第137回 中国における廃車回収・解体産業の動向と課題 -2017年度から2021年度までの『中国汽車市場年鑑』を分析して-

熊本大学大学院社会科学文化教育部 博士前期課程 劉玉萍

熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)・環境安全センター長 外川 健一

1.はじめに

新型コロナウイルスによるパンデミックは2020年以降の世界経済に停滞を招いた。自動車産業では半導体の生産不足という悪影響が生じ、新車の生産が滞り、中古車市場がタマ不足でありながらも活況を帯びている。とくに2022年8月には急速な円安が進行し、多くのオークション会場でパキスタン系を中心とする外国人バイヤーが、価格競争上優位性を持ち、日本国内の自動車解体業者の仕入れ競争はさらに激化している。さらに中古車オークション市場では、日本国内では到底売れないであろう低年式のボロボロの中古車までも、アフリカをはじめとする需要先に輸出するため落札していくという。

さて、これまで本連載の前身でもある「自動車リサイクルの潮流」で平岩幸弘が『中国汽車市場年鑑』を中国の自動車リサイクルを考察するうえで、基礎的文献と位置づけた考察を続けてきた。そこで、本稿では2017年版から、最新の2021年版の『中国汽車市場年鑑』に掲載されている中国の自動車リサイクルの部分を中心に考察することで、中国における廃車の発生状況、廃車回収・解体産業の経営状況などの分析から、現行制度を整理し、中国における廃車回収・解体産業の動向と課題を明らかにしていきたい。

1980年代以降、工業用原材料不足を緩和するため、中国は原材料として使用できる固形廃棄物を海外から輸入し始めた。近年中国の経済の急成長に伴い、環境規制も年々厳しくなっている。環境規制が強化している一方で、中国の国内資源循環の推進を目指すために、2017年7月に中国政府は「海外ごみの輸入禁止と固形廃棄物輸入管理制度改革の実施計画(禁止洋垃圾入境推进固体废物进口管理制度改革实施方案)」を発表した。この実施計画は段階的に実施された。まず2017年末に、有害な生活ごみ由来の廃プラスチック等の輸入が禁止された。次に、2018年末に、「固形廃棄物輸入管理弁法」が改正され、固形廃棄物の輸入許可制度が整備された。さらに、2020年までに、中国国内固形廃棄物のリサイクル量を2015年の2億4,600万トンから3億5,000万トンに引き上げることを目指した。違法な廃棄物輸入を取り締まり、中国国内で資源を循環させ、中国のリサイクルの産業構造を見直す計画が示されたのである。

2022年8月12日の時点で、中国の二輪・トラック・バス等を含む自動車(中国語でいう「機動車」)の保有台数は4億800万台に達し、その中で自動車の保有台数は3億1,200万台までに達した[1]。自動車保有台数の大幅な増加に伴い、廃車台数も大幅に増加している模様である。廃車のリサイクルは、中国国内資源循環のなかでも重要な要素となる一方で、環境保全の面にも重要な役割を果たしうる。(本稿では、「使用済み自動車」ではなく「廃車」という用語を用いる。中国の文献では、使用済み自動車という用語が一変的ではないからでもある。)廃車のリサイクル体制を整えることを通じて、有害な廃棄物を適切に処分でき、CO2排出量の効果的削減も期待できる。特に、2020年9月に、中国は2030年の「カーボン・ピーク」と2060年の「カーボン・ニュートラル」という目標を掲げてから、中国国内で脱炭素に向けた動きは加速し、脱炭素のビジネスに関する取り組みが注目を集めている。

 

2.中国における廃車の発生状況

2.1 全体の発生状況

2011年からパンデミック前の2019年までの中国の機動車(機動車については前述のとおり。)保有台数は表2-1の通りで、機動車保有台数、自動車保有台数、機動車の新規登録台数、自動車の販売台数のいずれも年々着実に増えている。2011年のデータを起点としてみると、2019年の機動車保有台数は8年間で54.7%増加し、機動車の新規登録台数も58.7%増えている。一方で、自動車保有台数は145.3%も増加し、自動車販売台数も24.9%増えている。

 

表2-1 2011-2019年の中国の機動車保有台数一覧表(単位:万台)

年度 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019
機動車保有台数 22,500 24,000 25,000 26,400 27,900 29,000 31,000 32,700 34,800
機動車新規登録台数 1,624.25 2,593 2,486 2,777 3,115 3,267 3,352 3,172 2,578
自動車保有台数 10,600 12,100 13,700 15,400 17,200 19,400 21,700 24,000 26,000
自動車販売台数 1,851 1,930 2,198 2,349 2,459 2,802 2,887 2,808 2,311

『中国汽車市場年鑑』各年度より劉玉萍作成。

 

表2-2に、2017年から2020年までの廃機動車の回収状況を示した。多くの保有台数に比べて正規ルートによる回収台数はまだ少ない。

 

表2-2 2017-2020年における廃機動車の回収状況(単位:万台)

類別 2017年 2018年 2019年 2020年
 

 

 

廃棄機動車の回収量

 

廃棄自動車の回収量

乗用車 52.5 67.5 114.6 82.6
バス 66.3 57.8 24.1 57.9
トラック 36.6 40.4 45.3 52.3
そのほか 1.1 9.5 11.8 22.2
合計 156.4 175.2 195.8 215.3
バイクの回収量 81.7 79.4 34.4 34.7
合計 238.1 254.6 230.2 249.6

『中国汽車市場年鑑』各年度より劉玉萍作成。

そのほかは、トラクター等の農業機械などが含まれる。

 

2.2 新エネルギー車の発生状況

2021年11月1日、中国国家発展改革委員会は、「新エネルギー自動車産業発展計画(2021-2035年)」を公表した。中国は、自動車大国から自動車強国に移行することを目指す一方、気候変動に対処するグリーン発展も促進するため、新エネルギー車の発展を積極的に推進している。2012年、国務院は「省エネルギー・新エネルギー自動車産業発展計画(「2012-2020年」を公表し、自動車等の動力源を主に電気とする戦略を公表し、新エネルギー自動車産業は急速に発展していた[2]

表2-3に表されているように、新エネルギー車は2014年の23万台から2020年には492万台と約20倍まで増加した。EV車は、2014年の8万台から2020年には400万台と、50倍という急増を呈した。2016年から2020年まで、EV車は新エネルギー車の約80%以上を占めている。最新情報では、2022年6月末までに、新エネルギー車の保有台数は1001万台に達した。このうち、EV車の保有台数は810.4万台で、新エネルギー車全体の80.93%を占めている[1]。表2-4に示す通り、2018年から2020年にかけて、新エネルギー車の回収が大幅に増加した。2019年と比較すると、2020年に新エネルギー車の回収は221%増加し、EV車の回収は211%増加した。

これから、新エネルギー車の保有台数の増加に伴い、その廃車量も相当の上昇段階に入る。さらに産業政策の影響により、中国の新エネルギー車の回収・解体産業は急速な発展の段階に入っていくと予想される。

 

表2―3 2014-2020年新エネルギー自動車におけるEV車の割合

年度 新エネルギー自動車保有台数(万台) うちEV車保有台数(万台) EV車の割合
2014 23 8 34.78%
2015 42 33 78.57%
2016 91 73 80.22%
2017 153 125 81.70%
2018 261 211 80.84%
2019 381 310 81.36%
2020 492 400 81.32%

2021年度の『中国汽車市場年鑑』p. 275の表の一部を引用して劉玉萍作成。

なお、2012年に公表された「省エネルギー・新エネルギー自動車産業発展計画(2012-2020年)」では、新エネルギー車(NEV)とはEV車、PHEV車とFCV車を含むことを説明されている。よって、一般的新エネルギー車とは、EV車、PHEV車、FCV車の3種と考えられる。

 

年度 新エネルギー車数(台) EV車数(台) EV車の割合
2018年 988 46 4.7%
2019年 4,598 2,200 47.8%
2020年 14,748 6,838 46.4%

表2-4 2018-2020年新エネルギー車の回収状況(台)

2021年度の『中国汽車市場年鑑』pp. 275~276の表と図から劉玉萍作成。

 

3.廃車回収・解体産業の現状

表3-1から、2016年から2020年の5年間で、正規の回収・解体企業数が徐々に増加してきたことがわかる。そのうち、年間回収台数1,000台-3,000台の企業が最も多かった。次に多かったのは年間回収台数500台以下の企業である。回収台数が3,000台未満の企業が、全回収企業の半分以上の数を占める。以上から、中国の廃車回収・解体産業の企業規模は諸外国同様、中小零細が主であることがわかった。また、中国政府が公表した最新のネット情報によると、2021年9月末に、中国の廃車回収・解体企業数は916社に達している[3]

 

表3-1 2016-2020年回収台数による正規回収・解体企業数

廃自動車の回收量(台) 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年
≥40,000 2 3 2 3 2
30,000-40,000 2 3 1 2 1
20,000-30,000 9 4 4 7 12
10,000-20,000 13 9 20 31 34
5,000-10,000 40 30 44 69 92
3,000-5,000 62 72 82 106 122
1,000-3,000 189 251 256 245 248
500-1,000 149 121 136 105 105
≤500以下 187 219 203 187 152
合計 653 712 748 755 768
回収量は3,000台以下の企業数の割合  

80.4%

 

83%

 

79.5%

 

71.1% 65.8%

『中国汽車市場年鑑』各年度より劉玉萍作成。

 

2019年に中国政府は、715号弁法という、廃車からの五大部品を再製造(リビルト)することを認める制度を開始させた。さらに表3-3で示す「廃棄機動車回収分解企業技術規範(GB22128)」(以下、「規範」)が公表された。「指令」では、EV車の解体に関する要件を追加し、回収・解体企業に対して敷地や施設・設備の環境保全に関する要求事項が強化されている。

以下に示す表3-2は2010年代後半5年間の、正規ルートの廃車回収・解体業の状況を、表3-3は正規の廃車回収・解体企業に求められる最小限の事業面積を表すものである。

2021年度の『中国汽車市場年鑑』の説明によると、2020年中国の廃車回収・解体企業が「廃棄機動車回収分解企業技術規範(GB22128)」と国土資源部の計画に従い、営業用の敷地を購入または賃借りし、回収・解体ビジネスを行う面積が急速に拡大した。 

 

表3-2 2016-2020年の廃車回収・解体業の基本情報対照表

年度 企業数(社) 従業員数(人) 回収拠点(箇所) 事業面積(万㎡) 資産総額(億元)
2016 653 40,551 3,301 2,061 274.9
2017 712 23,678 3,140 2,015 219.3
2018 731 22,975 2,409 2,016 222.9
2019 755 24,420 2,271 2,248 267.9
2020 768 26,510 2,167 22,161.1 284.7

『中国汽車市場年鑑』各年度より劉玉萍作成。

原典における2020年度の資産総額は、誤りがあると考えられるので、これを訂正して表を作成した。

 

表3-3 廃車回収・解体企業に求められる最小限の事業面積

取り扱う車両台数(万台)別 一つの企業の最小限の事業面積(解体・保管用地を含む作業場の面積は、事業面積の60%以上)
I類(機動車保有台数≥500) 20000㎡
II類(200≤機動車保有台数<500)
III類(100≤機動車保有台数<200) 15000㎡
IV類(50≤機動車保有台数<100)
V類(20≤機動車保有台数<50) 10000㎡
VI類(0≤機動車保有台数<20)

「廃棄機動車回収分解企業技術規範(GB22128)」より劉玉萍作成。

 

4.正規廃車回収・解体産業の経営状況

表4-1に示す通り、2017年以降の正規廃車回収・解体業界の売上高と営業収入は大幅に増加していた。一方で、解体部品の売上高および解体業全体の営業利益には、激しい変動があった。2021年度の『中国汽車市場年鑑』には、「2020年4月以降、中国国内の鉄スクラップ価格が年初の1200元/トン前後から3600元/トン前後に高騰した結果、供給不足になった。回収・解体企業は、鉄スクラップによる収益を早く稼ぎ出すため、多くのリビルトできる部品を鉄スクラップとして分解した。その結果、解体部品の売上高が大幅に減少した。」と記載されている。715弁法で「五大部品」の再製造(いわゆるリビルト部品としての製造)が解禁されたが、鉄スクラップの収益増加が、新たなビジネスとしての中古部品の再製造へのインセンティブを弱めたのかもしれない。営業利益について、2019年度の『中国汽車市場年鑑』によると、2018年の営業利益の減少の理由は主に二つあるとしている。第一は、解体業者が、より成長するために増資したことである。第二は、廃車買取業者(実際、廃車を集めて、回収・解体企業に販売するビジネスを行う者が存在する。ここでは彼らを「廃車買取業者」称する)が廃車価額をコントロールして廃車の購入価格の高騰により、廃車回収のコストが急上昇したことである。また、2021年度の『中国汽車市場年鑑』によると、2020年の営業利益が減少した理由は、主に正規の廃車回収・解体業の税負担が大きくなったからである。そして、前述の表3-2で示したように、用地取得のため敷地面積が急拡大したので、結果として営業利益が大幅に減少したものと思われる。

 

年度 売上高 うち解体部品の売上高 営業収入 営業利益 納税額
2017 44.98 11.93 103.85 0.72 7.56
2018 63.4 8.9 134.3 △2.64% 28.7
2019 297.2 108.9 296.8 31.6 20.6
2020 808.9 7.7 839.4 6.5 25.9

表4-1 2017-2020年廃車回収・解体業界の経営状況(単位:億元)

『中国汽車市場年鑑』各年度より劉玉萍作成。

 

5.問題点

中国の自動車回収・解体産業は依然として発展途上にあり、解決すべき課題は数多い。特に、廃車台数が急増していることに伴い、中国政府は、この新しい状況に適応するために、一連の法令・基準を改正・発表し、より健全な法整備を進めているようだ。この部分については近年の中国の機動車リサイクルに関する法令・基準と、各年度の『中国汽車市場年鑑』を参考にして、新しい法令・基準はどのような影響を与えたか、以下考察する。

5.1重い税負担 

2020年度の『中国汽車市場年鑑』では「2019年は、廃車回収量の大幅な増加により、業界全体の売上高、営業収入、営業利益などは増加しているが、その税収は大幅に減少した。一般に正規の廃車回収・解体業者は、増値税(簡単に言えば日本の消費税に近い)発票(インボイス。中国語で領収書のようなもの)を取得できないため、13%の増値税は控除されない場合が多い。企業は高い税金を回避する方法を考えざるを得なくなる。」と紹介している。

一般に、車を処分しようとする者は、廃車回収・解体企業に販売する際に、増値税発票を取得することができず、その増値税発票を正規廃車回収・解体企業に提出することもできない。回収・解体企業も、税処理において売上増値税額を控除する発票が取得できないため、企業所得税(中国語で日本の法人税に該当する)も、正常な商取引では考えられないほど増加する。

ここで簡単に増値税について説明しておく。

増値税とは、中国税収の流通税の一種で、重要な税収入である。その算定方式は

(1)簡易課税方式:増値税額=売上高×税率。

(2)一般課税方式:増値税額=売上増値税額(売上高×税率)- 仕入増値税額(仕入高×税率)

のいずれかで計算されるという。

2021年12月30日、中国の財政部および国家税務総局は、「資源総合利用の改善に関する増値税政策の公告(以下「公告」と称する)」(財政部および国家税務総局の2021年公告第40号)[4]を発表し、「再生資源の回収を行う一般納税者は、取得した再生資源の販売について簡易課税の方法が選択できるようになった。すなわち、これまでは廃車回収・解体業者は、一般課税方式によって増値税を計算していたのが、3%の賦課税率で増値税を計算することも認められるようになった。また、「資源総合利用製品・サービス特恵増値税目録(2022年版)」(以下「目録」と称する。)の中で、廃自動車と廃バイクが再生資源に該当し、製鋼炉材料として製鉄企業に販売できることが明記された。さらに「目録」では、廃車回収・解体企業が、工業・情報化部の「鉄スクラップ加工業へのアクセス条件」の関連条件を満たせば、30%の増値税が還付されうると定めている。なお、廃車回収業ではないが、製錬業等が、廃棄電池およびその解体物をリサイクルする場合、ニッケル、コバルト、マンガンの総合回収率が98%以上、リチウムが85%以上、レアアースなどその他の主要有価金属の回収率が97%以上であり、なおかつ定められた技術要件などを満たした場合、増値税からの還付率が、それまでの30%から50%に引き上げられた。

簡易課税方式は税率が低く、特に増値税発票が発行できない場合に適用されるが、取引先の鉄鋼業、製錬業社が、仕入税額の控除ができないため、これらの販売先との取引が難しくなるかもしれないというリスクもある。

鉄スクラップを鉄鋼メーカーに販売する場合を例にとってみる。一般的に、鉄鋼メーカーは中・大企業であり、仕入税額控除をために、増値税発票を必要とするのが一般的である。鉄鋼メーカーが13%の増値税発票を要求する場合、廃車回収・解体企業が「公告」と「目録」の要件を満たしたら、鉄スクラップの30%の増値税が還付される。しかしながら、「目録」の「鉄スクラップ加工業へのアクセス条件」の条件は厳しい。中小零細が主である回収・解体企業の中で、その条件を満たして30%の増値税の還付税金を受け取る企業は極めて少ないと考えられる。厳しい条件かつ少ない還付税金により、正規の中国の廃車・回収・解体企業は、節税に対する意欲がなかなかわかず、重い税負担を感じ続けているようである。

5.2 インフォーマルマーケットに対する規制がゆるい

中国政府は2020 年7月18日に「廃棄機動車回収管理弁法施行細則」を公表し、2020年9月1日より施行した。違法業者に対する罰則について、細則では、「資格認定を受けずに廃車の回収及び解体活動に従事する者は、県(中国の行政区分は、省級,地級、県級、郷級という4層に設置した制度である。)以上の地方商務部と関連部門が、『廃棄機動車回収管理弁法(715号令)』の第19条の規定に従い、違法に回収・解体された廃車、廃車の『五大部品』及びその他の部品を没収し、また違法で得たと考えられる所得も没収する。違法で得た所得が5万元以上の場合、その所得の2倍以上5倍以下の罰金を科せられる。違法で得た所得が5万元未満の場合、または違法で得た所得がない場合、5万元以上10万元以下の罰金が科せられる。」と定められた。上記の罰則は、主に罰金を違法業者に課している。この点について、2021年度の『中国汽車市場年鑑』では、「政府機関内の関連部門は、共同の法執行が少なく、そして、違法業者への取り締まりが不完全なので、多くの場合は罰金しか科さない。その結果、インフォーマルマーケットに対する規制がゆるい。」との現状を指摘している。

5.3多くの動力電池が行先不明になっている

2020年「廃棄機動車回収管理弁法施行細則」の中で、もし廃棄機動車の「五大部品」や触媒、新エネルギー車の動力電池がなくなった場合は、機動車の所有者が書面によって状況を説明し、かつその真実性に責任を負う、としている。また、廃車回収・解体企業は回収した廃棄新エネルギー車の車両識別コードと廃動力電池の情報を「新エネルギー車国家監測と動力電池回収利用溯源総合管理システム」に入力するべきである、とも記されている。そして、その廃動力電池を新エネルギー車メーカーの動力電池回収拠点や、動力電池のカスケード利用をする企業、廃動力電池を総合利用する企業に売却すると定めた。2021年度の『中国汽車市場年鑑』によると、「2020年、廃棄機動車の回収・解体業界が直面する大きな課題は、回収・解体企業が、新エネルギー車の廃車を受け取る時、多くの動力電池が行先不明になっていることである。2020年の新エネルギー車の回収台数のうち、EV車の回収量は新エネルギー車の回収台数の46.4%を占めている(前掲表2-4)。回収・解体企業は、引き取ったEVに電池が搭載されていないため、当然その電池に関する情報を登録することができない。一方で、電池がなくなったため、廃EV車の価値も大幅に下がり、ガソリン車よりも価値が低くなる。行き先がわからない動力電池は一部の中古市場や「闇工場」に流れ込めば、安全面での危険は軽視できない」という問題が記されている。

 

6.終わりに

  参考までに、2001年以降の中国廃車処理・自動車リサイクルに関わる法体系を表6-1にまとめた。とくに、2019年から本格的な法整備が進んだことが窺える。新型コロナウイルスの感染拡大も収まりつつある。今後は可能ならば現地調査を再開し、中国の現状を調査していきたい。

 

表6-1 近年の中国の機動車リサイクルに関する法令・基準(一部)

施行日 法令・基準 主な内容
2001/6/16 廃棄自動車回収管理弁法(307号令)

(中国語:报废汽车回收管理办法)

廃車回収企業の人員、場所、規模などの条件を定める。「五大部品」を鉄鋼会社に販売することを定める。
2019 /6/1 廃棄機動車回収管理弁法(715号令)

(中国語:报废机动车回收管理办法)

「五大部品」がリビルト企業に売却することを許可する。回収企業の特殊産業管理と総数制限を緩和する。廃車の購入価格は、市場主体が自主的に交渉できる。
2019/12/17 廃棄機動車回収分解企業技術規範(GB22128)

(中国語:报废机动车回收拆解企业技术规范)

EV車の解体に関する要件を追加し、敷地や施設・設備の環境保全に関する要求事項を強化する。
2020/1/1 新エネルギー自動車廃棄・旧動力電池総合利用業界規範条件

(中国語:新能源汽车废旧动力蓄电池综合利用行业规范条件)

動力電池の回収における金属の回収率の割合を規定の水準で維持すること求められる。ニッケル、コバルト、マンガンの回収率を98%以上とし、リチウムの回収率を85%以上とし、電池リサイクル企業の技術力を求められる。
2020/9/1 廃棄機動車回収管理弁法施行細則

(中国語:报废机动车回收管理办法实施细则)

回収・解体企業の資格認定制度の導入、企業の敷地・設備基準などを定める。
2021/5/14 自動車部品再製造管理暫定試行弁法

(中国語:汽车零部件再制造管理暂行办法)

リビルト企業の技術力を要求し、コアの回収管理、生産管理と製品管理を明確にして、リビルト部品の市場流通も定める。
2021/7/1 十四五循環経済発展計画

(中国語:十四五循环经济发展规划)

廃車、廃鉛蓄電池等の解体・利用企業の規制・環境監督を強化し、違法企業に対する取り締まりを強化する。
2021/9/18 新エネルギー自動車動力電池のリサイクルカスケード利用管理弁法

(中国語: 新能源汽车动力蓄电池梯次利用管理办法)

動力電池のリサイクルカスケード利用企業は、自社の製品販売量に合った回収拠点を設置し、回収拠点の情報を会社のウェブサイトに公表する。
2022/5/1 機動車登記規定(164号)

(中国語:机动车登记规定)

登録地を離れた車両の所有者は、自由に回収企業に売ることが正式に認められる。
2022/10/1 廃棄機動車解体企業汚染コントロール技術規範

(中国語:报废机动车拆解企业污染控制技术规范)(HJ 348-2022)

廃棄機動車の解体要件を定め、企業のインフラと解体プロセスにおける汚染管理、汚染物質排出、環境管理、環境モニタリングと緊急環境緊急事態に対応する計画を定める。

各政府部門の公式サイトより劉玉萍作成。

 

〈参考文献〉

『中国汽車市場年鑑』(各年度)

 

〈WEB 情報〉 インターネット情報は、2022年9月22日熊本市にて確認した。

[1] http://www.gov.cn/xinwen/2022-08/12/content_5705101.htm より。

[2]https://www.ndrc.gov.cn/fggz/fzzlgh/gjjzxgh/202111/t20211101_1302487.html?code=&state=123

[3]http://www.mofcom.gov.cn/article/tongjiziliao/sjtj/jsc/202111/20211103214510.shtml

[4] http://www.chinatax.gov.cn/chinatax/n359/c5171843/content.html

 

本稿の執筆には日本学術振興会科学研究費課題番号19H01385を用いた。なお、本稿に起因する誤りは、すべて指導教員でもある外川に帰する。

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