Q.この人手不足の社会情勢の中、ありがたいことに応募があり、近々面接を行うことになった。これは聞いた方がいいこと、逆にこれを聞いてはマズいことは何かあるだろうか?
- 採用面接は会社の今後の人材を獲得するための重要な位置づけとなり、入社する人によって、組織や会社の風土が作られます。
「いい人材」を見極めるための情報収集はとても大事ですが、「社員の体調や健康につき、どこまで質問してよいか?」と、ご質問を頂くことも多いです。
そんな時は「健康診断の実施」や「健康診断の結果」を基に、体や心に対する質問をすることがベターですが、「どこまで検査すればよいか?」というご質問が多いのも事実です。これに関する裁判があります。
<国民金融公庫事件>
東京地裁 平成15年6月20日
国民金融公庫は、新卒者向けに採用試験を実施していた。応募者が4次面接まで進んだので、健康診断を実施した結果、肝臓の数値が高かったので、再検査を実施。その際に血液検査を行い、応募者に伝えずにB型肝炎の検査も実施してしまった。この応募者はB型肝炎ウイルスに感染していたので、国民金融公庫は「業務は困難」と判断し、採用することができない旨を伝えた。
このような行為に納得できない応募者は損害賠償として、不採用について1,000万円、健康診断の不法行為につき500万円を求めて裁判に訴えた。
東京地裁の判断
B型肝炎の健康診断については調査の必要性があることが必要で、応募者に調査の目的や必要性を事前に告知し、同意を得ることが必要であった。本件はこれらの要件を満たしていない。しかし、損害賠償については会社と応募者が「採用内定」の関係となっていないため、健康診断についての損害賠償(150万円)のみを認め、会社側が敗訴となった。
採用に関しては「会社が自由に決めることができる」ことが原則となっています。これは「三菱樹脂事件 最高裁 昭和48年12月12日」の判例から、原則として会社は採用に関し、「労働者の思想を調査すること」「労働者の信条を調査すること」「これらに関することについて申告を求めること」などを自由に決めることができることが明らかになっています。
しかし、応募者のプライバシーとの関係で、今回の裁判で明らかになったことは、「調査の方法」、「調査事項」の両方について、制約を受けるということが明らかになりました。特殊な健康診断等は「本人の同意が無ければ、実施できない」となるのです。このようなことを起こさないための対策を紹介いたします。
〇必要性のない調査を行わない
→健康等の診断では、必要性のないところまでの調査は実施しない
→プライバシーの侵害となるような調査は実施しない
〇健康診断等で特殊なものと考えられる診断を実施するには、本人の同意をとる
→なぜその調査、診断等が必要なのか?を本人に説明する
→これに関して同意を取る
→調査、診断等を実施する
以上のことを守って、採用面接等を実施してください。
また、最近よく問題となるのが「メンタルヘルスの問題」です。うつ病等のメンタルヘルスの問題で、「入社させたら、実はうつ病でした」
という状況ですが、「本人からの申告はなかったのですが、これで解雇できますか?」というご質問も多いです。
入社後に過去の病歴が詳細に分かることは多いですし、特に、精神疾患等の再発する確率が高い病気は採用面接等で事前に把握することが重要となります。
しかし、
〇面接時に病気等の健康状態を聞き忘れた
〇健康診断書の取得が後手に回った
などの状況もあります。
このような事にならないためにも、採用面接時に事前に質問項目を記載したヒアリングシートを作成しておくことをお奨めします。
さらに、もう一歩突っ込んだ形では、応募者から「健康告知書」を提出してもらうことをお奨めします。内容は下記となります。
〇会社に対して、現在の健康状態を告知する
→過去の傷病歴を含む
→告知内容により、会社が医師の診断書の提出を求めるときはこれに応じる
→事実と異なる記載を行った場合には、採用を取り消されたり、または、解雇されることに合意する
〇今日までの既往歴
〇過去5年間の通院の状況
〇前職での病気等による欠勤状況
〇過去、うつ病等の精神な病気にかかったことの有無
採用面接等での健康に関する情報がしっかりとしていれば、後々になって大きな問題となるリスクがかなり抑えられるのです。
特に、うつ病等の精神疾患で会社も本人も苦しんでいるケースを数多く見てきましたが、「最初の対応のまずさ」が今後の問題を大きくしています。
まずは、採用面接をきっちり実施することで、リスクを抑えることが大切なのです。
内海正人 社会保険労務士
主な著書 : “結果を出している”上司が密かにやっていること(KK ベストセラーズ2012) /管理職になる人がしっておくべきこと( 講談社+α文庫2012)
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