Q、不倫?セクハラ?
あってはならないことだが、工場長(既婚・男性)がフロントの女子社員と工場長曰く不倫関係になった。女子社員は関係のもつれが原因で退職してしまったが、この件をセクハラであるとして、会社を訴えてきた。どう対応したらよいだろうか?
社内とはいえ、不倫は個人的なことなので対応が難しいのですが、「企業秩序の観点から懲戒処分を科すこと」は問題ありません。ただし、今回のように上司(既婚)が若い女性の部下に「恋愛」のつもりでアプローチしたら、その後に「セクハラ」と訴えられたこと
も実際にあります。こうなってしまうと個人的な問題ではなく、会社の問題となるのです。上下関係のある性的関係は「セクハラ」と認定されやすいことが以下の判決で分かります。では、実際の判決を見ていきましょう。
<X 社事件 東京地裁 平成24 年6 月13 日>
○男性上司(既婚)が女性部下を食事やドライブに誘っていた
→女性は誘いに応じた
○その後、性的関係ができ、その関係は8 カ月続いた
→女性は拒否すると仕事に影響が出ると考え、しばらくは拒否できなかった
○その後、女性は会社に「セクハラ被害」として、男性上司のことを申告し、心身の不調で休職となった
○会社は女性の申告に対し、「2 人は不倫関係で、セクハラではない」と判断した
○女性は休職期間満了で退職となったが、セクハラ被害について男性上司と会社を相手にして、裁判を起こした
→男性上司と会社に損害賠償金2,400 万円を請求
→会社のみに対し、「セクハラ」と申告した後の対応が悪いことを理由に330万円を請求
そして、裁判所の判断は以下のようになりました。
○男性上司は「合意の上」と主張したが、上司という立場を利用したセクハラと断定
○会社と男性上司に連帯して220 万円の損害賠償を命じた
なお、裁判所は上司と部下の関係の優劣に注目して、以下のコメントを示しています。
被害者(部下)は職場の上司である加害者を怒らせないように、自分を守ろうと無意識の防衛本能が働き、上司に逆らうことができず、逆らうことができないことが従っていることでもないので、一見して性行為の強要があることが分かりにくいのです(一部要約)。
つまり、部下は上司に拒否できない場合があるということを裁判所が代弁しているのです。以上のことから、上下関係のある性的関係は「セクハラ」と認定されやすいのです。
仮に、恋愛と信じて付き合っていた上司がいた場合、その後、関係が悪化しても恋愛関係が解消されただけならいいでしょう。しかし、その後に「あれはセクハラであった」と主張されれば、セクハラになる可能性が高くなってしまうのです。
このような場合、会社も連帯して責任を負うことになります。上記裁判でも上司と会社に対し、連帯して申し立てが行われています。さらに、部下が会社にセクハラを訴えて事後処理が悪いと、その件についても請求ができるのです(上記裁判では認められず)。
これに関する裁判<セクハラ航空自衛隊事件 札幌地裁 平成22年7月29日>では、セクハラの報告に対し、事後の対応が悪かったため、300万円の慰謝料が認められたのです。このように、社内不倫はセクハラに発展する可能性があるので、会社としても見て見ぬふりはできません。
社内不倫は個人的なことでは済まない場合もあるのです。ですから、「セクハラ」と申告があれば、会社は適切な対応を取らないといけません。具体的には、以下があります。
○事実関係の調査
○被害者の心身回復に対する配慮
○被害者と加害者を引き離すなどの労働環境に対する配慮(例:異動)
○懲戒処分等の検討
ただし、一番大事なことはセクハラを防止する会社の姿勢で、以下が大切なのです。
○就業規則へ「セクハラ防止の条文を記載」
○日頃からセクハラ防止教育を行う
たかが不倫、されど不倫。これがトラブルになった際の代償は非常に大きなものになる
のです。社内で分かっていてもなかなか言いにくい場合もあるかと思いますが、言うべき
ことは言う態度が会社を守ることになるのです。
ライター紹介
内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)
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