- 1 Q、社員同士がケンカをしたら?
- 1.1 A、
- 1.1.1 < 昭和44 年11 月18 日 最高裁 >水道管施設工事の現場で、のこぎりの受け渡しをめぐり、トラブルに
- 1.1.2 < 昭和56 年8 月31 日 東京高裁 >調理場で食器洗いをしていて、水しぶきがかかり、ケンカとなった
- 1.1.3 < 昭和58 年1 月28 日 大阪地裁 >工事現場で作業手順についてトラブルになり、同僚を負傷させた
- 1.1.4 < アジア航測事件 平成14年8月29日 大阪高裁 >○ 女性社員から命令口調で指示を受けた男性社員が口論後、殴打した○ その後、女性社員は長期欠勤○ 会社は長期欠勤を理由に女性社員を解雇○ 女性社員はこの処分を不服とし、男性社員と会社に損害賠償を請求
- 1.1 A、
Q、社員同士がケンカをしたら?
中小企業ほど、社員の結束力が重要だと思う。しかし、それに反するかのように、社員同士がトラブルを起こし、殴り合いのケンカにまで発展してケガをしてしまった。どう対応したらいいか?
A、
このようなご相談は時々あります。ケンカではなくても、「物を投げたら当たってしまい、ケガをした」「つい力が入り過ぎ、相手が転んでしまった」ということもあります。では、いずれの場合も、会社の責任はどうなるのでしょうか?
単なるケンカで、本人たちの問題であれば、会社は関係ありません。しかし、負傷の原因が仕事にあった場合、労災になることもあります。まずはそこの見極めが必要です。
例えば、上司が注意をしたのに、部下に殴られた場合、労災が認められること「も」あります。その判断基準は、以下のような総合判断となります。
○ ケンカの理由
○ 経緯
○ その時に双方が関係した仕事の内容
○ 暴行の時間、場所
しかし、一見は仕事に関係しているようでも、その背景に個人的な恨みがあれば、労災と認められません。また、どちらかに挑発行為があった場合も、自ら危険を招いたとして認められません。
さらに、取っ組み合いなどになり、必要以上の行為があった場合も労災とは認められません。このように労災の判断基準はその時々で異なります。しかし、もっと面倒なことがあります。それは社員同士のトラブルが原因となり、会社が損害賠償を追及される場合です。もちろん、暴行行為そのものは仕事の範囲には入りません。しかし、その暴行が、「業務命令が原因の場合」「密接に業務と関わっている場合」は、会社の命令によって暴行が発生したとなる場合もあるのです。
この場合は、損害賠償の責任が発生するのです。ちなみに、会社の責任を認めた具体的な判例には次のようなものがあります。
< 昭和44 年11 月18 日 最高裁 >
水道管施設工事の現場で、のこぎりの受け渡しをめぐり、トラブルに
< 昭和56 年8 月31 日 東京高裁 >
調理場で食器洗いをしていて、水しぶきがかかり、ケンカとなった
< 昭和58 年1 月28 日 大阪地裁 >
工事現場で作業手順についてトラブルになり、同僚を負傷させた
また、最近の判例では次のものがあります。
< アジア航測事件 平成14年8月29日 大阪高裁 >
○ 女性社員から命令口調で指示を受けた男性社員が口論後、殴打した
○ その後、女性社員は長期欠勤
○ 会社は長期欠勤を理由に女性社員を解雇
○ 女性社員はこの処分を不服とし、男性社員と会社に損害賠償を請求
そして、裁判所は、以下のような判決を出したのです。
○ 解雇は無効 → 解雇は無効なので、給与の支払いも発生
○ 男性社員と会社に損害賠償の支払いを命令
つまり、殴った社員だけでなく、会社にも責任があると判断されたのです。このように、会社が責任を負う場合、加害者の社員との連帯責任となります。そして、ケガをした場合は、「治療費」「休業補償」「慰謝料」など負担しなければなりません。裁判等になった場合は、弁護士費用も必要です。風評被害もあるでしょう。
さらに、後遺症が残る場合は、残りの人生に対する補償もしなければなりません。これはもっと多額になるリスクもあります。こういうことは事務仕事ではあまり起こりませんが、現場、職人という性質の職場ではよく起こることです。
社員がケンカをしたら、本人同士の問題では済まされないケースもあるのです。これは社員同士の場合でも、社員と第三者との場合でも同じです。
では、会社としては何をすべきなのでしょうか? 形式的な対応としては、就業規則の改定です。懲戒規定の中に、ケンカ、暴力を振るった場合の罰則を記載しておきましょう。ここは実際に発生した場合に処分をしやすくなるメリットがあります。
ただし、これよりも大切なことは、感情の小さなすれ違いを社長、上司が早めに解決することです。実際、先ほどのアジア航測の事件でも、
○ 直接の発端は、「コピーのトナーを変えて」ということ
○それまでに感情のすれ違いから、うっぷんが溜まっていた
ということも書かれています。小さな問題でも早めに解決しておくことが重要なのです。
それが社長、上司の責任なのです。
ライター紹介
内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)
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