晴見自動車整備工場(府中刑務所内)
全国に8箇所ある刑務所内自動車整備工場のうち、府中刑務所内にある晴見自動車整備工場はリピート客の獲得、紹介客により受注を増やすなど、魅力にあふれた整備工場が目指すべき整備工場である。
受刑者に任せて大丈夫なの?
基本的に刑務所内の作業は自動車整備であれ何であれ、社会復帰を前提として行われる。その中でもとりわけ自動車整備に関しては職業訓練に至るまでの過程はハードルが高い。専門性が高い職業である点と、知識レベルも求められる点、そしてコミュニケーションにも長けていなければ、整備士として職業訓練を行うことは出来ないのだ。
つまり刑務所内整備工場で働いている受刑者は刑務所内でも選りすぐりの人材ということになる。
実際に職業訓練という名目なので、整備士資格の取得に励む受刑者がほとんどである。残念ながら(?)服役期間の関係で3級整備士のみの取得に留まってしまうケースがほとんどである。
リピート率の高さはきめ細かい作業にある
車検台数や入庫台数は街の整備工場には決して及ばない数である。あくまで職業訓練が主たる目的なので、民間工場を圧迫しないという大前提があるからだ。しかしながら、洗車、オイル交換、タイヤ交換といった軽作業は頻繁に受注があるという。数の原理としてパイが少なければリピート率も高いと思うかもしれないが、こちらの軽作業の受注数は相当のものである。もちろん作業を行うのは受刑者であるので、入庫の際は厳重なるチェックの下、入庫することになる。タバコや金銭といったものが入っていないかなど、非常に厳しい監査が入る。
受刑者が作業を行い、検査員資格を持つ刑務所職員(作業専門官)が最終の確認を行うスキームとなっている。
作業に対してきめ細かさと確実性を求められるので、車検であれば、一週間ほどと長めの預かりになる。職員が作業を全て行えば時間をかけないで出来る。しかし、受刑者に教えながら、自主性を強くさせるといった社会復帰の要因が大きいため、一般整備工場に比べて倍ぐらいの時間が掛かるのだ。
しかし、こういった確実な作業が顧客には満足という形で還元されているところを見ると、昨今の短時間車検に対するアンチテーゼといえるのではないだろうか……。
実際いくらで作業を行っているの?
価格に関しては非公開でとの要望であったので価格は明記できないが、筆者の感想としては決して安くないと思う。しかし軽作業(洗車など)は良心的な価格で、内容も手洗いでワックスがけまで行ってくれる。それでいて値段は「安い」という印象だった。軽作業でファンを増やし、口コミにより客数を増やし、車検入庫などに繋がるといった理想的な形となっている。
広告宣伝は一切行っていないため、完全なる口コミによる集客となっている。しかし、これ以上車検入庫が増えると受刑者や職員の人数の都合でオーバーフローしてしまうので、現在のバランスは丁度いいとのこと。支払いは現金で受け付けている。
技術の習得にも余念が無い
現在、25名の受刑者が自動車整備に携わっている。受刑者は整備振興会の研修に参加できないため、外部講師を招いて、技術と知識の向上に励んでいる。中には2級整備士資格を習得している受刑者もおり、向上心は見習うべきところがある。
出所後はどうなる?
さて、一番気になる再就職、社会復帰だが、実際に行われている事例を挙げると、整備工場で働く方向に向かっているとのことだ。プライバシーの観点から多くは語れないが、習得した技術を活かす場を彼らは求めている。こういった側面から、出所の目処が立っている受刑者に対して、ハローワークと連携して就労支援を行っている。
もちろん経歴のこともあるが、人材の需要という点では間違いなくある。
多くはトライアル雇用といったケースで行うことになる。
元気工場として紹介するのは非常に稀なケースの整備工場であるが、人材確保の観点では活用してみるのも手ではないだろうか。
問合せ先
府中刑務所 調査官
東京都府中市晴見町4-10
TEL:042-362-3101