自動車整備士・整備工場経営の税務質問箱
せいび界2011年11月号掲載
Q.当社では、複数の関連会社を持っています。平成22年にグループ法人間の取引に係る税制ついて大きな変更があったと聞いていますが、どのような変更でしたか?当社に関係があるものがありますか?
A.改正の対象となるグループ法人とは、完全支配関係(100%保有関係)にある法人をいい、グループ法人税制の基本的な考えはグループ内の法人については実質的に一つの法人とみなして課税するというものです。
下記の点線で囲まれた、法人Aと法人B、法人C・D・E、法人Fと法人Gが、それぞれグループ法人に該当することになります(矢印はすべて100%保有を意味します)。
これ以外にも、100%子会社がさらに100%出資して法人を設立した場合や、一定の同族関係者が共同で出資して複数の法人を設立した場合などもグループ法人に該当することになりますが、複雑になるため今回は割愛しています。
今回の質問にある「関連会社」がどのパターンにあてはまるかは明確ではありませんが、中小企業の場合ですと、社長が複数法人の株主でもある兄弟会社(株主が個人)のパターンがもっとも多く見受けられると思われます。
平成22年度税制改正では、このグループ法人間の取引について、従来とは異なる取扱いをする、次のような改正がなされました。
1.グループ法人間の資産の譲渡損益の繰延
一つ目は、グループ法人間での一定の資産の譲渡に係る利益又は損失については無かったものとして税務上は取り扱わる、ということです。
例えば、親会社A社とその100%子会社であるB社があったとします。ここで、A社が保有する帳簿価額3,000万円、時価500万円の土地をB社に時価の500万円で譲渡した場合、これまでであれば、A社に2,500万円の譲渡損が計上されましたが、今回の改正でこの譲渡損は税務上無かったものとして取り扱われ、B社がグループ外の法人へ売却等するまで損失は繰り延べられます。
今回の改正で、グループ法人間での含み益又は含み損を有する資産の売買による利益調整や節税が制限されることとなります。例えばA社で今期利益が出ているので、利益対策として含み損のある土地をグループ内で売買しようと思っても、節税にはならないのです(決算書上は譲渡損が計上され利益が減少しますが、申告書上ではその金額を「加算」して税額を計算するため、結果的に節税になりません)。
ただし、グループ法人間の全ての資産の譲渡について譲渡損益の繰延が行われるわけではありません。対象となる資産は、土地・建物等の不動産や有価証券(売買目的のものを除きます。)・金銭債権等ですが、帳簿価額が1千万円未満のものは対象外となります。上記の例で、もしA社の土地の帳簿価額が900万円であった場合、時価の500万円でB社に売却すると従来通りA社には400万円の譲渡損が計上されることとなります。つまり、帳簿価格1千万円未満の資産であれば、含み益又は含み損をグループ法人間の売買で、従来通り顕在化させることが可能となります。
2.グループ法人間の寄附金について
グループ法人間で資金などの贈与があった場合、贈与した法人では寄附金として、もらった法人では受贈益として経理するわけですが、従来は受贈益が全額課税の対象となるのに対し、寄附金は一定の金額のみしか経費(損金)なりませんでした。いわゆる寄附金課税です。
今回の改正により、例えばグループ法人間で資金を贈与(寄附)した場合、払った側は損金になりませんが、もらった法人側でも受贈益を認識しないことになりました。もらった資金に法人税はかからないわけです。グループ法人間で資産をあげたりもらったりしても、何も課税が生じないことになります。(決算書上は払った側は寄附金に、もらった側は受贈益として計上されますが、申告書上はその金額を払った側は「加算」し、もらった側は「減算」して税額を計算するので、結果的に何もなかったのと同じことになります。)
ただし、この改正は個人が株主の兄弟会社間の寄附金については適用されません。したがって、前の図の法人F・G間では従来どおり受贈益が発生しますので、要注意です。
3.グループ法人税制の活用法
これまで見てきたように、グループ法人税制は、会社によってメリット・デメリットがある制度ですが、連結法人の制度と異なり、すべてのグループ法人に強制適用される制度であり、自社にはデメリットの方が大きいからといって採用しないという訳にはいきません。それならば、これを積極的に活用する方法を考えたいものです。
- 資産の譲渡損益の繰延
先程、含み益又は含み損を有する資産の売買による利益調整や節税が制限されることとなると書きましたが、これは本来時価で売買しなければならない資産について、グループ法人内では帳簿価格で売買したのと同じようにみなすからです。つまり、グループ法人内では時価ではなく、帳簿価格で売買しても税務的には問題ない、ということです。例えば、親会社が含み損を有する不良資産をかかえている場合で何かの都合(金融機関との関係など)でそれを処分したいが、さりとて処分して含み損を顕現させた場合大赤字になってしまうということがあるかもしれません。100%子会社に帳簿価格で譲渡することで、不良資産を子会社に集中させ、親会社の財政状態を健全化させるなどということが可能かもしれません。 - 寄付金について
この改正を利用することで、子会社の財政状況を会計上、税金の負担なく化粧直しをすることができるかもしれません。例えば、業績不振で債務超過になっている子会社に対して貸付金を免除し、子会社は会計上、債務免除益を利益計上する場合などです。子会社は債務超過の解消を図ることができるうえに、債務免除益について税務上は課税されないため税負担が発生しない。親会社は、債務免除した貸付金について税務上損金にはならず、税負担が軽くなるわけではないですが、子会社の対外的な信用を高めることができます。NBC税理士法人
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