異業種に聞く商売のヒント

機械、工業製品はメンテナンスが必要である。これは自動車アフターマーケットでは常識であり、事実、車検整備やオイル交換など様々なメンテナンスを行っている。しかも、個人、法人など大小合わせ9万軒の整備工場、つまり自動車をメンテナンスすることが出来る場所が日本全国に存在する。では、日常的に庶民の移動手段の1つとして親しまれている自転車はどうだろうか? サイクルメンテナンス(飯倉清 代表以下、サイメン)は自転車のメンテナンス専門店である。創業(1992年)当時は自転車のメンテナンスを出張で行っていた経緯を持ち、現在ではスクールやDVD製作などを手がけている。

出張修理からスクール開設へ

「創業時は出張修理を行っており、パンク修理や日常的なブレーキ点検などをメインにしていました。お客さまは1軒で大体3台から5台ほど保有していました。現在と違ってインターネットもまだまだこれからという時代でしたので、タウンページなどに広告を掲載し、口コミなどで広まりました。扱うものは「ママチャリ」と呼ばれる自転車が多かったです。自転車のメンテナンスは特にこれといった資格も無く、誰にでも出来ます。ですが、メンテナンスの専門家は決して多くはありませんでした。ですので、メンテナンスの技術や知識などは全て独学によるものです。創業後、軌道に乗ってからはビジネスモデルの1つとして多くの人にノウハウを教えていき、出張修理というビジネスモデルから撤退していきました。その後はというと、ロードバイクの修理や組み方などのスクールを開設しました」と飯倉代表は語る。

現在のサイメンは商圏やターゲットを絞った戦略を打ち出しているという。自動車産業でも商圏、つまりターゲットを絞った専門店や先鋭化した工場(1月号掲載小山自動車参照)などは生き残るべくして生き残る工場とも言える。なぜならば、その工場でなければいけない理由があるからである。サイメンの場合も他社で行っていないことを続けていたからこそ、自転車業界内外に問わず注目されている。また、サイメンの利用者の多くは「最後の駆け込み寺」という言葉を口にする。事実、それに対して飯倉代表は「ウチで直せなければ他でも直せない」と技術者としての誇りも見せる。

好きが高じて現在の姿に

「元々、自転車が好きでしたので、私自身は知識や技術の習得に苦はありませんでした。ですが、ただ好きなだけでは人の心には突き刺さりません。
記憶に残るようなことをしていかなければならないと思って始めたのが動画の撮影です。定期的に動画をインターネット上にアップしております。この試みがさらに詳しく解説したDVDの販売に繋がるなど、良い材料になっています」と飯倉代表。

DVDの販売は現在のサイメンを支える収入源の一つと言っても過言では無い。しかもこのDVDがファンの間では非常に好評であり、既に数万本の単位で販売されている。動画撮影し、用途別に詳細のメンテナンス方法などをDVD化する、別にこれは自動車でも起こりうることである。出版社が手がけることも多々あるが、〇〇自動車監修などといった注釈が入っていることが多い(実は編集部でもDVD販売を行っており、好調な売上を記録したこともある)。なお、スクールには100人以上のメンバーがおり、不定期に人が出入りするという。

サイメンの魅力

編集部では自転車に対する知識はほとんど無いことを前提に書くが、サイメンは技術屋としての魅力にあふれる店舗である。まず、工具の状態が素晴らしい。整理整頓がされた作業スペースは徹底した効率化が図られているに違いない。

「自分がせっかちだから直ぐに欲しい工具が無いと困るじゃないですか。ケミカルに関してもある程度一定の品質のケミカルを使い続けることは作業のブレを無くせます」と語る飯倉代表は職人の姿そのものである。備え付けられた工具の4割以上が既に絶版の専用工具であるなど、自社でしか直せないという発言も頷ける背景が垣間見られた。

サイメンから学ぶことは

サイメンはメンテナンスをメインに、ロードバイクの組み方をレクチャーするスクール以外にも、専用工具などを使える空間を提供するといったサービスもある。『自転車が好きだが自分の工具もなく、スペースも無い、知識も曖昧である』といったユーザーには最適な空間といえる。ひとたび足を踏み込めば工具や消耗品など、自転車のことを知らない人でも心を躍らせることだろう。自動車で同じようなことをやろうとすると空間の問題、費用対効果の問題、本業から逸脱するなど、簡単にはいかないだろう。だが、工具の整理整頓や作業場の美化作業などは『魅せる整備』という新しい価値を創造できるのではないだろうか。

その結果、キレイな作業場で日常の整備風景を撮影するのはどうだろうか。
実際に多くの自動車整備工場がyoutubeといった動画投稿サイトに個人、法人を問わず動画投稿を行っている。これは自社の信用、信頼を勝ち得る最新の方法の一つであると言える。

自転車は法定点検や車検は無く、自動車業界に比べ単価も決して高くは無い(ちなみにサイメンの工賃は1時間9,000円のレバレート)。逆に自動車業界は顧客の絶対数が多いからこそ、その多くの顧客に広く開けた店舗作りをすることも求められるのではないだろうか。

サイクルメンテナンス
東京都新宿区西新宿4-27-4
TEL 070-5012-0167
FAX 03-3378-8305
HP http://sai-men.com/
代表者 飯倉 清

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