Q、社員が精神的な病気かもしれない
ある社員が、日によってはとても饒舌だったり、またある日は無口でほとんどしゃべらなかったりと、精神的な病気の疑いがある。本人に自覚はないようなので非常にやっかいなのだが、この場合、医師の受診を命令することはできるだろうか?
A、
このご質問は日本全国的にも多い問題であり、地域を問わず多くの会社が悩んでいます。病気やケガであれば、その症状が現れるため、周りも気づくことができますし、本人にも自覚症状があり、認識しやすいものです。しかし、精神疾患ですと、「症状が出たり、出
なかったりという波がある」「明確には周りも認識しにくい」「本人にさえ自覚がない」ということもあります。もちろん、病気という点では身体的であれ、精神的であれ同じです。しかし、精神的な病気の場合、周りにかかるストレスの意味が違ってきます。実際、現場
レベルのお問い合わせでは、「辞めさせたい」というご相談が多いことも事実です。
しかし、この考え方は間違っています。精神疾患も病気ということには変わりがないので、病気の回復と職場復帰を考えることが重要なのです。まずは業務命令として、医師の診断を受けることを検討しましょう。
ちなみに、精神疾患ではありませんが、参考となる判例があります。
<電電公社帯広局事件 最高裁 昭和61年3月>
○ 健康診断で社員が頸肩腕(けいけんわん)症候群という病気だと診断
○ 就業規則には「社員は健康回復に努める義務がある」と記載
○ 会社は精密検査を受診するよう、二度の業務命令を発した
○ 社員はこれを拒否
○ 会社は受診拒否を理由に就業規則の懲戒処分を実施
○ 社員は処分の取り消しを裁判で訴えた
SEIBIKOHOSYA
内海正人の労務相談室
CMM vol.565 MAY 2013
Car Maintenance Management
社員が精神的な病気かもしれない
ある社員が、日によってはとても饒舌だったり、またある日は無口でほとんどしゃべら
なかったりと、精神的な病気の疑いがある。本人に自覚はないようなので非常にやっかい
なのだが、この場合、医師の受診を命令することはできるだろうか?
労 務
このご質問は日本全国的にも多い問題であり、地域を問わず多くの会社が悩んでいま
す。病気やケガであれば、その症状が現れるため、周りも気づくことができますし、本人に
も自覚症状があり、認識しやすいものです。しかし、精神疾患ですと、「症状が出たり、出
なかったりという波がある」「明確には周りも認識しにくい」「本人にさえ自覚がない」と
いうこともあります。もちろん、病気という点では身体的であれ、精神的であれ同じです。
しかし、精神的な病気の場合、周りにかかるストレスの意味が違ってきます。実際、現場
レベルのお問い合わせでは、「辞めさせたい」というご相談が多いことも事実です。
しかし、この考え方は間違っています。精神疾患も病気ということには変わりがないの
で、病気の回復と職場復帰を考えることが重要なのです。まずは業務命令として、医師の
診断を受けることを検討しましょう。
ちなみに、精神疾患ではありませんが、参考となる判例があります。
<電電公社帯広局事件 最高裁 昭和61年3月>
○ 健康診断で社員が頸肩腕(けいけんわん)症候群という病気だと診断
○ 就業規則には「社員は健康回復に努める義務がある」と記載
○ 会社は精密検査を受診するよう、二度の業務命令を発した
○ 社員はこれを拒否
○ 会社は受診拒否を理由に就業規則の懲戒処分を実施
○ 社員は処分の取り消しを裁判で訴えた
この事件は最高裁までもつれました。結果、最高裁の判断は、「社員は業務命令に従う義務がある」「会社には社員の健康などに配慮する義務がある」「受信拒否は懲戒処分に該当する」とし、会社側が勝ったのです。
この判例のポイントは、就業規則に「健康回復に努める義務」が定められていたことです。この条文があったことにより、精密検査の受診命令が有効になり、会社が勝訴したのです。具体的には下記のような条文となります。ちなみに、下記はこの電電公社が使っていたものです。
第○条 職員は常に健康の保持増進に努める義務があると共に、健康管理上必要な事項に関する健康管理従事者の指示を誠実に遵守する義務があるばかりか、要管理者は健康回復に努める義務があり、その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務がある
このように就業規則に明記されていたので、懲戒処分が有効とされたのです。
上記の判例から下記のことが分かります。「会社は社員の健康に配慮する義務あり」「社員は会社からの健康回復のための業務命令に従う必要あり→例:精密検査を受けなさいという命令」
しかし、就業規則にこの記載がない場合、業務命令として受診を命じることが有効かどうかは微妙です。ですから、就業規則の整備が必要なのです。そして、医師への受診によって精神疾患と認定されたら、「症状の確認」「業務への影響」を検討しましょう。
次に会社としての方針を決めることが大切です。仮に業務ができない状況であっても、いきなり解雇はできません。病気を理由とした突然の解雇は、それが身体的、精神的に関わらず「解雇権の濫用」に該当します。ですから、この場合は休職を命じて復職を待つのがセオリーです。
しかし、本人が受診を拒否し、「病気ではない」と言い張るならば、「本人の具体的な勤務状況」「本人の言動、行動」をチェックし、日時と共に記録に残しましょう。そして、受診拒否が懲戒処分の事由に該当するかどうかを検討することになります。
例えば、全く仕事にならないのであれば、解雇の対象になる可能性もあります。このような場合は、「解雇を視野に入れた処分を考えている」と本人に伝え、医師への受診を促しましょう。ただし、目的はあくまでも、「医師への受診を促すこと」「精神疾患かどうかを明確にすること」で解雇を前提としてはいないのです。
そして、精神疾患が明らかになれば、休職を命じることができるのです。さらに、この休職期間が満了し、職場復帰ができないならば、「就業規則により休職期間満了」で退職ということになるのです。
就業規則には休職期間に関する条文も必要です。これがないと、延々と待ち続けなければならないケースもあるので、ご注意ください。当然、その間の社会保険料の会社負担が必要になります。
精神疾患の問題は結論を急ぐと大きなトラブルに発展する可能性もあります。ですから、就業規則をきちんと整備して、粛々と対応することが大切なのです。
ただし、現場レベルの話として、「就業規則に書かれていても、無理やり医者に行かせられない」との意見もあります。特に、精神疾患かもしれない場合は微妙な問題となります。結果として就業規則の条文はさておき、「上司が本人と面談し、受診を促す」「家族に相談し、受診を勧める」という運用になることが多いのも事実です。
しかし、どういう状況に転ぶかは誰にも分かりません。だからこそ、最低限でも就業規則の整備はしておき、何があっても対応できるようにしておくべきなのです。
ライター紹介
内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)
- 1
- 2