自動車整備士・整備工場の労務相談室
せいび界2012年12月号Web記事
Q1.仕事の引き継ぎをせず、社員が退職したら…
フロントの責任者であった女性社員が、ご主人の海外転勤が急に決まり、それに付いて行くために、急きょ辞めてしまった。細かい顧客情報にも精通していたのだが、その詳細情報の引き継ぎもしていかなかった。この場合、処分を下すことはできるのだろうか?
A1.
最初に労働時間の法的な定義を確認しましょう。
どんな会社でも同じですが、退職する社員は緊張の糸が切れ、いい加減になりがちです。また、有給休暇の消化を理由に、退職直前でもどんどん休む人もいます。しかし、これでは会社は困ります。ではきちんと引き継ぎをさせるには、どうしたらいいのでしょうか?
そもそも、業務の引き継ぎ業務は、
○就業規則
○雇用契約
などに定めるのが一般的です。
ということは、「義務を果たさない(=きちんと引き継ぎしない)」となり、損害賠償で訴えることも可能なのです。
しかし、裁判は手間も時間もお金もかかるため、現実的ではありません。これよりも、「退職金支払いの条件=引き継ぎの完了が条件」とすることが現実的でしょう。こうすると、引き継ぎの精度が上がる傾向にあります。ちなみに、これに関する判例があります。
<東京ゼネラル事件 東京地裁 平成11年4月>
○社員が退職届を机に残し、部下にその事を告げて退社
○無断で職場放棄したので、会社は懲戒解雇とした
○退職金は支給しなかった
これに対し、(元)社員は「退職金が支給されないのはおかしい」と裁判を起こしたのです。その結果、
○懲戒解雇の処分は退職届発見から14日以上経過
○14日以上経過のため退職の効力が発生(民法による)
○退職金の支払義務あり
○退職金の支払いが遅れたため、遅延利息までも発生
となったのです。こんな勝手な社員でも、判決は判決なのです。常識で考えれば、あり得ないですよね……。ですから、ここから下記のことを学ぶべきです。
○懲戒解雇にするなら、13日以内にすること
→退職金の支払いをしなくてもOK
→14日以上経過すると、民法により退職が有効となる
○会社が退職を認める時期を明確に定める
→例:「会社が認める時期 = 業務の引き継ぎ完了時」とする
→引き継ぎが完了しなければ、退職金の支払い義務も発生しない
当然ですが、業務の引き継ぎは適正に行われるべきです。そこで、就業規則に「業務引き継ぎの義務」を定めましょう。
例えば、次の1文を就業規則に入れるのです。
社員は、退職または解雇の際は、会社が指定する者に速やかに業務を引き継がなければならない。
こうすれば、退職時の引き継ぎがいい加減にならない傾向があるのです。もちろん、最終的には本人次第ですが、「抑制力」という意味で、やるべきことはやるべきなのです。定めたとしても、会社のリスクが増すことはない部分です。就業規則を作るなら、ここまで決めておきましょう。
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