自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室
せいび界2015年5月号Web記事
Q、朝礼に参加しない社員への対応は?
私の会社では就業前に朝礼を行い、その日の業務内容に関する連絡を行っているが、ある社員はいつもこの朝礼に参加ぜず、注意をしても直そうとしない。さらに、この社員は職場の飲み会などにも全く参加しないだが、強制的に参加させる方法はないのだろうか?
A、
飲み会などは社内の親睦を深め、結束を図るのに有効な手段ですが、「業務命令か否か」ということが「仕事か仕事でないか」となります。つまり、業務でなければ強制はできないのです。
では、強制参加の業務命令を発すれば、どんな社員も参加せざるを得ないとなりますが、飲み会が業務とも考えにくいです。
そこで、業務命令についてみてみましょう。業務命令の定義は、次のようになっています。
○業務の遂行について会社(上司)から発せられる指示、命令
○就業規則等の合理的な理由に基づく命令社員はこれに従う義務があります。
これを基に考えると、飲み会が業務とは考えられず、業務命令と言っても参加を強制することはできません。
しかし、朝礼となると話が変わってきて、これに関する裁判もあります。
<東京急行電鉄事件 東京地裁 平成14年2 月28日>
〇就業前の朝礼に参加しない鉄道員がいた
○朝礼では業務に関する指示等が出されていた
○上司は業務指示が出るので参加するようにと再三にわたり注意した
○この鉄道員は「朝礼は業務時間ではない」と参加しなかった
○会社は「勤務態度が悪い」とし昇格が見送られた
○社員はこれを不服とし、また、朝礼の時間は労働時間
と主張し、未払い賃金と不昇格の損害賠償を要求する裁判を起こした
そして、裁判所は以下の判断をしたのです。
○朝礼は業務時間である
〇就業前でも業務時間なので、これに対応する賃金は支払うこと
○不昇格については違法性がなく、損害賠償は認められない
この裁判では、朝礼としての位置づけをはっきりさせています。それは、
○当日の勤務内容
○心身の異常の有無の確認
○勤務に就く心構えを整える(整えさせる)
といったことで、この内容であれば、立派に業務時間と言えるでしょう。
ちなみに、この裁判では「1 回の朝礼時間を80 秒」として、未払い賃金を支払いなさいとの結論でした。ですから、朝礼の時間を最初から労働時間と位置づけた方がトラブルの防止になるのです。そして、下記のいずれかとするのです。
○朝礼の時間に対し、賃金を支払う
○本来の就業時刻の始めに朝礼を行う
もちろん、これは労働時間の問題であって、業務命令である以上は参加しない社員は当然、業務命令違反となるのです。
冒頭のご相談の件ですが、社長は朝礼を「就業時刻の前」とお話しされていますので、おそらく、この時間に対しての賃金は考えてはいないでしょう。
しかし、朝礼の内容をみてみると業務指示が朝礼時に発せられているのでこの時間は当然に業務時間と言えるでしょう。
もし、朝礼の時間がきちんと賃金の対象となることが理解できていれば、この社員も素直に従ったのかもしれません。
また、多くの社長は「我々の若い頃は違った」とお話しされますが、時代も考え方も変わってきているのです。
ここは「朝礼は業務の一環」と位置づけし、トラブルを防止しましょう。
仮に、これでも朝礼に参加しない場合は「業務命令違反」として、懲罰の対象とするのです。参考として以下に条文を掲げます。
————————————————–
第〇条
会社は、社員が次の各項に該当する行為をした場合には懲戒に処する。
○正当な理由なく会社の指示、命令又は諸規則に従わない時。
————————————————–
それから、飲み会についてですが、会社の行事として就業時間内に催されるものであれば、立派な業務です。
これに不参加ということであれば、欠勤扱いとなるのです。
また、就業時間を数時間早く繰り上げて始める飲み会等もこれに該当するので、同様の扱いで構わないでしょう。ただし、単なる上司部下の飲み会や有志の集いでは、業務とは言えませんので、強制参加はさせられません。
ご注意ください。
ライター紹介
内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)