Q.当社は最近、インターネット上に根も葉もない悪質な噂を立てられ、迷惑している。職場や上司に対する不満など、話の内容から社員を特定できたのだが、どのような処分をしたらよいだろうか?
A.SNSで個人でも簡単に情報や意見を発信できる時代となりました。それは時に、暴走する感情で情報を発信した結果、大きな経済損失につながってしまうこともあります。確かに、インターネットの上でも表現の自由はありますが、記事の内容が事実と反する、または、機密情報を漏らすなどの内容であれば、懲戒処分の対象となるのです。これに関する裁判を紹介します。
<日本経済新聞社事件>
東京高裁 平成14年9月24日
新聞記者が自分のホームページに、会社に対する批判、社外秘の情報を掲載し、取材先の実名や役職名などを公表してしまいました。会社はホームページの閉鎖を依頼するも、この社員が拒否したため、就業規則の懲戒処分に該当するとして、14日間の出勤停止を命じました。しかし、この社員は処分に納得がいかず、裁判を起こしました。
裁判所の判断
ホームページは私的なものだが、不特定多数の者が見ることができ、記者として知った情報の掲載は職務と無関係とは言えない。また、本件は職務上の機密漏えいにあたり、命令不服従であると言える。以上のことから、懲戒処分は有効とし、会社の勝訴となりました。
この裁判のポイントは、「会社の信用失墜につながる記事」であった点と秘密情報の漏えいなどで「企業秩序を乱している」ということで、14日出勤停止という懲戒処分は有効とされたのです。
さらに、会社の信用失墜を理由として損害賠償を請求することもあり得ます。これに関する裁判を紹介します。
<甲社(2ちゃんねる書き込み)事件>
東京地裁 平成14年9月2日
会社を解雇された社員が2ちゃんねるに、この会社の名誉を毀損する内容のスレッドを立ち上げた。そこには事実に反する内容や批判、さらに会社の役員個人の名誉を毀損する内容が書き込まれた。これが会社の知ることとなり、会社と会社役員の信用と名誉を毀損したとして、会社と役員から損害賠償を請求された。
裁判所の判断
インターネット上の情報が伝播する力はとても大きく、文書などに比べて名誉、信用をより大きく損なう危険があるとして、元社員に対し会社には100万円、社長、専務にはそれぞれ30万円の損害賠償をするように命じた。
この裁判は、会社から解雇された社員が腹いせに2ちゃんねるに「不当解雇」というスレッドを立て、「愚痴をこぼすような気持ちで立ち上げた」と主張したのです。
しかし、裁判所は「虚偽の書き込みによって、会社が失った信用、名誉は大きい」と判断して損害賠償の支払いを命じたのです。
このように、インターネット上に会社に関する間違った情報等が掲載された場合は対策を講じないといけません。
社内的な対応としては、「業務命令」としてホームページの閉鎖、掲示板等の記事の削除を命じることを検討しましょう。
また、部分的に間違った内容等の場合は全面閉鎖ではなく、該当箇所の削除を命ずるといった対策が必要となります。
これは、表現の自由の保障とのバランスを取るためです。そして、会社への影響と損害等を考えて懲戒処分を検討するのです。
さらに、甲社(2ちゃんねる書き込み)事件のような、損害がとても大きい場合などは、損害賠償の請求も検討すべきでしょう。
しかし、この場合は発信者が特定できた場合だけです。では、匿名の書き込みがあった場合は指をくわえているだけでしょうか?そんなことはありません!
会社や社員を誹謗中傷する内容を発見したら、掲示板の運営者に対して書き込みを削除するように請求することができます。
この場合、削除請求箇所を具体的に特定し、書き込みが「会社や社員の権利を侵害している」ことを具体的に示すのです。
これは「プロバイダ責任法」という法律に基づいたアクションで、発信者情報(IPアドレス、タイムスタンプ)の開示を求めることもできるのです。
インターネットは便利なツールである反面、情報の質という意味では疑問の部分も大きいものです。
しかし、それをそのまま受け取ってしまい、会社の信用が失墜するケースも多いため、会社としてはこれに立ち向かう姿勢が必要となります。
そのためには、プロバイダに対する削除依頼、発信者情報の開示も含め、様々な方法を検討することが必要なのです。
なお、ヤフーでは「投稿系サービスの投稿の仕方について」と題し、下記記事を掲載しておりますので、参考情報として、ご覧下さい。
http://publicpolicy.yahoo.co.jp/2014/10/2709.html
内海正人 社会保険労務士
日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書 : “結果を出している”上司が密かにやっていること(KK ベストセラーズ2012) /管理職になる人がしっておくべきこと( 講談社+α文庫2012)
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