第138回 自動車の保有と廃棄の地域性に関する資料整理:山口県を事例として(前編)

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

1.はじめに

人口の減少および少子高齢化は、自動車の保有構造に影響を与えうる。また、近年、カーシェアリングや自転車などの選択肢の拡大により、一部で自家用車を手放す動きがあるとされる。さらに、消費が多様化することで、自動車の価値が薄れ、若者を中心として車離れが起きているとも言われている。そのような自動車の保有構造の変化は、自動車の廃棄に関わる市場にも影響しうる。とりわけ少子高齢化が深刻とされる地方においては、どのような保有構造になっているかを知ることが重要である。

筆者は、かつて阿部(2009)や阿部・浅妻・外川(2010)において山口県の自動車リサイクル市場について整理を行った。そこでは、自動車保有台数や新車販売台数から抹消登録台数を算出し、その内訳を検討するなどした。しかし、これらは山口県という地域の特性の抽出を意識したものではなく、その分析まではしなかった。

また、筆者は、阿部(2019)や阿部(2020)において首都圏を事例として、使用された車がどの程度都道府県の境界を越えているかを示した。そこでは、東京都は都外への中古車流出は多いが、近隣への流出が多く、広域移動のケースは少ないことなどを指摘した。そして、首都圏を1つの経済圏としたうえで抹消登録台数を算出し、8割近くが首都圏内で滞留していることを示した。

これら以外でも、筆者は朝倉ほか(2019)において地方のカーシェアリングの可能性について議論を行った。そこではカーシェアリング市場が全国的に拡大している一方で、地方ではカーシェアステーションが増加していないこと、自動車の必要性はあるものの、特に若者に対してはコスト面での壁があることなどが指摘された。また、小田ほか(2020)では、若者の車離れの議論をサーベイし、家族を持っている世帯や大都市で部分的に緩やかな利用の減少が観察されるとしつつも、車離れと断言できるほどの事象となっていないとし、さらなる議論が必要であるとした。

これらの研究は、人口などの地域社会の動向を十分に踏まえておらず、少子高齢化に直面した日本社会の自動車の保有構造を意識的に捉えたものではない。地方では所得が低いことなどから、大都市よりも古い車が走っていることが想定されるが、そのような構造も解明していない。

自動車の保有と廃棄に関わる資料、データは様々な組織により多く公表されている。それらの全国データはインターネットを経由して容易に入手することができる。しかし、都道府県別になると、インターネットでは入手できないものもある。本稿では、自動車の保有と廃棄の地域性に視点を当て、インターネット上のデータに加えて、冊子で提供されているデータも利用し、整理することとする。対象地域の事例として山口県に重点を置き、全国や他の都道府県と比べることで地域性を探るうえでの課題を考えていく。

 

2.山口県の人口

まず、人口から見ていく。山口県の人口は、総務省統計局の2021年10月1日時点のデータでは、133万人であり、全国(1億2550万人)の1.1%のシェアになる。都道府県の中では、多い順から27番目に位置する。言うまでもないが、最も多いのが東京都の1401万人であり、全国の11.2%を占める。これに神奈川県(924万人、7.4%)、大阪府(881万人、7.0%)愛知県(752万人、6.0%)、埼玉県(734万人、5.8%)が続いている(カッコ内の%は全国におけるシェアを示す)。

また、これもよく知られているが、山口県の高齢化率は高い。同じく2021年10月1日時点のデータでは、全年齢における65歳以上の割合は、全国で29%であるのに対して、山口県は35%である。この割合は、秋田県(38%)、高知県(36%)に続いて3番目に高い。一方で、65歳以上の割合が低いのは、低い順に東京都(23%)、沖縄県(23%)、愛知県(26%)、神奈川県(26%)である。なお、20歳以上の割合は、山口県は全国と同じ水準(84%)であり、東京都(85%)と同等である。

山口県内の市町別の人口(2021年10月1日時点)について、山口県のホームページを見ると、下関市の25万人が最も多く、全体の19%を占める。それに山口市(19万人、15%)、宇部市(16万人、12%)、周南市(14万人、10%)、岩国市(13万人、10%)が続き、この5市で66%すなわち3分の2を占める。

山口県内において65歳以上の割合が高い市町は、萩市(45%)、長門市(45%)、美祢市(44%)、阿武町(51%)といった、県中央・北部地域のほか、周防大島町(55%)、上関町(57%)、平生町(44%)など、県南部の瀬戸内海沿岸の町になる。

次に、時系列的に見てみたい。上記と同じく総務省統計局の人口推計の長期時系列データを見ると、1920年からの山口県の人口の推移がわかる。図1は、1920年から2020年までの山口県の人口(各年10月1日時点)の推移を示す。また、1970年以降は、年齢3区分別(0~14歳、15~64歳、65歳以上)の人口の推移を見ることができ、図1では1970年以降は年齢3区分別の人口の推移も示している。

これを見ると、山口県の人口総数は、増減の山が2つある。そのピークは1958年の162万人と1985年の160万人である。1985年以降は前年を上回ることはなく、減少し続けている。2020年は134万人であり、1943年(135万人)と同等の水準である。

年齢3区分別の推移を見ると、0~14歳のピークは1979年、15~64歳のピークは1989年であり、それ以降は前年を下回る傾向となっている。2020年の人口は、それぞれピーク時の42%(0~14歳)、68%(15~64歳)に減少している。これに対して、65歳以上は1971年から一貫して増加傾向である。2020年の65歳以上の人口は1970年の3倍を超えている(339%)。

15~64歳と65歳以上の人口を合計した15歳以上の人口は、2000年以降に前年を下回るようになった。山口県の人口は全体で1985年から減少しているが、15歳以上の人口は、それから15年ほど経った2000年以降に減少し始めている。

当然ながら、全体に対する65歳以上の割合は増加している。1970年に9.1%だったものが、その後前年を下回ることなく上昇し続け、1997年に20%、2013年に30%を超えている。また、1991年までは0~14歳の人口が65歳以上を上回っていたが、1992年以降は逆転している。

図にはないが、全国の人口を見ると、山口県とは若干異なった傾向になっている。全国の人口総数は、戦時中を除けば2004年まで右肩上がりの増加傾向を示していた。2006年~2008年、2010年も前年を上回ったが、2005年、2009年は前年を下回り、さらに2011年以降は連続して前年を下回っている。つまり、全国レベルで減少傾向になったのは最近10年程度のことであり、35年以上も前から減少傾向になった山口県とは異なる。なお、東京都は2021年になって減少に転じたが、2020年までは増加傾向であった。

これらの結果、全国の人口における山口県のシェアは縮小している。1944年~1950年に1.9%だったものが、下降しつづけており、1993年~2007年は1.2%、2008年以降は1.1%になっている。

図 1 山口県の人口の推移(単位:千人)

出典:総務省統計局「人口推計の結果の概要」長期時系列データより作成

注:1970年以降は年齢3区分の人口の推移も示す。15歳以上は15~64歳と65歳の人口を合計したもの

 

3.自動車保有台数

次に自動車保有台数を見ていく。都道府県別の自動車保有台数は、様々な統計集に掲載されているが、ここでは自動車検査登録情報協会のホームページからデータを整理する。ここでは、乗用車、貨物車、乗合車、特種(殊)車、二輪車(原付を除く)の保有台数の合計が示されている。この保有台数は登録車のみならず、軽自動車も含まれている。

まず、直近の2022年3月末時点について、山口県の自動車保有台数は107万台である。このうち二輪車を除いた三輪車以上は103万台となる。同時点での全国の自動車保有台数は、二輪車を含めて8218万台、二輪車を含めない三輪車以上で7830万台である。その結果、全国における山口県の保有台数の割合は、(二輪車以上も三輪車以上も)1.3%である。全国における山口県の人口の割合は1.1%であり、人口よりもわずかにシェアが高い。

三輪車以上の保有台数うち、乗用車の割合は、山口県では79%(82万台)である。また、貨物車が19%(19万台)であり、この2車種で98%を占める。この割合は全国でも同様で、乗用車は79%(6187万台)、貨物車は18%(1443万台)である。全国における山口県の割合は、乗用車も貨物車も1.3%である。

軽自動車の都道府県別の保有台数は、全国軽自動車協会連合会のホームページに示されている。2022年3月末の山口県の三輪車以上の保有台数のうち、軽自動車は49万台であり、その割合は47.5%になる。このうち、乗用車に限定すると、軽自動車の割合は44%に下がる。これに対して、貨物車の軽自動車の割合は高く、67%となっている。

全国では、三輪車以上の保有台数における軽自動車の割合は40%であり、山口県は全国平均より高い。この結果、軽自動車について全国の保有台数における山口県の割合は1.6%(乗用車:1.6%、貨物車:1.5%)となっている。つまり、全国における山口県の軽自動車保有台数のシェアは、自動車全体(三輪車以上:1.3%)よりも大きい。

なお、他の都道府県で自動車(三輪車以上)保有台数における軽自動車の割合が高いのは、高知県(55.6%)、長崎県(55.4%)、和歌山県(54.4%)、沖縄県(54.1%)などである。先述の通り、山口県は47.5%であり、上から17番目である。つまり、軽自動車の割合が極めて高いわけでもない。一方で、この割合が低いのは、東京都(21.5%)、神奈川県(27.2%)、北海道(32.6%)、愛知県(32.8%)などである。

次に時系列的な変化を見ていく。図2は1966年から2022年までの山口県の自動車保有台数(各年3月末日現在)の推移を示している。まず、乗用車だが、直近3か年(2020年~2022年)は減少傾向となっているが、それ以外の年は概ね増加傾向であった。前節で示したように、15~64歳、65歳以上の人口の合計は2000年以降、減少傾向となっているが、自動車の保有台数の減少は必ずしもそれと同時に減少しているわけではない。

図にはないが、全国で見ると、乗用車の保有台数が前年を下回っているのは、2022年のみである。山口県のほうが若干早く減少傾向になっているが、減少傾向のタイミングは人口ほどの差はない。また、2020年から2022年は新型コロナウィルス感染症の影響も考えられ、この減少傾向が一時的なものか、構造的な変化かは様子を見る必要がある。

山口県のように地方は人口減少の影響から、今後も乗用車の保有台数が減少することは予想されるが、必ずしも要因はそれのみではない。東京都は人口が増えている中、乗用車の保有台数は、近年(2007~2012年、2019年~2022年)は前年を下回るようになっている。シェアリングを含む公共交通の整備や自転車など他のモビリティの利用拡大などを別途見ていく必要がある。

乗用車の保有台数について、全国における山口県の割合を算出してみると、1972年~1976年に1.6%だったが、1977年~1982年は1.5%、1983年~1986年は1.4%、1987年以降は1.3%である(2007年(1.4%)を除く)。ここにおいても全国におけるシェアは縮小しているが、人口よりは若干高いことが確認できる。

貨物車においては、図2にあるように、山口県では1991年から前年を下回り、直近の2022年まで減少傾向が続いている。その結果、山口県の自動車全体の保有台数は2008年から前年を下回るケースが出ている。ただし、それ以降も前年を上回る年もあり(2012年~2015年、2017年~2018年)、全体的に減少傾向とは言い切れない。貨物車の事情は、全国でも同様であり、同時期の1992年から減少している。

図 2 山口県の自動車保有台数の推移(単位:台)

出典:自動車検査登録情報協会ホームページ

注:各年3月末時点の保有台数

 

4.自家用乗用車の世帯当たり普及台数

自動車検査登録情報協会のホームページでは、「自家用乗用車の世帯当たり普及台数」というデータが都道府県別に提供されている。乗用車の保有台数は自家用と営業用に分かれており、ここでは自家用乗用車の保有台数を世帯数で割ったものとなる。2022年のこの数値は全国平均で1.032台であるが、47都道府県のうち39県はこの全国平均よりも多い。残りの8都道府県は、北海道、千葉県、埼玉県、兵庫県、京都県、神奈川県、大阪府、東京都である。世帯数の多い都道府県において、世帯当たりの保有台数は少なく、それが全国平均を下げていると言える。

2022年の自家用乗用車の世帯当たり普及台数について最も多いのは福井県の1.708台であり、最も少ないのは東京都の0.421台である。山口県は1.239台であり、47都道府県のうち多い順で30番目である。全国平均より高いものの、地方では低いほうである。東京都に続いて少ないのは、大阪府(0.627台)、神奈川県(0.684台)、京都府(0.807台)、兵庫県(0.896台)、埼玉県(0.941台)である。愛知県は山口県より多く、1.241台である。

図3は、山口県と全国について、自家用乗用車の世帯当たり普及台数の推移を示している。全国では、この値は減少傾向にあると言えるが、山口県は2019年から若干減少しているものの、2000年代後半と比べると増加している。図にはないが、福井県は全ての年で最多となっており、東京都は全ての年で最少となっているが、ともに減少傾向である。これらの地域では車離れが進んでいるということなのだろうか。また、山口県のように、2005年と2022年を比較すると自家用乗用車の世帯当たり普及台数が増えている都道府県は17もある。減少している地域と増加している地域の違いは何なのだろうか。これらは今後の課題になる。

図 3 山口県および全国の自家用乗用車の世帯当たり普及台数の推移(単位:台)

出典:自動車検査登録情報協会のホームページより作成

 

5.全国消費実態調査

総務省が公表する全国消費実態調査では、耐久消費財の所有数量や普及率を算出しており、その中に自動車も含まれる。これは5年おきに出されてきたものだが、自動車の所有数量が示されたのは2014年の『平成26年全国消費実態調査』までである。最新の2019年は全面的に見直され、自動車の所有数量は示されていない。調査名称も2019年より『全国家計構造調査』と変わっている。以下では2014年の『平成26年全国消費実態調査』を中心に見ていく。

まず、自動車の所有数量だが、『平成26年全国消費実態調査』(第28表)を見ると、総世帯を対象とした2014年の山口県の1000世帯あたりの自動車の所有数量は1264台であり、全国の1101台より多いことがわかる。

前節で示した自動車検査登録情報協会の自家用乗用車の世帯当たり普及台数では、2014年の山口県の数値は1227台であり、全国消費実態調査の結果と若干数値が異なる。全国消費実態調査は調査員による調査であり、自家用乗用車の世帯当たり普及台数で用いられた世帯数よりも若干少ない。また、車種は乗用車以外の自動車も含まれている。よって、「自家用乗用車の世帯当たり普及台数」とは厳密に一致するとは限らない。

とはいえ、山口県の立ち位置は似たような結果になっている。『平成26年全国消費実態調査』における山口県の1000世帯(総世帯)あたりの自動車の所有数量は全国で32番目である。これに対して、自家用乗用車の世帯当たり普及台数は2014年も30番目に位置している。

二人以上の世帯に限定されるが、『平成26年全国消費実態調査』(第25表)では、自動車の種類別の所有数量も示されている。そこでは国産自動車と輸入自動車の区分がされたうえで、それぞれについて軽自動車、小型乗用車、普通乗用車、乗用車以外、ハイブリッド車、電気自動車に分けられている。

2014年の二人以上の世帯の1000世帯あたりの自動車の所有数量は、単身世帯を含む総世帯よりも多く、山口県で1632台、全国で1377台である。このうち、軽自動車の割合は、山口県が45%、全国が35.4%である。第3節において全国軽自動車協会連合会のデータを用いたが、その2014年3月末のデータを見てみると、三輪車以上の保有台数における軽自動車の割合は、山口県が46.8%、全国が37.9%となっている。他の都道府県との比較では、山口県の軽自動車の割合は『平成26年全国消費実態調査』では上位から10番目、全国軽自動車協会連合会のデータでは16番目に高い。二人以上の世帯ということで状況が異なるが、山口県において軽自動車の割合がほどほどに高いというのは同じである。

また、『平成26年全国消費実態調査』では、自動車の区分として「新車で購入」「中古車で購入」というものもある。これを用いて、2014年に新車で購入した自動車所有数量に対して中古車で購入した自動車所有数量の割合(以下「所有数量の新中比率」と呼ぶ)を求めると、山口県は29%と算出される。全国の所有数量の新中比率は33%であるから、山口県は全国平均よりも低く、新車の割合が高い。

図4は『平成26年全国消費実態調査』(第25表、二人以上の世帯)に示された自動車の所有数量の新中比率を都道府県別に高い順から並べたものである。また、同じ第25表に記載された各都道府県の年間収入も示している。新中比率で突出しているが沖縄県の118%であり、それに続く鹿児島県(53%)、北海道(49%)、青森県(46%)、佐賀県(44%)との差は大きい。一方で、新中比率の低い都道府県は、大阪府(23%)、三重県(24%)、愛知県(25%)、奈良県(26%)である。先に示した通り、山口県は29%であり、全国で38位と低いほうになる。東京都は32%であり、山口県は東京都よりも低い。

図4の「年間収入」は、『平成26年全国消費実態調査』の第25表に示された二人以上世帯を対象とした1世帯あたりの年間収入を示している。新中比率の高い10都道府県(トップ10)のうち、沖縄県、鹿児島県、北海道、青森県などは年間収入が低く、年間収入の低い10都道府県(ワースト10)に入る。しかし、佐賀県、岩手県、鳥取県、福島県のように新中比率でトップ10に入りながらも、年間収入は低くなく、中程度の都道府県もある。反対に、山口県のように二人以上世帯の年間収入(578万円)が全国平均(640万円)を下回り、36位にもなっている都道府県において、新中比率が低いというケースもある。中古車を購入するというのは、収入が低いことが関係すると考えられるが、『平成26年全国消費実態調査』のデータでは山口県にその傾向を見出すことができない。

また、『平成26年全国消費実態調査』以前の『平成21年全国消費実態調査』(2009年)、『平成16年全国消費実態調査』(2004年)、『平成11年全国消費実態調査』(1999年)においても、中古車で購入した自動車の所有数量が示されている。その対象となる世帯は、2009年と2004年は総世帯、1999年は二人以上の世帯と異なっているが、山口県において自動車所有数量の新中比率は、それぞれ25.1%(2009年)、32.0%(2004年)、33.2%(1999年)であり、いずれも全国を下回っている。つまり、山口県の新中比率について、『平成26年全国消費実態調査』の結果が例外的に全国水準よりも低かったわけではなく、構造的に低い可能性がある。地方において中古車の比率が少ないという事情をどう捉えるかである。

図 4 二人以上世帯の自動車所有数量における新中比率と年間収入(都道府県別)

出典:『平成26年全国消費実態調査』(二人以上の世帯、第25表)より作成

注:単位は新中比率が%(左軸)、年間収入が千円(右軸)。所有数量における「中古車で購入」/「新車で購入」により算出した。

 

6.新車登録台数と中古車登録台数

上記で見たように、山口県は他の都道府県と比べると、所有数量における新中比率は小さい。所有数量は、調査時点でストックとして所有していた車の数であり、そのうちの中古車として購入した割合が低いということである。この数値は所得の低い地方のほうが高いと思われたが、全てがそうなっているわけではない。ただし、上記は所有数量というストックの新中比率である。新車登録台数と中古車登録台数というフローから、新中比率はどう示されるかである。

都道府県別の新車登録台数は、今回見た限りでは、インターネット上において見当たらない。これに対して、日本自動車販売協会連合会の『2021自動車統計データブック(第39集)』には記載がある。同書では、新車登録台数は、登録車のほか、軽自動車も含めて「新車登録・検査(販売)台数」として掲載されている。これに対して、中古車登録台数は、登録車のみであり、軽自動車は掲載されていない。

図5は、近年の山口県の新車登録台数、中古車登録台数の推移を示したものである。これを見ると、山口県の登録車の新車登録台数と中古車登録台数はともに4万台程度であることがわかる。新車に対する中古車の割合(いわゆる新中比率)は、2015年~2019年だけで見ると100%前後(97%~103%)である。2017年の97%を底として上昇傾向であり、2020年には111%となっている。

図 5 山口県の新車登録台数、中古車登録台数、新中比率の推移

出典:日本自動車販売協会連合会(2021)『2021自動車統計データブック(第39集)』

注:新中比率は中古車登録台数を登録車の新車登録台数で割った値。

 

全国において、この登録車の新中比率を見ると、2015年~2019年は115%前後(114%~118%)となっており、山口県より高い水準であることがわかる。2020年は133%と大きく上昇しているが、この年も山口県より高い。東京都もやはり2020年に大きく上昇し、103%となっているが、2015年~2019年は85%前後(84%~88%)である。これは山口県よりも低い。大阪府も同様であり、2020年は100%だが、2015年~2019年は80%台後半(85%~90%)であり、山口県よりも低い。

図6は、2020年の登録車の新車登録台数と中古車登録台数を比較したものである。これを見ると、やはり沖縄県の突出したところが目につくが、それ以外では図4と同様にいわゆる地方の県が上位にあることがわかる。また、下位は東京都や大阪府などの大都市が多い。山口県は、図6においても低く、都道府県の中で40番目である。大都市を抱える都道府県で新中比率が低いのは十分に予想できるが、山口県が低いというのはどういうことなのか。今後の課題である。

なお、図6の都道府県の順位は図4と一致するわけではない。例えば茨城県は図6では2番目に位置するが、図4では24番目となっている。フローとストックの新中比率に違いが生じうるのか、いずれかの調査で偶然に例外的な事象が含まれて歪んだのか、など様々な要因が考えられるが、これらの議論も今後の課題である。

図 6 都道府県別の新中比率(単位:%、2020年)

出典:日本自動車販売協会連合会(2021)『2021自動車統計データブック(第39集)』

注:登録車の新車登録台数を中古車登録台数で割った値を示している。

 

(後編に続く)

 

参考文献

  • 朝倉登志弘・下川茅里・比嘉歩美・柳生哲平・阿部新(2019)「地方・若者向けのカーシェア市場の課題と方向性 -山口大学の事例から-」『速報自動車リサイクル』(97),20-31
  • 阿部新(2009)「山口県における自動車リサイクル」『月刊整備界』40(5),18-22
  • 阿部新(2019)「中古車の国内移動の推移:首都圏を事例に」『速報自動車リサイクル』(97),44-53
  • 阿部新(2020)「中古車の国内移動の範囲に関する考察」『速報自動車リサイクル』(98),16-25
  • 阿部新(2021)「自動車の保有と廃棄の構造はどうなっているか:『乗用車市場動向調査』から」『速報自動車リサイクル』(101),68-79
  • 阿部新・浅妻裕・外川健一(2010)「九州・山口における自動車リサイクル」『九州経済調査月報』(通巻764号),23-33
  • 小田真央・北田幸音・木下碧・櫛田博子・中尾加奈・山根朋香・阿部新(2022)「若者の車離れに関する資料整理と課題」『速報自動車リサイクル』(102),14-24
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