Q、社員が裁判員に選ばれたら?
他人事と思っていたが、当社の社員が裁判員に選ばれた。当然のことながら仕事を休ま
せないといけないが、どういった扱いをすればいいのだろうか?
A、
この制度に関しては、よくご質問をいただくのですが、裁判員の候補になり、裁判所に呼ばれたら、会社は休暇を与えなければなりません。ちなみに、最終的には裁判員に選ばれなくても、裁判員の候補の段階でも裁判所に呼ばれます。
ただし、「70歳以上」「重い病気、怪我の人」「育児、出産、介護等で参加が難しい人」などは候補を辞退することができます。
ちなみに、「仕事が忙しい」「知識に自信がない」「他人を裁くなんて、自分にはできない」という理由では辞退できません。
ここで注意すべきことは、仕事が忙しいため、連絡しないで無視した場合です。もし、判所に呼び出されたのに無視した場合、「10万円以下の過料」を本人が支払わなければなりません。
なぜならば、裁判員は公職なので、勝手な行動は許されないからです。また、会社も休暇を与えないといけません。仮に、「忙しいから裁判所に行かなくていい」と指示したら、使用者責任が問われます。これは、次のようになっています。
○ 社長などの責任者…6 ヶ月以上の懲役又は30 万円以下の罰金
○ 会社…30 万円以下の罰金
ですから、社員が裁判員の候補に選ばれたら、会社は休暇を与え、社員は裁判所に行かなければなりません。
となると、これに関する休暇の取り扱いを明確にしなければなりません。ちなみに、この休暇は有給、無給のどちらでも構いません。ただし、大企業は有給、中小企業は無給としている会社が多いようです。
なぜ、中小企業では無給としているかというと、裁判員、裁判員の候補には公的な日当が払われるからです。もちろん、この休暇の取り扱いは就業規則などに記載する必要があります。そして、裁判員制度に関しては、以下の2 つがポイントです。
○ 有給休暇にするか、無給休暇にするか
→ 例:全部が有給
→ 例:全部が無給
→ 例:○日までが有給、○日を超えた日数は無給
○ 出勤した日数の計算方法
→ この計算において、無給で休んだ日を出勤とみなすかどうか
→ 皆勤賞、有給休暇の計算に影響がある場合あり
当然ですが、社員に裁判員候補の連絡が来てからでは遅過ぎます。ですから、事前に決めておくべきなのです。
それから、もう1つのポイントです。それは自分であれ、他人であれ、裁判員、裁判員の候補に選ばれたことを公にしてはいけません。しかし、これを知らない人が個人のブログで公開し、マスコミなどでも報道され、問題となりました。
もちろん、本人はそこまでの意識はないのでしょうが、被告や関係者からの圧力、中傷などに発展する可能性もあります。もし、これが現実となれば、業務にも支障が出るでしょう。
このような事態を避けるためにも、「選ばれても公にしないように」と周知させることが必要です。もちろん、休暇の関係もあるので、会社に報告してもらうことは必要です。ちなみに大企業ではおおよその対応が終わっています。一方、中小企業ではまだまだ手つかずの会社がたくさんあります。
しかし、就業規則、社内ルールなどを見直し、誰が裁判員、裁判員の候補になっても問題ないようにしておくべきです。その見直しの具体例(掲載に関しては先方の了解済み)をご紹介します。
東京都の製造業で、社員は50人です。この会社では、就業規則に下記の項目を追加しました。
○ 裁判員、裁判員の候補に選ばれた場合の休暇は無給とする
○ 裁判員、裁判員の候補で休んだ場合でも出勤とみなす
○ 裁判員候補の通知が来たら、コピーを会社に提出
そして、現場の業務マニュアルも改善し、
○ 部署には事前に連絡(会議等で伝達し、情報を共有)
○ 休暇の日程が決まり次第、フォロー担当者の配置
という流れも決めました。
また、偶然ですが、この会社は就業規則を改定したら、裁判員候補になった社員が現れたのです。総務部長は「先にルールを決めておいてよかった」と話されていました。
ライター紹介
内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)
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