自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室
せいび界2013年8月号Web記事
Q、準備の時間は労働時間に入る?
弊社の始業は9 時からとなっているが、朝礼などがあるので8 時半までに出社するのが通例だ。しかし、ある女性社員から「女性の場合、制服に着替えるので、ただでさえ男性よりも早く出社しなければなりません。この時間も労働時間に含めて欲しい」と言われた。朝礼など準備の時間も労働時間に含めなければならないのだろうか?
A、
労働時間は「従業員に仕事をしてもらう」時間のことです。一口に労働時間といっても法的には、①法定労働時間、②所定労働時間の2 つに分かれます。
① 法定労働時間-1週間の中で労働できる時間(週40時間※)、1日の中で労働できる時間(1 日8 時間※) ※一定の要件を満たせば、この時間を超えることもできる
② 所定労働時間-会社が就業規則で定めたり、労働契約書に記載する時間、始業から終業までの時間(除く休憩時間)
このようになっています。ですから、①の範囲内で会社が②を定めるのです。
ご質問の「事務服への着替え」は労働時間に当たりません。なぜならば、事務服への着替えは「業務への準備」に過ぎず、作業服と比べると業務への必要性が薄くなるからです。その、「作業服への着替え」は若干扱いが異なります。これに関して参考となる判例がある
のでご紹介いたします。
<三菱重工長崎造船所事件 最高裁 平成12 年3 月>
○ 始業に間に合うよう、更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に作業場で実
作業を開始することと就業規則に定めた
○ 会社は「この時間以外は労働時間ではない」と主張
○ 労働者は「下記の時間も労働時間だ」と残業代を求めた
1. 入退場門から更衣室までの移動時間
2. 作業服への更衣、安全保護具等の装着と作業場までの移動時間
3. 始業時刻前の資材の準備、散水の時間
4. 昼食時に作業場から食堂まで移動し、作業服等を脱ぐ時間
5. 昼食後、作業場に移動し、作業服等を再着用する時間
6. 終業時刻後に更衣室まで移動し、作業服を脱ぐ時間
7. 手洗い、洗面、洗身、入浴等の時間
8. 更衣室から入退場門まで移動する時間
そして、最高裁の判断は下記の判断となりました。
○ 2、3、6 については労働時間
○ 1、7、8 は労働時間ではない
○ 4、5 も休憩時間内で行うことなので労働時間ではない
つまり、一部は会社が勝訴、一部は労働者が勝訴となったのです。この判決理由では、労働基準法の労働時間とは、○労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間、○準備行為を義務付けられた場合は、指揮命令下に置かれたとなる、と判断しました。
つまり、○2、3、6は指揮命令下にある、○1、7、8は指揮命令下にない、○4、5は休憩時間なので、指揮命令下云々ではない、ということです。
この判例でポイントになるのが「指揮命令下にあるか否か」です。今回の場合、作業服や安全保護具等の着用は「絶対的な義務」です。ですから、作業服等の着用が災害防止、作業能率の向上などのために、義務である場合は労働時間に当たるということです。
しかし、ご質問の「事務服への着替え」は労働時間に当たりません。なぜならば、事務服への着替えは「業務への準備」に過ぎず、作業服と比べると業務への必要性が薄くなります。ですから、「事務服への着替え」は労働時間ではないのです。
このように、「事務服」と「作業服」では法的な取り扱いが違うのです。似たような話しだけに、誤解されている方も多いので、ご注意ください。同じように、似て非なるものをいくつか採り上げましょう。
1. 始業前の朝礼
○ 参加が強制、不参加の場合ペナルティあり → 労働時間となる
○ 参加が自由、不参加の場合ペナルティなし → 労働時間とならない
2. 休憩時間に電話に出てもらう場合
○ 電話当番を決めている場合 → 労働時間となる
○ 自主的に電話を取っている場合 → 労働時間とならない
3. 資料等を家に持ち帰って作業する場合
○ 上司が部下の持ち帰りを承認または黙認 → 労働時間となる
○ 部下が自分の判断で持ち帰る場合 → 労働時間とならない
細かいことですが、このような判断基準があるのです。
もちろん、法的な基準を一律で当てはめることは実態、感情にそぐわないこともあるでしょう。ただし、法的な基準を就業規則等で明確にしておくことは重要です。その上で、現場でどう運用するのか? となるのです。
最終的なポイントは納得感があるかどうかで、ここがトラブルに発展するかどうかの分岐点です。法律、就業規則などのルール、現場での柔軟な運用の両輪が回ってこそ、現場がスムーズに流れていくのです。
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