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第130回 自動車の廃棄の行方に関する理論的視点

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

1 はじめに

新興国・途上国の経済成長により、廃棄の受け皿の整備が急務とされる。自動車は、新車として使用された後、中古車として流通する。そこで国内外に移動した後に使用済みとなる。受け皿の整備の前提として、どこで使用済みとなるかの議論が必要である。

筆者は、これまで新興国・途上国の自動車リサイクル市場における流通構造や産業構造を明らかにしてきた。また、日本の自動車リサイクル市場の歴史を示し、新興国・途上国の現状と比較し、構造の違いを示してきた。本稿では、それらを踏まえ、経済学の理論的視点から自動車の廃棄の行方について整理しておきたい。まず中古車の広域移動のメカニズムから見たうえで、使用済自動車市場の流通構造、産業構造を解説することとする。

 

2 中古車の消費行動

消費者は財を購入する際にそれによる便益と費用を比較する。自動車においても、1台を購入することにより得られる便益(正確にはその金銭的評価)とその自動車の費用を比較し、購入するかどうかを考える。実際は意識的に便益を金銭的に評価することはできないが、結果として購入したということは、便益が費用を上回っているとすることができる。費用は主としてその財の価格になるが、それ以外にも購入する際の手間や不効用なども含まれる。

自動車のような耐久消費財は、廃棄後にリユース向けの中古品として流通することが多い。一般に消費者にとって中古品は新品よりも便益は低い。それは品質や機能などが新品よりも劣るとされるからである。また、中古品は商品の状態がどの程度なのか正確にわからないという問題もある。自動車も同様であり、クラシックカーのような例外もあるが、往々にして新車より中古車のほうが便益を低くする。

価格については、消費者が持つ便益のほか供給(生産)における費用も影響する。新車においては資源価格のほか、人件費、土地代、エネルギー代なども影響するだろう。中古車の場合も調達のための費用や人件費、輸送費などがある。中古車の供給が少ない状態であれば、調達のための費用がかかり、中古車の価格は高くなりうる。

一般的には新車よりも中古車のほうが価格は低い。それは便益の相対的な低さにある。消費者は、[新車の便益-費用]と[中古車の便益-費用]を比較するが、中古車の便益が相対的に低い中で費用を低くしない限り、中古車は選ばれない。つまり、中古車の価格が高ければ、[新車の便益-費用]≧[中古車の便益-費用]となってしまい、中古車を売るためには価格を下げざるを得ない。

尤も、費用は価格のみならず、時間や手続きによる不効用なども含まれる。昨今の半導体不足のように生産がストップするような状態であれば、納車を待つことにより新車の費用が高くなる。その結果、中古車の便益は低く、費用(価格)が高くても、中古車が選ばれうる。新車よりも価格が高くなっても中古車のほうが[中古車の便益-費用]が高くなることも理論上はある。

消費は、それぞれの費用のみならず、便益の影響も受ける。新車を購入する者は、[新車の便益-費用]≧[中古車の便益-費用]となっているから新車を選ぶ。中古車の価格が低いとしても、その者にとって中古車の便益が相応に低ければ、中古車よりも新車の利得のほうが大きくなり、新車が選ばれる。ステイタスや流行などで新車の便益が非常に大きい場合も同様である。

これに対して中古車を購入する者は、[新車の便益-費用]≦[中古車の便益-費用]となっている。新車の価格が高く、それに対して便益がさほど大きくない状態であれば、中古車の利得のほうが大きくなりうる。ステイタスや流行を気にせずに単なる移動手段として捉える場合も同様である。

中古車が売れるのは、(1)新車の便益が下がる、(2)新車の費用が上がる、(3)中古車の便益が上がる、(4)中古車の費用が下がる、という4つの動きのいずれかまたはそれらのミックスによる。先に示したように、昨今の中古車販売の好調は、新車の納車を待つことによる不効用、すなわち(2)も関係していると言える。

当然であるが、中古車においても費用がかかるのであり、自動車そのものに相応の便益を見出さない者は中古車も購入しない。つまり、[自動車の便益-費用]≦[他の移動手段の便益-費用]であれば購入しない。駐車場代などの維持費が高く、公共交通の発達している大都市では地方と比べると便益は低くなりうる。

 

3 中古車の広域移動

一般に所得の高い者は新車を購入し、中古車は比較的所得の低い者が購入すると考えられるが、それは上記の枠組みでどのように説明できるだろうか。まず、所得の低い者も新車の便益は中古車の便益よりも大きいはずである。しかし、新車を購入する費用が大きい。他の用途を犠牲にすれば高い費用であっても払えないことはないだろうが、それにより犠牲になった他の用途分の便益の喪失がある。また、高い費用を払うためにさらなる労働が必要であれば、それによる不効用もあるだろう。それらを考慮すると、所得の低い者は高い者よりも、新車の利得[新車の便益-費用]は小さくなる。その結果、中古車の利得[中古車の便益-費用]が相対的に大きくなり、新車よりも中古車を選ぶ。そして、高所得者から低所得者への中古車の移動が起こると説明できる。

中古車の移動は、大都市から地方へ、先進国から新興国・途上国へという経路が想定されるが、単純な構造ではない。もちろん、これらの地域間には所得格差があり、そのような移動も実際にあるだろうが、大都市内でも所得格差はあり、地域内で引き渡されることはある。日本では新興国・途上国への輸出よりも国内で使用済みとなる自動車の台数のほうが多い。つまり、所得の低いところで全てが使用済みとなるわけではない。

問題は、中古車の需要者がどこに多くいるかである。大都市内で所得格差があるのであれば、大都市内に中古車の需要者がおり、その範囲で流通することになる。同じ中古車に対して、同程度の便益を持つ需要者が近隣にいれば、近隣を含めた範囲で競争する。それがさらに地方や国外に広がる。供給地と需要地が離れれば離れるほど、輸送費やそれに伴う手続き、時間の費用がかさむが、それらを含めた競争が広域化する。

一方、同じ所得層でも中古車に対する便益は個々により異なる。例えば、大都市と地方では、公共交通の発達の程度が異なることで、自動車の便益は異なるだろう。つまり、[自動車の便益-費用]の中で、地方のほうが便益が大きいということが想定される。これは新車のみならず、中古車も同様である。

また、地方でも新車を購入する層はおり、そこで中古車は発生する。そうなると、地方の消費者は、[自地域の中古車の便益-費用]と[他地域の中古車の便益-費用]の大小関係に直面する。同等の品質、状態で同等の価格であれば、輸送費の点で自地域のものが選ばれるだろう。しかし、同等の品質、状態であっても価格は同等になるとは限らない。自地域に需要者が多くいるのであれば、他地域の中古車の価格は相対的に低くなり、輸送費を含めると自地域のものと同程度になりうる。その逆も然りである。

大都市と地方で便益が異なることが想定される中で、大都市で発生した中古車の行方は、所得の低い層がどこに多くいるかによる。例えば、大都市で所得の低い層が多くいるとすると、中古車は大都市に多く残ることになる。大都市・地方間の所得格差が小さい場合も同様と考えられる。反対に、大都市内で所得格差は比較的なく、大都市・地方間の所得格差が大きければ、広域的に移動する。また、地方の所得の低い層の人口が多ければ、地方に移動する台数も多くなる。

この構造は、中古車輸出についても同様である。国内よりも国外のほうが所得の低い層が多ければ、国外に多く輸出される。輸出の場合、さらに遠距離となり、輸送や輸出に関わる手続きなどの費用がかかるが、それを考慮しても中古車の便益が高いことで輸出されうる。いずれにしろ、所得格差や便益などそれぞれの条件による。

 

4 日本の中古車の広域移動

2019年の東京都からの中古車の流出台数は216,295台であるが、このうち関東6県向けが119,910台であり、全体の55%を占めている(日本自動車販売協会連合会,2020)。それに続くのが中部地方向けの20,704台(全体の10%のシェア)であり、これらに東北地方(16,486台、8%)、近畿地方(16,097台、7%)、九州地方(12,069台、6%)が続いている。これを見ると、近隣県が突出して多く、大都市を抱えている道府県がその次に多いという傾向がある。これは、かつての筆者の研究でも確認されている(阿部,2019;2020)。

道府県別で見ると、神奈川県が36,275台で最も多く、全体の17%を占める。それに続くのが埼玉県の32,659台(15%)、千葉県の25,263台(12%)であり、これら近隣3県で44%のシェアとなっている。これは住所変更による管轄変更もカウントされるため、純粋に中古車販売における流出とは限らないが、如何にこの近隣3県が多いかがわかる。また、大阪府は6,584台(3%)、愛知県は9,157台(3%)であり、上記3県よりは少ないこともわかる。

昨今では、オートオークションやインターネット通信の発達により、全国ひいては全世界で取引をすることができる。そこで提示される情報が正しいことが前提であるが、それも査定制度の充実により克服される。よって、東京都から近いところが情報において優位とは限らない。

一方、同じ近隣でも山梨県は2,715台であり、東京都からの中古車流出台数の1%である。人口で見ると、2019年10月1日時点で東京都が1392.1万人、神奈川県が919.8万人、埼玉県が735.0万人、千葉県が625.9万人であるのに対して、山梨県は81.1万人と少ない(総務省データより)。距離により輸送費に差が出るのは確かだが、これらを見ると、距離だけではなく、中古車を需要する人口がどれだけ多いかも関わっていると考えられる。

日本では2018年度の一人当たりの県民所得で最も高いのは東京都の541.5万円である。近隣の神奈川県が326.8万円、埼玉県が304.7万円、千葉県が311.6万円であり(内閣府県民経済計算より)、これらから所得水準の差により東京都から近隣3県に中古車が流れるという説明はできる。

これに対して、一人当たりの県民所得で最も低いのは沖縄県の239.1万円である。東京都から沖縄県の中古車の流出台数は3,977台であり、東京都からの流出台数全体の2%である。よって、所得が低いからとはいえ、そこに多く中古車が集まるわけではない。先述の通り、距離や人口も関係しているといえる。

ただし、沖縄県は、東京都から中古車を多く受け入れているほうである。鹿児島県を見てみると、2019年の東京都から鹿児島県の中古車流出台数は1,298台であり、沖縄県の3分の1程度である。沖縄県の人口は2019年10月1日現在で145.3万人であり、鹿児島県の160.2万人よりも少ない。鹿児島県の一人当たりの県民所得は250.9万台であり、沖縄県と大きく変わるわけではない。これを見ると、域内の所得格差、物流、公共交通の発達の程度なども考慮する必要があることがわかる。

なお、東京都は、中古車流出台数も多いが、流入台数も多い。中古車流入台数は118,279台であり、流出台数(216,295台)とともに全都道府県の中で最も多い。東京都は近隣3県に比べて公共交通が発達しており、自動車そのものが必要ないようにも思えるが、中古車の流出台数が多いのを見ると、それだけ新車を必要とする層が多いということである。一方で、流入台数が多いのを見ると、中古車を需要する層も多いことがわかる。これらを見ても、中古車の移動は、大都市から地方への移動という単純な構造ではなく、人口や域内の所得格差なども関係していることがわかる。

 

5 中古車輸出の構造

先進国と新興国・途上国とでは一般的に所得の差がある。そのため、中古車が先進国から新興国・途上国に移動する構造は、先の高所得者と低所得者の便益・費用構造により説明できる。新興国・途上国でも新車のほうが便益は高いが、費用と比べた場合、中古車を望ましいとする。つまり、 [新車の便益-費用]≦[中古車の便益-費用]と考える層が比較的多いということである。

また、新興国・途上国は、国内における地方と同様に、公共交通の整備という面では遅れており、自動車の便益が高いことは想定できる。それが先進国と比べて中古車の便益を高くしていると考えられる。国内で使用済自動車として解体されうるものでも、中古車として輸出され、リユースされる。また、同じ中古車でも新興国・途上国で便益が高ければ、輸送費を含めても高い価格で購入する。その場合、国内で中古車として販売できるものが輸出されることはある。

当然ではあるが、新興国・途上国は全体的に所得が低いと言っても、新車を購入することのできる高所得者もいる。その数が少ないため、その国・地域では新車の購入も少なくなる。これに対して先進国では新車の購入層が多いことで新車の購入も多くなる。その量的な違いから先進国=新車、新興国・途上国=中古車という構造になる。

また、新興国・途上国で発生した中古車と、先進国で発生した中古車では、同じモデル、年式でも便益が異なることがある。つまり、中古車にも「産地」がその便益に影響することがある。そして、新興国・途上国の自国内で発生した中古車の便益が低くなるのであれば、輸入中古車は、価格が高くても輸入、販売されうる。この結果、自国産の中古車は、使用済みとなりやすくなる。そうなると、自国内で中古車を買い取り、販売するビジネスは輸入・販売ビジネスよりも成り立ちにくくなる。

国・地域によっては、自国内で生産された新車の販売を促進する目的で新車の輸入を制限することがある。それは域内の新車価格を上昇させ、中古車のほうを選択するインセンティブを与えうる。新車のみならず、自動車そのものを制限する場合もあるが、それでも部品として輸入するなどの手間、費用をかけてまで中古車の輸入をすることがある。これは中古車の費用を上昇させるものであるが、依然として[新車の便益-費用]≦[中古車の便益-費用]という構造である。さらに結果的に中古車の価格をも上昇させ、自動車そのものを購入するハードルを高めることになる。自動車の普及を遅らせ、または二輪車などの代替手段の購入に転換させうる。

日本の主要な中古車の仕向地は、アラブ首長国連邦、ニュージーランド、ロシアのほかケニアなどのアフリカ諸国、チリなどの南米諸国などである。このうち、ニュージーランドは低所得なのかどうなのかという疑問がある。世界銀行が公表する2020年の一人当たりの国内総生産はニュージーランドが41,441.5ドル、日本が40,193.3ドルであり、若干ニュージーランドのほうが高い。そのため、ニュージーランドは所得が低いから中古車を輸入するわけではないということになる。

筆者も現地調査を行ったことはあるが、確かにニュージーランドの公共交通は日本よりも発達しておらず、自動車は必要である。そうであれば中古車ではなく、新車を購入すればよいようにも思える。新車も使用されているものの、依然として日本からの中古車の輸入が多い理由として考えられることとしては、新車と中古車の便益の差が小さいこと、新車の価格が高く、中古車との差が大きいことである。

日本の中古車は年式が高いものも多く発生する。そのため、ニュージーランドの消費者にとって新車、中古車の便益がさほど変わらないのであれば、価格(費用)の低い中古車が選ばれうる。また、年式の低いものであっても状態のよいものであればニュージーランドの消費者にとって便益は下がるものではなく、むしろ割安と考えるのかもしれない。

ロシアについては在ウラジオストク総領事館の資料によると、沿海地方の一人あたりの域内総生産は2019年で561,643ルーブルとされる(在ウラジオストク総領事館,2021)。2019年12月30日時点で1ルーブル=2.02円(三菱UFJ銀行、TTS)であるため、日本円で約113万円である。そのため、所得の差はあると考えられ、日本の中古車がロシアに輸出される根拠になりうる。それに加えて、ニュージーランドと同様に多少古くても便益が下がるものではないのかもしれない。

ロシアではこれまで中古車の輸入制限を行ってきたが、それでも中古車の輸入はなくならない。それは新車の費用(価格)が高かったり、新車の便益が低かったりするからである。かつて現地で行った聞き取り調査では、ロシア製の新車に対して日本製の中古車の性能の良さを言及する声をよく耳にした。特に日本で使われた日本製の性能は違うという。そのように便益の差がある中で割安な日本の中古車が好まれているのかもしれない。

また、ロシアでは中古車を日本で分解し、部品として輸入し、再組立てをするという方式も流行していた(阿部,2008)。それだけ費用をかけても[新車の便益-費用]≦[中古車の便益-費用]ということなのだろう。現地で発生する中古車もあるはずだが、それよりも分解、再組立てのほうが割安ということになる。中古車の輸入には、新車のみならず、現地で発生する中古車の需要の影響もある。

一方、輸入国の中古車の価格は、供給(輸出)側の価格にも関係する。自動車の所有者は、下取りなどで自動車を引き渡すが、それは中古車の国内市場の販売価格による。新車の価格が低ければ、国内の販売価格も低くなる。そのような中、輸出国において、中古車の輸出価格が中古車の国内価格および使用済自動車の価格よりも高くなれば、中古車として輸出される。

これを見ると、輸出国で新車の価格が低ければ、中古車の価格も低くなるといえる。それは、輸入国の中古車の価格を低くし、より所得の低い層が購入するようになる。同じことだが、仮に輸出国で新車の価格が高くなれば、輸入国の中古車の市場にも影響する。

 

6 使用済自動車の発生地

以上から、中古車の移動は、中古車を需要する層の多いところに移動する。それが大都市なのか、地方なのか、国外なのかは所得格差、距離、人口などによる。国内では仮に大都市から地方という移動の構造であっても、人口の少ない過疎地ではない。現実的には、大都市近郊や地方の主要都市などのへの移動になる。

同じ「古いもの」という視点で廃棄物の地方への移動があるが、それと混同してはならない。中古車の場合は、その需要は自動車ユーザーなど人の数に応じたものであり、それらが住んでいる地域に引き渡されるが、廃棄物の場合は、その需要は人の数というよりも土地の広さに応じたものであり、土地の価格が安いところに引き渡される。

ただし、廃棄物は経済活動により発生することが多く、やはり人口の多い地域で多く発生する。そのため、土地の価格の低い地域の立地を求めつつも、排出者から廃棄物を受け取るためにはできる限り人口の多い地域の近くに立地したいとするのが自然である。そこから輸送するためには相応に費用、時間がかかり、そのバランスになる。土地の価格が低いからといって最初から過疎地に立地するわけではない。

社会で都市化が進んでいない段階では、廃棄物の需要者すなわち処理業者はまず人口の多い地域に立地する。しかし、保管、処分のためには土地が必要となり、処理業者は都市化とともに郊外、地方と土地の安いところに移動する。廃棄物の処理の対策が不十分であれば悪臭、大気汚染などの環境汚染が周囲で起こりうるが、都市化により近隣が居住地になってくれば、それに対する苦情が生まれ、立地が難しくなる。そのため、処理業者が大都市から産業や住宅の立地しにくい地域に移動し、そこに廃棄物が流れるという構造になる。

また、廃棄物の移動は、処理段階により変わってくる。排出者から受け取った段階のものを処理する場合は、圧縮や切断などの大まかな減量化や分別になるのだろうが、それは発生地に近いところに立地することを望むだろう。一方で、大まかに減量化、分別された廃棄物をさらに破砕、選別し、再資源化、埋め立て、焼却する場合は、大都市に近いことが望ましいものの、より土地の価格の低いところに立地することが想定される。つまり、処理が進むほど大都市から離れる可能性はある。ただし、分別されたものが再資源化される場合は、その利用者に近いことが望ましく、それを考慮した立地がされうる。

使用済自動車も同様であり、人口の多いところ、すなわち大都市で多く発生するが、その処理は郊外、地方になりうる。往々にして使用済自動車のリサイクル業者は産業発展の黎明期において大都市に立地し、都市化の進展とともに郊外に移動する。日本でも東京都墨田区の堅川地域に自動車解体業者が立地、集積していたのは、やはり人口の多い発生地に近かったからにほかならない。その後、都市化とともに江戸川区や千葉県に移動していったのは、居住地の拡大や中心地の地価の高騰などが影響していると考えられる。また、解体後の破砕、選別はスクラップ回収業者になるが、さらに大都市から離れうる。かつて破砕後の残余物は不法投棄されることがあったが、山間部や離島であり、輸送費を負担しても旨みがあったのである。

 

7 使用済自動車の発生地と解体

使用済自動車のリサイクルにおいては往々にして分業化されている。リサイクルの過程において、使用済自動車の回収、部品の回収・販売、再生資源の回収・販売、残余物の回収・処分がある。使用済自動車の回収は、その発生地に近い地域で行うが、部品や再生資源の回収のための解体作業、残余物の処分は必ずしも発生地に近い地域で行う必要はない。発生地に近い地域が望ましいものの、土地の価格と輸送費のバランスによる。

これに対して、部品の販売は、人口の多い地域の近くに立地したほうが有利である。正確には自動車を利用する者が多い地域である。部品は自動車を利用する者のほか、その周囲に立地する修理業者、整備業者が購入することになる。新品も同様であり、市街地に近いところに販売店が集積することがある。

使用済自動車から部品を回収する者は、部品取りのための解体ヤードと販売拠点を同じ土地で行うかどうかである。販売のための店舗のみ人口の多い大都市に設置し、部品取りのための解体ヤードを郊外に設置する者もいる。いわゆる製販分離である。

近年では、情報ネットワークや物流の発展により、必ずしも中古部品販売業者は大都市および近郊に立地する必要はなくなっている。インターネットにより欲しい部品を注文し、宅急便を利用し、調達することができる。ただし、その品質や状態を確認するためのルールが不十分であれば、現物を確認する必要がある。その際は部品の購入者がアクセスしやすい地域に立地することになる。

中古部品は部品の種類やメーカー、型式、さらにその品質や状態を含めると多種多様である。しかし、中古部品販売業者が単独で使用済自動車から回収する部品はその一部でしかない。そのため、顧客は、部品を欲しい場合、複数の中古部品販売業者に問い合わせることになる。それは顧客にとって取引費用になる。これに対して中古部品販売業者が集積すれば顧客は取引費用を削減することができる。それがさらなる顧客を生み、中古部品販売業者にとっても良い状態となる。つまり、集積の利益を生む。

このような集積はいわゆる問屋街のように様々な物品で見られる。自動車の新品部品も同様であり、中古に限ったものではない。また、集積の利益という側面では、市場や商店街として日常的に観察される。そのような中、他店舗との差別化のために専門化が進むことがある。中古部品の販売業者においても特定の部品やメーカーに専門化することがある。それを専門として特定のメーカーの使用済自動車を集めたり、同業者と協力関係を結んだりすることがある。

ただし、中古部品の販売は、そのような集積が優位とは限らない。顧客は集積地に行かなくても欲しい部品を購入することはできる。それは中古部品販売業者の同業者間ネットワークである。つまり、顧客である自動車ユーザーや修理業者などが近隣の中古部品販売業者に欲しい部品を注文し、その中古部品販売業者が同業者に問い合わせをすることで欲しい部品を調達することができる。情報通信技術と物流の発展により、集積地に立地する意味が薄れる。顧客である修理業者などが多くいるところに中古部品販売業者が立地するのが望ましく、必ずしも集積地に立地する必要はない。集積地が自動車ユーザーや修理業者などにとってアクセスしにくいところであればなおさらである。

一方、使用済自動車からは中古部品のほか、再生資源を回収、販売することができる。年式によっては、中古部品は売れず、再生資源の販売で利潤を得る使用済自動車もあるだろう。それに重点を置く者は、部品のように自動車ユーザーや修理業者、整備業者がいる地域に立地する必要はない。むしろ、再生資源を利用する者へアクセスしやすい地域に立地する。もちろん、使用済自動車は人口の多いところで発生するため、それに近い地域に回収拠点は必要である。回収拠点から集めてきたものを解体、破砕することになるが、そのためのヤードは輸送費とのバランスとなる。これはスクラップ回収業者と同じような立地になる。

以上を見ると、使用済自動車を回収し、部品や再生資源を販売するのであれば、自動車の利用人口の多い地域に立地することが望ましいが、必ずしも都市の中心部に立地するわけではない。土地の価格などを考慮して、郊外に立地するということが現実的なのかもしれない。

 

8 中古部品の輸入と使用済自動車の解体

中古車と同様に、中古部品市場は新品市場の影響を受ける。つまり、部品の需要者が[新品部品の便益-費用]≦[中古部品の便益-費用]であれば、中古部品を購入する。安心感などから新品部品の便益は相対的に高くなる。そのため、中古部品は、品質保証や返品、状態表示などで信頼性を確保し、便益を下げない努力をしつつ、調達にかかる費用が上がらないような努力をする。それを前提としても、新品のほうが有利であり、ある程度価格は下げざるを得ない。

新品部品の価格が低ければ、中古部品の価格はさらに下げざるをえないが、中古部品販売業者がそれで利潤を得られるかどうかである。リユース用として売却するのではなく、資源として売却したほうが多くの利潤を得られることもあるだろう。いずれにしろ、使用済自動車の引取価格を下げざるを得ず、場合によっては非有償にもなりうる。

一方、国・地域によっては中古部品を輸入してそれを補修用部品とすることがある。実態として多くの国・地域では、日本などの先進国から中古部品を輸入している。これも新品部品との関係になるが、実態として新品部品が市場に流通している中で、中古部品を望む層がいるということである。

同時に輸入部品は自国産の中古部品とも競合する。中古車と同様に自国産の中古部品の便益が低ければ、輸入部品の価格が高くても需要はある。輸入されているということは、その国・地域において自国産の中古部品よりも輸入の中古部品のほうが利潤を生むからにほかならない。逆に自国産の中古部品は価格を低くせざるをえないが、その場合、使用済自動車を回収し、解体する旨みがあるかどうかである。

当然ながら、補修用部品は路上で走っている車のためのものである。つまり、使用済みとなる前段階の比較的新しい年式のものであり、事故車などでない限り、中古部品として販売されない。それを新品や輸入部品が補っているということができる。よって、輸入部品に競合するのは、事故車の回収および解体ビジネスになる。輸入ビジネスができない者が事故車の解体ビジネスに参入することはありうる。

ただし、事故車を解体して部品を販売するよりも、事故車を修理するビジネスのほうが利潤を生むかもしれない。それは人件費が低く、技術力があれば、そういうことになりうる。それにより、事故車の解体ビジネスが生まれない可能性はある。修理業者は、事故車を引き取り、修理をするか解体をするかという選択ができる。そのような中で、時代とともに人件費が上昇すれば、修理の費用が嵩み、解体を選択する車両が増えることが予想される。さらに自動車の保有台数が増大すれば、事故車の解体を専業に行う者が出てくるかもしれない。

一方、年式の低い使用済自動車の解体については、中古部品を販売することの旨みが小さい。年式が低くなればなるほど、その年式の使用済自動車の発生量は増え、中古部品の供給は十分になるが、反面、その年式の車の路上で走行する数は減り、事故などで補修する需要は減っていく。つまり、供給過多となる。需要が全くないわけではないが、年式の低い使用済自動車から部品を集めることにあまり旨みはない。さらに輸入により部品が既に在庫として保管されているのであれば、自国産の使用済自動車を解体する必要はない。そうなると低年式の使用済自動車の解体は、部品というよりは資源を回収することが主目的となりうる。つまり、スクラップ回収業者と同じ収入構造になる。そして、その立地も、修理業者、整備業者がアクセスしやすいところよりは、再生資源の利用業者にアクセスしやすいところになる。

これら構造の中、部品の輸入が減少する場合、どうなるかである。それは関税など部品の輸入の制限政策もあるが、自国産の新車と部品が合わないような場合もあてはまる。上記からわかるのは、補修用部品として自国産の中古部品の需要が生まれうるということである。そうなると、新品部品との競合の程度によるが、事故車の解体ビジネスに旨みが出てくる。そして、日本のように事故車などの高年式の使用済自動車を集める解体業者(中古部品販売業者)と低年式の使用済自動車を集める解体業者(資源回収業者)の2つのタイプが並立することになる。

 

9 まとめ

新興国・途上国で自動車の廃棄が増大し、その処理のための受け皿の議論が必要になる。これらの国では都市部において渋滞が社会問題になるほど自動車が溢れているにもかかわらず、使用済自動車を集め、解体する事業者はなかなか見つからない。それを以って自動車が地方とりわけ農村部に中古車として移動し、そこで使用済みとなると考えるかもしれない。かつて日本で廃棄物が大都市から地方、過疎地に搬出された経験からそのような発想をすることもある。あるいは、中古車が先進国から新興国・途上国に輸出されるという構造もある。

しかし、構造は単純ではない。確かに地方の所得は低く、大都市から地方への中古車の移動はあるのだろうが、廃棄物とは異なることを留意する必要がある。中古車(中古品)は人が需要するものであり、人口の数が重要である。そのため、所得が低くても、農村や過疎地ではなく、人口の多い地域に移動するとするのが正しい見方である。そうなると、現実的には大都市の近郊または地方の主要都市に移動することが想定される。

もちろん、大都市内でも所得格差はあり、その域内で流通することはある。ただし、そのような場合でも使用済みとなった際にその自動車の回収、処理は郊外でなされうる。都市化の進展とともに使用済自動車の解体業者は土地の制約から郊外に立地することが予想される。それは解体のためのヤードの土地の価格と発生地との距離、販売先との距離のバランスになる。

理論上は、条件により様々な結果になる。例えば、大都市内で所得格差がない場合、大都市で自動車そのものを需要しない場合、地方で新車を購入する層が多い場合など様々な条件がある。各地で起こる現象を観察しつつ、それぞれの条件を設定して、どのような構造になっているか、仮説を立てて議論を進めるべきである。

 

参考文献

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