自動車整備士・整備工場の労務相談室
せいび界2012年10月号Web記事
Q、協調性のない社員を解雇するのは?
1年前に雇った整備士は、協調性がなく、職場の人間関係に悪影響を及ぼしている。辞めさせたいのだが、協調性が悪いことは解雇の理由になるだろうか?
A1、
当然ですが、職場の人間関係は大切です。しかし、
○上司を尊敬すること
○同僚といい関係を保つこと
は「仕事上の義務」ではありません。
たしかに、自己主張が強い人、会話に消極的な人も中にいます。しかし、法律違反ではないし、一定の仕事をしていれば、問題はありません。しかし、協調性がないことが大きな問題になることもあるのです。 協調性には、大きく分けて下記の2つがあります。
(1) 他人との関係に対して消極的
(2) 他人と衝突を繰り返す
(1)のタイプは問題が生じることは少ないでしよう。口数が少なかったり、人付き合いが下手なだけです。もちろん、一定の仕事はこなします。
しかし、(2)のタイプは会社運営を妨げることがあります。自己主張が強かったり、上司と口論になったりと問題を起こすのです。
この(2)の場合、
○職務規律違反
○業務命令違反
などになるケースがあります。
そして、こういう協調性不足が引き金となった裁判もあります。
<テレビ朝日サービス事件、東京地裁 平成14年5月14日>
○社員Aは聖細なことから興奮し、上司や同僚を傷つける発言をする
○上司から注意されても、反省しない
○Aは刃物を使い、初対面の人に障害を負わせた
○会社は懲戒解雇とした
そして、Aはこの処分を不服として、裁判を起こしたのです。
この事件は明らかにAが悪いのですが、それでも裁判を起こされてしまえば、対応せざるを得ません。当然ですが、裁判になれば会社はお金、時間、労力を浪費するのです。。
結果、裁判所は、
○Aがいると業務に支障が出る
○Aの懲戒解雇は有効
としたのです。
この裁判では、協調性以外の部分も重要な判断材料となっています。ただし、協調性不足がこの事件の引き金になったことも事実です。しかし、採用してみたら、協調性が 無かったということもあるでしよう。
では、具体的にどうしたらいいのでしようか。当然ですが、「協調性不足=人間関係 の問題」です。だから、人間関係をリセットすることが重要なのです。それでも、同じ事が繰り返されるなら、本人の責任を追及できるのです。
具体的には、
○配置転換を行い、上司や同僚を変える
○「配置転換の趣旨=協調性不足の改善の機会」を本人に伝える
○再び繰り返す場合は、再度の配置転換を実施
→「最後の機会」であることを辞令などの文書に記載
○改善されなければ、解雇を実施
という流れになります。
だから、裁判になったとしても、証拠資料がないのです。「いや、うちの会社で、そこまでは…」と思うかもしれません。しかし、裁判を起こされてしまえば、どこの会社でも同じです。大切なことは、「最悪な状態」に備えることなのです。実際、佐々淳 行氏(元内閣調査室長)は
「危機管理の要諦は最も悲観的に準備して、もっとも楽観的に対応すること。最悪なのは、楽観的に準備して、悲観的に対応すること」
とおっしやっています。
インフルエンザのマスク不足と同じで、危機が目の前にこなければ、大半の人は準備しないのです。大切なことは、「最も悲観的に準備すること」です。ちなみに、私の家にはダンボール一箱分のマスクがストックしてあります。
「協調性不足=職場環境の問題」です。こういう問題を放置せず、また、単なる努力でなんとかしようとせず、「法的な対応も視野に入れた準備」が必要なのです。
次のページは、「自宅待機中の給料支払いは?」
- 1
- 2