、この現地調査を踏まえつつ、貿易統計等のデータを中心にアラブ首長国連邦の中古車貿易の構造を整理しておくこととする。

2.日本の状況

まず、日本からの輸出を見てみる。図1はアラブ首長国連邦向けの新車を含めた自動車(バス、乗用車、貨物車)輸出台数の推移である。同国向けの中古車はコンテナによる輸出が多いとされ、ここでは中古車を「中古車(コンテナ)」「中古車(その他)」に分けている。「中古車(コンテナ)」は、貿易統計の「海上コンテナ貨物品別国別表」により集計された中古車輸出台数であり、「中古車(その他)」は中古車輸出台数から「中古車(コンテナ)」分を差し引いたものである。

図1にある通り、アラブ首長国連邦向けの中古車輸出台数は、2000年代前半に既に年間10万台を超えていた。その後、2000年代後半に減少傾向にあり、2011年の8万台を底として再び増加傾向になっている。新車との比較では常に中古車が多いというわけではなく、2000年代後半から2010年代前半は中古車のほうが少なかった。近年は中古車の数は新車を上回っており、新車の1.5倍程度を超える数量となっている。

データで確認できる2001年以降では、2019年の17万台が最も多い。2023年は10月までの合計で既に前年の年間台数を上回っており、11月、12月が前年並みであれば2019年を上回り、過去最多になる。

図1を見るとわかるように、近年の同国向けは2021年、2022年を除いてコンテナによる輸出の割合が圧倒的に多く、90%を超えている。2021年、2022年はコンテナ不足が騒がれた時期と重なり、コンテナによる輸出の割合は50%と下がっている。一方で、2023年は再びコンテナによる輸出の割合が高まっており、1月から10月の合計では99%となっている。

なお、全ての国がアラブ首長国連邦のようにコンテナによる輸出が多いわけではない。2023年1月から10月の中古車輸出台数の上位仕向地において、コンテナによる輸出の割合が高いのはアラブ首長国連邦以外では、モンゴル(99.9%)、チリ(89%)、タイ(93%)、南アフリカ(96%)である。ロシアやニュージーランド向けはコンテナによる輸出がほとんどなく、それぞれ0.4%、0.7%である。タンザニアやケニアもさほど高くはない(それぞれ18%、29%)。

図 1 日本のアラブ首長国連邦向けの自動車輸出台数の推移

出典:財務省貿易統計より筆者作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計。2001年は4月~11月、2023年は1月~10月の合計。「中古車(コンテナ)」は「海上コンテナ貨物品別国別表」から集計された中古車輸出台数、「中古車(その他)」は品別国別表により集計された中古車輸出台数からコンテナによる中古車輸出台数を差し引いたもの。

 

3. 20万円以下の数量

周知のとおり、日本では輸出申告書における1品目の価格が20万円以下のいわゆる少額貨物は貿易統計に計上されない(外国貿易等に関する統計基本通達21-2)。そのような中、貿易統計に示される金額を台数で割ると、1台あたりの金額が20万円以下になる場合がある。つまり、1台あたり20万円以下の車が貿易統計に計上されている。これが意味するのは、「1台」あたり20万円以下であっても、同じ品目の中古車を複数台輸出することによって、「1品目」の価格が20万円超になっているということである。そして、それが貿易統計に計上されている。

阿部(2023)では、貿易統計のデータベースから「年・品目・国(地域)」の組み合わせでそれぞれ平均単価(=金額/数量)を算出している。それによると、2001年から2022年の22年間の中古車輸出台数の合計は2,296万台であり、そのうち「20万円未満」は376万台で全体の16%を占めるとしている。また、このうち中東向けが最大であり、全体の33%を占めるとする。今回「20万円以下」として改めて集計したが、22年間の合計および全体のおける割合は同程度であり、中東向けの大多数はアラブ首長国連邦向けであること(中東向け:125万台、アラブ首長国連邦向け:123万台)を確認できた。全仕向地のうち、20万円以下の数量で同国向けは最多であり、このカテゴリーで33%のシェアを占める。

阿部(2023)は貿易統計の各年の実績に基づいて平均単価(=金額/数量)を算出しているが、これは12か月分の数量・金額を足し合わせたものである。月別で見ると平均単価が20万円以下になるものが年別で20万円超になっている場合も想定される。そこでより精度を高めるために月別のデータを用いて、「年・月・品目・国」の組み合わせで平均単価を算出してみる。図2は、それにより集計された平均単価20万円以下の中古車輸出台数(全仕向地)の推移である。

この数量は2001年から2022年の合計で391万台になり、年別データで集計した場合よりも15万台程度の数量が上乗せされている。中古車輸出台数全体における20万円以下のシェアも17%と若干ではあるが、上方に修正される。時系列的に見ると、2019年の数量が最も多いことなどがわかる。

また、各年の数量はアラブ首長国連邦とその他で区分されており、そのうちのアラブ首長国連邦向けの割合は30%前後であるが、年によって変動することも確認できる。なお、この数量についてアラブ首長国連邦に続く国としては、南アフリカやチリなどが上位にある。アフリカ全体では40%前後であり、直近の2022年、2023年は52%、50%になっている。

 

図 2 日本の平均単価20万円以下の中古車輸出台数の推移

出典:財務省貿易統計より筆者作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計。2001年は4月~11月、2023年は1月~10月の合計。貿易統計の月別データから「年・月・品目・国」の組み合わせで平均単価を算出し、20万円以下の数量を集計した。

 

先の通り、貿易統計では少額貨物は計上されない。よって図2とは別に1 品目の価格が20万円以下の数量が相応に輸出されているが、その数量は貿易統計ではわからない。一方、中古車輸出台数は、貿易統計上の集計値とは別に、輸出抹消登録台数、軽自動車輸出関連届出件数(以下まとめて「輸出抹消登録・軽自動車届出台数」と呼ぶ)を用いることで把握することはできる。輸出抹消登録・軽自動車届出台数は少額貨物を含むため、貿易統計上の数値との差を求めることで、少額貨物の数量がある程度見えてくる。図3はこの差の推移を示している。それぞれの統計は計上のタイミングが異なるため、タイムラグによるずれはある。そのため、図3はあくまでも双方のデータ上の数値の差であり、厳密に少額貨物に一致するものではないことを留意する必要がある。

図3では、図2で示されたアラブ首長国連邦向けの割合を掛け合わせることで、同国向けの数量を推計している。これを見ると、例えば2015年のアラブ首長国連邦向けは、貿易統計上の数量以外に10万台を超える数量が上乗せされうることがわかる。尤も、図2と図3を比べると、傾向が類似している年もあれば、そうでない年もある。この傾向の違いについて議論したうえで、少額貨物の数量を推計する必要がある。

 

図 3 推計中古車(少額貨物)輸出台数の推移

出典:財務省貿易統計、日本自動車販売協会連合会、軽自動車検査協会資料より筆者作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計。輸出抹消登録台数、軽自動車輸出関連届出件数の合計から貿易統計上の中古車輸出台数を差し引いたもの。そのうちのアラブ首長国連邦の数量は図2の同国向けの割合を掛け合わせて算出した。

 

4.アメリカの状況

阿部(2022)で見たように、アラブ首長国連邦はアメリカからの中古車輸出において、最大の仕向地となっている。アメリカの貿易統計では、乗用車の一部品目(1500cc超のもの)で新車と中古車の区分がされている。そのため、その範囲で中古車輸出台数を集計することになる。図4は、それに基づいて集計したアメリカのアラブ首長国連邦向けの自動車輸出台数の推移であり、「新車」「中古車」「区分なし」に分けている。

これを見ると、同国向けの中古車輸出台数は2000年代半ばから増加し始めている。そして2008年には新車よりも多くなり、それ以降は新車が減少する中で、中古車は増加し、新車を圧倒する数量となっている。新車は近年では3万台前後といったところである。

アラブ首長国連邦がアメリカの中古車輸出の最大の仕向地となったのは2009年である。その後も概ねそれをキープしている(例外として2013年は3位、2014年、2016年、2020年は2位である)。全体における同国向けの割合は上昇傾向にあり、2022年は20%となっている。その状況は2023年1月から9月までの実績でも同様となっている。

日本と比べると、数量は若干少ない程度である。しかし、図にもある通り、その数量は増大しており、市場は広がっている。アメリカの貿易統計上の中古車輸出台数には、バス、貨物車のほか、1500cc以下の乗用車なども含まれないが、図にある通り、新車・中古車の区分のない品目の数量は少なく、その分の中古車を追加したとしても数量は多くはない。

同国向けの中古車で多い品目は、乗用車の1500cc超3000cc以下のガソリンエンジン車(HSコード:8703.23)であり、同国向けの中古車輸出台数の90%前後を占める。新車においては若干異なり、同じ乗用車でも3000c超のガソリンエンジン車(HSコード:8703.24)ほうが多く、近年ではそのシェアが6割程度を占めている。

なお、アメリカからの中古車輸出台数で特徴的なのが、プラグインハイブリッド車(HSコード:8703.60)の存在感が日本よりもあることである。アラブ首長国連邦向けでは品目で2番目に多く、年間で1万台程度は輸出されている。これに対してハイブリッド車は多くても年数百台である。

 

図 4 アメリカのアラブ首長国連邦向けの自動車輸出台数の推移

出典:United States Census Bureauより筆者集計

注:バス、乗用車、貨物車の合計。2023年は1月~9月の合計。「区分なし」は新車・中古車の区分のない品目。

 

5.欧州の状況

欧州については、阿部(2021a)で示されたようにアラブ首長国連邦向けの数量は少ない。今回、改めてEU統計局(Eurostat)の貿易統計を用いて自動車輸出台数を集計したものが図5になる。ここでは、2023年時点のEU加盟 27か国からの輸出台数とともに、イギリスからのものも示している。周知のとおり、2020年にイギリスはEUから離脱したが、そのせいかイギリスの2020年以降の数量はEUの統計には掲載されていない。また、EUは過去20年間で加盟国を急激に拡大してきた(2004年:10か国加盟、2007年2か国加盟、2013年1か国加盟)。データの信用性は定かではないが、図にはそれらの国の加盟前のデータも含まれている。

Eurostatのデータは、これまでも見たように外れ値と思われる数値がある。阿部(2021a)においてもイギリスを中心に欧州からの中古車輸出の数量において1台あたりの重量が100kg以下となる実績の例を示している。これを見るとアラブ首長国連邦向けで外れ値と思われる数量は、主としてイギリスからの輸出に多い。例えば、2012年にイギリスからアラブ首長国連邦に1000cc以下のガソリンエンジン乗用車の中古車(HS8桁コード:87032190)が71,614台輸出されたが、他の年と比べると突出した量である。これは図5でも顕著に表れている。

上記の2012年のケースは重量では125,246kgと示されており、1台あたりの重量にすると2kgを下回る。今回収集したデータを用いて、同じ品目の1台あたりの重量の中央値を算出すると929.8kgである。そこで、この値を上記のケースに適用して台数を算出すると71,614台だったものが135台に下方に修正される。図5では、2012年のほかに2011年、2016年、2019年のイギリスからの中古車輸出台数が多いが、それらも1品目で1万台を超える実績を含み、1台あたりで20kgを下回っている。よって、これらを修正することにより、イギリスからの数量を下方に修正することはできる。

外れ値を含むものはイギリスに限らず、EU27か国の数量についてもいくつかのケースで1台あたりの重量が100kgを下回るものはある。ただし、それを下方修正しなくてもEU27か国からの台数の合計は年間1万台を下回っており、規模は大きくない。いずれにしろ、10万台を超える日本やアメリカと比べると、欧州からの輸出は少ないと言うことができる。

考えなければならないのは、日本、アメリカと欧州の違いを生む要因である。1つは、中古車の価格の違いが想定できる。これについて、今回、Eurostatの輸出実績における金額と台数から平均単価を算出するなどしたが、数量的に少ないということもあり、十分にその特徴を見出すことはできなかった。もう少しデータを眺める必要はある。

また、距離的な違いも考えられる。欧州からの中古車が中東・中央アジア諸国に輸出される際にアラブ首長国連邦を経由する必要はあるだろうか。中東・中央アジア諸国が欧州とそれぞれ経済的な繋がりがあるのであれば、直接的に貿易はされうる。これに対して、日本やアメリカは遠いこともあり、中古車貿易にはアラブ首長国連邦のような中継拠点の必要性があるのかもしれない。

なお、韓国からの中古車については、アラブ首長国連邦向けは少ない(阿部,2021b)。これについては、近隣ではヨルダン向けが多いことから、アラブ首長国連邦の中継貿易の機能がヨルダンにあることが想定できる。いずれにしろ、これらの議論は今後の課題になる。

 

図 5 欧州(EU27か国、イギリス)のアラブ首長国連邦向けの自動車輸出台数の推移

出典:Eurostatより筆者集計

注:バス、乗用車、貨物車の合計。「区分なし」は新車・中古車の区分のない品目。

 

6.アラブ首長国連邦からの輸出

一方、アラブ首長国連邦から輸出はどうなっているかである。同国の貿易統計における8桁の統計品目番号を見ると、中古車と判断できる品目があり、その統計品目番号の数量を集計することで中古車輸出台数を示すことができる。かつてドバイワールドがこの8桁の統計品目番号で区分された貿易統計を提供しており、筆者もそれを集計したことはある(阿部,2010)。浅妻・岡本・福田(2012)では対象年を増やし、それをさらに充実させている。アラブ首長国連邦の中古車貿易の構造を把握するうえで、このドバイワールド提供の貿易統計は重要である。しかし、今回のアラブ首長国連邦の訪問で現地関係者に問い合わせするなどしたが、最新の貿易統計の入手どころか、その存在を確認することはできなかった。

ドバイワールドの統計は、Direct Trade ZoneのものとFree Trade Zoneのものに分けられており、浅妻・岡本・福田(2012)は、それらを分けて2007年から2010年の4年間の中古車貿易量を示している。輸入元としてはDirect Trade Zoneでは半数が日本であり、残りの半数がアメリカ、ドイツなどになっている。これに対して、Free Trade Zoneは大多数が日本からのものである。そのような中、Direct Trade Zoneの中古車輸出先はイラン、イラク、サウジアラビア、オマーンといった湾岸諸国の名前が上位にあり、Free Trade Zoneの中古車輸出先はアフリカ諸国(アンゴラ、タンザニア、ソマリア、コンゴ共和国など)のほか、中央アジアのトルクメニスタンが上位にあり、湾岸諸国は少ないことがわかる。

中古車の輸出先は、輸入国の規制などにより急激に変わりうる。そのような規制がない場合であっても輸入国の需要や物流の変化により徐々に変わってくる。それゆえ、阿部(2010)や浅妻・岡本・福田(2012)が示した時代から状況が変わっている可能性はある。

近年、アフリカは日本の中古車の最大の仕向地になっている。そのシェアは、過去5年で25%前後(2019年:25%、2020年:27%、2021年:26%、2022年:25%、2023年1月~10月: 23%)である。アラブ首長国連邦からの輸出先にはアフリカ諸国が含まれることが想定されるが、それを含めると日本の中古車のアフリカのシェアはさらに高まることが予想される。

筆者は、アラブ首長国連邦のドバイオートゾーンにある中古車貿易会社に訪問し、輸出先について聞き取り調査を行った。そこでは取引台数55台のうち、アフリカへの再輸出が30台という回答だった。つまり、アラブ首長国連邦向けの日本の中古車の54.5%がアフリカに再輸出されている。この数値をドバイの一般的な事情と仮定し、それをもとにアフリカ向けの再輸出台数を推計し、アフリカの数量に足し合わせてみると、日本からの中古車輸出台数のうちアフリカ向けは30%を超える(2019年:32%、2020年:34%、2021年:32%、2022年:31%、2023年1月~10月:30%)。これは貿易統計上の中古車輸出台数であり、少額貨物を加えるとさらにアフリカの割合が高くなる。粗い推計だが、上記の仮定の下では日本の中古車輸出市場の3分の1程度がアフリカ向けということができる。

なお、聞き取り調査では、アラブ首長国連邦からの輸出先としてソマリアやイエメン、アフガニスタン、タジキスタンなどの名前が出てきた。それらの国は日本からの数量は少ない。中古車の再輸出先は、日本から直接輸出されない国が多いと言えるだろうか。これについて今回は議論しなかったため、次回以降の課題である。

 

7.左ハンドルの中古車

上記の通り、アラブ首長国連邦は、日本のみならず、アメリカからも一定量の中古車が輸入されている。ドバイオートゾーンでは、日本から来た右ハンドルの中古車販売店が多数集積していたが、それに隣接して左ハンドルの自動車販売店が立地するエリアがあった。ここでは、アメリカや欧州からの中古車の輸入について聞いて回ったが、新車を含めて販売しており、中古車は国内や近隣の湾岸諸国から買ってくるものだった。欧州からものは考えにくいという発言もあった。また、売り先も国内または湾岸諸国であり、日本の中古車のようにアフリカの名前はほとんど出てこなかった。

この聞き取り調査において、アメリカからの輸入中古車は事故車が多く、あまり人気がないという話があった。つまり、輸入されていることはされているようである。しかし、ドバイオートゾーンではその実態は確認できなかった。先に見たように、近年、アメリカからは日本に匹敵するほどの規模の中古車が同国に輸入されており、それだけの量がどこかにあるはずである。

福田・浅妻(2011)、浅妻・岡本・福田(2012)を見ると、ドバイに隣接するシャルジャにおいて、アメリカからの中古車を輸入・販売する店舗があることが言及されている。シャルジャは中古部品貿易の集積地として日本でも知られている。筆者は今回シャルジャも訪れた。中古部品貿易の集積地は過去の印象と変わらず、砂ぼこりが舞う中、多くの人、車が往来し、活気あふれる雰囲気は健在であった。

そのようなシャルジャには、部品の集積地とは別に左ハンドル車の中古車の販売店が集積し、多数の中古車が置かれているエリアがある。そこはシャルジャ空港のそばにあり、ドバイオートゾーンのような舗装・整備された広大な敷地にある。福田・浅妻(2011)などで示されたアブシャガラ地区とは異なるエリアのように思われた。そこでは、アメリカの中古車オークション会社のコーパートなども立地していた。

いくつか聞き取りを行ったが、このエリアでアメリカから中古車が輸入されていることは確認された。ただし、アメリカ以外に国内や湾岸諸国の中古車も扱っているとのことである。そして、売り先はドバイオートゾーンでの聞き取りと同じく湾岸諸国であり、アフリカは少ないとのことだった。

このエリアで際立っていたのは、中古車オークション会社のマルハバオークションである。そこでは事故車が多数並べられているのを目の当たりにした。聞き取りをするとアメリカ、カナダから輸入しているという。中古車が置かれるヤードを見て回ったが、全て事故車と思うほど、ヤードは事故車ばかりであった。ドバイでアメリカからの輸入中古車は事故車が多いというのはこういうことかと納得した。

オークション会場のヤードに置かれていた事故車

 

マルハバオークションのウェブサイトを見ると、中古車の一覧が示されている。確認した限りではその大多数に事故・故障の箇所が示されていた。ブランド別では、ヒュンダイ(165台、170台)、日産(151台、164台)、トヨタ(106台、104台)、レクサス(95台、93台)、キア(87台、102台)が多かった(カッコ内の台数は左が11月26日時点、右が12月3日時点のデータ)。つまり、アジア系のブランドであり、欧米系のブランドはそれらよりも少ない。

図6は、この一覧で表示された年式情報を用いて年式別の数量を示したものである。2023年11月26日、12月3日と2回に分けて確認したが(それぞれ805台、851台)、2つのデータは同じ車が並べられているのか、ほぼ年式は同じだった。いずれのデータも2019年を軸としてその前後を含めた年のものが多いことがわかる。2013年が単発的に多いのはたまたまなのか、あるいは再輸出先の規制(年式規制など)の影響を受けているのかなど論点はいくつかある。

このウェブサイト上の中古車のデータには排気量も示されている。11月26日時点、12月3日時点のデータでは、それぞれ562台、542台で排気量が示されていた。それを並べたのが図7になる。これを見るとわかるように、1500cc超3000cc以下のものが多く、全体の71%を占める。3000cc超のものは26%程度、1500cc以下のものは3%程度である。第4節ではアメリカの貿易統計から乗用車の1500cc超3000cc以下のガソリンエンジン車(HSコード:8703.23)が圧倒的に多いことが言及されたが、図7は貿易統計のデータと傾向が重なる。

細かいことだが、アメリカの貿易統計上の中古車輸出台数で特徴的なのはハイブリッド車の数量が少なく、プラグインハイブリッド車が多いということである。マルハバオークションの窓口でハイブリッド車について聞いたところ、多くはないが、あることはあるとのことだった。オークションのデータを見るとプリウスは14台出されており、確かにあることはある。貿易統計において、ハイブリッド車をプラグインハイブリッド車としてカウントしていることはないかどうか。この点は引き続き問題意識を持っておきたい。

 

図 6 マルハバオークションの年式別中古車台数(2023年11月26日、12月3日時点)

出典:マルハバオークションのウェブサイトより作成

 

図 7 マルハバオークションの排気量別中古車台数(2023年11月26日、12月3日時点)

出典:マルハバオークションのウェブサイトより作成

8.まとめ

2023年8月、日本政府は、ロシア向け中古車の一部の輸出を禁止した。これは外国為替及び外国貿易法に基づく輸出貿易管理令等の改正に基づくものであり、中古車に限らず、様々な物品が追加対象品目となっている。この結果、8月以降のロシア向け数量は大きく減少し、8月、9月、10月のいずれもアラブ首長国連邦が最大の仕向地となっている。

この3か月の合計について2022年に対する2023年の比率はロシア向けが52%であるのに対して、アラブ首長国連邦、モンゴル、タンザニア、ニュージーランド向けはそれぞれ129%、274%、145%、175%である。ただし、これらはロシア向けの輸出禁止以前から好調であり、ロシア向けが減少したからという理由で増加したとは言い切れない。現地(アラブ首長国連邦)でもロシア向けの禁止の影響の話は全く聞かなかった。日本側の下取り車の供給の増加のほか、円安やコンテナ不足の回復による増加もあると考えられる。先述の通り、2023年の日本の中古車輸出台数は過去最多となる勢いである。

今回示されたように、アラブ首長国連邦は日本のみならず、アメリカにおいても中古車輸出の最大の仕向地であり、その市場は拡大している。一方で欧州からのものは少ないことから同国が世界最大の中古車貿易拠点と言い切れないところがある。いずれにしろ、世界におけるアラブ首長国連邦の位置づけは、改めて議論したほうがよいのかもしれない。

電気自動車の中古車やその影響については、現地調査では全く聞かなかった。図6のアメリカのデータから4年程度前の年式の中古車が多いことが示されている。各国における電気自動車の普及と同じ割合で、まもなく中古車貿易においても電気自動車が増えてくるかどうかである。あるいは、各国の電気自動車の販売・使用促進により内燃機関車の価値が下がり、内燃機関車が中古車としてより国外に出て行くことになるのか。これらを見聞きするうえでも今後もアラブ首長国連邦の調査は欠かせないだろう。

 

※本研究はJSPS科研費 22H00763の助成を受けたものです。

 

参考文献

  • 浅妻裕・阿部新(2009)「アラブ首長国連邦の中古車・中古部品流通に関する実態調査」『開発論集』 (83),121-143
  • 浅妻裕・岡本勝規・福田友子(2012)「DETSからみるアラブ首長国連邦の中古車中継貿易」『季刊北海学園大学経済論集』,59(4),139-150
  • 阿部新(2010)「中継貿易拠点における中古車貿易量(後編)」『月刊整備界』,(2010・2),58-62
  • 阿部新(2021a)「中東向け中古車・中古エンジン貿易量に関する日欧比較」『速報自動車リサイクル』(101),12-23
  • 阿部新(2021b)「韓国の中古車輸出市場の位置づけ」『速報自動車リサイクル』(101),48-57
  • 阿部新(2022)「アメリカの中古車輸出台数の算出における課題」『速報自動車リサイクル』(102),26-39
  • 阿部新(2023)「日本の中古車輸出市場の構造とその変化」『速報自動車リサイクル』(105),50-62
  • 福田友子・浅妻裕(2011)「日本を起点とする中古車再輸出システムに関する実態調査」『開発論集』(87),163-198

 

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