Q.いつも同じようなミスをする社員がいるが、何回も何回も注意しても一向にミスが減らない。1つ1つの内容は、懲戒解雇に該当するレベルではないが、これでは何1つ任せられる仕事はない。この状況でも解雇は厳しいのだろうか?
- 「何度も同じことを注意される社員」というのは多くの会社で存在し、このような社員の取り扱いに頭を悩ませていらっしゃる社長さんは多く、似たようなご相談も数多く頂きました。いくら注意や指導をしても改善されないので放置していたのですが、堪忍袋の緒が切れて解雇を言い渡したら、逆に、不当解雇で訴えられた、という話も聞いたことがあります。こういう場合は繰り返しの指導、教育が必要で、こういう機会を増やすしかありません。しかし、それでも改善されない場合の対応はどうなるのでしょうか? これに関する裁判を紹介します。
<ゴールドマン・サックス・ジャパンリミテッド事件>
東京地裁 平成10年12月25日
〇社員(人事部員)のミスやトラブルがとても多かった
○秘密情報のファイルを人目に付くところに置いてあることが多かった
○社員の昇給額を記載した資料を一般書類として送付した
○ファイル保管が不適切で、書類等が見つからないことがよくあった
○取り決めについて違反することが多かった
○業務の質問に対し、間違った回答を行っていた
○回答の遅延も多々見られた
○入力ミスも多かった
○遅刻も多数あった
○対人トラブルも多かった
○上司に対して反抗的な態度をとることも多かった
会社は改善のために2ヵ月間の観察期間を設けたものの、観察期間を設けても改善されませんでした。そのため、任意の退職を促したところ、任意の退職に合意しませんでした。仕方なく解雇を実施したところ、社員は「解雇は不当」として会社を訴えました。
裁判所の判断
個々には解雇に値する重大な事案ではないが、ミスや問題が多岐に渡ること。問題を起こした期間(約1年間)が短い割に数が多いこと。それに対し、会社側は指導、注意も多いこと。また、書面による警告にも関わらず、状況を改善しようとせず、さらに、上司に大声で抗議するなど、状況を悪化させている。会社はきちんと観察期間を設け、解雇の前に退職を促している。ここまで実施しているので解雇はやむなしとの判断で、会社側の勝訴となりました。
ポイントとなるのは次のことです。
〇書面による警告
→書面のため、客観的なものとなっており、裁判等では証拠としての力が強い
〇観察期間を設けて、改善の機会を与えている
→適正な期間を与え、社員の様子をみていた
〇解雇の前に退職を促している
→退職を「お願い」しているが聞き入れられなかった
〇解雇と判断するまで、プロセスを踏んでいる
このようにきちんとしたプロセスを踏むことで、1つ1つは解雇の理由に該当しなくても、「積み上げる」ことによって解雇が有効となることがあるのです。
ちなみに、この社員はミスやトラブルが多発する前の人事評価は5段階中3.5という評価で、どちらかというと中の上という評価だったのです。
しかし、勤務態度の悪化、度重なるトラブルやミスで「解雇もやむなし」と裁判所も判断しているのです。
ミスを繰り返す場合、まずは、注意、指導を口頭で行うのでしょうが、それでも改善されない社員に対しては、警告等を会社の正式文書として発行することが重要です。
これができているかいないかにより、裁判などでの判断が大きく変わることがあります。警告書等を正式文書として発行することはとても大切なことなのです。
ある社長は「口酸っぱく注意、指導しているのに、改善されない・・・・・・。何百回も注意しているのに、これではダメですか?」と質問されましたが、これでは「言った、言わない」のレベルです。あくまでも、「客観的に残る書類」が重要なのです。
また、繰り返しになりますが、退職を促したり、解雇の判断をする前に改善の機会のための再教育や観察期間の実施が必須となります。
ここも重要なので、落とさないで下さい。このように、1つ1つの事案が細かいものでも積み上げることにより、大きな決断を下さざるを得ないということは裁判でも認められています。
しかし、そのためには「客観的に明確な書類等の準備」が必要なのです。結果として、指導、注意をしても改善されない場合は文書を発行し、その事実を記録するとともに、再教育等の実施を行うことをお奨めします。
そして、「ここまでやっても改善されなかった」となったら、その段階で「会社を去っていただく」意思決定を行うのです。それも、いきなり解雇ではなく、退職を促してみて、駄目なら「解雇を検討する」といったプロセスが重要なのです。
「何度も同じことを注意される社員」は多くの会社に存在しますので、そういう場合はステップを踏んで対応しましょう。