セクハラを放置すると大変なことに

Q.事務を担当している女性スタッフから、工場長からセクハラを受けて困っているという相談を受けた。まじめに業務をこなしている方なので、事実なのだろうと思ったが、工場長に直接問いただしては角が立つと思ったので、社長に報告した。しかし、傍から見ていても何か処分が下ったような様子もない。事態の収拾を図るよう、社長に促す策は何かないだろうか?

 

A.セクハラのご相談は多く寄せられていますが、個人的な問題やプライバシーの侵害など、細心の注意を払いながら、解決への道筋を考えなければならないので、時間がかかることがあります。しかし、「会社としての対応がよく分からない」、「事実の確認方法が分からない」といって放置してしまうことが見受けられますが、これは会社のリスクが増すばかりです。なぜなら、会社はセクハラに対する迅速、かつ、適切な対応をしないと、職場環境配慮義務を怠ったとして被害者に対して損害賠償責任を負うことがあるのです。これに関する裁判があります。

<厚生農協連合会事件>

津地裁 平成9年11月5日

女性看護師と女性准看護師が「いいケツしとるな」などと言われたり、すれ違いざまにおしりなどを撫でられるなど、上司で副主任の男性看護師から度々セクハラを受けていた。女性看護師は以前、深夜勤務で一緒になった時に体を触られたことなどもあり、その副主任の上司である主任に「男性看護師と深夜勤務をしたくない」旨を申し入れた。主任は「何とかする。注意する」と答えたが、その男性看護師に注意はせず、結局他の女性看護師が被害に遭ってしまった。女性看護師は主任に対して再度対処を求めたものの、「1日だけ待ってくれ」と言っただけであった。その日の深夜勤務中に女性看護師が大腿部を触られる被害を受けた。被害に遭った翌日、女性看護師は今度は師長に対して対応を求めた。師長は院長、事務長等に相談し、関係者の事情聴取を行い、女性看護師に報告を行った。その結果、男性看護師には制裁処分が行われ、副主任の役職が解かれ、シフトを組む際は被害に遭った女性看護師らと夜勤で一緒にならないような勤務表を作成した。しかし、これを不服として、女性看護師と女性准看護師は不法行為を理由として男性看護師に、また会社には職場環境配慮義務違反を理由に、それぞれ330万円の慰謝料等の請求を求めて裁判を起こした。

 

裁判所の判断

男性看護師の行為はセクハラに当たり、不法行為に該当する。また、被害の訴えに対し会社も注意をしなかったことから、裁判所は会社と男性看護師が職場環境配慮義務を怠ったとの判断を下しました。

〇以前から男性看護師がひわいな言動を行っていたのに、会社は何も注意をしなかった

〇女性看護師が主任に対し「男性看護師と深夜勤務をしたくない」旨を申し入れたが何の対策も行わなかった

→師長にも会社にも報告がない

→男性看護師に注意もしなかった

〇その後、夜間勤務でセクハラ行為が行われ、対応策を取ったものの、それ以前は監督義務者らは、何ら対策を取らずに見逃していた

〇男性看護師の行為を見逃していたことは、女性看護師等に対し、職場環境配慮義務を怠ったものと認められる

〇慰謝料は男性看護師、会社とも「各50万円」とする

このようにして、セクハラを行った者はもちろん、会社の対応が適切でない場合も不法行為が認定されてしまうのです。

ここで、この裁判で会社が怠ったとされる「職場環境配慮義務」について、詳しくみていきましょう。職場環境でセクハラ等が存在する場合とは

〇従業員の意に反する性的な言動や行為によって職場環境が不快である

〇セクハラ等があるので、従業員が業務をするのに悪影響がある

〇セクハラ等があるので、従業員が安心して働けない 等の状態であり、これらを取り除いて、快適な職場環境を提供するように配慮する

ことが義務とされているのです。

この裁判の場合、主任が女性看護師からセクハラ等のことを告げられても、何もしなかった点が大きく、結果、新たな行為が発生したということが職場環境配慮義務に違反した状態となったのです。

セクハラの苦情等が寄せられた場合、迅速に対応することが必要となり、第2、第3の被害が発生しないように努めることが重要です。そのため、会社の対応としては、

〇セクハラ防止の教育を実施する

〇セクハラ被害を訴える従業員に対し、相談窓口を設置する

〇実際に被害があった場合は、当事者双方から事情聴取を行う

〇対応の遅れから、さらなる被害が発生した場合、会社の責任は重大と評価される

→セクハラ防止の措置は速やかに実行されるべき

等が必要となってくるのです。

しかし、セクハラの判断はとても難しい場合があります。加害者がセクハラ行為を認めれば、事実の追及を行って、社内的な制裁等を実施すればよいのですが、加害者がセクハラ行為を否定した場合は大変です。

証拠となるような写真や録音データ、メール等の客観的証拠があれば、これらと供述の整合性を合わせることが重要です。

もし、客観的なものが存在しない場合は第三者の供述を集めることとなるのです。そして、それぞれの供述を集めて、整合性を検証し、「不自然な流れが無いか」を確認して、会社が判断を下すという流れになるのです。

例えば、社内恋愛で2人の中が壊れ、嫌がらせとして「セクハラ行為があった」という裁判があったのですが、愛称で呼びあうメールがあり、「性的関係は同意の上」となったケースもあります(東京地裁 平成18年11月28日)。

このように、セクハラについての取り扱いはとても難しい部分もありますが、被害者からの申告があった場合は日時、場所、第三者などの存在の確認を必ず行うことが必須ですし、加害者についても同様です。

主観的な判断や先入観で物事を進めると、大きな失敗となることもあり、客観的な事実を抑え、早急な対応を実行することが重要なのです。

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