裁判員制度

人事考課の適法性について

Q.弊社でも、公正な人事考課を行いたいと考えており、適法な基準づくりのヒントがあれば教えて欲しい。

A.大会社では人事考課が整備され、これに基づき評価が実施されていますが、中小企業でも何らかの形で「人事考課」を実施している会社があります。例えば、「5段階の評価を行う」「1年に1度、個人面談を実施し、昇給額を決める」「〇業務成績を基に面談を行い、昇給、昇格をする」などです。

しかし、大企業、中小企業問わず、多くの会社で「制度がうまく機能していない」「人事考課を導入したら、人間関係がギスギスした」「社員のモチベーションにつながらない」などの問題点を聞くことが多くあります。確かに、人事考課には人が人を評価する事の難しさや評価にあたっての基準の明確化、評価にあたっての情報収集の難しさなど、様々な問題があるのも事実です。さらに、「あの上司に評価されたくない」「うちの課長は『ひいき』ばかりして、人事考課が公平ではない」「人事考課のポイントが様々で、実は、適当に点数をつけている」などの話もあります。

評価する側の「考課者訓練」が大きな問題となっていることも事実ですが、課長等がした1次評価を修正するのが、経営層の大きな仕事でもあるのです。

特に、人事考課は給料と直結する部分でもありながら、上司などの感情が絡んでくることもよくありますので、これも大きな問題です。

さらに、感情ではなく、「法的な判断が影響」する場合もあります。これに関する裁判が以下となっています。

 

<マナック事件>

広島高裁 平成13年5月23日

該当する社員は主任で、監督職(4級)であったが、会社と会長を批判した発言をしたことが原因で会長から叱責を受けた。次の人事考課で「勤務成績が著しく悪いとき」に該当するとして一般職の3級に降格となり、次の夏季賞与は算定期間における考課上の評点がEマイナス(最低の評点)となった。その後の人事考課も、昇給、賞与とも業績考課上の評点が最低評価が続いた。

これに関して、降格処分の違法性、賞与差額の賠償などを争点とし、裁判を起こしました。

 

裁判所の判断

そして、第一審では「違法な考課」は認められたものの、これ以外は認められませんでしたが、第二審では、過去の言動に基づく効果や算定期間を外れての考課は不法行為であると認められました。

〇昇給は「これからの給料を決めるもの」とし、「1年間の考課実績で決める」と規定にも記載されている

→何年も前の言動を人事考課に影響させることは会社の不法行為

〇会社批判をして最低評価とされた点以外は、人事考課で最低評価とすべきでない(裁量権を逸脱)

〇賞与の考課は、賞与規定に定められた支給時期、算定期間、支給額の算定基準が明確にしてあり、これを外れて考課することは不法行為

この裁判について、さらに詳しく見ていきましょう。 社員が行った経営陣への批判は、

〇管理職としての能力に疑問があり、内容も頂けない

〇勤務時間中に同僚の面前でなされた点も、能力評価につき問題視されてもやむ得ない

と認めています。また、会長への批判、暴言も、人格的な批判にまで及んでおり、「管理職の能力判断で負の評価をされてもやむを得ない」としています。

しかし、給与に関しては侵害されているというのが第二審の判断なのです。この裁判からも言えますが、一般的に人事考課が「違法」とされる場合は次の3つのポイントが挙げられます。

〇不当な動機、目的がある

〇評価の前提となった事実に間違いがある

〇評価基準が著しくバランスを欠いている

今回の裁判も

〇経営陣等の批判ということで、会社側が「感情的」となる

→不当な動機、目的

〇考課期間を超えて低い評点とした

→評価の前提の事実の誤り

〇評価を「実際は最低評価とする事実がない」のに最低評価であった

→バランスを欠いている

などに該当するのです。人事考課は「会社側に大きな裁量権がある」とされているので、会社が自由に決められると解釈されるケースが多いです。

しかし、就業規則、人事考課規定などに詳細に定めて実施する必要があり、これを開示して示すことが重要です。

つまり、「明確なルール」が必要ということです。この「明確なルール」を逸脱してしまうと「違法」と判断されるので、ここは適正に運用していくことが大切なのです。

評価する側もされる側も人間だけに、感情がそこに入ってしまうことがありますが、それが行き過ぎれば、違法となってしまうのです。

内海正人 社会保険労務士  日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書 : “結果を出している”上司が密かにやっていること(KK ベストセラーズ2012) /管理職になる人がしっておくべきこと( 講談社+α文庫2012)
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