第132回 日本の中古車輸出台数の変動:ロシア向けを中心に

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

はじめに

2022年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。2022年4月末現在、この侵攻は終結せず、世界各国はロシアに対する経済制裁を継続している。既にメディアで報じられている通り、これは日本からロシア向けの中古車輸出市場にも影響を与えているとされる。

阿部(2022)で示した通り、2021年の日本の貿易統計上の中古車輸出台数は122.5万台である。新型コロナウィルス感染症により、その前の2020年の日本の中古車輸出台数は大きく減少したが、一時的なものであった。その後は徐々に回復し、2021年は2019年の水準に近いものとなっている。なかでもロシア向けは好調であり、2021年のロシア向けはアラブ首長国連邦を抜き、仕向地の首位に立っている。

2022年4月27日、財務省貿易統計の3月分の輸出確報値が公表された。ロシアのウクライナ侵攻により、日本のロシア向け中古車輸出台数がどの程度減少したかに関心が集まる。また、ロシア向けのみならず、中古車市場全体にどのように影響を与えたかである。

本稿では、まず次節で新聞記事等を時系列的に追い、ウクライナ侵攻の中古車輸出市場への影響についての報道を概観する。そのうえで、貿易統計からロシア向けの中古車輸出台数を、品目別を含めて見ていく。また、他国への影響のほか、ウクライナの中古二輪車も見ていきたい。

 

新聞記事等

まず、記事を時系列的に見てみる。2022年2月24日の侵攻開始直後の記事では、日本各地の影響として自動車リサイクル企業の状況が言及されている。具体的には、石川県の会宝産業の「ルーブル相場下落や送金への影響を心配している」という声(日本経済新聞2022年2月24日)、鳥取県の西川商会の「銀行の入出金が止まるといったリスクがある」という声(日本経済新聞2022年2月25日)が示されている。西川商会については、米ドル建ての決済に支障が生じるリスクがあることからロシア現地企業との取引を商社経由に切り替えることも述べられている。

東北地方では、中古タイヤをロシアに輸出している岩手県のエムエス商会が3月1日時点で代金100万円前後の入金を確認できておらず、「ロシアからの送金がストップしたもようだ」と記されている。また、ロシアに中古自動車のエンジンなどを輸出する青森市内の解体業者が「決済できないことが確認でき次第、出荷を停止する」「人の往来が止まれば今後の商談に影響がでる」と語る様子が示されている(日本経済新聞2022年3月1日)。

中古車輸出については、中古車輸出会社のビィ・フォアードが開設したばかりのウクライナのエージェントオフィスの営業を停止したことが示されている(日刊自動車新聞2022年2月26日)。また、日刊自動車新聞の2022年3月2日付記事では、「日本からロシアへ向かう自動車専用船やコンテナ船は今後、荷動きが鈍る可能性がある」と述べる海運関係者などの声、「現在はロシア向けの輸出は通常通りだが、今後が心配」「経済制裁が本格化すれば、車両代金の決済に不具合が生じる可能性もある」と言及する日本中古車輸出業協同組合の佐藤博理事長の声が記されている。情勢の見通しが立たない中、関係者は今後の輸出の減少を想定していることが窺える。

3月上旬になると、企業側の対応が徐々に出てくる。日刊自動車新聞の2022年3月11日付記事では、日本の船舶会社でロシア向け中古車輸出を手掛けるイースタン・カーライナーが3月にもロシアへの運航を一時休止する方針を固めたこと、新規の船積み予約を一時停止せざるを得なくなったことなどが示されている。その理由として、「対ロシアへの金融制裁で、船舶代理店に送金ができない状態になっている」という同社の声が示される。また、現状で予約受付済みの約6千台を月内に輸出できるめどは立っておらず、事態打開までには時間がかかりそうだとも述べる。

一方で、同記事ではロシアの船舶会社での中古車輸送は続いているとも言及されている。これらは日本海側の新潟港や富山港、伏木富山港などからの輸送であり、資金は金融制裁対象外のロシアの地銀を経由して送金をしているところが多いとみられ、今後の懸念はあるものの、足元の中古車輸出に影響が広がっていないとする。

この頃は、中古車輸出市場への影響について、テレビのニュースや一般紙、地方紙でも報じられるようになる。そこでは主としてロシアの通貨ルーブルの下落を要因とする。2022年3月10日のNHKニュースでは、富山県の中古車輸出業の様子が報じられているが、そこでは2月末以降、ロシアの取引先からの注文が入らなくなったなどの影響を言及している。その要因として、中古車輸出会社は、ルーブルの急落によって、取引先が購入に足踏みしていることが主な要因と見ていると述べている。そして、既に受注した分の輸出は行っているが、今後の注文の見通しは立っていないと言及する。

北海道新聞の2022年3月11日付記事でも、小樽市の中古車販売業のロシアからの注文がゼロになったことを示す。そして、その要因として、ここでもルーブルが年初から対ドルで半値ほどに下落し、割高になったためであるとする。他にも2022年3月11日のテレビ大阪のニュースでは、大阪府のロシア貿易専門商社のインタビューを行っているが、ここでも同じくルーブル安による輸出の減少の影響が言及されている。インタビューでは、新型コロナウィルス感染症により運賃が上がっていること、それに加えて航路が減っていることが言及され、そのような中での今回の問題を位置づける。このようなルーブル安による中古車輸出の影響については、日テレNews(2022年3月16日)でも言及されている。

一方、3月半ばになると、オートオークション市場の影響に関する記事が増えてくる。日刊自動車新聞の2022年3月18日付記事では、近畿地区にある中古車オークション15会場の2022年2月の実績について、バイヤーの旺盛な購買意欲を背景に高値相場が続いているとするが、同時にオートオークション会場の関係者からは、ロシアによるウクライナ侵攻後、「成約率や成約単価が小幅に下がった動きが見られた」などの声が聞かれたと報じている。

また、日本経済新聞の2022年3月19日付記事では、2月に最高値を付けた中古車の価格が一転して下がり始め、事業者間の平均落札価格は3月第2週に78万5千円と、2月最終週に比べ、5%低下したと報じている。ロシアで人気の高い日産自動車の電気自動車「リーフ」やSUBARUの多目的スポーツ車(SUV)「フォレスター」の下落が目立つとも述べている。ここでは、下落に転じたきっかけは、ロシア向け船便の停止など物流の混乱に加え、SWIFTからのロシアの排除で代金を決済できなくなる恐れから注文が急減したことを言及している。

その後、日経ビジネスの2022年3月28日付記事でも、業者間の国産車の平均落札価格(週次)が3月22日までに80万円を割り込み、2月のピークから約10%下がったこと、「3月下旬からオークション会場で見かける外国人ディーラーの数が大きく減ってきたと感じる」という中古車販売会社の声などを示している。同記事では、3月は例年、買い替えのために車を売却する人が増えることから相場が下がる傾向にあるとするも、こうした季節要因にロシア向け輸出の停滞が重なり、一時的に大きな下落につながった可能性もあるとする。同様のことは、朝日新聞(2022年4月6日)、テレ朝ニュース(2022年4月6日)、東洋経済オンライン(2022年4月8日)、読売新聞(2022年4月17日)、テレビ東京WBS(2022年4月28日)でも報じられている。また、くるまのニュース(2022年4月9日)のように、ロシアの影響による中古車価格の下落は軽微であり、大局的に見れば季節要因の影響のほうが強いと考えられると言及するものもある。

ロシア向けの中古車輸出に影響を与える要因は、SWIFTからの排除、ルーブル安は先に言及した通りだが、それ以外では、日本政府によるロシアへのぜいたく品の輸出禁止措置もある。日本経済新聞の2022年3月29日付記事によると、経済産業省は酒やたばこ、宝飾品、時計などのほか、600万円超の高級車や60万円超のバイクの輸出も禁じるとある。

今回のロシアの問題に限らず、中古車輸出市場は仕向地の事情で突然に閉ざされることがある。そのような時には他国に流れることが多々あり、今回についても同様のことが起こることは十分に予想される。これについては、既に日刊自動車新聞の2022年3月11日付記事で報じられている。同記事では、「ロシアへの中古車輸出が難しくなっても、その分中東やアフリカへ〝タマ〟が流れる可能性がある」との中古車関係者の声を紹介し、仕向け地の変更など柔軟に対応できれば、中古車輸出市場全体の低迷は避けられそうだとする。

同じ日刊自動車新聞の2022年4月20日付記事では、日本からロシアへの中古車輸出の停滞分を、他の仕向地や国内市場で補完する動きが目立っているとする。具体的には、仕向地をアフリカや中東に切り替え、出荷量を確保していること、これに日本の船社も呼応し、中東航路の増便に乗り出したことが示されている。また、ロシア向けは高年式の良質車が輸出の中心だったことから、日本市場の商品車として流通するケースも増えているとする。そして、同記事では、中古車オークション相場は一時下落したものの、現段階でロシア以外の事業へのスムーズな移行を見せており、早期の相場水準の回復も見込まれるとする。

 

2022年3月の貿易統計の集計

冒頭で示したように2022年4月27日に貿易統計の2022年3月分の数量が公表された。前節で見た限りでは、この3月にロシア向けを中心として中古車輸出に何らかの影響があるはずである。それがどの程度かを見てみたい。

図1は日本の全世界向けの中古車輸出台数の月別推移である。これを見ると、2022年3月は前年より増加していることがわかる(対前年同月比104%)。その増加幅が他の月より小さければ、ロシアのウクライナ侵攻の影響の可能性を指摘できるが、他の月を見ると、2022年1月、2月は増加どころか、前年を下回っている。そのため、ロシアのウクライナ侵攻の影響はこれだけでは感じられない。

次にロシア向けに限定して集計した中古車輸出台数の月別推移が図2である。これを見ると2022年3月は前年を下回っていることがわかる(対前年同月比84%)。しかも同国向けは2021年2月より13か月連続で前年を上回っており、2022年1月、2月の対前年同月比は157%、132%と好調を維持していた。その中での減少である。そのため、3月はウクライナ侵攻の影響があったと言うことができそうである。ただし、大幅な減少ではなく、輸出がストップしたというほどにはならない。3月は既に注文されていた台数が出荷されたことで、ある程度の輸出実績が表れたことも想定される。そのため、4月以降にさらに減少することも考えられる。

 

図 1 日本の中古車輸出台数の月別推移(単位:台)

出所:財務省貿易統計より阿部新作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計

 

図 2 日本のロシア向け中古車輸出台数の月別推移(単位:台)

出所:財務省貿易統計より阿部新作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計

 

一方、新車はどうだろうか。図3は同じく貿易統計からロシア向けの新車輸出台数の月別推移を示している。これは、貿易統計において中古の区分のある品目のうち、「その他」の数量を拾っている。そのため、中古の区分のない雪上車やノックダウンは(多くが新車と考えられるとしても)含まない。

これを見ると、新車においても2022年3月のロシア向けの輸出は減少しており、対前年同月比57%と中古車よりも大幅な減少となっている。新車の場合、それ以前から前年を下回っている月が多いが、2022年1月、2月の対前年同月比(それぞれ72%、89%)と比べると、3月のそれは低い。ウクライナ侵攻以前より何らかの影響で減少傾向にあったが、それがウクライナ侵攻の影響により拍車がかかったという見方はできる。

また、図にはないが、新車、中古車の区分のない数量は、2022年3月に大幅に減少している。この多くはノックダウン車になり、数量的に各月数百台と多くないが、対前年同月比は1月、2月が175%、129%だったのに対して、3月が38%である。それ以前も対前年同月比が100%を下回る月もあるため、断定することは避けたいが、これを見るとウクライナ侵攻の影響が垣間見れる。

以上から2022年3月のロシア向けの数量はウクライナ侵攻の影響を受けていることがわかる。ただし、市場が閉じたわけではなく、大幅な減少ではない。それが4月以降にどうなるかである。

図 3 日本のロシア向け新車輸出台数の月別推移(単位:台)

出所:財務省貿易統計より阿部新作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計。中古の区分のある品目のうち「その他」の数量を集計

 

品目別の状況

次に、ロシア向けの中古車輸出台数を品目別(HSコード別)に見てみる。同国向けで多いのが、1500cc-3000ccのガソリンエンジン車、1000cc-1500ccのガソリンエンジン車、ハイブリッド車(ガソリンエンジン搭載)である。図4は、これら3品目に、660cc-1000ccのガソリンエンジン車、電気自動車を加えた5品目について、12か月分の移動平均(各月について12か月分遡った輸出台数の平均)の推移を示している。各月の数量が前年同月と比べて上回っていれば、移動平均は右上がりとなるため、これにより視覚的に増加または減少傾向を捉えることができる。

これを見ると、2022年3月は5品目とも減少していることがわかる。つまり、品目別にみてもウクライナ侵攻の影響を垣間見ることができる。ただし、5品目の中でも、それまで増加傾向だったものと横ばいだったものがある。前者については、ハイブリッド車(ガソリンエンジン搭載)、1000cc-1500ccのガソリンエンジン車、660cc-1000ccのガソリンエンジン車が当てはまる。2021年のロシアは最大の中古車輸出の仕向地であったが、これらの品目が全体の増加にけん引したのであろう。一方で、1500cc-3000ccのガソリンエンジン車や電気自動車はウクライナ侵攻以前より低迷していたことがわかる。

図5は、これら5品目について、貿易統計上の金額を台数で割ることで単価を算出し、その推移を示している。これを見ると、2021年は全般的に上昇傾向にあったが、2021年12月に4品目でピークに達し、2022年に入ってから下降傾向に転じている。残りの1品目(1000cc-1500ccのガソリンエンジン車)も2022年1月が最も高くなっている。つまり、図5の全ての品目でウクライナ侵攻以前に単価が下落している。

それが2022年3月にさらに下落した。電気自動車は2月の74.2万円から3月は60.8万円と大幅な下落である。ウクライナ侵攻により拍車がかかったとみるのか、あるいはそれ以前の下降傾向が継続したとみるのかである。第2節でサーベイした記事ではオートオークションの落札価格に変化があるとされた。確かに下降傾向にはあるが、前年と比べると高い水準である。その議論を踏まえて、ウクライナ侵攻の影響を評価する必要がある。

 

図 4 日本の主要品目別ロシア向け中古車輸出台数(12か月移動平均、単位:台)の推移

出所:財務省貿易統計より阿部新作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計。各月について12か月遡りその平均を示したもの。「ハイブリッド車(ガソリン)」はガソリンエンジン搭載のハイブリッド車を示す。

 

図 5 日本の主要品目別ロシア向け中古車輸出の単価(千円)の推移

出所:財務省貿易統計より阿部新作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計。金額/数量によって算出。「ハイブリッド車(ガソリン)」はガソリンエンジン搭載のハイブリッド車を示す。

 

他の仕向地の影響

第2節で見た記事では、ロシア向けの輸出にリスクがあることから、中東やアフリカへ柔軟に仕向地を変える動きがあることが言及された。図6は2022年3月の中古車輸出台数について上位20か国の数量を前年と比較して示したものである。2021年の年間合計で、ロシアは最も多い仕向地であり、それは2022年1月、2月も継続し、2位のアラブ首長国連邦を大きく引き離していた。3月になり、それが逆転し、アラブ首長国連邦がこの月の仕向地の首位、ロシアが2位となっている。

これを見ると、アラブ首長国連邦は若干ではあるが、前年を上回っている(対前年同月比104%)。タンザニア、モンゴル、チリはアラブ首長国連邦以上に前年よりも増加している(対前年同月比はそれぞれ186%、128%、171%)。一方で、ニュージーランドはロシア以上に前年よりも減少している(対前年同月比69%)。

ニュージーランドは、脱炭素に向けて2022年1月からガソリン車購入に対して課徴金制度を始めたとされる(日刊自動車新聞2022年3月1日、2022年4月5日)。それが同国向けの減少に影響したものと思われる。ただし、図にはないが、品目別に見ると、2022年3月はハイブリッド車や電気自動車は前年を上回っている(対前年同月比134%、208%)。そのため、これらの品目についてロシア向けの一部がニュージーランド向けにシフトした可能性はなくはない。

図7は2022年3月の中古車輸出台数の上位7仕向地について、その月別推移を12か月移動平均で示したものである。これを見ると、ロシアは2022年3月に下降に転じたことが視覚的にもわかる。それを他国がカバーしているかというと、図ではわかりにくい。ウクライナ侵攻以前より増加傾向にあったものが、そのまま継続しているように見える。ただし、アラブ首長国連邦のように下降傾向にあったものが微増に転じているものもある。ロシアから他国へのシフトは時間がかかるのだろうし、また、様々な地域に分散されていることも考えられる。今後、ロシアからのシフトがどの程度顕在化するかである。その際、品目別に捉えるなどの必要もある。

 

図 6 日本の2022年3月の主要仕向地別中古車輸出台数(2021年3月との比較)

出所:財務省貿易統計より阿部新作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計

 

図 7 日本の主要仕向地別中古車輸出台数(12か月移動平均、単位:台)の推移

出所:財務省貿易統計より阿部新作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計。各月について12か月遡りその平均を示したもの。

 

ウクライナ向けの中古車輸出台数

一方、ウクライナはどうだろうか。日本からウクライナ向けの中古車輸出台数はわずかであり、2000年代前半は100台程度の輸出がされていたが、近年では10台前後である。そのため、ウクライナ侵攻の同国向け中古車輸出台数の影響は大きくはない。ただし、ウクライナは中古二輪車において日本と縁がある。

日本の貿易統計では、四輪車と同様に2001年4月から中古二輪車の数量を把握することができるようになった。図8は、2001年から2021年までの21年間分の中古二輪車の輸出台数の合計を仕向地別に示したものである。それを見ると、ウクライナは日本の中古二輪車の最大の仕向地であり、100万台もの中古二輪車を輸入したことがわかる。

ただし、ウクライナが多かったのは2000年代半ばから後半である。2008年に全体の29%を占める13.8万台の輸出がされた後、2009年は1.9万台に急減した。全体におけるシェアも2009年は6%である。その後同国向けの輸出台数は回復し、2018年には5.3万台(シェア12%)にもなったが、2000年代後半ほどではない。直近の2021年は3万台であり、全体のシェアは10%である。

図9はウクライナ向けの中古二輪車輸出台数を月別に見たものである。過去21年間で最大の輸入国の2022年3月の実績はゼロである。図を見ると、3月は、4月以降と同様に統計が公表されていないことでゼロとなっているようにも見えるが、そうではない。この月の他国向けの実績はあるため、単にウクライナ向けの輸出がなかったということである。これはウクライナ侵攻の影響と言えるだろう。ロシアでも中古車輸出は減ったが、それ以上にウクライナの中古二輪車の輸出は打撃だったとも言える。

ただし、同国向けの輸出は、それ以前よりも減少しており、2021年5月より11か月連続で前年を下回っている。特に2021年8月より大幅に減少している。何らかの制限があったはずである。これについてはヒアリング等で調べる必要がある。

実はウクライナの中古二輪車の貿易構造はよくわかっていない。四輪車の場合、主要仕向地は周辺国向けに再輸出するために、多くの中古車を輸入することがある。ウクライナはそのような中継貿易としての機能がある(あった)のか、同国内でこの量を吸収するほどの需要がある(あった)のかである。前者の場合、ロシアを含めた周辺国との関係しだいであり、場合によって中継地が他国に移動する可能性はある。この点は関心を置いておきたい。

 

図 8 日本の中古二輪車の主要仕向地別輸出台数(2001年~2021年の合計、単位:台)

出所:財務省貿易統計より阿部新作成

 

図 9 日本のウクライナ向け月別中古二輪車輸出台数(単位:台)

出所:財務省貿易統計より阿部新作成

 

まとめ

本稿では、2022年4月27日に公表された貿易統計のデータをもとに、ロシアのウクライナ侵攻の中古車輸出市場への影響を概観した。ロシア向けの中古車輸出台数はそれまで増加傾向であったが、2022年3月に減少に転じていることがわかった。これによりウクライナ侵攻の影響があることを垣間見ることができた。

ただし、その数量の減少はこの時点では大きくはない。第2節では、ロシアのウクライナ侵攻後の中古車輸出市場の記事を概観したが、そこでは中古車輸出市場が大きく減少するというような報道がされていた。しかし、報道されたほどの大幅な減少ではなかった。それが4月以降どうなるかである。

各種記事では、ロシア向けの中古車輸出へ影響する要因として、SWIFTからの排除、ルーブル安、ぜいたく品の輸出禁止措置が言及されていた。確かに入金に関する懸念の言及はあったが、一方で金融制裁対象外のロシアの地銀を経由して送金する実態も報じられていた。そのようなことが2022年3月の中古車輸出台数が大幅な減少にならなかった背景なのかもしれない。

図10は、ロシア通貨ルーブルの為替相場の推移を示す。これを見るとルーブルは、ウクライナ侵攻後の経済制裁等により、急激に安くなり、3月10日には1ルーブル=1.11円にもなった。それから回復し、3月28日に1.46円にまでなり、4月1日には1.74円にもなっている。4月はさらに円安ルーブル高は続き、4月28日は前年を含めて最高値の2.06円となっている。

これらを見ると、3月を中心に記事等でルーブル安による中古車輸出市場の影響が言及、懸念されていたが、状況は変わってきているように思える。むしろ輸出に追い風になるような気もするが、一方で送金の問題などもあり、それが4月以降にどの程度数量として表れるかである。日本のドル円の状況および、その背景にある物価上昇と金利政策をどうするかにもよるだろう。

 

図 10 1ロシアルーブルあたりの日本円の推移(単位:円)

出所:三菱UFJ銀行外国為替相場(TTS)より阿部新作成

 

ロシア向けの中古車輸出の価格については、確かに低下したが、ウクライナ侵攻以前より下降傾向となっており、侵攻が要因とはなかなか言い難い。記事でも言及されていたように3月は例年相場が下がるという季節要因もある。また、下がったと言っても前年よりも十分に高い。それまでの上昇傾向が行き過ぎて過剰に高かったという見方もできる。今後、それがどのように表れるかである。

他国向けのシフトについては、今回は十分に感じることができなかった。これは時間を要するものと思われるし、多くの仕向地に分散され、見えにくくなることも想定される。問題はそのシフトが一時的なものになるのか、あるいは定着するのかである。これまでもあったように、ロシア向けは分解して輸入するなど様々な手段で規制を乗り越え、輸入されていた。それだけ旺盛な需要があったということである。それが衰えることはないと考えるのであれば、ロシア向けの中古車輸出台数は回復するのかもしれない。しかし、日本からの輸出が制限されることで、新車や他国からの輸入が定着することも考えられるだろう。ウクライナの中古二輪車を含めて構造的な変化があるかは今後注目すべき課題である。もっとも、戦争が一日でも早く終結することが第一である。

 

参考文献

阿部新(2022)「中古車輸出市場はどうなったか」

『速報自動車リサイクル』参考文献掲載ページ

https://www.seibikai.co.jp/archives/recycle/%e3%83%aa%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%82%af%e3%83%ab%e3%81%ae%e6%bd%ae%e6%b5%81/10696

 

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